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    冷越豪と宇留千絵がデートするのを、物星大が応援したり、一堂零が軽く拗ねたり、河川唯が決意する話
    土曜日の午後、大は公園のベンチでうずくまる豪を見つけて、声をかけた。普段の土曜日の午後なら、豪は居候先である叔父夫婦が営む酒屋の配達に出かけていて、公園で遊ぶ余裕など無いはずだった。
    「リーダーを誘ったんだけど、断られてよお」
    「珍しいじゃない。いつもなら、豪とリーダーって怪獣ごっこやプロレスごっこで遊んでるのにね、男の子みたいに」
    「男の子みたいにって。引っかかる言葉だな、そいつぁ」
    筋肉隆々な肢体を武骨に際立たせるTシャツとジーンズという服装をしているのが、普段の豪だったのに、襟のついたシャツとシルエットが綺麗なズボンを着ていたのだ。大は大人っぽくオシャレをした豪を見て微笑んだ。
    「そんな格好で怪獣ごっこやプロレスごっこは無いよね。だからリーダーは断ったんじゃない?」
    「薄情だぜ、あいつ。困っていると言うのに助けてくれやしねえ。こうなれば、おめえでいいや。どうせ暇だろ?付き合って……」
    「豪ったら、往生際悪いよおー」
    大は豪の肩を軽く叩くと、ニコッと笑って続けた。
    「千絵ちゃんとデートなんだよね」
    「おめえ、なんでそれを……」
    先週の今頃、大は千絵の部屋に招かれていた。ファッションの話題を通じて意見を交わす仲になっていたのだ。おかしかったら遠慮なく言ってねと、千絵が自室を使ってファッションショーを展開していく。シフォン生地のスカート、細身の千絵に似合うスパッツや、脚の形が美しく映えるショートパンツ。どの姿も大の心を捉え、大は感嘆のため息をついた。
    「オシャレをして、どこへいくつもり?」
    大の問いかけに千絵は、
    「豪くんにデートに誘われたの」
    と、極上の笑顔で答えていたのだった。

    「というわけで、唯ちゃん。私は豪くんに振られたのだよ」
    「……そういうのって、振られたって言うの?零さん」
    豪が公園のベンチでうずくまっているころ、零は唯と連れだって、商店街を歩いていた。
    「いつものように怪獣ごっこやプロレスごっこをしようって言ったけど、豪くんは、もう少し大人しい遊びがしたいってさー」
    ブツブツと言って拗ね出す零に、唯は零さんったら相変わらずね、と言いつつ、そっと頭を撫でる。零は君の手は優しいな、豪くんのゴツゴツした手と違って、天使のように柔らかだなどと呟き出した。
    「傷ついたなー。誰か優しい子が私と遊んでくれないかなー。あっ、優しい子がここにいたっ」
    「はいはい。何して遊ぼうか、零さん」
    唯の苦笑いが、零を包み込む笑顔になり、零は目線を合わせると、唯よりも極上の笑顔で続ける。
    「怪獣ごっこはどうだい?私が悪い怪獣さんになるから、君は私を鞭でぶったりするのも楽しいよ。でも唯ちゃんは女の子だから、おままごとがいいかな」
    「おままごとは、別にいいよ」
    「えー。君が私のお母さんになって、お尻をぶってくれないのかい?」
    「おままごとなら、毎日、似たようなことやってるもん」
    零の子供じみた口調が止まり、自分よりも一回り小さい唯に目をやった。商店街で出会ったのも、唯が家の買い出しをしていた所に零が声をかけたからだ。彼女の荷物持ちに託けて、自身のくだらないボヤキに付き合わせてしまったと、零は軽く溜息をついた。
    「そうだね。その辺のことを考えないあたり、私はまだまだ子供だな」
    この時間はいつも、豪は居候先の酒屋の配達に出かけている。いつだって子供になれない豪と、そして病弱な母の代わりに家事を勤しむ唯だ。「大人っぽい遊びってなんなんだろうね、唯ちゃん」
    商店街を零と唯は二人で歩く。重たいだろうからと唯の買い物袋を零が手に持つ様は、少し幼い新婚夫婦のようだった。
    「………取られちゃったかな」

    「千絵ちゃんとイチゴのパフェ食べに行くんだよね、豪」
    「なんでそれを知ってるんだよっ」
    豪のベンチの横でいつのまにか大が収まっている。
    「イチゴのパフェで釣られちゃうのって、千絵ちゃんらしいよね」
    大が千絵のファッションショーにひとしきり付き合った後、千絵が打ち明けた話だ。
    こんなことを打ち明けるのが、なんで唯ちゃんじゃなくて僕なのか。人の恋話に胸が湧き立つ反面、自分はいつか恋話の主人公になる日が来るのだろうかと、大の胸の中がさざめく。我が事のように顔を綻ばせる大に、豪は重たい唇を開いた。
    「その……千絵ちゃんとのジャンケンで負けてよぉ。イチゴのパフェ食いてえとかなんとか言うから、仕方なくだぜ」
    嘘だ。

    「豪くんってさ、見た目だけじゃなくて中身も男らしいのよね」
    先週の土曜日の今頃、千絵が大に頬を染めながら言った。
    「普段の豪くんは、あたしのキックボクシングとかツッコミにヤラレたふりしてるけどさ。なり行きで腕相撲した時、あっさりと豪くんの腕力に、あたし負けちゃったのよね」
    二回戦はアタシが両腕で挑んでも、豪くんは片手でひとひねりよ!と、千絵は愛嬌のある可愛らしいタレ目を丸くして、大に訴える。大に見せた千絵の繊細でスッと伸びた指が、豪の節くれだったひとまわり大きい手のひらと対のようだった。
    「普段、配達で鍛えているだけあるわ。流石よね。……もっと男らしいのはね、アタシよりも強いってとこを普段、全然見せないってところよ」
    そんな男が、なぜ千絵をあっさりと腕相撲で負かせたのか。
    「腕相撲に勝ったら、負けた方が勝った方の言うことをきくって賭けをしちゃったの」
    その賭けに勝った豪が望んだのは、イチゴのパフェを食べてみたいということだった。

    「いやあ、女ってほんとに甘いもん好きだよなー。男はあんなゴテゴテとクリームやらイチゴやら、やかましい見た目や味なんて恥ずかしくて喰えねえわ」
    嘘つきだ、豪は。大はわざとらしい口調でしゃべり続ける豪を、冷めた目で見返した。
    「照れ隠しなのは、わかってるよ豪。イチゴのパフェを食べに行くことが恥ずかしいの?それとも、千絵ちゃんと一緒にいることが恥ずかしい?」
    「そ、そんなわけないだろ」
    「実質、デートだって認めたら?」
    「………困る。オレ、そんなつもりじゃねえんだ。そうだっ。大、おめえはイチゴのパフェにキョーミはねえか?」
    「はあ?」
    大の少女趣味を、いつも小馬鹿にする豪が、今は懇願とも言える視線を大に向け、頼むとばかりに大の肩に手をかけた。
    「金ならある!おじさんが女の子と遊びに行くなら、奢ってやれって大目に金をくれたんだ……だから」
    そりゃ、リーダーも断るよ。大は溜息をついた。襟のついたシャツ、シルエットが綺麗なズボン。その服を用意してくれたのは、普段迷惑をかけまいと、豪が気を使っているはずの叔父夫婦なのだろう。配達の時間なのに快く送り出し、金までくれたのだ。すべては可愛い甥の初デートのために。
    「頼むよ。千絵ちゃんと二人きりになったら、オレは何をしゃべっていいかわからねえよ」
    一週間の千絵の言葉が、大の脳裏にこだまする。
    「豪くん、イチゴパフェ食べたことないって。女の子連れなら食べに行っても恥ずかしくないって言ってたけどね。……豪くんの初めての経験を、アタシが一緒にしちゃうわけよね?」
    きゃあと千絵は頰を染めていた。続いて、アタシ、豪くんのことを夢中にさせる自信はあるわ、と続けていたが、大の目には、千絵は恋に走り出しているかのようだ。細身のしなやかな肢体とキラキラした肌と髪を持つ千絵が、おめかしをして、恋をするのだ。豪が夢中にならないわけがない。シフォンスカートは女の子っぽすぎて豪は緊張するよ、脚が綺麗に映えるショートパンツは似合うけど豪には刺激が強すぎるよ?などなど、自分の目線が少年なのか少女なのか曖昧なまま、大から千絵へのアドバイスの時間は楽しく過ぎていく。こういうのって、親友の唯ちゃんがアドバイスするべきじゃないのかなと、少し疑問にも思いながら。
    「いつも通りにしてていいんじゃないの。豪だって、カッコいい服着てるじゃない。大人っぽくて素敵だよ」

    「女の子なら誰でもおままごとが好きで、オシャレが好きで、男の子に褒められたいって思ってた?」
    唯と零が商店街を歩く。唯の服装は彼女の弟と服を共有をしているのではないかと思うくらい簡素で、美しい胸の動きも、腰から脚にかけての丸みを帯びた弾む筋肉の動きも、包み隠すかのようだ。大きくて鏡のようにキラキラと何でも映しこむ瞳は、素朴なショートカットの前髪の下にある。彼女を見るたび、宝物を見つけた時のように手を伸ばしたくなる気持ちを零は抑えている。幸い、今は両手が唯の買い物の荷物で塞がったままだ。
    「怪獣ごっこなら付き合うよ、零さん。わたし、零さんがなんでそういう遊びを好きなのか、知りたいな。さっき言ってた零さんの大人っぽい遊びみたいだね」
    唯の口から千絵のことに触れた。零は豪を思い出す。普段、零と会っている時は着ないようなおしゃれな服を着て、豪が遊びに出れない時間であるはずなのに、当の本人は誰かと遊ぶ約束をしている。その相手が千絵だと豪の口から聞いた時、彼らだけで、自分の手が届かないところに行きつつあるのだと、零は思った。
    「わかんなーい。零ちゃんお子様だもん。豪くんもお馬鹿さんなのだ。女の子相手じゃプロレスごっこは出来ないのに」
    零の横顔を、唯は見る。口調は子供なのに、表情は仕方ないなあと言った様子だ。そんな様子の零を見ると、唯は彼に手を伸ばしたくなって、零の肩をグッと掴んだ。
    「わたし、プロレスごっこも興味があるの。一平とも、やったことあるよ?零さん、わたしに技をかけてみる?」
    「いやいやいやいや、唯ちゃん?」
    零と豪が技をかけあう行為を、零と唯で脳内に変換すると、いかに男女間のことに疎い零でも赤面をしだした。豪を千絵に取られたのなら、豪も唯から千絵を取ったのか?そもそも、唯は豪と同じく、自分のために使える時間が少ない。簡素な服と手間のかからないショートカットがそれを物語る。
    「残念だなー、いつか一緒にプロレスごっこしてね、零さん」
    「勘弁してよ、唯ちゃん」
    千絵との話題が、恋話になることを、唯も寂しく思っているのかも知れないと気づく。
    「いつかって、約束するなら、もっと可愛いらしいことがいいのだ」
    例えばイチゴのパフェを食べに行くとか。豪は千絵と一緒に、おめえもついてきてくれなどと言ったが、お金がないもーんと、零は断った。二人がお互い憎からず思っているのは、零も知っている。時間の流れも人の心も、彼が知らぬ間に変わっていったのだ。

    「アタシが豪くんとデートするの、なんだか唯に言いづらくって」
    目尻が下がった愛嬌のある笑顔と、細身でしなかやかな肢体を持つ千絵は、なかなかに魅力的だと大は思っていた。大から千絵へのファッションチェックが終わった後、千絵は女の子らしいブラウスと、くるぶしを露わにしたサブリナパンツを身にまとっていた。いつもの千絵のスタイルだ。
    「いつも通りがいいの?千絵ちゃんも色々思うことあるんだ」
    「零さんと唯って、あんな感じでしょ?アタシが豪くんとデートするのなんて言ったら、唯は零さんを意識しちゃいそうなのよね」
    奇面組の五人と女の子ふたり。怪獣ごっこやプロレスごっこの小学生じみた遊びを見守って、たまに乱闘に混ざっては、大きな口で笑い合う関係が、少しずつ変わっていくかも知れないと思うと、切なくなる気持ちは大にもわかる。
    「ギクシャクするのはイヤだよね。豪と千絵ちゃんや、リーダーたちのこと冷やかす時があるけどさ。……本当はボクね、いつまでも変わらないで、ずっと高校生でいたいって思うよ」
    女の子に相応しいキラキラした世界に、大は憧れているけれど、女の子になりたいわけではない。キラキラしたものが似合うはずの唯は、そちらには興味を示さない。興味がないわけではなくて、そちらに目を向ける余裕がないのかもしれない。千絵ちゃんもそのことがわかっていて、豪とのデートのことを言いづらいのかなと、大は思った。
    「アタシも本当はね、このままの関係が好きだけど、豪くんが知らない誰かのものになる方が怖いわ。それならアタシが豪くんを貰っちゃう。唯って今まで、お家のことや学校でも一生懸命だったもんね。そんな唯を尊敬してるし、お家のことを一番に考える豪くんも立派よ。その二人の間で、アタシは脳天気にやってきたけど」
    くるぶしを露わにしたサブリナパンツから見える、艶めいた千絵の肌を大は見る。活発さと色っぽさを兼ね備えた雰囲気が千絵に相応しい。
    「アタシも一生懸命になりたいのよ。恋愛とか遊びとかのパワーは、ファッションの勉強のために集中させて、大事な人とずっと仲良くする方がいいわ。アタシ、不器用だし」
    大くんとはファッションで気があうから、いっぱいお話しが出来て嬉しいわ、と千絵は付け加える。あっちこっちと飛ぶ会話の中で、大は、男の感性も女の感性とも何処か違う自分は、この先どこに行くのだろうと思いを巡らせた。
    「大事な人を大切にするなら、親友の唯ちゃんには、デートするって言わないとね。唯ちゃんはそんなことで羨ましがったり、リーダーのことを焦り出す弱い子じゃないよ。道が違うようになっても、ずっと友達じゃない」
    オカマと言われて馬鹿にされ落ち込むこともあった、それを武器に立ち回ったこともあった。そんな自分を包んでくれる仲間も少しずつ変わっていく。大は千絵に、そのサブリナパンツ、いつもの千絵ちゃんらしくていいな、と声をかけて笑った。

    「唯、零さんとデートなのー?」
    「千絵!」
    買い物袋を持って並んで歩く零と唯の背後から、千絵は声をかけた。
    「新婚さんみたいよ、あんたたち」
    「や、やだなあ千絵ちゃん。零ちゃん恥ずかしいのだ」
    「わたし、別に恥ずかしくないよ?」
    「ゆ、唯ちゃん……」
    唯はいつでも、まっすぐで、ありのままだ。自分の隣で堂々としている唯を見て、零は苦笑いをした。その零に、千絵は耳打ちをする。
    「零さん、実際のところどうなのよ。アタシ、零さんに唯を任せていいの?」
    「……君だって、私から豪くんを取ったじゃないかっ」
    小声で言い返す零に、千絵はそう来たかと呟いた。零はニヤリと笑いながら返す。
    「豪くんは今頃、緊張で心臓が潰れそうじゃないかな。プロレスじゃ負け知らずな彼も、女の子には弱いのだ。特に大好きな子には」
    千絵は、豪が一度食べてみたいと言っていたイチゴのパフェを、食べる相手に選ばれたのだ。彼の初めてを一緒に味わって、その美味しさを語り合って、ひょっとしたら、次の約束をするのかもしれない。千絵は、豪と過ごしてみて、この人だと思えたら、今度はお金がかからないデートでいいから、また会おうと約束するつもりだった。
    「……千絵」
    零と千絵の二人の耳打ちを遮るように、唯は声をあげる。余計なお節介だったかと、千絵はバツの悪い表情をした。
    「その恰好、似合ってるよ」
    唯が、いつもの蕩けそうな表情で笑うと、千絵は安堵の表情を浮かべた。
    「いいでしょ?アタシ、足首細いから、こういうの似合うのよね」
    大が似合うと言っていた、踝を露わにしたサブリナパンツだ。
    「千絵の靴、大人っぽいね」
    「フラットタイプのパンプスよ。結局、いつものスタイルにしたの。アタシらしく、動きやすいのが一番よ」
    零から見ても、私服姿の千絵は学校の雰囲気とは違って、大人びている。さっきのおめかしした豪と同じくらいだ。怪獣ごっこやプロレスごっこを提案しても、乗ってこないはずだ、豪くんは。二人とも自分で自分に魔法をかけてしまったから。唯は親友のデートの事を事前に教えてもらっていたのだろうか、千絵に頑張ってねと我が事のように笑顔で励ましている。水臭いなぁ、豪くんは。一言教えてくれてもいいのにな。だけど、男の子だから、女の子以上に緊張しているところなんて、知られたくないだろうし、多分、私もそんな豪くんは見たくないのだ。
    「ねえ、零さんっ」
    千絵とは対照的に、簡素で少年みたいな服装の唯が、零に声をかけた。
    「千絵みたいにオシャレをしたら、わたしも何処かに連れてってくれる?」
    唯の大きな瞳も、女の子らしい丸い肢体も、とても魅力的だという事を、零は知っている。さっきは、「女の子なら誰でもオシャレが好きで、男の子に褒められたいなんて思ってた?」と言ってたくせに。唯ちゃんも、魔法をかけてきたのだ。唯ちゃんがオシャレと言う魔法を使って、もっと魅力的になったら、自分も、さっきの豪くんみたいになってしまう。どう返事をしようかと、零が言葉を詰まらせていると、千絵は零の肩をポンと叩き、零に耳打ちした。
    「あとは任せたわよ。零さん」
    唯と零に軽く手を振って、颯爽と街を歩く千絵の後ろ姿は、豪よりも頼もしく見えた。女の子はいつも、強い。

    「……本当にお前、イチゴのパフェは食いたくねえんだな?」
    豪は大にしつこくもデートの介添を遠回しに依頼していたが、大はかわした。
    「いいよ、ダイエット中だし」
    「なーにがダイエット中だっ。鶏ガラみてえな尻と脚しやがって」
    「ボクの細いとこが好きだって、言ってくれる人もいるんだけどなー」
    両腕で腕相撲を挑んだ千絵を、片手で返り討ちした豪だ。大よりも二倍近い太い腕と、分厚い肩と胸板をしている。男らしさはこういうことを言うのだろうなと、大は豪を見つめた。豪から見た大は、大人の手前の華奢で繊細な体つきだ。淡く明るい色合いで揃え、皺一つなくアイロンがけした服が、性別を超えた気品を感じる。
    「おめえのそういうとこも悪かねえや。オレは見ての通り、雑で荒削りな男だからよ」
    「千絵ちゃん、豪のそういうとこが好きになったと思うな。自信持ってよ」
    大が豪の肩に手を載せて、ニッコリと微笑む。
    「きっと、今日の楽しいお話を、豪の叔父さんと叔母さんは待ってるよ。可愛い甥っ子のデートだもん」
    「デ、デートって言ってもよお。女の子って、いったい、何をしゃべったらいいんだよっ」
    「いつもどおりで、いいってば」
    「おめえ、オレのこと、めんどくせえなと思ってるだろ?」
    「思ってるよ。綺麗だよって褒めたらいいじゃない。千絵ちゃん喜ぶよ。豪だって、オシャレしてるんだもん。千絵ちゃんだって気合い入れてるよ。豪が思ったまま褒めてみたら?」
    「思ったまま言えばいいんだな?」
    「取り繕ってもしょうがないよ。誰もキミたちをからかわないよ、二人っきりだもん」
    奇面組から抜け出して、二人だけのやり取りをしだした豪と千絵。大は、自分は誰かと何かを作り出すのだろうかと、思いをよぎらせる。
    「……おまたせ、豪くん」
    明るく華やかな声が、豪と大の背後から響いた。二人で同時に振り向くと、そこには、女の子らしいブラウスと、若々しく引き締まった足首を見せた、サブリナパンツを身に纏った千絵がいた。
    「お姫様が来たよ、豪っ」
    「おめえもリーダーも、キザな言い回しが、よく湧いて出るよな」
    豪のつぶやきを聞くと、大は軽く豪のすねを蹴り、思ったまま自分の気持ちを言うんじゃなくて、思ったまま千絵ちゃんを褒めるのと小声で言った。
    「今日の豪くん、大人っぽくて見違えたわ。素敵よ」
    千絵が、豪を褒めた。豪は普段のTシャツにジーンズではなく、襟のついたシャツにシルエットが綺麗なズボンを履いている。足首を色っぽく見せるサブリナパンツの千絵の大人っぽさと調和がとれている。
    「おめえこそ、よく似合ってるぜ、そのトムソーヤーみてえなズボン」
    「サブリナパンツって言ってよね」
    思ったまま、豪はものを言い過ぎだと、大は苦笑いした。奇面組で、男も女もなく大はしゃぎしていた時期は少しずつ変わっていく。
    「じゃあ、ボクは行くね。用事があるから」
    「ちょっと待てっ」
    豪の肩から手を離し、ベンチから軽やかに腰をあげる大を、豪は引き止めた。
    「……ひょっとして、おめえもデートか?」
    「さあ、どうでしょう?」
    大は豪に意味ありげに笑い返した。
    「デートっていいよね。見てるこっちまで熱くなりそうだもん」
    「聞きたいんだけどよ、おめえの相手は男なのか女なのか、どっちなんだよ」
    「案外、つまんないこと気にするんだね、豪は」
    大は、豪と千絵に背を向けて歩き出す。誰かに恋をするのもいいけど、ボクは何かに夢中になってみたい。自分であることを貫き通して、どこまでも行ってみたい。それが茨の道になったとしても。
    「大くん、そっちの道に行くと、さらに熱くなっちゃうかもよ?零さんと唯がいたから!」
    大の背中に千絵が声をかけた。続けて豪が、こうなったら、大。リーダーたちに発破かけてやれやと千絵の後に言葉を続けた。
    「考えておくよ」
    二組のカップルを想像し、大は軽くため息をついて千絵の方に振り返って笑った。
    こまつ Link Message Mute
    2020/02/05 12:04:54

    冷越豪と宇留千絵がデートするのを、物星大が応援したり、一堂零が軽く拗ねたり、河川唯が決意する話

    #奇面組

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