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    花填酒血エゴロワを飲みに誘ってみると、意外にも軽く承諾してくれた。
    日の終わり、俺の部屋でソファにふたり、グラスを持って並び座る。テーブルに琥珀色の酒が入った瓶を置いた。エゴロワが栓を開けて鼻を寄せると顔をしかめた。
    「うえ、これ度数いくつ?」
    「飲んでみりゃ分かるだろうさ」
    「40だって? いかれてるな、炭酸水を頂戴よ」
    酒瓶の表示を見て叫ぶ。
    自分のグラスには氷を入れる。エゴロワは元の色がほとんど消える程度にまで薄めた。
    水面が舌に触れただけで、鼻腔に爆発的にアルコールの匂いが広がった。熟成の過程で強烈に濃縮されたそれは舌を痺れさせ喉を焼く。既に酒臭くなった息を吐く。
    エゴロワは一息でグラスの半分ほど飲み干していた。
    「うーん。ヴァイアスっていつもこういうの飲んでるの?」
    「苦手な味だったか」
    「大人味だね。私はもっと甘いのが好きだよ」
    やはり若い女は甘い酒を好みがちだ、などと言えばこいつは怒るのだろうな。グラスで口を塞ぐ。
    「君にはお酒の好みとかあるのかな」
    「黒ビールが好きだが、基本は酔えりゃなんでもいいな」
    「これだからキズ持ちは、嗜好品に耽溺になりがちなんだからなァ」
    そう言いながらグラスを空にする。そしてすぐに次の杯を満たした。
    「嗜好品といえば、お酒は美味しいと思うけど、煙草はどうしても分からないんだよなァ。噎せるだけだから」
    「人に勧められる物ではないな。苦手なら苦手なままでいた方がいいさ」
    「たしか君も薬物中毒者だったね。私がいるところで吸ったら君を灰皿にするからね、香水と混ざるのが嫌だからさ」
    それが冗談ではなく、エゴロワはマジに実行するであろうと俺は思っていた。ラボに蔓延る噂、研究の内容、時折見せるサディスティックな態度がそう予感させる。彼女の嗜虐心や苛立ちがこちらに向くのを恐れつつも、こうして今夜も会っているのは、おそらく綺麗な面と優しさのせいだ。
    酒をひとくち含む。エゴロワの顎を掴んで上を向かせ、キスをした。舌で唇を割り開き、中に酒を流し込む。
    腕で強く押し退けられた。エゴロワは口を抑えてこちらを睨みながらも、喉が波打つのが確かに見えた。
    「げほっ、止めてよ。ペースが崩れるでしょ。それに私、お酒入ってるときはそういうことしないから」
    肩を何度も小突かれる。アルコール漬けの拳でも、的確に同じ箇所を突いてきてなかなか痛い。
    「ごめんな、酔うと自制心がぼやけるんだ」
    「君には元から無いだろう」
    空調から吹き出す温風と胃から広がる熱が心地よい。順調にアルコールは体を回って脳を酩酊させ、隣には顔の良い女がいる。いまだけは都合の悪いことなど何ひとつないように思えた。
    エゴロワが俺の手からグラスを奪い取り、なみなみと酒を注いで返した。杯が乾くまでに、俺が正気を保っているか怪しいな。
    「今日は、研究の成果は出せたか?」
    「いいや、ずっと雑務を片付けてた。被験者を休ませろって注意されてしまって」
    エゴロワが研究しているのは、キズ持ちの耐久実験とその仕組みの解明、だったか。
    「前はどんな実験してたんだよ」
    「薬が耐久性に影響するのか試してた。アルコール、スキサメトニウム、モルヒネとかを注射してね」
    付け焼き刃の素人知識でもゾッとするような内容だとわかる。エゴロワの場合、学術的興味より執着で研究分野を選んだのではないかと思ってしまう。研究について話すとき、考察や結果よりも、被験者の反応について楽しそうに話すから。
    エゴロワが三杯目を飲み干した。半袖シャツから突き出す腕は既に赤く、結った髪の下のうなじには汗が浮いていた。
    肩に手を回して引き寄せる。嫌がるかと思ったが、相手は素直に身を預けてきた。酒が警戒心を解いたか、周囲を気にせぬほど酔っているのか。
    「熱い……」
    エゴロワは汗を拭い、またグラスに口を付ける。背中にシャツが張り付いていた。
    「ペース崩したくないんじゃなかったのかよ」
    「うるさいなあ、酒瓶で殴るよ。喉が乾くのがいけないんだよ」
    俺は相手の唇で口を塞ぐことにした。肩にエゴロワの爪が刺さるが大して痛みはない。お互いの酒気を帯びた呼気が混じり合う。
    「酒飲んだときはしない、って言ってるでしょ……」
    「頼むよ。憐れな酔っ払いに慈悲をくれ」
    エゴロワはため息をついて、髪をクシャクシャと乱した。
    「私いま、加減する余裕ないんだよ」
    俺を見上げる目は据わっており、険しい顔をしていた。普段の飄々とした様子からは遠い、雄々しさのようなものを内包した表情に心が滲みる。
    「構わないさ。乱暴なくらいが丁度いい」
    エゴロワは舌打ちをして、俺に向かって手を伸ばした。
    mamimu_ryonara Link Message Mute
    2023/05/29 21:59:31

    花填酒血

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    うちのエゴロワとアマドさんとこのヴァイアスの話です

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