発作リウビアさんは私の上司だ。
「おはようございます」
「おはよう」
私のつまらない上司だ。
「前に私が貸した映画みてくれました?」
「ああ。面白かったよ」
ウソだ。この街のしょぼい映画作品の中でも特に退屈なクソ映画を渡した。見ていないか、見た上で当たり障りのない感想を選んだか。そのどちらでもなければ、きっと感性が死んでいる。
「このレポート、ここに誤字があった。修正を」
書類を受け取る。いつもならこの後すぐに自分のデスクに戻る。ただ、今日の自分はリウビアさんの前につっ立ったままだ。
「どうした」
怪訝そうにリウビアさんがこちらを見てくる。視界は琥珀色に、脳内は別の色に。
床に書類を落とした。リウビアさんの手を握る。右手に手を添え、手首を掴み。
指を折った。
「あっ……?」
パキッという音が鳴ると思ったが、実際はギュウクと鳴るらしい。
リウビアさんの中指が手の甲側に捻れて曲がっている。既にもう赤黒く腫れはじめている。親指をまとわせ、寄った皮膚の皺をさする。
「痛いですか?」
「いや。…………何故……」
彼の表情は、いつもと変わらぬ澄ましたような顔だった。でも握った手はじっとりと湿っている。
曲げた指を掴んで、さらにギュウと握り締める。
リウビアさんの顔が少し歪んだ。
中指は芋虫のようにぶくぶく腫れ、己の手の中で赤々と熱かった。つい一番腫れた部分に爪を立ててしまう。また彼の顔が歪む。これ、頑張れば付け根から取れるかな。次はどんな反応を見せてくれるだろうか。
またさらに指先に力を込めようとしたとき。
「ねえ貴方ちょっと」
他の職員に呼び出された。すぐにその場を失礼した。
「向こうで被験者が発作を起こしちゃってね……貴方なに笑ってるの?」
「いえ、何でもありません」
ラボの廊下を走りながら、手に残る感触を反芻していた。
またやりたいな。