1章 6話「で、裏世界の国や街の数なんだけど」
と、城から出て数歩歩いたところでイナバは言う。
「城下町は除いて8つの国や街があるの」
「8つ.....」
意外とそんなにないんだな.....もっとこう、沢山あるものだと思ってたのに。そう思っていた時イナバは「数が少ない代わりに国や街の距離は遠いんだけどね.....」と説明を付け足す。
距離が遠い.....って、それ1日でたどり着けるくらいの遠さなのか.....?あまりにも遠すぎたら一日だとたどり着けないような.....
「今行ってたのはストーリア国。最初にも言ったけどこの世界の始まりから今に至るまでのことを全部記録してる場所」
「次は.....」と、とんとん拍子で別の場所を説明しようとしてくれる。
「明日行こうとしてるセレジェイラかな.....あそこは一年中桜が咲いてて身寄りのない子供達とかの面倒を見てる場所なの」
「.....年中桜が咲いてる場所とかあるんだな」
その街って温度変化どうなってるんだ.....
「裏世界には目立った温度変化は無いからずっと咲いてるの」
「また声に出てたからね」と言いながら次に説明しようとする場所を考え出す。
殆ど温度変化のない場所に来るのは初めてだな.....
「次.....はさっき話の中に出てきたクレアールかな.....そこは数年前まで人々が沢山住んでて賑わってた国だったんだけど.....」
そこまで言うと、イナバは1度言葉を止める。
「6年前.....魔物に襲われて、今はもうないの」
6年前.....確かその頃俺達は小学生辺りだったよな.....
「クレアールまでは説明したから次は.....」
と、ストーリアの城下町までの道を歩きながら、一通りの説明を受ける。「これよりも詳しく教えようとするとストーリア国のあの沢山ある本の中から国や街の名前の意味の本を探さないといけないけど.....」と後付けで言ってくる。勿論口から出てくるのは「そこまで詳しくは知りたくない」という言葉。
.....でも、この説明を聞いて思う。ここは本当にあっちの世界.....表世界と呼ばれる場所とは全く違う世界なのだと。
街や国の数が違うし、建物もまるで違う。
高層マンションやビルの類いは一切ない、1番高くてせいぜい3階建て程度の城くらい。そして、街や城の外にあるのは森や川といった自然。.....それと、もう1つ。
「.....!ホムラ.....!」
「わかってる」
魔物。
もうすぐで城下町に着くのに.....でもそのまま無視して行くと城下町まで着いてくるかもしれない。.....それだけは、避けないといけない。
数は2匹、1人1匹倒せばいいということになる。.....えっと、確かこのデカい犬みたいなやつの名前は.....
「.....これ、ウルフって名前だからね」
杖を構えながら「魔物の名前も教えていかなきゃ.....」とイナバは呟く。
「それは俺の気の向いた時にしてくれ.....」
「そっちの方が多分まだ覚えられる」と言いながら剣を鞘から抜いて前に構える。
「じゃあその時に絶対に教えるからね?嫌とか言わないでよ?」
「言わねぇよ.....」
敵と向かい合いながら話す。ウルフはこちらを見たまま「グルゥ.....」と鳴くだけ鳴いて攻撃してこようとはしない。
「怪我は絶対にしないでよ!」と後ろから声を掛けられる。それに俺は「そっちもな」と声を返して魔物に向かい直す。
剣の使い方とかよくわかんねぇけど、とりあえず当てればいいよな、当てれば。
「はぁ!」
剣を握る力を強くする。ザンッとウルフを斬った感覚が手のひらに伝わる。.....倒したのか?
確認するため、近くに寄る。......呼吸をしている感じは無い、倒したみたいだ。そう思いながら剣を鞘に収める。
イナバの方は.....と思い、イナバの方を見る。
「我は魔法を使う者。我の声に応えるのならその力を我に貸せ」
あれは.....詠唱中か?その隙に魔物が逃げたりとか.....無いみたいだな。
「アイスクリスタル!」
その言葉と共に杖の先から小さめの氷の塊がウルフ目掛けて飛んでいく。
「グギャァア!!」
.....という、あまり聞きたくない断末魔のようなものを周りに響かせながらウルフは倒れる。
「あ、ホムラもう倒せてたの?」
「早いね」と言いながらこっちに向かって歩いてくる。
「剣をちゃんと使えた?」
「使えたから倒せてるんだろ」
俺がそう返すと「それもそうだね」とイナバは返してくる。.....そんなに剣使えないと思われてたのか...
そういえば、さっきの詠唱.....って、表世界で魔法を使った時は唱えてなかったよな。
「イナバ」
「なに?」
少しでも気になったらすぐに聞くのが癖になってるような.....でもすぐに聞けって言われてきたしな、仕方がない。
「さっきの戦闘での魔法だけど」
そこまで言うとイナバは「私、何かミスしてたかな.....」と呟く。魔法を使えない俺からすると普通に凄いと思う。
「そうじゃねぇけど、表世界では詠唱してなかったのにさっきは詠唱してただろ?」
「あれって違いとかあるのか?」と聞くと、「特に違いはないけど.....」と返ってくる。
「じゃあどうしてさっきは詠唱したんだ?」
「気分が乗るから.....かなぁ.....?」
「.....詠唱って、そんなもんなのか...?」
なんかこう、詠唱のイメージが変わる.....
「.....それに、私小さい頃無詠唱のやり方教えられたから.....」
小さく、イナバが何かを呟く。「何か言ったか?」と聞けば「なんでもない!」と返ってくる。
「.....それより早く宿屋に行こうよ」
「もう疲れちゃったし」と、少し強引に腕を引っ張ってくる。
「ちょっ、引っ張るな.....!」
そう言うとイナバは前を見て歩みを進めたまま、腕を引っ張るのをやめ、制服の袖を少し摘む感じで先を歩く。
.....この時、さっき何を呟いたのか.....今はまだ、分からないまま。