それぞれの蜜月たくさんの建物と宙に投げ出されたボクの足。そして、野菜のような頭と枯葉のような頭が見える。両者とも俯きぎみで表情は分からない。
「満足した?」
落ちるかと思った。振り返り、声の主の姿を確かめる。
「キルケ」
紫煙をくゆらせ、こちらに歩いてくる。キャップを被っているがツノは何処へやったのだろうか。
「キミって情報通のイキを超えてるよね。どこから見てたのさ」
「彼がどんな人物が分かったかい」
この友人にはぐらかされることが多すぎて慣れてしまった。
さっき話したばかりの、パゴダと名乗った男について考える。微笑、すぐに逸らされる視線、そっぽを向いたつま先。
「んー、つまらない人だったな。いや、ボクからしたら相当おもしろい人なンだけどさァ」
「矛盾してるなー。僕にも分かるように説明してよセンセイ」
ボクは顔をまたあの二人に向けた。ジュースを飲もうとしてるのかな。指を引っ掛けないと爪がもげちゃうよ。
「街のシステムとか学術系に対しての疑問には丁寧に答えてくれたんだよ。見習うべき博識さだな」
「そりゃ羨ましいまでの評価だね」
「でもジョークや皮肉となると歯切れが悪くなるんだよね。ボク自信なくしそう」
とっておきをカマしても曖昧に笑い、ちょっとからかっても黙るだけ。
「おまけに」
「おまけに?」
頭ぶつける勢いで後ろに倒れる。
「紅茶を飲んで貰えなかったんだ。苦労して手に入れたのに」
この街には紅茶の店がない。やっと見つけたそこそこの品質のやつをようやく美味しく入れられるようになったんだ。紅茶の良さが認知されれば紅茶産業が盛り上がる、そしてボクはここでもティーブレイクができる。アレは計画の第一歩だったのだ。
「またチャンスは作るよ」
「ん。お願いする」
明日また歩こう。今日は少しムシャクシャしよう。
「もうひとつお願い。煙草をボクにもちょうだいな」
キルケは口からタバコを外し、フィルターの方をボクに向けた。
ボクは無視してキルケのポッケからタバコを取り、火を付けた。
二対の紫煙が、格子柄の空に昇る。