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    速水くん家の今日のごはん(嵐山さんつき)一日目 味噌(あるいは醤油)カップラーメンとおにぎり(塩)二日目 かれいの煮つけ、具沢山味噌汁。丸ごとピーマンの焼きびたしと昆布のおにぎり三日目 貰い物の惣菜エビチリ。カニカマと玉ねぎの中華風スープにチャーハン四日目 トースト何つける?五日目 出汁取りチャレンジ・にゅうめん六日目 まだちと季節の野菜の天ぷら、たらの煮つけ。だし昆布のおにぎり一日目 味噌(あるいは醤油)カップラーメンとおにぎり(塩)「しばらく世話になる」
    「ええ、どうぞ。ああ、その部屋使ってください」
     嵐山の住んでいる山が、私有地に勝手に侵入してキャンプを行った若人の火の消し忘れで燃えたのは昨日のことだ。それなりに広い山すべてを管理するのはなかなか難しく、住居外のことに気を回していなかったからだと嵐山は考えていたが、劉の「んなわけあるかヨ! 勝手に侵入するやつが悪いに決まってるネ!」の一言と、ナイダンの「まあそうだね」にほかの煉獄闘士も追随して、さてまた山にある住居を整備するまでどうするか、となったとき、発生するのは一時的なの家の確保だ。劉と彼とつるむことの多い三人には家が狭いという理由で拒否され、かといってカーロスやロロンに頼り切るのも気がひける。

     嵐山が出光にホテルでも用意してもらうかと思ったその刹那、なになにと寄ってきた出光本人が「森焼けたんだってね、部屋? ホテルなんて味気ないし、拳願会の彼でも頼って見たらいんじゃないかい?」ととんでもないことを言い出し、行動力の塊である出光があれやこれやと話をつけて、嵐山は速水正樹が借りている、マンションの一室にいた。
     嵐山に提供された部屋は使われた形跡はないが、埃が積もっていることもない。しかしなぜ一人暮らしの学生の部屋にベッドが二つあるのか、そんな疑問を少し浮かべていると「ああ、ここ家具付きの部屋なんですよ。同好会の仲間が終電を逃したときに泊まったりしているんです」と言葉が返ってきた。

    「すみません、今冷蔵庫からっぽで。非常食のカップラーメンと塩のおにぎりで今日のところは我慢してください」
    「……いつもそのような食事を?」
    「いいえ、いつもは体形を崩さないためにちゃんとしてますよ。味噌と醤油どっちにします?」

     生成りの目に優しい壁紙に、温かい光を投げかける間接照明と、少し絞らた照明が部屋を自然と明るくしている。間接照明や食器棚、それにソファ。あらゆるすべてが用意してあった部屋だと聞いた嵐山は、彼の意思で置いたものは一つもないのだろうかと思いながら、カップラーメンを受け取ると、おにぎりを握っている速水が用意していたお湯を電気ポットから注いでタイマーを三分に設定する。二人分だが、お湯を入れるだけの作業にそう時間がかかるはずもない。おにぎりを握り終わった速水は冷蔵庫をのぞいたが、漬物もなにもないらしくそのままドアを閉め、大皿に乗せたおにぎりをテーブルに置くと自分の分である味噌ラーメンのカップを取ると椅子を引いてそのまま座る。
     家主が座ったからと嵐山も椅子を引き、向かい合わせになる中くらいのテーブルに自分の分のカップ麺を置き、しばしの沈黙の後、タイマーが高らかに時間を告げた。

    「…………」
    「食べないんですか?」
    「いや……いただきます、」
    「どうぞ。僕もいただきます」

     麺をすすり、おにぎりにかじりつくと、丁度いい塩気と固くなりすぎない力加減で握られた米がほろりと崩れる。嵐山が素直にうまいと言葉を漏らすと、それは良かったと言葉が戻ってくる。

    「しばらく部屋を借りる身だ。食事の代金は私が出そう」
    「ありがとうございます。できれば料理も作ってもらえたらな、というのがこちらの事情で」
    「? どういうことだ」
    「不得意ではないんですけど、そんなに手の込んだ料理はしないんです。一人暮らしですしね。出光さんから話を聞いた山下さんが言ってたんですけど、嵐山さん、料理がお上手だと」

     カップ麺を食べ終わって、おにぎりを残った汁を飲みながら平らげていく青年に「なら、どんなものが食べたい、目黒正樹」と嵐山が声を放つと「速水です」と訂正が入り「魚の煮つけとか、作れます?」と速水は速水で言葉を放つ。いつの間にか麺をすすることをやめていたことに嵐山は気づいて、食事の手を進めることにして、そのためにまた沈黙が二人を満たす。
     久しぶりに食べたインスタントのラーメンは、大体の人間の舌にあうように作られているため、少々大味に感じる。しかしスープを残すのも無作法な気がして、嵐山もおにぎりに手を伸ばし、眼前の青年と同じようにおにぎりを口にしながらスープを干していった。
    二日目 かれいの煮つけ、具沢山味噌汁。丸ごとピーマンの焼きびたしと昆布のおにぎり 破裂を防ぐために多少切れ込みを入れたピーマンを熱したごま油で焼き、煮つけのためにだした出汁と醤油、それでもいいが味が濃いほうが若い男の味覚に合うだろうと多少のにんにくで味付けをする。大きなかれいは別の鍋のなか、買い出しの時に煮ものならば必要だと嵐山がいい、そうですかと速水が新しい皿や箸やらと一緒に購入した落し蓋の下、味醂酒醤油で調味された昆布とかつお節のだしの中で煮込まれている。
     そして出汁を取った昆布を細く切り、醤油と味醂、少しの砂糖で味を調えた出し殻で作った佃煮の味を見て、少々濃いめの味付けになったそれを炊きたてのご飯で包み込み、嵐山は一人三つになるように大きなおにぎりを作り、買い足された皿に乗せてテーブルにおにぎりの皿を置く。速水は大学のレポートがあるからと、部屋にこもっている。彼が出てくる前に料理が終わればいいが、と思いながら嵐山は出来上がった焼きびたしを小鉢に乗せ、さすがにすべて茶色すぎるかと千切りにした人参に同じような形にしたカニカマを味噌汁の具にして、味噌汁に卵を落とし二つ卵が少し煮えると具が多い味噌汁椀につぎ切ってあったねぎをのせる。
     かれいの煮つけもまあまあのできだ、と思いながらやはり茶色いという思考が嵐山を支配する。茶色い、あまりにも。しかし「映え」というものがあることを嵐山はぼんやりとしか知らず、食事に映えなど求めたことのない嵐山には、ほうれん草を軽くゆでてめんつゆをかける程度のことしかできない。

    「わあ。なんだか豪勢ですね」
    「作りすぎたかもしれん」
    「いえ、食べれますよ。おいしそうだなあ」
    「……茶色すぎるか?」
    「はは、彩りの心配はしなくてもいいかと、茶色いものは大体おいしいものですし」
    「そうか」
    「そうですよ」

     昨日と同じ椅子を引いて、速水はテーブルに着く。嵐山も自然と同じ場所につき、二人は両手を合わせる。

    「いただきます。うん、美味しい」
    「そうか、口にあったならいい。いただきます」

     ゆるく火の通った卵を味噌汁に溶いてそれを口にしながらおにぎりをかじる速水に、そういえば昨日も残ったスープを飲みながら米を口にしていたと嵐山は思い出した。茶の一つでも用意したほうがいいのかも知れないと、かれいの身をほぐしながら嵐山は考えて「麦茶でもあったほうがいいのではないのか」と口にすると「いつもはあるんです、明日大学の帰りに買ってきます」と速水はおにぎりを一つ平らげてからことばを返した。
    「嵐山さんは必要なものありますか? 一緒に買ってきますけど」
    「…………今のところはないな」
    「そうですか」

     言葉を交わすことは厭っていないが、無理に言葉を長く続かせるほど速水は嵐山に過度な配慮をしていない。拳を交え合った身だ。そういうもの特有の、なんとなくで根拠は薄いが、相手のことが少しだけ解る。彼もそのような状態になっているのだろうと嵐山は味噌汁を飲みながら思う。しかし、大学生の食欲は思ったより旺盛だ。かれいの煮つけも骨だけ残してきれいに平らげ、おにぎりの最後のひとかけらを飲み込んで最後にピーマンに取り掛かっている速水を見て「好物なのか」と聞けば「そうですね」と簡素な返答がまた返り、嵐山は小さく笑うとほぐしたかれいの身を口に運んだ。
    三日目 貰い物の惣菜エビチリ。カニカマと玉ねぎの中華風スープにチャーハン「あ、」
    「む?」
    「ア? あ、嵐山とゾンビ野郎カ!」
    「君さ、流石にその言い方はないんじゃない?」
    「貴殿らも買い出しに?」
    「麻雀しててね、結局酒盛りになってツマミが足りないってニコラと飛が暴れだして――」

     同じスーパーを使っているのか、と速水は思いながら質のわりにものが安いスーパーだ。誰だって利用するだろうと思いながら、安売りの玉ねぎを話し込んでいる嵐山が持つ籠に数個入れて、話し込んでいる劉と嵐山から一歩引いた位置にいるナイダンと速水の視線がかち合った。しかし特に接点はない二人だ、あたりさわりのないことしか話すことはないし、ナイダンも速水も特別相手に気に入られようとしていない。速水は酒を取りに行くと言ってその場から離れたナイダンの背から視線を外すと、兄が、自分が絡まなければまっとうな男なんだと速水はぼんやり思考する。そもそもあったことのない少年に執着する男だが、それ以外は武の高みだけを目指す求道者で、まあ執着の質が良くないだけだのだと思ったし、それはたぶん外れていないと速水は思考を打ち切り、足らない野菜を次々にかごに入れ、入れ終わると速水はいったんその場を離れようとした。

    「あ、待つネ!」
    「はい?」
    「ナイダンどこ行ったカ?」
    「ああ、新しい酒を見に行くって言ってましたよ。酒のコーナーはまっすぐ行って左手に」
    「何、案外いい奴ナお前。これやる」
    「エビチリ?」
    「別の店の惣菜ヨ、うまいから食え」
    「はあ、どうも」
    「じゃな嵐山」
    「ああ、それでは」

     そういうが早く、ナイダンを追って酒コーナーに走っていった劉を見送った二人は籠の中身を嵐山が確かめ、何の問題もなかったため、会計をしてスーパーを出た。対抗戦でも思いましたが仲がいいんですね、あの二人と速水がつぶやくとそうらしいと嵐山の返答が返って、嵐山がしる二人、と悪友のようにつるんでいるもう二人のこと。そして煉獄闘士で関わりの深いカーロスやロロンのこと。速水が合図を打つうちに、スーパーから距離がそう遠くないマンションにたどり着く。なんなら駅も歩いて数分にある立地の良さが、なぜか速水は少しだけ恨めしいと思った。

     ねぎを刻み終えると卵を三つ溶いて熱したフライパンに溶いた卵を流しいれ、火が通りつつあるため卵に軽く箸を入れて、大きめな炒り卵ともいえる状態にして、どんぶりに入れた炊き立てのご飯を火が通る前の卵に入れて中華の万能ペーストを加えてご飯がほどけるように、木べらで炒める。簡単なチャーハンを作るうちに、同じペーストを使った残りもののカニカマと今日買った玉ねぎのスープは完成する。ご飯ものと汁物が同じ味だが、今日は貰い物のエビチリがメインだしと速水は思うし、昨日はご馳走だったからと言い訳なんて必要ないのに言い訳めいた思考がその脳裏に浮かぶ。

    「できましたよ」
    「ああ、いただきます」
    「ええ、いただきます」

     速水が習慣で同じ椅子を使うから、嵐山も自然と同じ椅子を使うことになる。いくつかある椅子を今は仕舞っているからだが、ふと速水は不思議な気分になってしまう。自分に、というか兄に深く深く執着する男の穏やかな面が、今日は不思議で不思議でしょうがない。やや辛めのエビチリを薄い味付けのスープでいなしながら、速水は目の前で自分の作ったチャーハンを食べる嵐山のことを、ほとんど知らないことに気づいて、なぜ知りたいと思うようになったのにはまだ理由はつけないで、エビチリに初めて箸をつけ、思ったより辛かったのか速水と同じくスープに口をつけ、玉ねぎを箸でつまんでいる嵐山においしいですかと聞けばああと言葉が返ってきた。
    四日目 トースト何つける? 米がない。食パンはまあまあある。となれば朝食は手堅くトーストを選んだほうが、スーパーで米を買い部屋へ戻りそれから炊くよりも、授業のある大学生の食事としては、まあ普通だろう。しかしもともとそこまで量はなかったとはいえ、底をついてしまった米をどうしようか、と速水が考えて、嵐山に頼ることにした。試合帰りにでも買ってきてほしいと速水が言えば、トーストを素のままかじっている嵐山は「承知した」と言葉を返した。

    「ジャムつけないんですか?」
    「…………」
    「うーん、貰い物のジャムなんですけどいろいろ味がありますし、結構いけますよ。イチジクジャムにほうじ茶プリンジャム、りんごシナモンにきんもくせい……」
    「その、なんだ。変わり種はあまり好かない」
    「ああ、なるほど」

     速水はほうじ茶プリンのジャムをトーストに塗りながら、それはそうかと焼いたばかりのパンを口に運ぶ。貰い物のジャムはどれも王道とは程遠い。しかし、それ以外はない。そうなれば素のトーストをかじるしかないだろう。速水はそこまで考えて、一斤の半分はなくなっている食パンを少し厚めに切って、二枚トースターに入れる。嵐山の食事は速水に比べて進んでおらず、体力仕事でしかない生業なのだから腹に何か入れておくに越したことはないだろうと速水は思いながら、焼きあがったパンをできるだけ正方形になるように切って、ジャムを箸に少しだけ小高く塗り、出来上がったパンを皿の上に置いて嵐山の前に出す。

    「どうぞ。食べて気に入ったのがあったら、塗って食べてみてください」
    「目黒、正樹」
    「速水です。あ、そろそろ大学に行かなきゃなんで、パンは食べるも食べないもお好きにしてください」

     オートロックである速水の家の鍵は嵐山に渡してある、一度速水の帰りが遅くなって締め出された嵐山に渡したのだ。食器を水につけ、少し時間に余裕がないらしく、音を立ててしまったドアを嵐山はしばらく見つめていたが、自分に用意された味見用のトーストをひとつえいやと選び、口にする。これは確かほうじ茶プリンジャムであったか、と嵐山は思いながら次のパンに手を伸ばし、あっさりしているが、面倒見はそれなりにいい青年なのだと嵐山は速水を思う。一つ二つと口に運んだトーストは、そんなに大きなものでも量があるわけでもなかったため、あっという間になくなった。嵐山は少し手をさまよわせ、ほうじ茶プリンジャムときんもくせいジャムなどを手元に引き寄せる。貰い物だというジャムに、速水の好みが反映されているのかは不明だ。だがそれならば、自分も彼になにか買ってこようかと、嵐山は思った。変わり種もいいものだが、王道の、イチゴやマーマレードがその分恋しくなるものだと嵐山は思いながら、食器を下げ、速水の分も洗うべく、スポンジに少し洗剤を含ませた。
    五日目 出汁取りチャレンジ・にゅうめん その日、久しぶりに嵐山は持山にいた。業者を呼ばなくてならないほど山の損壊は激しく、嵐山はその調整をしに朝早くから山に赴き、住居は焼けていないし補強は必ないことを確認し、鍛錬も兼ね、燃えた木々の撤去やらを手伝った。手伝いながら、しばらく速水に飯を作ってやれていないということに嵐山の意識は持っていかれる。昨日、麦茶のポットのようなものを買ってきて、夜に何か仕込んでいた。それはきっと今日の夕食に出される品に関係するのだろう、一人暮らしではそうつくらないが、二人となれば違うのは嵐山にもよくわかる。撤去した丸太を業者に持っていってもらい、家が荒れていないことを確認すると、もう食べられないものを撤去する作業に嵐山は移った。
     気をよく回す男であるが、人懐こいというにはあっさりとしすぎている。いや、その深入りを避ける態度が大半には心地よく映るのか、と嵐山は思いながら、食べられないものを処分し終わると、部屋の奥へ行き、あるものを携えて速水の家に戻る。戻る、といえるほどに彼の部屋が心地いいことに嵐山は気づいて、手に持った瓶を危うく落としかけた。倒すべき宿敵、己を下した男。それ以外のレッテルを、嵐山は速水に自らの意思で張ろうとしている。

     よくないことかもしれない。けれど、そうけれど、嵐山は速水のことを深く知りたいと思うほど、彼のことをいささかも知らないのだと突きつけられる。オートロックのマンションは、入口にもカードキーを差し込まないと入れない仕組みがある。
     階段を上り、嵐山は速水に渡された鍵で中に入る。すると、出汁の香りが鼻をくすぐる。なるほど、と嵐山は思う。昨日の仕込みは出汁を取るためのものであったのだ。

    「早かったですね、もう少しかかるかと」
    「焼けた木の撤去程度だ、そう時間はかからない……にゅうめんか?」
    「ああ、はい。少し温かいものが食べたくなって。もうよそっても大丈夫ですか?」
    「…………いただこう。それと、これを」
    「頂き物の日本酒ですか? ああ、僕でも知ってますよこれ。高いけど美味しいって有名な奴です」
    「よくわかったな」
    「はは、それなりにみる目はあるみたいですね。食べましょうか」

     醤油と味醂、味付けはそれくらいなものだろうか。出汁の味で勝負するつもりらしいにゅうめんは、なんだか心がほっとする、素朴が味がした。ついでにしゃぶしゃぶ用らしい薄切りの豚も入っていて、けれどスープに灰汁はないから、おそらく別にゆでてそれを乗せたのだろうというのが嵐山にもわかる。

    「明後日、山に帰ろうと思う」
    「そうですか」
    「返礼、というわけではないが……食べたいものは何かないか」
    「うーん、まだち……まだちが食べたいです。多めに作っていただけますか?」
    「多めに?」
    「ええ、せっかくなのでたくさん食べたいな、と」
    「そうか」
    「そうです、お酒は明日にしましょう」

     にゅうめんをすすりながら、嵐山は速水の顔を見つめ、見つめすぎるのもよくないと椀に意識を戻す。彼個人を知りたいなど、今更が過ぎることを思って、何かが変わりそうな己を隠すように嵐山はめんをすすった。
    六日目 まだちと季節の野菜の天ぷら、たらの煮つけ。だし昆布のおにぎり 天ぷらを揚げるとき、そうたいしたことではないが油跳ねが起きると少々体が揺れる。嵐山はさばいたたらの煮つけがおわったのを確認し、まだらの中に入っていたまだちと冬の野菜を天ぷらにして、出来上がったものの余計な油をキッチンペーパーに吸わせると、だし昆布のおにぎりを握っている速水の作業がまだ終わっていないことを確認し、自分で皿を取りに行くと天ぷらを皿にのせる。新しいキッチンペーパーを置いている時点で美的に盛り付ける算段は嵐山の中にはない。
     嵐山はうまいものは見た目がどうであろうとうまい、と思いながらも長らく山に一人で住んでいて、一人で何かを食べていたから、見た目にどうも気を使う気にはあまりなれない自分がいるにも気付いている。

    「おにぎりできました」
    「そうか、ならば食べるとしよう」
    「そうですね、おにぎりは三つでいいんですか?」
    「ああ、感謝の膳だ。そちらが多く食べるべきだ」
    「そうですか。じゃあ、いただきます」
    「いただきます」

     とろりとした白子と、からりと揚がった衣の感触の差異はなかなかに楽しい。嵐山は案外箸が進んでいる速水に好物であるのか問えば「ずっと昔に何かの集まりで食べて、ずっと食べたかったんですけど機会がなかったんです」と答えが返る。けれど好物になったのではないか、と思うほどに速水の箸は良く進む。最後の一個になってから、速水はようやっと白子のてんぷらはほとんど自分が食べたことに気づいたらしい。

    「……はは、」
    「遠慮をするな、食べるといい」
    「……じゃあ、遠慮なく…………なんですか?」
    「何か、ほかにも食べてみたいものはないのか、と思ってな」
    「はい?」
    「もちろん鍵は返すが……たまに、来てもいいか。その、飯を作りに」
    「はあ」
    「いや、すまない。妙なことを言った。忘れて――」
    「鍵はそのままでいいですよ、来るときに連絡をしてくれれば」

     ケータイあります?という速水の声にしたがって、嵐山は煉獄闘士に支給されているケータイを速水の前に置く。アプリをいれ、そこに速水の名が記される。食事に戻りましょうか、白子食べちゃいましたけどお酒だしましょうかという声を聞きながら、嵐山は普段さしてつかわない、縁の薄い機械に映る速水の名前になんだか言いようのない感情を覚えながら、差し出されたお猪口に入った酒を、嵐山も一口ぐいとあおった。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/06/19 21:08:30

    速水くん家の今日のごはん(嵐山さんつき)

    対抗戦の死者?ないよ!!!!!!な平和時空で飯を食う速嵐のはなし。嵐山さんの持ち山が立ち入ったもののボヤで焼けて、から始まる短期間の同居話です。

    #ケンガンオメガ
    #速嵐
    #腐向け

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