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    もはやまたたきすら失せたわたしの世界と永遠のきらめきになったあなたたち◇影を照らすまたたきのエスキス◇ねじれたきらめきが鎔かす銀河と夜の隙間で錆びついた太陽◇爛れてゆく世界とけっしてその胸に届きはしない私のまたたき◇もはやまたたきすら失せたわたしの世界と永遠のきらめきになったあなたたち◇影を照らすまたたきのエスキス 死なない男。ふとそう呼ばれるに至ったのは自分の能力のたまものではでないのではと疑いを持ち、その異称のからくりを開いてしまえばただ逃げまどい守られていただけの、戦士とは到底言えない男があるだけだった。それでも、ジョンは、ダイハードマンは戦場にまだ立っている。運がいいだけの死なない男だが、そんな自分にも何か成せることはあるかもしれないというまだ青い思考が戦地に馴染まないことに気づきはじめたばかりの男に、クリフは手に持った煙草を笑みをはいた口に運ぶ前に「お前はそのままでいろ」といった。
    「お前はそのままでいろ、ジョン。お前がどんなに運がいいだけだと嘆いても、そういうお前だから進める道がある」
    「ですが隊長、私は、」
    「いい、いいんだジョン。知っているだろう、戦場に立つ軍人全てが恐れを知らない勇猛を持つわけじゃない。それに、軍人の俺が言えたものじゃないが――そもそもだ、誰とも争わないという選択肢だってある」
     そう言葉を区切って、クリフは手にしていた煙草を口に運んでまだ中身が入っている紙の箱を数度叩いて、出てきた煙草をジョンに向けた。いただきます、とジョンは礼を言って軽く頭も下げてから煙草を受け取り、紙巻きのそれに火をつける。意識的に煙の味を感じながら、ゆっくりと煙を吸って吐くことを繰り返す。誰に対しても父であるようなところのある、実際身重の妻を持つ男はジョンに優しい視線を送ると彼も煙草に意識を向けた。たなびく紫煙に気づいた数名の仲間が、自分たちもと集まってきた。後で見張り交代しろよという声がして、後でなと返す声がそこにあって。
     結局、ジョンは煙草が指を焦がす寸前までそこにいた。クリフはそれを指摘しなかったし他の仲間もジョンにさっさと見張りに戻れとは一度も言わなかった。その数時間後、戦況が変わり後でなと叫んだ男はグレネードの爆撃が直撃し、交代しろよと言った男はカバーポイントにたどり着けないまま弾丸を頭に食らって即死して。三分の一になるまで仲間が死んでも、それでもジョンは死なず、戦場に立てていた。
    ◇ねじれたきらめきが鎔かす銀河と夜の隙間で錆びついた太陽 アメリ、あるいはブリジット。肉体のない魂と魂のない肉体、二つに別たれた永遠に美しいままのむすめと老いて病に侵されてゆく肉体ははのどちらに先に恋を抱いたのか、ジョンにすらもう思い出せない。ただ、彼女に熱烈な忠誠を誓う彼にとってはどちらも心の底から深く愛する唯一のひとだ。永遠に彼女がジョンを見つめずとも、ジョンはそれでもよかった。ただその側にいれさえすれば、それで。彼女を補佐する立場になってから戦場に立っていた時とは違う汚れ仕事に手を染めるようになり、屍を罪を罪科を積み上げて、汚れていくばかりの手をいとわしく思えないのは、忠誠と混ざり合って切り離せないひた隠す恋のせいなのだろう。彼女は美しいひとだ。けれどもその美しさと同じくらい、残酷でもあった。
     BB、あの世とこの世を繋ぐポッドの中でしか生きられない子供。脳死した母親と同じ環境を再現するポッドのなかで微睡む胎児。彼女が特別だと形容したBBの、どこが特別なのかはジョンは分からない。単純に、期待された性能よりもその能力が高いのかもしれない。けれど彼女の唇が声もなくサムとつぶやいたことに、他の誰にも見せたことのない何処か暗い歓喜で光る目をしていたことに、ジョンは気付いていた。なぜ彼女がBBをサムと呼ぶのかはジョンはわからないし、わかりようがない。それでも何か知れることがあるかもしれない、そう思ってジョンは一人、BBと母親がいる部屋に足を運ぶ。
     そこには、見慣れない男がいた。けれど、胎児の母親というからには父親となる男がいて当然だ。ジョンが男に声をかける。そして振り向いたのは、戦地でジョンを守ってくれた男だった。
    「ジョン、ジョンなのか?」
    「隊長、どうしてここに」
    「お前こそ――いや、それはいいか」
    「まさか、あなたの奥さんと、BBは、」
    「………………そうだ。妻と、子供だ」
     その時、ジョンは胸が凍ったような錯覚を覚えた。その後、妻とBBのもとにクリフが足しげく通い様子を見て、これを預かってくれと銃を手渡された時に直接見つめたその相貌に、緩やかな絶望が打ち寄せ心が錆びついている事を知った。BBのことを、彼と彼女がBBにつけるはずだった名前のことを聞こうとも思ったが、日に日にその瞳に掠れた感情が増していく彼に聞く勇気はとても持てない。そうするうちに、近々BBを別の施設に移す予定だとジョンはアメリに言われたのだ。もはや猶予はない。ジョンは紙にペンを走らせる。久しぶりに使うアナログの道具はまだ使えた。はやく、早く早く。敬意と忠誠の板挟みになりながら、万が一の時のために、組み上げていた段取りをすべて脳から紙に書き写す。写し終えると、ジョンの肉体は一瞬だけ弛緩して、弛緩した肉体に呼応するように一滴、涙がテーブルに落ちた。なぜ、なぜと脳裏に嵐が吹きすさぶたびに、あの部屋を訪れていたクリフの様子が再生される。
     クリスマスにはBBとリサにプレゼントを持ってきていた。ついでなのか、なぜかジョンにも多少親しいらしい医療スタッフにも赤い帽子をかぶり用意したプレゼントを渡していて。BBにいつか月に行こうといっていたらしいことも伝え聞いていた。月面を歩く彼ら、三人だったり、二人だったする夢想は現実から目をそむけたくなるほど幸せに満ちていた。クリフは良い父親だ、身重の妻を置いて戦地に立っている。だから決して良い夫ではないと戦地で苦笑していたことがあるが、彼女の側にいる時間があれば、それはすぐに解決する問題だったはずだ。息子と妻と彼、三人の家庭は幸せな時間を過ごせたはずだ。何かのボタンが一つでも今より掛け違えば、彼らはきっと。
     ジョンは立ち上がると、急ぎ足であの部屋にいるはずのクリフのもとに紙と、預かっていた銃を携え不審がられない速度で彼のもとに向かった。クリフから預かったこの銃が永劫必要ない未来だってあったはずだ。せめてBBだけは彼のもとに残ってほしい。歪な形であったとしても父と息子として過ごせる時間を許してください、その時、ジョンは一体誰に許してくれと思ったのだろう。
     神か運命か。それとも、彼女にか。床に崩れ落ちた彼女が、撃ってしまった赤子に慟哭している。その声をどこか遠くに聞きながら、どうしてという言葉が壊れて針の飛ぶレコードのように、真っ赤に染まりこと切れた男に向けられ、ゆるして、赦してくださいとかすれた声がジョンの喉から滑り落ちた。
    ◇爛れてゆく世界とけっしてその胸に届きはしない私のまたたき BBから、サムという名を持つ一人の子供から大人になった彼の息子に言えないことばかりが増えていく。君が私が好意を向ける女性が君を一度殺し、この世に戻し、私の手に添えられたその指が君の父親を殺したんだ。そう言えたらどんなにいいだろう、彼の愛をサムに一つでも伝えられたどんなに良かったろう。悪夢が怖いと泣いていた子供から、次第に口数の少ない寡黙な青年になり、どこかにクリフの面影を探してしまう、名前を捨て顔を捨て「ダイハードマン」となった男を置き去りにして季節は過ぎていき、崩壊したアメリカを繋ぐという計画を遂行するために人員を送り出すようになって。その間にサムにアメリではない恋人が出来て、妻となり子供ができて。そして、妻の死を受け止められなかった彼が遺体を隠して街が消えてブリジットの止める言葉も聞かず、彼はブリッジズを去った。そして、巡っては去る季節のどこかでダイハードマンはアメリの真実を知った。
     恋は絶滅そのものであり、アメリカを繋ぐことは絶滅が一人きりになる時間を縮めるための行為と知りながら、ダイハードマンは彼女の計画に異議を唱えなかった。一人、また一人アメリカを再建するために再び一つに繋がることを夢見て、あるいは千切れて離散した過去が現在につながることに情熱を燃やし、各地に散っていった。そして今、サムをアメリのもとへ届けるための謀の図面をダイハードマンは引いていた。アメリカの再建は彼にとってなんの意味ももたない、餌にはならない。ならば、彼を動かすのはアメリの存在しかない。死にゆく肉体を彼に合わせ、その死を隠蔽しなけばならないという理由にかこつけて肉体を彼に焼却させ。再びつながってゆく大陸に喜びも確か覚えながら、子を求める男にあったという彼に、ダイハードマンは奪ってしまったものをあらためて突き付けられる。
     そしてある日、ずっと手入れを怠らなかったあの日彼らの命を奪った銃と、彼女に渡された彼女のビーチへつながるための人形をテーブルの上に置く。通信は西に至った、もうサムとアメリは会ったろう。遺言書にも似た映像はもうすでに用意してある、遺すべきものはダイハードマンには何もない。
     彼女が求めているのは常にサム一人だ。彼女の半身、彼女の唯一。彼女の瞳を染めるただ一つのまたたき。ダイハードマンは銃を手に持ち、サムの血液弾をシリンダーに入れた。ダイハードマンが放つまたたきが彼女の目を染めることは決してない、ダイハードマンの告げなかった感情はダイハードマンの中で死んでいく。隊長、とつぶやいた。彼は来るのだろうか、サムが己の息子であることもわからないらしい彼が。窓から、光が射している。祝福ではない光がダイハードマンを照らすことは、ついぞ、なかった。
    ◇もはやまたたきすら失せたわたしの世界と永遠のきらめきになったあなたたち 大統領、その任を辞するにはまだ早すぎる。何の能力もない、ただの臆病な男が立つには豪奢すぎる椅子に座って、ダイハードマンはあの日焼却処分を正式に命じたBBと消えたサムを待っていた。あの頃より老いたダイハードマンの髭は白いものが混じるというより、真っ白になっているといったほうがいい。サムによってルイーズと名付けられたらしい、BBだった胎児は幼子を超えて子供になったらしく、すでに会ったことがるらしいデッドマン、ハートマンにロックネは好奇心が強ぎるきらいはありそのせいでサムが振り回されていることが多いが、優しい賢い子だと彼女を評していた。ダイハードマンは少しの間両手で顔を覆うと、サム達が通されるはずの部屋を出た。ここに来ないだろうというのは予想がつく、サムにしてみれば愛娘を二度も焼け、処分しろと命令した男なのだ。それでなくとも、好感は持たれていない。
     ドアを開け、ブリッジズの本部を歩く。軽やかな足音と笑い声、そして抑えきれない微笑ましさで弾んでいることが抑えきれない声がダイハードマンの耳に届いた。その声の方に行くと、しゃがんだサムが、ルイーズの額に額を当て、心配するから無茶をするなとやわらかい声を出して、どこかで見たことのある父の顔をしている彼に、わかったと溌剌な言葉を返す少女と一緒に窓から射す光の中にいた。
     延命しただけでこの世界はいずれ壊れる、滅びる。ダイハードマンの、サム達の代で滅びずとも第六の絶滅はいずれ為されるのだ。少女を抱き上げたサムがダイハードマンに気づいて、ばつの悪いかおをした。パパ、あの人はと聞く少女にぶっきらぼうにサムはダイハードマンだとだけ言って、少女を守るように包んでいるその腕を微かに緊張させた。そしてその腕を安心させるように撫でる少女の瞳に光が反射し、記憶の中の誰にも似ていない利発な瞳がダイハードマンをうつした。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/06/17 11:56:52

    もはやまたたきすら失せたわたしの世界と永遠のきらめきになったあなたたち

    ダイハードマンと彼から見た場面の話。デスストクリア直後に書いたやつでした。

    #デスストランディング
    #デススト
    #ダイハードマン
    #ルー
    #サム
    #クリフ
    #deathstranding

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