イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    流星物質希求症一、tix二、meteoroid一、tix あの素晴らしく騒々しい夏の一幕から、季節は過ぎ去って秋になった。アルジャーノンのサモナーである少女との関係性もあの騒動の前後では異なっていて、関係性が異なったからこそ、アルジャーノンは手元にあるチケットをどう処理ものか悩んでいた。
    『バディ、悩んでなんかいないで直接あの子を誘えばいいじゃないか。今日も彼女は美化委員の仕事を手伝ってくれる。そして君がわざわざ買ったチケットはたったの二枚。とても貴重なチャンスだ、これ以上ないほど。それを他の男にはいどうぞと譲り渡す道理だってないだろう? もしかしてだけど他の誰かと行けって押し付ける気じゃあないだろうねバディ?』
    「うるさいぞ、黙れネズミ」
    『バーディ。君の奥手さは知っているけど、チケットの期限も僕らの記憶も彼女の時間も有限だ。それともなんだい? 彼女がほかの男の隣で微笑んでいる姿を見たいのかい、君は?』
     手元にある二枚のチケットは、野外で天体を見る小規模な催しだった。天体ショー、流星群や天体の接近などに合わせて時期が設定されたそのチケットに印字された開催期間は随分先だなと彼は思っていたのに時の流れが速いもので、手に入れたそれに誘うこともたまたま手に入ったと押し付けることもできないまますでに開催まで一週間を切っていた。今日も彼女と会う予定はある。それ以前からずっとヘルメットから流れる声にせっつかれていたが、チケットはずっと寮の机に眠ったままである。アルジャーノンは、無機質なチケットとイベントの詳細の乗ったチラシを眺める。もしかしたら流星群が見れるかもという不確かな情報に、飲食物を扱ったブースもあると記されたそれを、アルジャーノンは折りたたむと制服のポケットにチケットと一緒に仕舞う。美化委員の仕事を手伝っている礼だと告げて、押し付けるだけ押し付けてまえと彼が考えたのを察したらしく、声は『バーーディー、本当に君ってやつは』と心底呆れた声を出した。
     毎日の積み重ねのおかげで、美化委員の仕事はそう多くはない。最後に使った道具を所定の場所にしまって、ここ最近彼女が水筒で持ってくる飲み物をベンチに座って飲む。潔癖症のアルジャーノンに配慮したのか、今日も色違いの水筒を二本用意してきた彼女から、すっかりアルジャーノン専用となった水筒を受け取る。
    「お疲れ様です、先輩。今日はほうじ茶です」
    『おやおや、我らがかわいい後輩君はすっかりお茶を淹れるのが板についたようじゃないか。バディ、君からいつもありがとうとお礼をしたらどうだい?』
    「わたしがしたくてやってることだし、お礼を言われるようなことじゃないよ」
    『ふふ、君のその謙虚は確かに美徳だね! バディ、彼女はそういうことらしいよ?』
    「お前は誰の味方だネズミ!」
     受け取った水筒を握りしめながら、彼女と自分の間をかき混ぜようとするAIの声にアルジャーノンは憤慨した声を出した。しかし元はといえば渡したいと思ったものをいつまでも渡せない己に原因はある。意を決したアルジャーノンは、いったん水筒を座ったベンチに置いて、ポケットから例のチラシとチケットを彼女に差し出した。
    「野外天体鑑賞?」
     チラシに目を走らせている少女に目を向けられず、アルジャーノンは熱いほうじ茶をゆっくりと飲む。寒さがまだ冬の気配を纏うには至らないこの刹那に、それはちょうどいい温度だった。チケットを見つめている彼女にアルジャーノンは「たまたま手に入った、二枚しかないが、お前のギルドの連中とでもいけ」と必要以上にそっけない声を出す。彼女は制服のポケットに、至極大事そうに丁寧にたたんだチラシと受け取ったチケットを、一枚だけしまう。もう一枚のチケットを、アルジャーノンに差し出して。
    「わたし、先輩と行きたいです」
    「お前の所の参謀とでもいけばいいだろう」
     そっけない声に棘のようなとげとげしさが生えてくるのは、彼女の横に自分が出した後輩がいることを想像したからだ。言い出しておいて我ながら随分勝手だ、とは思う。けれど妬心は勝手に燃え立って、無視できない火柱を作るのだ。
    「先輩」
    「…………なんだ」
    「わたしはこのイベント、先輩と行きたいです……だめ、ですか?」
     自分が押し付けて、そして他でもない彼女から差し出されたチケットをアルジャーノンは見つめる。期日はもう一週間を切った、飽きるほど見つめたチケットだ。アルジャーノンはそれを受け取ると、嬉しいと全力で顔をほころばせる彼女を見つめながら、自分もチケットをポケットにしまう。
    「ありがとうございます、先輩」
     彼女がそう呟くと、ひときわ冷たい秋風が吹いた。ううさむい、と声に出して彼女は自分の持ってきたほうじ茶に、猫舌だという彼女は幾度も息を吹きかけてとても慎重にすする。ポケットに入っている紙切れの重量などたかが知れているのに、アルジャーノンはやけにポケットが重たく感じて、それを馬鹿馬鹿しいと一蹴することもできず、水筒のお茶がなくなるまで彼女の傍らで時たま彼女が発する「せっかくなので待ち合わせしましょうか、先輩はどこの駅がいいです?」といった言葉に言葉を返していた。
    二、meteoroid アルジャーノンが指定した駅で合流し、二人はいくつか地下鉄を乗り継いで目的のイベント会場へと足を踏み入れた。あれから一週間もしない間に天候はすっかり変わって、今ではすっかり冬の寒さになっていた。木枯らしにすこし震えていた彼女は、なにか温かいもの飲みたいと飲み物を販売するブースで注文をしている。アルジャーノンはそれが見える位置で、空に広がる星々でなく、その背中を見つめていた。事前に調べた情報だと、今日はちょうど流星群が空を覆うそうだ。しかし、流星群の時間は寮の門限を超えていたため、二人とも事前に外泊届を出している。そういうわけで、今日は寮に帰る必要がない。
    「すみません先輩、待たせっちゃって」
    「……別にいい。それは?」
    「バターココアです、先輩もどうぞ」
    『おや、君はいつでもバディに気を回すねえ』
     最近これにハマっちゃってるんだ、美味しいから、先輩にもと思ってと声と語り合いつつほほ笑む少女を見つめながら、アルジャーノンはまだ中身が温かい容器で手をあたためる。AIと言葉を交わす彼女を見つめるだけで、手だけではなく、心にも温度が滲むように温まる。
    「そろそろですよね、流星群。見れるといいなぁ」
    『君は流星群見るのはじめてだっけ? 僕らもだ、お互いに初めての体験っていうのはワクワクするねえ! ねえ、バディ?』
     バターで異なる香りとココアに入っている牛乳や蜂蜜のものだけではないコクが付加された、普段飲むものとは違う味のするココアであたたまりながら、少女は空に目を当てている。街から少し外れた、空の星々をかすませる光が及ばない場所に二人はいた。アルジャーノンが準備してきたレジャーシートの上で、少女は今か今かと流星が降るらしい星空を見つめていた。イベント自体はなかなか盛況らしく、飲食物を扱うブースの方は活気ある声が聞こえ、メイン会場として整備された星々がよく見える場所には二人のほかにもちらほら自分の陣地をとりきめて座っている人影があった。
     待つ間にバターココアを飲み干した彼女は、かたわらに容器を置いて、両手をレジャーシートにつけて煌めく星を見上げている。アルジャーノンは散々迷いながら、彼女の片手を自分の手で覆い、握る。常よりやや低い彼女の皮膚の温度に己の温度を分け与えるように、アルジャーノンはそっぽを向きながら彼女の小さな手を握る。互いの生身から伝わる温度を渡し合って、分かち合って、平等な熱になったその時、空に幾重も星が滑り落ちた。
     流れる星々は、美しかった、それは大気圏で燃え尽きる宿命の星がもっていた、命の最果てであるからだろうか。生の言祝ぎではなく、後は消えるしかない滅びの美に近いのだろうそれ。しかし一瞬一瞬に瞬き続ける、どこまでも儚いのにたましいに焼き付くようなひかりを二人は見つめ続ける。
    そして、ふと彼女が声を発した。囁きのような、アルジャーノンにしか聞こえない声量で。
    「先輩、」
    「なんだ」
    「わたし――です、あなたのことが」
     饒舌なAIは空気を読んで、今は沈黙している。答えを出すのは他でもない君だと暗に示していた。アルジャーノンは手を握りしめて、彼女の言葉にひっそりとした声で、答えた。空を滑る末期のひかりを映した瞳を見つめ返しながら、アルジャーノンは手をすべらせて、肩をとり、ためらいながらであったがそっと、平等になった互いの熱をさらに分かち合うように、彼女を抱きとめた。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/07/04 18:04:59

    流星物質希求症

    バーチャルサマーメモリー後のアルジャーノン×主2。星を見る話なんですけどナイトグロウズ前に書いたので東京の空に星があります。空に星がないと思わなかったんです。
    感想等おありでしたら褒めて箱(https://www.mottohomete.net/MsBakerandAbel)にいれてくれるととてもうれしい
    #東京放課後サモナーズ
    #アルジャーノン
    #主2

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品