日曜日は恋人の時間　甘いミルクと花の香り。彼女のつけている香水の香りが胸にしみわたると同時に、恋が胸に満ちたんだと、香りが鼻をかすめるとき何度だって同じ熱量の恋に落ちるのだと、メリデは曖昧でこれだ、という確信にはならない恋のはじまりをそうとらえていた。メリデがお姉ちゃんと呼ぶ観測者が所属する、パラレルフライト社に所属するようになって、彼女といる時間が増えるごとに、恋はゆるやかだが確実に大きく大きくなってゆく。猫の獣人によく似たかたちの生き物である彼女がつけている香水は、敏感な嗅覚を持つ種の鼻を貫かないようになっていて、人間であるメリデにはやや薄く感じるが、香水というものはつける対象によって微妙にその香りは異なるものになる。メリデは一度、彼女にねだって香水を手首につけてもらったことがあるが、やはり同じ香りにはならず、惹かれる香りでもなかった。
　好きな人の香りだから、特別なんだ。それを理解して、メリデは思いを告げるのを散々ためらって、何度も何度も手紙を書き直して破って新しい便箋を買ってはこれじゃないと思い悩んで。ようやっと言葉にできた恋を彼女に捧げたメリデに返ってきた言葉は、勘ちがいじゃないかななんていう、何度思い返してもこれ以上ないほどひどい言葉だったけれど。
　それでも燃える制御できないメリデの恋は、メリデを今までのメリデが見れば驚くであろうほど固い意思をもたらしして、それに根負けした彼女はじゃああなたが大人になるまで、わたしたちはつきあっていることにしよう。あなたが大人になったとき、それでもわたしのことがすきだったら、本当の意味であなたの恋人にさせて。毎週日曜日にデートをして、その時は、職場の先輩から、あなたの恋人になるから。
　そんなわけではじまった、日曜日だけの甘い恋人の時間は、メリデの頬に甘美な熱をのせるものとなった。映画館、水族館。本屋にブティック、いろんなところをメリデは彼女と一緒に回って、彼女と同じ時間を過ごす。本当なら、メリデは様々な意味で大人とは対等な関係になれない未成年と付き合わない、というまっとうな思考に基づいて選択された彼女の断るという意思を大事にするべきだったのだろうけれど、日曜日が待ち遠しくてしょうがなくなってモノマサを苦笑させるほど、彼女の隣にいて、隣にいる自分は彼女の恋人なんだという事実が、メリデの心を柔らかくする。

　今日は店の性質上ひっそりとではあるが、おいしいと噂の隠れ家カフェで、二人はパンケーキを食べていた。メリデは甘く煮たベリーがのったスフレパンケーキ、彼女はアボカドと生ハムの生地がしっかりした食事パンケーキ。メリデがこの二つのどちらにしよう、と悩んでいたから彼女が悩んでいた片方を注文したのだけれど、こういう、やさしいところがメリデは好きで好きでたまらない。お姉さんと来たの？と和やかな笑みを浮かべる店主の言葉に傷つきはしたけれど、恋人です、と訂正してくれたことでできた傷にはあっという間に手当の意味を持った優しいてのひらが当てられる。

　もう少し待ってて、あなたが後ろめたくない気持ちで恋人だっていえるように必ずするから。メリデはそう考えながら彼女にこれ美味しいよとたっぷりベリーを乗せたパンケーキのかけらをフォークで差し出して、美味しいねと笑う彼女にまた恋が深く大きくなってゆくのを感じながら、大好き、と彼女の耳にそっと手を添えてささやくと、ほんの少しだけ強い香水の香りがメリデの鼻をくすぐって、彼女はもう、と困りながら真っ赤になっていた。