1章 16話荷物の近くに腰を下ろしてから数分経ち、部屋の扉が開かれる。
入ってきたのは、飲み物を乗せたお盆を持ち何処か疲れた様子の岡本と......
「お兄ちゃんってば帰ってきたのに挨拶無しで部屋に行くんだもん!何事かと思ったでしょ」
「こうなるのわかってたから早くしようと思ってたんだよな〜......」
少し不機嫌そうな表情をしながら岡本の横に立つ女の子。妹の珠姫だと、前に聞いた。
「......あ、もしかしてこれから勉強でもするの?」
「そう。だから出てってほしい」
岡本がそう言うと珠姫は「仕方がないから出ていってあげる」と言い岡本を部屋に押し込んで扉を閉めた。
なんていうか......
「妹に雑に扱われてないか......?」
「少し......そんな感じはしてる......」
そういう岡本に俺は内心(少しって言葉で片付けていいのか......?)と思いつつもそれ以上については触れない事にした。
「まぁそれは置いといてまず何から教えりゃいい?」
「一番自信無い教科だとしたら......数学だな」
「あ〜焔数学苦手だもんな〜」
岡本にそう言われ俺は「苦手で悪かったな」と返事をしつつ鞄に入りっぱなしだった数学の教科書とノート、それから筆記用具を机の上に広げた。
「別に悪いってわけじゃ無いけどさ......っていうかちゃんと数学持ってたんだな」
「ずっと入りっぱなしだったからな」
俺がそう言葉を返すと岡本は「それ絶対鞄重いだろ」と笑いながら言葉を返してきた。
「まぁいいや、どこら辺がわかってないとか......」
「大体全部わかってねぇよ......」
「全部かぁ......」
本当は全部と言うより分からないところが分からない......いやそれって結局全部分かってないって事にならないか......?
そんな事を一人頭で考えていると岡本が「じゃあ早速やるか!」と言って必要最低限の筆記用具を取り出し数学のノートだけを机の上に置いた。
「お前......教科書は......?」
「焔のがあるし、教えるだけなら一冊で良くね?」
「それもそうか......」
まぁ確かに教えるだけなら教科書は一冊あれば大丈夫だし、対面してノートを二冊広げて筆記用具を置くのがやっとな感じの机なのに教科書を二冊広げたら場所が無くなるしな......
「じゃあやるか!」
「なんでそんなやる気なんだよ......」
「終わらせたらゲームするって決めてるんだよ!」
岡本のその言葉に俺は内心「毎回そんな感じで勉強してるのか......?」と思いつつも数学を教えてもらう事にした。
__数時間後__
「終わった〜!!」
そう言いながら岡本はノートを勢いよく閉じ使っていたシャーペンと消しゴムをしまう。
それにつられるかのようにして俺も自分の鞄から出した教科書とノート、それと筆記用具を鞄の中にしまった。
「焔さぁ......やれば出来るのにどうしてやらないんだよ〜......」
「やりたくないからやらないんだよ」
俺がそう返すと「どうせそんな理由だと思ったよ!」とそこそこの声量で言葉を返される。
「うるさ......」
「勉強教えてやったのにそれって酷いだろ〜」
「煩いものは煩いんだよ」
岡本に対しそう言うと不貞腐れたように近くにあったゲーム機を手に取りそのままゲームを始める。
「まだ帰ってないのにゲーム始めるか......?」
「いつゲームしようが俺の自由だろ〜」
「......ならそのゲームの邪魔にならないように俺は帰るか」
......本当はあんな家に帰りたくなんか無いけど。
そう思いつつも忘れ物がないか確認して鞄を持ち上げる。
「......え、何マジで帰る感じ?」
「お前がそんな流れにしたんだろ」
「嘘じゃん冗談じゃん!まだ帰らなくてもいいだろ!?」
やっていたゲームを閉じ、俺が部屋を出ることを阻止するかのように鞄のベルトにしがみつく。
......ベルトの長さが変わるから正直やめて欲しい......
そう思いながらも「まぁ......まだ時間はある」と言って岡本にどいてもらってからその場に座り直す。
「......帰んないのか......」
「お前......俺に帰ってほしいのか帰って欲しくないのかどっちなんだよ......」
「いや暇ならまだいたらいいんじゃね?とは思う」
言いながら岡本は掴んでいた鞄のベルトを離し同じく座り直す。
「でもなぁ後一時間もしたら親が帰ってくると思うんだよな......」
「じゃあそれまでには帰るか」
「別にそれまでに帰らなくてもいいんじゃね......?」
「それまでには俺が帰りたくなってる」
そう言うと岡本は「えぇ〜......」と言いながら床に横たわる。
それに俺は「なに寝転んでるんだよ」と言うと寝転んだ本人は「なんとなく?」と、特に訳もなく横になった事を伝えてくる。
「......なら帰るか」
そう言って立ち上がると慌てた様子で「すぐ帰ろうとしなくていいだろ!!」と勢いよく座り直しつつそう言う。
「......正直もう帰りたい」
「あと少しだけだって〜」
俺の鞄にしがみつきつつそう言う岡本。こうなるとこいつの気が済むまで話を聞かないと帰れない気がする......
「はぁ......ならあと少しだけだからな」
そう言って俺はそれからしばらくの間岡本から学校に行ってなかった期間の話や他愛の無い話に付き合わされる事になった。