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    あさぼらけ一、誰ぞ彼二、あさぼらけ一、誰ぞ彼 たった一目見て胸に灯った炎を、今も身を捩らせながら燃え広がり続ける恋をライキは消すことも、告げることもできずにいた。炎上し続けるライキの恋はハックルにはすでに悟られていて、モクダイも察しているらしい。そしていつもライキの恋のすぐそばにあるアカシすらも、確証に至ってはいないらしいが、彼は彼で何かがあることをかぎとっている。彼の感情も、ライキと同じ恋であるのだろう。深度と時の長さ、そして燃え方も違うだろうが、結局胸に轟々と盛る火は、彼女の形をしているのだから。
     だから、急に舞い込んできた書類を全て捌き切り、遅めの昼食を取ったせいで、デスクで光を浴びながら一人まどろむ子猫をどうしたものか、ライキには選択しきれない。ここは職場だ、寝ている社員は起こすのが当たり前のことであるが、彼女がデスクから立ち上がれないほど仕事が立て込んでいたことをパラレル・フライト社の社員なら誰でも知っている。そんな事情もあって、彼女には伝えられていないことだが、少しくらいなら休息を取らせてあげようと、社長直々にお目溢しのお達しも出ていた。
     けれど、寝させるとしても硬いデスクよりはソファの方がいいだろうとライキは子猫に手を伸ばした。なにか夢を見ているのか小刻みに動く耳と揺れる尾に微笑ましい気持ちになりながら、ライキは彼女の肩に手を置いた。
    「なあ、デスクよりソファで寝た方が身体に負荷がかからなくていいぞ!」
    「らいきしゃん、」
     眠気まなこをこすりながら、ライキを目にした彼女はやわらかい笑みを浮かべた。そして、まだ眠りに片手を掴まれたままで呂律が回りきっていない彼女は、ライキの胸に額を預けてライキの名前を呼ぶ。
     この部屋では今、ライキの心音ほど正直者はいない。好意を、欲を向ける相手に身を預けられて、心臓が高鳴らないわけがない。肩に置いたままだった片手がゆっくりとその背を滑り、油の切れかかった機械のようなぎこちない動きで、もう片方の手も背に回る。
     小さな背中だ。ライキは率直に、そう感じた。押し潰さないように、ズレ落ちて床に倒れないように、ライキは彼女を抱き止める。今は誰もいないが、ここが職場であるという意識は、とっくにライキの頭から抜けていた。
     ライキよりずっとずっと小さなからだは、いっそ頼りなさも感じる。かき抱いてしまいたい、もっと体温を感じたいという欲望をライキはなんとかいなして、彼女を抱き上げると、来客用のソファに寝させた。彼女の片手を掴んだままだった眠りは、今では両手を握っているらしい。健やかな寝息が、膝を折って寝顔を見つめているライキの鼓膜を打つ。ライキはそっと、繊細な手つきで彼女の頬を撫でると眠ったままの彼女の耳に「きみの、——になりたい、」と、普段の彼を知るものが聞けば驚くような、ひどく小さな囁きを放った。
    二、あさぼらけ「ライキさん! 後ろです!」
    「了解だ! 豪雷!! ギガボルト・ブレイカー!!!」
     後ろから攻撃を仕掛けようとしたヴィランの策を難なくねじ伏せ、ライキは雷を叩き込む。ライブ終了ですという快活な声と共に、その場にいたヒーローは変身を解く。
    「皆さんお疲れ様でした! ふふ、今日はドリンクがありますよ!」
    「お、助かる! スポーツドリンクかあ」
    「はいどうぞアカシ。モクダイも! ライキさん! ライキさんも飲みますよね!」
    「……ああ!! 頂こう!!!」
     膨らみ続ける一方の感情がもたらした微かな痛みをライキは見ないふりができる程度には、感情の手綱の握り方をよく知っている。一人だけ敬称をつけて呼ばれると、なんとなく長い距離感が生まれる。別に彼女にそういう意図があるとは思わない。アカシは幼馴染、モクダイは彼の持つやわらかい社交性と立場の近さがあり、ライキは職場のエースで先輩という、同じ先輩であってもモクダイより敬語を使うことを選びやすい条件が揃っていた。
    「お、これはこの前営業に行った会社のか!」
    「はい、たくさん頂いたので……社長も前線で戦ってる皆さんが一番に飲むべきだって」
    「ハックルらしいな!」
     カメラはすでに回っていない。そのため贈ってくれた会社の宣伝にはならないが、ライキもアカシもモクダイも、生き物であるので動き回れば必然的に喉も乾く。
    「スイはしばらく本業にかかりきりなんだよね?」
    「うん、新しいプレゼンだからね。とっても張り切ってたからうまく言ってるといいなあ」
     そうだねと笑い合うモクダイと彼女の間には、穏やかな親愛がある。別に嫉妬をしているわけではない、それはライキにはあまり馴染まないし馴染みの薄い感情なのだ。
     ライキは決して単純にできた男ではないが、結論として出す行動は別だ。ライキは話の輪に近寄ると、今日はなかなか手強いヴィランが相手だったから、この後プロキーのところで打ち上げでもどうかという話題を出した。ライキの宴会好きは皆知っているから、またかはあってもなぜという感情を抱くことはない。その場にいた全員がその案に乗ったが、運がいいのかわるいのか、酒場に行けるのは、彼女とライキの二人きりだった。
    「すみません、私一人だけで」
    「謝ることなど何もないだろう! その、俺とは不安か?」
    「不安?」
    「同じ会社の仲間だが、俺はアカシやモクダイとは接し方も違うだろう? それに、男女であるし——」
     彼女は酒を一口飲むと、笑顔でいいえ、とライキの言葉を否定した。ほっしてしまうことで、ライキは自分が心底彼女に惚れ込んでいることを何度目かもわからない再確認してしまう。
     触れられる距離はあくまで触れることができるかもしれない距離であると突きつけられる。君が好きだ、君の唯一になりたい。ライキという一人の男の隣に、他でもない君がいて欲しい。
     喉を滑る質のいい酒が、今この時ばかりは恨めしくかんじてしまう。触れたい、とそう思ったのと同じタイミングで、彼女の手が遠慮がちに、ライキの手に触れた。
    「ライキ、さん。その、」
     思ったこと、全部声に出てます。それが鋼でもなんでもなかった理性が予想以上の酔いで弾ける寸前に、ライキの耳に届いた最後の声だった。
     好きだ好きだ君のことがとか、言ったような言ってないような。全てが曖昧になってゆく中、大きくなった気持ち任せに抱きしめたい彼女の体温だけが、本当のように感じた。

    ◇◇◇

     起きると、まず身に覚えのない天井が目に入った。部屋に満ちる香りも、鈍く痛む頭をようよう動かして起き上がり部屋を見渡しても、ここはライキの家ではないしビジネスホテルの類でもないことしかわからない。
     やや混乱した頭を使って、ライキは記憶を掘り起こす。確か彼女の前で潰れかけた、それから? それからがなにもわからない。ただ、まさかここは彼女の部屋であるのかという予想は、外れてはくれなかった。
    「ライキさん起きれます? 簡単なご飯作ったんですけれど、食べれますか?」
     エプロンをつけて食べ物のいい香りを纏った彼女になんと言っていいのか分からず、空気を読んだのか都合よく鳴った腹の虫を言い訳にして、ライキは彼女についていく。
     優しい味のする朝食は、作りたてらしい味噌汁に小ぶりのおにぎり、そして浅漬けが中心の数種類の漬物と甘めの味付けの卵焼きだった。味噌汁をすすりながら、ライキは昨日のことを謝罪した。覚えていないが、醜態を晒しづけたことは分かっている。そして、介抱してくれたことに感謝をする。
    「ライキさん、」
    「うん?」
    「その、私のこと、好きって言ったの、本気にしてもいいですか」
     その言葉を聞いて、ライキが箸で摘んでいた小ぶりの茄子の浅漬けが味噌汁の中に落下した。真っ赤になった顔を尻尾で服で隠そうとしている子猫を見て、温かいのにちっとも優しくない感情が溢れ出す。
    「…………君を唯一にできない俺を、君の唯一にしてほしい。全てを守るヒーローの俺ではない、俺という男の、そばに、いて欲しい」
     ライキはそっと、彼女の手を取った。今は穏やかな執着が、彼女に伝わるように。
    「きみの——君の唯一に、俺はなりたい、」
     子猫の耳は折れていて、垣間見える頬は真っ赤で。窓側に座っている彼女の返答を、ライキはただ待っていた。外はまだあけぼのの刻限であるらしい。ほのぼのと明るくなりゆく部屋の中、子猫の唇が言葉を形作ってゆく。まだ町が起ききらない、空が明けゆくあさぼらけに、ふたつだった影は、ひとつに重なり合っていった。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/06/26 19:13:44

    あさぼらけ

    ライ→観4からライ観4になるはなし。観測者はタイプ4の外見をしていて女性であること以外は特に設定はありません。ついついアカシの話以外だと観測者4をこねこ扱いしてしまう。
    #ライブアヒーロー
    #LIVEAHERO
    #ライ観4

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