悪魔城伝説のつぶやき・その3彼は夢を見ていた。どことも知れぬ深い闇の中で、長い永い間夢を見続けていた。
闇の中でどんなに時が流れても、彼の美しい姿は朽ちることが無かった。彼の時間は既に止まっていたから。
悠久の時の流れすらも、彼にかけられた呪いを解くことはできなかった。
彼は夢を見ていた。彼が見続ける夢は大切な友の夢だった。
ここではない、別の闇の中。復讐心のみを支えに存在していた彼の前に現れた蒼い光。
名すら偽る彼を信じ、微笑みと共に差し伸べられた暖かい手。闇に輝く蒼い光は言った。お前は俺の仲間だと……
彼は夢を見ていた。どことも知れぬ深い闇の中で、蒼い眼の友の夢を見続けていた。
生命を奪われ闇に墜とされ、この世の全てを呪った時もあった。だが、彼は今、幸せだった。永遠に眠り続ける彼の心の中には、永遠に消えることのない暖かな蒼い光が輝いていた。
アルカード。
ふいに、名を呼ばれる。それはかつての己が名乗っていたものだ。
冷え切っていた手を、優しく暖かな感触が包み込む。彼は、アルカードは、驚いて両の眼を開けた。
それは彼が見続けていた夢の続きであったのか、それとも…………。
主よ、道を示し給え
閉ざされた扉を
漆黒の闇を
御身の光で照らし給え
主よ、力を与え給え
呪われし運命を
血塗られし命を
絶ち切る剣を与え給え
主よ、我を憐れみ給え
永遠の眠りを
永遠の安息を
呪われし我に与え給え
かみさまどうかたすけてください
わたしにすくいをあたえてください
あなたをもとめ、てをのばしても
やみがふかくてひかりがみえない
かみさまどうかわたしにあいを
しずかなねむりをあたえてください
かみさま
かみさま
神よ。どうかお聞き下さい。
私は闇の申し子です。
光を讃えてよいのでしょうか。
思われますか、偽善だと。
嗤われますか、共食いだと。
神よ。貴方の光をお示しください。
私がどうか最後まで、
光の道を失わぬように。
闇に呑まれず歩けるように。
#Castlevania poem.
Oh God. Please ask.
I am a child of the dark.
May I praise the light?
Do you think? "That's hypocritical."
Do you laugh at me? "It is cannibalism."
Oh God. Please show me your light.
I will not lose the way of light.
I will not lose to the darkness.
森の奥、人知れぬ場所。訪れる者は滅多にいない。だが、常に掃き清められ、美しい花が添えられている。
彼が眠る墓は、そこにあった。
「友達に、十字架が苦手なやつがいるんだ」
かつて彼は言っていた。
そんな訳で、彼の墓に十字は無い。
添えられているのは、白い薔薇。
馬鹿な奴、
何度も逃げろと
言ったのに。
そういうところが
あんたらしいよ。
馬鹿な人、
何度も逃げろと
言ったのに。
後悔しても
遅いのですよ。
馬鹿な奴、
何度も逃げろと
言ったのに。
どうしてお前は
そこにいるのだ…
馬鹿な奴、
何度も逃げろと
言ったのに。
仕方が無いな、
仲間だからな。
その身に宿る人外の力
裂けた傷さえ瞬時に消える
太古の血筋を受け継ぐ彼を
畏れ恐れる人の群れ
見よ、疎まれし一族を
主に見放されし一族を
赤茶けた髪がその証
裏切りの色を纏う者
罵りの言葉、蔑みの声
怯えの眼(まなこ)が彼を追う
太古の血筋を受け継ぐ彼は
いつしかやがて、姿を消した
遂に戻りし輝きの朝
黄金の陽があまねき照らす
太古の血筋を受け継ぐ彼と
共に歩んだ勇者達
見よ、勇敢なる一族を
主に愛されし一族を
黄金(きん)に輝くその御身
高貴な色を纏う者
歓喜に踊る、民の声
勝利の鬨が世界を覆う
太古の血筋を受け継ぐ彼は
静かに微笑み姿を消した
時計塔の鐘が鳴り、太陽が空の真上に昇った事を告げた。人々は各々の仕事の手を休め、休息をとりはじめる。
……と、一陣の風が街を吹き抜け、時計塔近くの小道を行く少女の肩掛け布を飛ばした。少女は悲鳴をあげて手を伸ばし、後を追うが、布は空に高く舞い上がる。
少女が諦めの表情を浮かべた次の瞬間、彼女の傍らを何かが素早く駆け抜けた。風にも劣らぬ素早さを持つ『それ』は、そのまま時計塔の壁を体重の無い者のように這い上がり、今まさに彼方へ消えゆこうとしていた少女の肩布を掴み取った。
人間離れした身軽さを披露したのは、頭部に赤い布を巻いた小柄で痩せぎすな男だった。見上げるような高さの壁を瞬く間に登りきったその男は、肩布を掴んだままちらりと下を見やると、壁を蹴り、獣のように宙でくるりと回ると、ほとんど物音もたてずに少女の眼前に降り立った。
神技のような体術を披露した小柄な男は、唖然としたままの少女の手に肩布を握らせると愛想よく笑い、軽く手を振ると、何事も無かったかのように小道を歩きだすのだった…。
……時計塔の鐘が鳴り、間もなく太陽がその姿を隠す時だと告げる。
街の片隅にある小さな酒場で肩を落としているのは、赤い布を頭に巻いた小柄な男だ。何やら気落ちしている様子のその男に、仲間らしき別の男が話しかけた。
―おいグラント、何をしょげてやがるんだよ。
―…ん?ああ……世の中はやっぱり、吟遊詩人の詩みたいにはいかねえもんだなってなぁ…。
―なんだあ?一体何を訳のわかんねぇ事言ってんだよ。
―結構可愛い娘だったんだよなあ…やっぱり最後の宙返りをもう一回増やすべきだったかなあ……あ〜あ……
……平和だった頃の、ワラキアの話。
−また花が落ちてきましたよ。
−きっとまた泣いてるんだぜ。
−寂しがりやなんだ、あいつは。
−いい歳をして困った人ですね。
−全くだ。いい加減に忘れろよな。
−優しいやつなんだ、あいつは。
−兄貴に落ちてくる花だけ多くね?
−気のせいじゃなかった。
−仕方のないやつなんだ、あいつは……
✨🏵🌸🌼✨