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    さざなみと水芙蓉一、水芙蓉二、泥中一、さざなみ二、灰塵一、水芙蓉 泥の中に根を張り水面に薄桃色の花弁を開く蓮をヴァルナと眺める時間が、マカラは一等好きだ。穏やかな性質の主は元からそれほど口数が多いほうではない、全てを愛している上で少数の犠牲を払い世界を存続させるその役割が、ヴァルナの口数を減らしているのではないだろうかとマカラは想像することがしばしある。穏やかに笑う主の側近くにはいるが、あらゆる意味でヴァルナに負わせられる重みを分かち合うことはできないとマカラは知っていて「蓮を見に行こうか」とヴァルナが口にしてくれると、喜んでその願いを叶えるためにヴァルナを蓮が一番きれいに咲く場所に連れていく。
    「ヴァルナ、そろそろ飲み物を飲んだほうがいいぞぉ」
    「……ああ、そうだねマカラ。お前がせっかく用意して冷やしてくれたというのに、温くなってしまう。すまない、蓮があんまりにも綺麗で、空気だって穏やかに流れ――マカラ、お前が選ぶところは、いつも安らぎに満ちているね」
     マカラ、お前の選ぶ場所はお前の有り様によく似ているよ、と呟いて、ヴァルナはようよう飲み物に口を付けた。マカラが用意したのは、ソーマやスラー酒などではない、人が飲むようなただ果実を絞っただけの飲み物であるが、ヴァルナはマカラが蓮を見に行くときに必ず用意するそれを受け取るたび、何処までも穏やかに整った顔をほころばせ、嬉しそうにほほ笑む。その表情も含め、マカラはこの時間が、本当に一等好きだ。
    「マカラ、今度は私がお前に飲み物を用意しよう」
    「わははぁ、そいつは嬉しいなぁ。おれは今日持ってきたのの味が、一番好きだなぁ」
    「ふふ、それは良いことを聞いた。お前の好きなものを新たに知れて嬉しいよ、マカラ。飲み物もなくなったことだし、そろそろ帰ろうか。ふふ、うまく作れるだろうか。料理というものは天地創造より難しいかい、マカラ?」
     ヴァルナの冗談はいつもの温和な口調のまま発せられるため、非常に分かりづらいが今回は簡単にそれだと知れた「そんなに難しくはないなぁ。ヴァルナ、もしよければ一緒に作ろうかぁ。おれはヴァルナの好きな味を知りたいぞぉ」と照れながらマカラは言葉を紡いだ。
    「そうか……そうしよう。頼むよ、私の料理の先達よ」
    「ヴァルナ、そ、そういわれると一気に緊張するぞぉ……!」
     冗談さ、と常よりもやわい響きを持ったヴァルナの言葉がマカラの心をくすぐる。綺麗な水辺につくと、主を乗せ、ヴァルナは水面を切って主の宮殿へと向かう。向かうさなかも「おれの好きな味はもっとあるぞぉ、何種類か果物を混ぜるんだぁ」と言葉を発して、ヴァルナはマカラのやわらかく言葉を返してくれる。重荷は背負えずとも、そこだけに目を当てさせないことは、きっとできるはずだ。何処までも平等に愛したものを切り捨てる悲嘆ではなく、陽の光を見てほしい。世界はヴァルナが作った、この景色の美しさは、きっとヴァルナの心に起因していて、平等にさす日月、そして星の光はヴァルナの精神にもとづいているのだろうと、あんまりにも気恥ずかしくてヴァルナにも話したことはないが、マカラはそう信じていた。
     そんな景色の中にヴァルナがあり、ヴァルナの側にあること。マカラの見る世界が眩いほどきれいなのは、それを作ったものをしっているから、かもしれなかった。
    二、泥中「ヴァ、ヴァルナ。おれには権能も役割もいらねえよぉ……! 返す、貰ったものをみんな返すから、ヴァルナ……!」
    「マカラ」
     マカラの言葉を遮った静かで穏やかな声は、何も変わらない。ヴァルナがなぜ全能を支える権能を誰かに譲渡そうとしたのかを、マカラは知らないし、わからない。ただヴァルナの中で何かあったのか、察することもできない。ヴァルナはそのいとし子たちに権能を与える度に存在が小さく小さくなっていく。権能を譲渡するたびに信仰がそがれて弱っていく様を、マカラはずっと側で見つめていた。愛欲以外に残った最後の権能、生命を創造する権能をマカラに譲渡したヴァルナは、もうとっくにデーヴァローカの最高神の座から退いていた。あらゆるものを押し付けられ、存在をすり減らし、消耗された果ての姿。あらゆる権能を与え、今は愛欲の権能だけを持った、ヴァルナ・カーマデーヴァと呼ばれる主。信仰を失ってなおすべてを愛することをやめない、諦めないヴァルナに、マカラはうなだれ、形だけは変わらないその手をただそっと握った。ヴァルナの温度はかなしみを感じるほど、緩やかにマカラに伝わってくる。以前ヴァルナの宮殿の庭で、小鳥が死にかけていた。二人が手を尽くしてその小鳥は空を飛べるまでに回復したが、回復するまでの、死と生のあわいをただようかよわい命と同じ手触りが、今のヴァルナからした。
    「マカラ、お前は蓮はなぜただの土ではなく、泥に咲くか知っているかい?」
    「どうしてだぁ? 見るのは好きだけど、花の事はおれにはさっぱりだぁ」
    「マカラ、その理由は…………やっぱりやめよう、調べてみなさい。解答の一部を与えたら賢いお前はきっと分かってしまうから、私からは何も教えない。いつかわかったら、私にこれが答えだと示しておくれ」
     マカラの肩を叩くと、ヴァルナ・カーマデーヴァは腰かけていた寝台からたちあがった。
    「いかなければいけない、たずねなければならない者が一人いるんだ。供をしておくれ、マカラ」
     この時、行かないでと行きたくないと叫べばよかったのだろうか。けれど、マカラはこの後に起こることを見通すことはできず、なにより、今のヴァルナの願いを取りこぼすことは、マカラは一つだってしたくはなかったのだ。その者のもとを訪れるために移動する間、ヴァルナは終始無言だった。いつもなら優しく感じられるはずのヴァルナの静寂は、今は底知れない不穏を感じさせる。
    「ヴァ、ヴァルナぁ」
    「どうしたんだい」
    「ヴァルナがいなくなったら、おれはとっても、とっても……悲しいぞぉ」
     この世界から、ヴァルナが永遠に失われてしまう予感がする。マカラにできることは、その衣をそっと握る程度だ。決して、強くはつかめない。背負っているため、ヴァルナの顔は見えないが、ヴァルナがそっと微笑んだ気配がした。その手がマカラを撫でる。
    「そうだね、もしも、もしも私のもとからお前が去るとしたら、それはとても恐ろしく――そうだ、身を心を自らの手で裂いてしまえるほどに、悲しいことだ、」
     マカラの問いに対する回答ではない。独り言のようなつぶやきに、マカラの中に存在する恐怖が、明確に形になっていく。目的の人影は近づいてきていた、結跏趺坐を行っていること、その服装から相手が修行僧だと知れた。マカラにはこの修行僧の名前がシヴァであることは伝えられている。ヴァルナはマカラから降りると、少し遠くで待っていなさいと言葉をかける。
     唯一残った権能が影響するのか、かつては理知的で温和な穏やかさであったヴァルナの印象に、仕草に、何処か異質な艶麗が混じるようになっていた。ゆったりと、ヴァルナは、ヴァルナ・カーマデーヴァは愛欲の弓矢を携えてシヴァに近づいていく。
     結跏趺坐の姿勢を解いた彼が誰だ、と言葉を発しようとしたその刹那、ヴァルナはその愛欲の矢をシヴァに放ち、放たれた矢は寸分の狂いなく、シヴァを射抜き――そして、マカラは見てしまった。ヴァルナがただ一つ残った愛欲をシヴァに与えたその瞬間を。そして彼の三眼が開き、マカラは見慣れている、けれど常とは違う微笑みを浮かべたヴァルナを焼き尽くし――微かに残った灰が欠片が、近くにあった水に沈む、その光景を。
     三眼を閉じた彼は、ひどく狼狽えていた。撃ち込まれた愛欲に惑っているのだろうか。彼は、何に愛を向けさせれたのだろうか。それを知ったところで、マカラにはそれを解いてやることもできない。マカラはかけらを追い求め、水へ身を躍らせた。かつてヴァルナの物だった権能を帯びた花綱を、どこまでもその存在を求めて伸ばす。けれど、放たれた綱は何もつかまない。永遠に失われた存在を求めてどこまでも伸びていく綱を握りしめて、マカラはそれでもなお、ヴァルナのかけらを探し求めた。
    一、さざなみ 蓮が咲き乱れる池の中心にある大地に、最高神ヴァルナと、その供であるマカラがいるのを、池が渡せる場所でたまたま結跏趺坐をしていたシヴァは見つけた。二人の間に流れているのは、どこまでも穏やかな空気であることが、遠くからでも知れた。修行僧と最高神という立場の違いもある、そのためシヴァはヴァルナを直接見たことはなかった。横顔すら穏やかなつくりをしているため、秀麗だが整いすぎているという印象の薄い顔をしてるな、とシヴァは率直な感想を持った。彼らを眺めながらする結跏趺坐は妙な心地がして、場所を移そうかとも思ったが、そのような感情を御することもまた修行のひとつではないかと考えたシヴァは、マカラとヴァルナを見つめていた。
     全能の存在故に、デーヴァローカのすべてを押し付けられるその存在は、いっそ儚ささえ感じるほど、温和に笑うのだとシヴァは知った。全てを愛しながら、世界を存続させるために少数の側に立つ愛する者を切り捨てることを定められたもの。その柔和な表情を浮かべるおもてに、微かな消耗を感じるのはその立場を考えてしまうからだろうとシヴァは考える。何か飲み物を手に語り合ってる一柱と一体が去っても、シヴァはその場にい続けた。そしてそれが最高神とその従者としての二人を見た最後であった。
    二、灰塵そのあと、最高神は自らの権能を他人に譲渡していった。はては、自らの近くにあった共にすら。シヴァは己の周りで蠢く思惑を、知ったことかと振り切ってより厳しい、いっそ荒行に近い修行を重ねていた。周囲に渦巻く思惑の一つは婚姻であり、一つはシヴァにデーヴァローカを廻させるというものだ。今のシヴァが誰かを妃に取るつもりはないし、世界を存続させるものになるつもりもシヴァにはない。結跏趺坐で心を落ち着かせているさなか、物音と、声がした。結跏趺坐の姿勢を解いて、前を見る。そこは、ヴァルナ・カーマデーヴァと、そして少し遠くにマカラがいた。心配そうに見つめるマカラの視線を見つめ返さず、ヴァルナ・カーマデーヴァはシヴァを見つめる。あの日垣間見た温和な秀麗に、いっそ違和を感じる艶麗を纏いながら、弓矢を携え、ヴァルナ・カーマデーヴァはシヴァに近づく。誰だ、と声をかけようとした。存在の名を知っていながら。言葉が形になるその刹那、ヴァルナ・カーマデーヴァはその矢を放ち、シヴァの胸に愛欲が宿される。
     そして、そして! その存在に惹かれたなどと、零れ落ちるだけのいのちを己自身の意志で愛してしまったのだと告げるべき相手を滅ぼした身で、一体誰に告げられようか! 
     恐れは三眼を開かせ、その存在を、美しく微笑んでいた愛したものを消滅させた。微かに残った灰が、かけらが、風に攫われ水に沈む。狼狽するシヴァを痛ましい目で見つめていたマカラは、手にしていた花綱を握りしめると水面へ身を躍らせ、その欠片を追って水中へ沈んだ。世界に強いられたわけではない愛は、シヴァをひどく混乱させた。そして、転光の虹が彼に輝く。虹の光に導かれるそのさなか、お前はなぜ笑っていた、なぜ愛欲をこの身に宿したと、すでに答える者のいない問いを、シヴァはずっと繰り返し繰り返し、頭の中に、浮かべていた。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/07/10 20:05:02

    さざなみと水芙蓉

    追放者メインの小説。本編11章のネタバレがおおい、というか本編11章や特殊クエのあれそれをネタにした捏造10000000%のヴァルナとマカラ・ヴァルナとシヴァの話。ヴァルナに関してはすべて捏造です、追放者なので…。
    感想等おありでしたら褒めて箱(https://www.mottohomete.net/MsBakerandAbel)にいれてくれるととてもうれしい

    #東京放課後サモナーズ
    #シヴァ
    #ヴァルナ
    #マカラ

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