せめて隣に 銃を持った相手、ましてや射撃場で、この行いが暴挙だと分かっていながら、クリードは己を止められなかった。
銃を撃ち終わった肩に手を掛け、半ば強引に振り向かせた。そうして、腕の中に男を連れ込む。
「俺と寝る気はあるか?」
近くなった距離を更に埋めるよう、クリードは耳元に唇を寄せ、そう囁いた。本日は下ろしている癖のある黒髪。吐息に、揺れて。
「突然どうした? ボク、浮気をする気はないよ」
「なら、妻子が居なくなりゃいい?」
「……冗談でも口にする台詞じゃない」
チリ、と焼けるような殺気が放たれた。
実際に、喉元に突き付けられた銃口は、持ち主の怒り同様にまだ熱を孕んでいた。
クリードは大人しく降参する。喉を、急所を晒したまま、撃ちたきゃ撃て、とホールドアップ。
「言わなきゃ、忘れてただろうが」
「??」
「ガキまで作ったくせに、傭兵なんてやってんじゃねえよ」
「他に食べてく方法を知らなくてね」
「ビリー、今回の仕事(神殺し)が終わったら、オマエ銃を置け」
「……不安にさせたか」
心配から出た言葉だと理解し、男は銃を収めてくれた。肩を少し竦めるのは、癖のようなものか。
「そんなに下手だったかな」
的にした1セントを撃ち抜いておいて、どの口が。クリードは内心で毒付く。
寒気がするほど精密な射撃は、下手とは対極でありながら、クリードを不安にさせたのは事実だった。
トリガーを引く際に、余計な感情を排除する。そんな撃ち方に見えた。
半生に渡る努力も、他者への愛情も、生きたいという想いも、そこには残っていなかった。愛情すら削ぎ落として、的を、敵を撃ち抜く為だけに、仕上げられたスタイル。
引き金を引くだけの存在に己を昇華させなければ、到底辿り着けぬ極致の射撃能力は、敵わないという思いを抱かせるより先に、胸が潰れそうなほど悲しく孤独に感じた。
戦争を止める為に、妻子を遺す覚悟をして銃を握ったのだから、きっと、誰もこの男の足枷にはなれないのだろう。
テラー(仲間)も、妻子も、己すらも消え失せて……その先には何が待っているのか。
だから、口にした。
指先が鈍って欲しいわけじゃない。
愛されている事を、待っている家族を、全てが終わったら、ちゃんと思い出せるように。
独りで死地に行かぬよう、せめてついて行く人間がここに居ると、理解して貰えるように。
「少なくとも、1回寝りゃ力量は分かるだろ」
「下の銃の腕前なんて、知りたくないぞ」
「満足させられると思うぜ?」
「何だ、ボクと勝負したいだけか」
クスクスと笑って、男は左側の銃をクリードに握らせた。
「こっちの銃で勝てたら、考えてやってもいい」
微塵も負ける気などないと表情で語る男に、クリードもまた笑みを返しながら隣に並び立った。