弥次丸「…樹一様」
樹一「んー?」
弥次丸「…」
樹一「…?どうした、弥次丸?」
弥次丸「…樹一様は学園を卒業なされたらどうなさるのですか?」
樹一「どうする…というと?」
弥次丸「人から聞いたお話で知りました、学長殿に勝てば人間界に帰れると」
樹一「…」
弥次丸「樹一様はやはり人間界に帰りたい…のでしょうか…?」
樹一「…帰りたいって言ったら?」
弥次丸「…!」
樹一「帰りたいって言ったらどうする?」
弥次丸「…全力で、樹一様をサポート致します」
樹一「弥次丸…」
弥次丸「そのかわり、私も連れて行ってくださいませんか?」
樹一「!」
弥次丸「私は樹一様とずっと一緒にいられたら幸せだなぁって思っているので…」
樹一「弥次丸…」
弥次丸「もちろん人間界には魔法がないというお話も伺っております。人間界で私の意識が石に宿ったままでいられるかはわかりませんが私…」
樹一「…」
弥次丸「…樹一様?」
樹一「ごめん、意地悪したかもな」
弥次丸「え…?」
樹一「実はこの世界ではやりたいことがいっぱいあるから人間界に帰る予定はないんだ」
弥次丸「そ…、そうなのですか。す…すいません、何だか変なこと話してしまいましたよね…」
樹一「変じゃない」
弥次丸「え?」
樹一「それが弥次丸の気持ちだろ?変な訳ない」
弥次丸「樹一様…」
樹一「ありがとうな」
弥次丸「…」
樹一「…」
弥次丸「あ、あのっ!樹一様!」
樹一「おっ…おう、何だ?」
弥次丸「私の本当の名前…知りたくないですか?」
樹一「…、弥次丸って偽名なのか?」
弥次丸「代々あの森を守る巫女に受け継がれる名前でございます」
樹一「そういえば、あの森を弥次丸の一族が代々守ってきたんだっけな」
弥次丸「はい、だけど数百年前からぱったり祠参りが無くなったということは…私の一族はもう…」
樹一「…弥次丸」
弥次丸「…」
樹一「教えてよ、弥次丸の本当の名前」
弥次丸「え?」
樹一「一族がどうなったか俺にはわからないけど森を守る弥次丸の名前はもう必要ないんじゃないか?」
弥次丸「樹一様…」
樹一「一族が気になるなら卒業したら俺、探してみるから」
弥次丸「…」
樹一「弥次丸?」
弥次丸「…」
樹一「泣いてるのか?」
弥次丸「嬉し泣きです」
樹一「…そっか」
弥次丸「では樹一様、私の名前、言いますね?」
樹一「ああ」
弥次丸「私の名前は…」
弥次丸「あの、樹一様」
樹一「ん?」
弥次丸「私の名前なんですけど、その、二人だけの秘密にしていただけませんか?」
樹一「どうして?」
弥次丸「えっと…その…」
樹一「ん、まーいきなり名前の呼び方変えたら周りもびっくりするかもだしな」
弥次丸「…では、そういうことで」
樹一「わかった、これからもよろしくな、ナナミ」
弥次丸「(樹一様、私の、巫女の本当の名前を唯一知ることができるのは家族と、…愛する男性一人だけなんですよ?)」