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    夏薔薇の隠れ家 着倒した黒いスーツの下、やや雑に整えられたシャツの中。次元の体内で意味もなく、やたらと逸る鼓動が嫌に痛く、照りつける太陽はいささかも人間に優しくない鋭さを持って地上に這いずるものを見下している。
     久々に訪れた日本の片田舎、そこにいっそ場違いを感じさせる明治あたりのモダンな作りに、植物の配置の仕方で現代的な美意識が混ざり込んだ様式の屋敷。そこが今回、次元が護衛としてうけた依頼品がある場所だった。薔薇屋敷、と近辺の人間に呼ばれているほど安直な作りをした屋敷ではないし、正当な名もある屋敷だが、次元は薔薇屋敷の呼び名の安直さをそこそこ気にいっていたというのがあった。
     それは依頼主の名の厄介さも大いに含まれていて、次元はタバコをふかすと、知らずにずいぶん短くなっていたそれの火を靴底で消した。アルセーヌ・ルパン、大怪盗、ルパン帝国の建国者、悪人。大小様々な呼び名のある依頼人の目は、老いさらばえているのにひどくぎらついていた。
     あれは、命を縛り付ける人間の目だったな。次元はそう述懐しながら、薔薇屋敷の古びた鉄製の門へ渡された鍵を差し、夏薔薇が特別美しいと感じる庭を越え、屋敷の中へと入って行こうとした。した、に止まるのは足元に撃たれた弾丸のせいで、瞬時に迎撃する態勢に入った次元へ声がかかったからだ。

    「へェ、お祖父ちゃんが寄越すわけだ」

     二階の窓に腰掛けた少年が、やや皮肉げな無感動を纏って次元を見ている。
    「なんだお前」
    「お前が護衛の仕事を受けた依頼の品だヨ、次元大介」
     なぜ名前を把握しているか、については次元は何も言わなかった。そこについて何か言ってどうなるというのもあったし、少年の纏う怜悧な利発が愚問を阻む。

    「品ねえ、人間なら名前があるだろ。教えちゃくれねえか」
     夏薔薇の香りだろうか、それとも他にうわっている夏の花から香っているのだろうか、それとも、目のまえの少年からか。愚かしい、と感じる前に少年が口を開く。
     ルパン、三世。ルパンの名に三世、と補うように付け足した少年から次元は目を離せない。土には愚かを嫌うように太陽の光が槍のように突き刺される。何も言わない次元に焦れたように薔薇の屋敷の奥へ消えた少年を、追って次元は中へと入る。

     感じている強い衝動の名前を知らないわけではないのに、それに固定の名をつけることに次元は強い拒否感を覚えた。
     夏の盛りの屋敷に、次元が深く立ち入ると光が灯っては消える。濃い花の香りに導かれるまま、引力に引き寄せられるように次元は磨き抜かれた廊下を駆けるのと同じ速度で足をすすめる。不貞腐れた顔をした少年に、感じる何かには、今は名をつけたくない。
     今は、に宿るどこか未来めく色彩を次元は花の香りに紛れさせて、見ないふりを、していた。
    夜船ヒトヨ Link Message Mute
    2022/09/20 19:14:14

    夏薔薇の隠れ家

    大人次×ジャリルの邂逅小話。書きたい話の導入で力尽きたので放流したブツです。
    #次ル

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