【風男子】お堅い系かと思ったらそうじゃなかった「スカウトされた? モデルに?」
「いや、そんなご大層な事じゃない。ちょっと声を掛けられただけだ」
いつも通り他愛の無い雑談を交わしながらの昼食であった。
そんな中、まるで「今日のだし巻き卵は自信作だ」と同列の何気なさで了太郎が口にした内容に、愛実は口に運びかけていた箸を止め、思わず聞き返してしまったのだ。
「水族館での演奏が思ったよりも話題になったみたいでな。それで、ウインボの活動ブログも見てくれたらしくて」
「そういや意識してなかったがお前、いろいろな衣装着てるよな」
これまでの活動を振り返るに、高校の部活動とは思えぬ気合いの入った衣装は、確かにインパクト絶大であろう。
「それで?」
「物珍しさからだろうし、もちろん断ったよ」
真秀が聞いたら「えぇぇー! もったいない~!! りょうくん先輩モテモテ間違いなしなのに~!?」と大声を上げたであろう事は容易に予想出来るほどに、了太郎は迷った素振りもなくあっさりと言い切ったのだった。
「そもそも俺には向いてないだろう?」
芹みたいに華やかな訳でなし、と謙遜でも何でも無く本心からそう言っている事は、了太郎の性格上納得出来るのだが、愛実は暫し、うーん、と難しい顔で眉間にしわを寄せる。
本人の自己評価はさておき、客観的な意見を述べれば容姿、性格共に相当な良物件であると言える。優柔不断という欠点はあるが、それくらいは愛嬌の内だ。
「まぁ興味が無い事を無理にやる理由はないわな」
自ら前に出るタイプではないことは承知の上だ。珍しく自己主張してきたアザラシの赤ちゃん絡みの水族館の事を改めて思い出し、愛実は、そういえば……、と頭の片隅に引っかかっていた事を口にした。
「水族館の時の衣装な、お前があれを着たの正直意外だった」
神社での演奏の際には干支にちなんだ虎の尾の付いた衣装が用意され、それを普通に着ていた事から、人前で様々な姿を披露する事に抵抗がないのは理解していたつもりであった。
「俺の勝手な思い込みなんだが、お前は肌の露出は避けるかと思っててな。まさかへそまで出すとは思わなかったというか」
「……人を露出狂みたいに言わないでくれ」
腹なら皆出てただろう、と少々ズレた返しをしてきた了太郎に、それはそうだけどな、と愛実が困ったように笑う。
「イメージの話だよ。ちょっとお堅い系というか、そう簡単には落とせない身持ちが堅い系というか、そんな感じだな」
「身持ちが堅いってなんだ」
呆れたように嘆息し話は一段落ついたと判断したか、唐揚げを口に運ぶ了太郎を見ながら愛実も食事を再開する。
「モデルの話は芹弥が知ったら嬉々として弄ってきそうだな」
自分を磨くことももちろんだが、他者を磨き上げることにも一切手を抜かないのは、ハロウィンのイベントの準備段階で充分過ぎるほどに見ている。了太郎に対して全く遠慮の無い芹弥ならば、妥協なしの全力で反応の薄い了太郎も驚きを隠せない事をしてきそうではある。
「それは面倒な事になりそうだ」
その可能性は考えていなかったのか、言わないでくれ、と渋面で頼んできた了太郎に愛実は、わかってるって、と当たり前の顔で応じたのだった。
2022.10.27
2022.11.05 加筆修正