1章 8話「ん、ん.....今何時だ.....?」
いつもなら煩いほどアラームが鳴り響くはずなのに、今日はそれがない。
少し開けていた目をしっかり開ける。.....ここどこだ.....?
「おはようホムラ、もう9時だよ?」
急に見慣れた姿が視界に映る。
「.....イナバ?」
なんでいるんだ.....?と、まだ少し寝惚けた頭で考える。
「.....なんで私がいるのって思った?」
「.....思うだろ」
そう返すとイナバはクスクスと笑いながら「ホムラ寝惚けてるんだね」と言う。
「昨日裏世界に来て今はストーリア国の城下町だよ」
「思い出した?」とこっちを見てそういう。あぁ、確かに.....昨日裏世界に来たよな.....
「思い出した.....」
「そう?なら良かった。.....後ホムラ、お風呂入ってよ?」
「風呂.....?」
「昨日起きたら入るって言ってたんだからね」
「ほら早く体起こして入ってきて」と、起きるように促され、俺はそれに従い体を起こす。
「分かったよ.....」
確か着替えって洗面所の籠の中だよな?そう思いつつ、ソファを離れ洗面所へ向かう。
着替えは.....あった。けどこういうのって普通に置いてていいものなのか.....?
「あ、そうだホムラ、朝ごはん持ってきてもらうからね?」
「おー」
自分たちで取りに行くとか食堂に食べに行くとかじゃないんだな.....。っていうか、持ってきてもらうって言ってたよな。.....電話みたいなので伝えたり.....とかなのか.....?
そんなことを考えつつ、手早く風呂を済ませて服を着る。と、ちょうどイナバが扉越しに「しばらくしたら持ってきてくれるから」と声を掛けてきて、俺は「分かった」と声を返す。
.....ネクタイは.....まだしなくていいか。そう思いネクタイを持って洗面所を出る。
「ホムラ.....ちゃんとお風呂入った?」
「入ったよ.....」
「髪濡れてるだろ」と言うとイナバは「ほんとだ」と言ってソファに座るよう誘導してくる。
俺はそれを少し不思議に思いつつ、ソファに座る。
「タオルは?」
「タオル?.....置いてきた」
「置いてきたの?もう.....取って来るから待ってて」
と言ってイナバが洗面所へ行ったとほぼ同時に扉をノックする音が聞こえる。
.....イナバの変わりに扉の方に行こうかとも思った。けどついさっき待っててって言われたしな.....どうするか.....と考えていたらいつの間にかイナバが扉を開けていた。
「朝食をお持ちしましたが.....」
「机の上に置いててください」
「かしこまりました」
そう言って朝食を運んで来た人は机の上に持っているそれを置き、「食器などはそのまま置いておいてください」とだけ言って部屋を出ていく。
.....そのまま置いてていいんだな、これ.....
「なぁイナバ、食べていいか?」
と、タオルを持って戻ってきたイナバにそう聞く。
「まだ駄目だよ.....先に髪拭かなきゃ」
そう言ってイナバはタオルで髪を優しく拭き始める。
「.....なんでそんな優しくやってんだ.....?」
「ごしごしなんてしたら髪傷んじゃうから」
「.....まぁホムラはほっといたらごしごし拭いてそうだけど.....」と後ろで呟いたのが聞こえた。
.....確かにいつもなら適当に髪なんて拭いてるけどな.....?
「.....うん、ある程度乾いたかな.....」
「もうご飯食べていいよ」と言ってイナバはタオルを置きに洗面所へ行く。ある程度.....っていうか、もう殆ど乾いてるって言うよなこれ.....と心の中で思いつつ運ばれてきていた朝食に手を伸ばす。
食パンにジャム、コーヒーと.....だいぶ普通にどの家でも出てきそうなものだった。
食パンにジャムを塗っているとイナバが洗面所から戻ってくる。
「.....コーヒー入れてないんだ?」
「飲めるやつかわかんねぇし.....」
と言うとイナバは「ちゃんとミルクと砂糖入れてもらったよ?」と言ってコーヒーをカップに注いでいく。
「ほらブラックコーヒーじゃないでしょ」
「.....確かにそうだけどな.....?」
そっちの心配もしてた。けどミルクと砂糖が入っててイナバが普通に飲めるって、甘いんじゃ.....
でも飲まなかったら喉渇くしな、仕方ない。そう思って俺もカップにコーヒーを注ぎ、一口飲む。
「甘くない.....?」
いや甘いには甘い、でも俺でも普通に飲める程度の甘さで.....
「イナバ飲めるのか?」
「一応.....本当はもう少し甘くてもいいんだけど.....」
そう言いながらイナバはパンを食べ始める。
もう少し甘くてもいいってどれだけ甘いのが好きなんだ.....?
「.....ごちそうさまでした!」
と、すぐ隣から聞こえる。
「.....早くね?」
「パンの時は食べるの早いから」
と言って、「じゃあ身支度してくるから早く食べ終わってよ」と言って身支度をしに洗面所の方へ行く。
早く食べ終わってって言われてもな.....俺パンはあんまり好きじゃねぇしな.....
でも食べ終わらないと次の街行けないからな、食べるしかない。
パンを食べきり、コーヒーを飲み干す。
.....そう言えばまだネクタイ結んでなかったんだよな.....結ぶか。
ネクタイを結びながら洗面所へ行き、一通りの身支度をする。.....イナバはもう俺が起きた時には制服を来てたから着替えの最中に遭遇.....なんてことはない。あったら申し訳なさで一緒にいられねぇ.....
「ホムラ、ついでに剣取ってこよっか.....?」
「私杖取りに行くし.....」と付け足して聞いてくる。けれど俺はそれに「自分で取りに行く」と言って、昨日剣を立て掛けた所まで取りに行き、昨日と同様腰にベルトを巻く。.....やっぱり重いな
剣。
でもいずれこの重さに慣れるんだろうなと思いつつ、鞄を肩に掛け扉の方へ歩いていく。
「ちょ、ちょっと待って.....!」
「.....イナバの方が身支度終えるの早かったよな.....?」
「確かにそうだけど.....」
「もう少し待ってくれたっていいのに.....」と呟きつつ、イナバは部屋の鍵を持って扉の方までくる。
「じゃあ今日はセレジェイラまで行くからね!」
「セレジェイラ.....遠いのか?」
「遠いね」
「嫌だな.....」
「仕方ないよ」
.....と、まぁこんなことを話しつつ、部屋を出て鍵を閉め、鍵を受け付けに返すために階段を降りた。