1章 10話「シ、シオンくん歩くの速いね.....?」
「.....別に普通だぞ」
そう言いつつも、シオンは歩く速さを少し遅くする。
「別に一緒にセレジェイラまで行くのは良いけどその後のことは知らないぞ」
「どうして.....?」
「ボクはお前達を助けたくて助けたんじゃない。.....ただ、たまたま見かけた子が助けてあげてって、言ってたから.....」
「......」
言い方はキツイ.....けど、優しいんだなこいつ。
「とりあえずここまでだぞ」
そう言って、セレジェイラの塀の前でシオンは止まる。それに合わせ、俺とイナバも足を止める。
「ありがとう、シオンくん」
「やっぱり一緒に来て良かったな.....助かった」
「ありがとう」とお礼を言うとシオンは少し顔を赤らめ、「別にお前達の為なんかじゃないぞ!」と言い、賑わう街の中にその姿を消した。
「.....行っちゃったね.....」
「だな.....」
まぁ街の中に居るのは分かってるし、そのうち会うだろうと思いとりあえず宿を取るためにイナバと2人、宿を探しつつ街の中を歩く。
「にしても賑わってるな.....」
「多分お祭りかなにかをしてるんだと思う.....」
そう言ってイナバは少し周りを見回し「あ、ほらあそこ」と指を指して1番人が多い所を指さした。
街の入口から少し離れた場所に何かを囲うかのような人集りが出来ている。
.....イナバはその周りにいる人に向かって「今日ってお祭りでもしてるんですか?」と声を掛ける。
「あぁ、年に1回.....3日間程バザーをやるんだ」
「今日はそれの1日目だよ」と親切に教えてくれる。バザーってこの世界でもやるんだな.....
「あーシオン!どこいってたんだよ!?」
「ちょっと危なくなってた人達助けてただけだぞ」
.....シオン?それに、聞いたことのある声が.....
「人助けも良いけど、俺達が売ろうとしてるのを売るっていうのも手伝ってくれよ〜」
「面倒だけど.....仕方ないぞ」
「面倒って言うなよ〜」
そう言いながら、人がよく集まっている所に自分たちで作ったであろう物を売りに行く。そう言えば大人の中に子供が所々.....っていうか、ほとんど売っているのは子供ばかりな気が.....
「なぁイナバここ.....子供多くないか?」
「だってここ、養護施設あるし.....」
「養護施設?」
「簡単に言うと身寄りのない子供を保護してるんだよ」
身寄りのない子供.....ってことは、その子供たちと行動を共にしてるシオンも、親がいない...ってことになるのか.....?そう考えているといつの間にかイナバが宿屋を見つけていたらしく「宿屋あったよ」と声を掛けてくる。
「あぁ、あれか.....」
探していた宿屋は広場を抜けて少しした所にあった。
「今日って宿屋取ったらどうするんだ?」
「バザーでも見て回ろうかなって」
そうやり取りをしながらドアを押して宿屋の中へ入る。
「お疲れ様でした。.....あの、3人.....ですか?」
「「3人?」」
何言ってるんだ?今入ってきたのは俺とイナバだけのはずじゃ.....?
「3人だぞ」
「.....シオンくん?」
声のした方を見るといつの間にかシオンが立っていた。名前を呼ばれた当の本人は「そうだぞ」と答えつつ受付の方へ数歩進む。
「今日からしばらくはこの人たちと一緒にここに泊まるぞ」
「い、いやでも、君には養護施設って場所が.....」
「あそこが僕の居場所だと思われたくないぞ」
「だから一緒に泊まる」と強く言うと受付は渋々といった様子で「.....では、1晩150ゴールド、1週間程度でしたら630ゴールドになりますが.....」と少し小さく言った。
「630ゴールド.....?イナバ持ってるか?」
「一応.....でも1回戻った方が.....」
俺達が横で話している事なんてお構い無しと言うかのようにシオンは普通に「じゃあ1週間.....10日泊まるぞ」と受付に言う。
「10日.....だと900ゴールドになりますが.....」
「.....流石にないよ.....?」
「それって使いすぎたくないから言ってるのか.....?」
「それもあるけど.....」
イナバと話しつつ、勝手に決められた日数の金額をどうしようかと考えていると。
「900ゴールドくらいボクが払うぞ」
そう言うとシオンはどこかからか財布に似たものを取り出してジャラジャラと持っているゴールドを机の上に広げていく。
「900ゴールド、ちゃんとあると思うぞ」
「.....確かに、ありますね.....」
「では、お部屋はそちらにある階段を上がった先の206号室になります」と言って、シオンに鍵を手渡す。するとシオンは「こっちだぞ」と言って先に階段を上がっていく。
「.....少しは待ってくれても良くね?」
「でも先に上がって待ってくれてるかもしれないよ.....?」
話しながら階段を上り、ふと前を見る。するとそこには少し先に階段を上り切っていたシオンがいた。
「.....遅いぞ」
「まだそんなに時間経ってねぇだろ.....」
そう返すと「そんなこと関係ない」と言いたげな様子でそっぽを向く。それを後ろで見ていたイナバはシオンに対し「ごめんね?」と声を掛けると一瞬こっちを見た後に部屋があるであろう方へと歩いていく。
「あ、待って.....」
「いや急に走るなよ.....」
シオンのあとを少し小走り程度でイナバが着いていく。それを見て俺は内心「またか.....」と思いつつ、2人の後ろを着いて行った。