夜のお散歩[夜のお散歩]
とある動物園。
「邪魔するぞ」
目を傷めて、隔離されたシロクマの元に、コアラが現れた。
突然の珍客に、まてまて、とシロクマは慌てる。
「だから来るなって。コアラには寒いだろうが」
小さなオーストラリア出身の生物を、シロクマはぎゅっと抱き寄せた。
このコアラ、動物園の中でも変わり者で、ユーカリの葉を巻いて煙草のようにして咥えている。
飼育員の森井にアイデンティティを保てと良く怒られていたが、気にも留めず『火を貸して』なんて言う始末だ。
そのコアラが、無理矢理シロクマのエリアに押し入ってくるのだ。
草食に肉食、おまけに異なる生息域の2匹。
しかし友達になった。
コアラが忍び込む度に、シロクマは腹の毛皮で何とか温めようと頑張った。毎回、風邪を引かないか心配なのだ。
もう来るなと言うが、コアラは一向に聞かない。そうして、
「外に行くぞー」
とシロクマを誘うのだ。
しかしシロクマは首を振る。
目は光に弱くなり、太陽の下に出られなくなった。それに良くしてくれる獣医の細木に、迷惑だと。
「夜だから大丈夫だ。眩しくない」
「コアラは半夜行性だろ。寝てろよ」
「昼間よく寝たから平気。ほら細木もOK出してる」
「ええー……」
腕で丸を作り、了承を告げる獣医に後押しされ、シロクマは隔離室を出た。
コアラを背中に乗せて、四つ足でポテポテと歩く。
鍵のかかった扉も、制止する飼育員も居なくて、不思議な事に、ひとつの障害もなく外へと出られた。
外は一面の柔らかな草原と、満天の星空が広がっていて。
「うわぁ……!」
と、シロクマが感嘆の声を漏らした。
四つ足から、お尻を下ろして座る体勢に移行する。
コアラが落ちないか心配だったが、そこはコアラらしく、難なく背中にしがみ付いている。
憂なく空を眺めるなんて、いつぶりだろう。
誰も居なかった。
世界に2匹だけ取り残されたようなのに、ちっとも寂しく無かった。
気持ちいい風が抜けた。
サワサワと音を奏でる、草の香りで胸がいっぱいになった。
痛くない星の輝きなのに、
あまりに美しくて、
あまりにも嬉しくて、
シロクマは目を細めて夜空を眺めた。