1章 11話セレジェイラに滞在して3日目。バザーも最終日を迎えた。
「今日は流石に養護施設に戻った方が.....」
「嫌だぞ」
.....このやり取りも、3日間だけで数十回は聞いた。
「でも何も言ってないんだったら施設の人が心配するんじゃ.....」
「また用心棒みたいなことでもしてると思ってるはずだぞ」
「用心棒.....って.....」
そう聞くイナバの声にはもう耳を貸さず、シオンは本を読むことだけに集中する。
「.....シオンくん、話してくれないんだけど......」
「まぁ.....そのうち話してくれるだろ」
「そう.....かな.....」
「そうだろ」と返しつつ、この3日間ずっと気になっていたことを誰に向けるわけでもなく「あの目の前に見えてる屋敷って誰が住んでるんだろうな?」と呟く。それを聞いていたのかシオンは「あぁ.....」と言いながら窓を開ける。
「あの屋敷.....百合園って人たちの屋敷だぞ」
「へぇ.....」
屋敷に住むくらいだし相当金持ちなんだろうな......そんなことを考えつつ、何となくイナバの方を見ると心做しか表情が暗いように見えた。
「.....イナバ?」
「どうかしたのか?」と声を掛けるとイナバは我に返ったかのように「あ......」と小さく声を発する。
「.....ううん、なんでもないよ」
「.....そうか?」
そう返すとイナバはその屋敷から目を背けそれ以上は話さなくなる。それ見て前に何かあったのか.....?と思う。でも聞いたところでこの様子じゃ答えてくれる感じは一切ない。.....仕方ない、きっといつかわかるだろうと、そう思いその時が来るまでその事には触れないようにしようと、そう考えた時。
バンッと、勢いよく部屋の扉が開かれる。
「シ、シオン.....!」
「どうかした.....」
シオンが言い終わるよりも先に、部屋に入ってきた子供は「魔物が.....!」と言ってシオンを連れていこうとする。
「ちょっ、ちょっと待って欲しいぞ、剣持ってない.....」
剣.....の前に、今は室内だからって言ってポンチョ自体着てなかったよな.....?俺がそう思っている間にシオンはポンチョを着てこっちを見る。.....何となく言いたいことがわかった気が.....
「ホムラとイナバも行くぞ!」
.....やっぱりか。
「俺達も?行っても何出来るかわかんねぇのに?」
「今はそんな事より.....魔物を倒せる人が必要だぞ」
そう言うとシオンは「魔物の数は?」とその子供に聞き、「20か.....30の間だった。後まだ街には入ってきてない」そう聞くとすぐにでも部屋を出てその場所へ向かおうとする。.....けれどすぐにでも俺達が着いていける状態かを確認するためにこちらを見る。
「.....ホムラ、剣持ってる?」
「いや持ってるだろ」
イナバにそう返しながら、シオンの方へ向かう。
「.....もっと早くして欲しいぞ」
「じゃないと.....」と、そこまで言うとシオンは言いかけていた言葉を区切り、その子供を連れて部屋を飛び出して行った。
「えっ、ちょっと待って......」
開け放たれて行った部屋の扉を閉め、鍵を鍵穴に挿しながらシオンに声をかけた.....つもりなんだろうが、もうその方向にシオンの姿はなく、代わりに慌ただしく部屋に入ってきた子供の姿があった。
「あれ.....シオンくんは?」
「シオンは先に魔物を倒してるって.....」
「それで、僕にそれを伝えて欲しいって.....」と走りながら教えてくれる。.....多分、この様子から察するにゆっくりはしていられないんだろうな.....
宿屋を出て街の出入口の方へ向かうとそこには本当に1人で魔物と戦っているシオンの姿があった。それを見てイナバはすぐに詠唱を初め「ブリザード!」と叫び氷の柱のようなものを魔物達数十匹き突き刺す。
「遅いぞ!.....来ないかと思った」
「部屋の鍵閉めてたから.....」
イナバと話しつつ、シオンは手近にいる魔物を斬り捨てていく。.....初めて見た時も思ったけど、1人で魔物を何十匹も相手取るって相当強い.....って事だよな。と、街に攻め込もうとしている魔物を倒しつつ、頭の片隅で考える。
「あと8くらい.....ホムラが1番倒した数少なそうだぞ」
「今それどうでもいいだろ.....」
話しつつ残りを倒していく。あと4匹、という所で再びイナバが詠唱を始めていることに気がつく。
隣からは「別にもう魔法はいいのに.....」と呟いたのが聞こえたがそれには特に何も言わず残っている魔物を倒すことに集中する。あともう少し、という所で.....
「サンダー!」
後ろから詠唱を終えたらしいイナバが呪文を唱えた。.....それは別にいい。
「あ.....危ないぞ!」
「え?」
「あと少しズレてたら当たってたよな」
「えぇ.....?」
「ちゃんと調節したんだけど.....」と呟いたのが聞こえた。調節してたにしても直撃してたら無事では済まないだろ......そう思いつつも剣を鞘に収める。
「.....でも、2人が来てくれなかったら、もしかしたら.....“あの時”みたいになってたかもしれない.....」
剣を鞘に収めつつ、シオンは「だから.....」と言葉を続ける。
「その.....あ、ありが、とう.....」
「「......」」
シオンがお礼を言ってきたことに対し、俺とイナバは1度顔を見合わせてからすぐにシオンに視線を戻す。
「どういたしまして」
「別にこれくらいだったらいつでも手貸すよな」
そう返すとシオンは街の方へ向き直し。
「ぅ.....イ、イナバはともかく!ホムラは剣の扱いに慣れてないからボクが直々に教えるぞ!!」
「有難く思うといいぞ!」と言い残し、こちらには見向きもせず一直線に走って街まで帰っていく。
「もしかして照れてる.....のかな.....?」
「知らね......」
とりあえず一通りもう魔物がいないかを確認してから街への少しの道を歩く。
「.....そう言えばシオンくん、鍵持ってないけど.....」
「.....部屋の前で待ってるだろ」
そう返すと「そうかな.....」と呟き、「私、先に戻るね?」と言ってイナバは走って街へ戻っていく。.....別に部屋の前にいると思うけどな.....そう思いつつも、少し早歩きになりながら街へと戻った。