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    夜明けの歌・2魔王に支配されたこの地で偶然にラルフと出会い、共に旅をする事となった小柄な男は、魔王の呪いにより明けぬ夜に包まれたこの世界にあっても笑う事を、人と人との関りを忘れぬ男であった。
    旅の目的は同じであったとしても、互いは互いに素性の知れぬ者同士である。ましてや魔王に支配された闇の領域で出会った人間などに、気を許せと言う方が難しい話であろう。
    だが、この小柄な男は、彼にとって『得体の知れぬ男』であるラルフに頻繁に話しかけ、彼の人馴れしていない態度を見た目とは違う照れ屋なのだと言っては笑い、いや、そんな釣れない態度が女を惑わせてきたに違いないと一人で話を進めてはまた笑っている。
    そんな、小柄で陽気なこの男の名は、グラント・ダナスティと言った。

    この世界を支配する魔王ドラキュラに仲間や親兄弟を殺され、自らもドラキュラの呪いにより怪物の姿へと変えられていたグラントは、魔王討伐を教会から依頼された正統ヴァンパイアハンター、ラルフ・C・ベルモンドにより呪いから解放され、親兄弟の仇をうつ為、ラルフと共に魔王を倒す為の旅を続けていた。
    グラントの身体はまるで針金のように細く、同年代の男と比べて小柄ではあるのだが、その細い身体には人並み外れた瞬発力と身軽さが秘められていた。また彼はナイフ使いの名人でもあり、ヴァンパイアハンターを生業とするラルフのような退魔の力こそ持っていないものの、彼の驚異的な運動能力と投げナイフの腕前に危機を救われたことは一度や二度では無い。
    そして、グラントのその明るく人懐っこい為人は、他者との接触を避けて生きてきたが故に内にこもりがちになるラルフの心を幾度も上向かせ、今や二人の間には、友情と呼んでも差し支えの無いような感情が通い合っていたのだった。


    そんなある日の事。尽きることのない闇の魔物たちとの激闘の合間に僅かに訪れた休息の時間。ラルフは森の中で一人岩に腰掛け、歌を口ずさんでいた。
    それは、今は亡き彼の母親がよく口ずさんでいた歌だった。光を望み、朝を信じる。幼い子供に言い聞かせるような単純な内容の、ほんの数小節の短い歌だ。彼自身は歌が得意という訳ではなく、むしろ不得手と言ってもいい程だったのだが、彼はその歌を愛しており、誰に聞かせるわけでもなしに独りで口ずさんでいる事が多かった。
    そんな彼を目ざとく発見したグラントは、まずはラルフと言う朴訥を絵に書いたような男が歌を口ずさんでいると言うことに、いや、そもそも彼と言う人間が歌と言うものを知っている事に大袈裟なほどに驚き、感心していた。
    自分のような人間……人間、に、歌など似合わないと思っていたのは当人であるラルフも同感であったのだが、ひとしきり感心した後にふと我に返ったグラントは、慌てたように彼に謝罪し、失礼なことを言ってすまなかったと頭を下げるのだった。
     

    ―そこまで謝る必要はない、確かに俺に歌など似合わない。


    何の気なしに彼が言うと、グラントは慌てたように顔の前で両腕を振った。


    ―いやいや、兄貴だって歌ぐらい歌うよな!
    本当に悪かったよ、俺はてっきり、腹でも痛くて呻いているのかと……


    グラントはそう言いかけると慌てて自分で自分の口をふさぎ、様子を窺うような上目遣いでこちらを見やってくる。そしてグラントの言葉の意味がわからずに蒼い眼を瞬かせているラルフと目があった途端、今度は耐えきれなくなったかのように、腹を抱えて笑い出した。
    ラルフにはなぜグラントがここまで大笑いしているのかがよくわからなかったのだが、気持ちよさそうに笑っているグラントを見ているのは悪い気分ではなかった。グラントの持つ光り輝く魂は、魔王の作り出す永遠の闇ですら覆い隠すことはできない……そう思うと、自然に口元が緩んでしまう。まったく大した男と知り合えたものだと、ラルフは思うのだった。


    この男が得意なものは軽業や短剣術だけではないらしい。
    グラントはラルフが歌う歌を気に入ったらしく、もっとそれを聞かせてほしいとせがんできた。そして、決して見事な歌い手とは言えないラルフの心もとない旋律をほぼ正確に理解し、自らもその歌を口ずさみ始める。……そして彼の歌を聞いた瞬間にラルフは蒼い眼を丸くし、この小柄な男の器用さ加減に、もう何度めになるのかわからない感心をさせられる事になるのだった。


    ―驚いたな、見事な歌声だ。


    自分が歌っていた曲と同じものとは思えない美しい旋律に、ラルフは心の底からの賞賛を送る。グラントはそれを聞くと照れたように頭を掻きながら、自分には歳の離れた幼い弟がいたのだと話し始めた。
    男のくせに泣き虫な奴で、子守り代わりによく歌を歌ってやっていたのだと、平和であった昔を思い出しているかのような遠い目をして話していたグラントは、話の途中でふいに口をつぐみ、押し黙ってしまう。突然の彼の沈黙に、ラルフは自分が何か気に触ることを聞いてしまっただろうかと思い、彼に声をかけようとした、
    ……その瞬間だった。


    胸の悪くなるような不気味な唸り声が辺りに響き、肉の腐ったような悪臭が鼻孔を刺激した。二人の男は先程までの和やかな空気を瞬時にして振り払い、各々の獲物を構えて背中合わせになり、油断なく身構える。
    息を潜めて四方に広がる闇に目を凝らした次の瞬間、周囲の木々を薙ぎ払い、二人の眼前に、禍々しく大きな槌を片手で担ぎ上げた一つ目の巨人が姿を現した。


    ―サイクロプス!


    ラルフは叫び、それと同時に左手に持った鞭を大きく振りかぶる。彼の一族に伝わる、強力な退魔の力を持つ鞭による一撃は、だが、突然目の前に飛び出してきた仲間の身体に遮られた。


    ―グラント、どうした!?


    ラルフは戦友の行動に驚き、彼の背中に向けて叫んだ。まずはラルフが聖鞭で一撃を加え、敵が怯んだところでグラントが得意とする投げナイフで敵の目を潰す。互いに決め事とした訳では無いのだが、これが彼ら二人の常の戦い方であった。そして、今回ラルフが驚いた理由はそれだけではない。グラントの細い身体は人並み外れた瞬発力と身軽さを持つ代わりに、直接的な攻撃には脆い。彼の戦い方はその身軽さを最大限に生かした攪乱であり、正面から敵に突進していくような戦法をとることなど無いはずなのだ。

    だが、今のグラントは、常の戦い方をかなぐり捨てていた。いつも人好きのする笑みを浮かべている顔を憎悪に歪ませ、獣のような咆哮を上げながら、巨大なサイクロプスに対して無謀とも言える突進を繰り返している。彼の武器である短剣は接近戦用の武器ではないにも関わらず、まるで、直接に巨人の喉を掻き切らなければ気が済まぬかのようだ。


    ―グラント、離れろ!


    三度、ラルフは叫んだ。仲間を援護したくとも肝心のグラントの身体が邪魔をし、聖鞭を振りきることができない。それだけではない。巨大な体格を持つサイクロプスに対して通常では考えられない突進を繰り返しているグラントの身体は、既に魔物の反撃によりかなりの傷を負っている。
    ラルフの叫びにも耳を貸そうともせずに無謀な攻撃を繰り返す彼は、まるで狂戦士の霊にとり憑かれてしまったかのようだった。


    ―グラント!


    ついに巨人の攻撃がグラントを捉え、丸太のような腕に薙ぎ払われた彼の小柄な体は宙を舞い、周囲に茂っていた巨木の幹に叩きつけられた。激突の衝撃で弛緩した身体は幹に沿って根本までずり落ち、蹲ったままの姿勢で動かなくなる。
    その名を呼びながらグラントの元に駆け寄ったラルフは、額から血を流し、微動だにしない戦友の姿を目にして息を呑んだ。

    背後で、サイクロプスが勝ち誇ったかのような咆哮を上げる。ラルフは聖鞭を握る手に力を込め、ゆっくりと巨人に向き直った。深い湖のような蒼い眼に強い光を宿して正面から魔物を見据えると、手に持った鞭をぴしりと地に打ちつけて身構える。……すると、


    ー兄貴……


    背後から、グラントの苦しげな声が聞こえた。どうやら意識が戻ったようだ。


    ーすまねえ、兄貴。俺のせいで……


    ー話は後だ。
    グラント、そこから動くんじゃないぞ。


    ーあいつは、あの化物は……


    ふいに、グラントの口調が揺れた。ただ事ではない雰囲気を感じたラルフは、眼前で咆哮をあげる巨人に油断なく意識を向けながら傷ついた戦友を振り返る。グラントは巨木の根本に蹲ったままの姿勢で苦痛に顔を歪めながら、憎しみにぎらぎらと光る両眼で一つ目の巨人を睨みつけていた。


    ー俺の故郷を襲ったヤツだ。
    俺の家族を、仲間を、殺しやがったヤツだ……


    グラントがそう言い終えた瞬間、サイクロプスは再び空気が震えるほどの咆哮をあげると槌を振り上げ、その巨体に似合わぬほどの速度で二人に向かって突進を仕掛けてきた。
    ラルフはそれを避けようとはしなかった。その場に立ったままで腰に差していた短剣を抜き、己に向かって突進してくるサイクロプスの巨大な一つ目に向けて投げ放つ。短剣は吸い込まれるように一つしかない目玉を刺し貫き、巨人は苦痛の叫び声をあげて大きく仰け反った。その剥き出しになった首を目掛け、ラルフは聖なる鞭を大きくしならせ、薙ぎ払う。
    ――空気が引き裂かれる音と共に、サイクロプスの巨大な首が宙を舞った。瞬時にして頭部を失った胴は途方にくれたかのように左右に揺れながら立っていたが、やがて、先に地面に落ちた頭部を追いかけるかのように、地響きを立てて倒れ伏した。 

    魔物が絶命したのを確認し、ひとつ息を吐いて身体の力を抜くラルフの背後から、弱々しく手を叩く音が聞こえる。振り向けば、ようやく元の雰囲気を取り戻したグラントが、口元に微かな笑みを浮かべながらラルフの勝利を讃えていた。


    ―やっぱり、兄貴は強いな。
    俺なんかいなくてもじゅうぶんやっていけそうだ。


    ――馬鹿な事を言っていないで、傷を見せてみろ。


    ラルフは手早くグラントの傷に薬を塗り、布を巻いてゆく。彼の怪我は軽傷とは言えないが、幸い、生命に関わるものではないようだ。


    ―本当にすまねえ、兄貴……


    ーもう気にするな。それより……


    ー…………。


    ー……いや、すまなかった。言いたくなければ言わなくていい。


    グラントの傷の手当を続けながら、ラルフは蒼い目を伏せる。ラルフは何故彼があのような無謀な攻撃をしかけたのかを問おうとしたのだ。だが、サイクロプスと対峙していたあの時、グラントは言ったではないか。こいつが自分の故郷を襲い、仲間や家族を殺したのだと。グラントは己の親兄弟を殺し、故郷を滅ぼした仇に出会ってしまったのだ。


    ―なあ、兄貴。


    暫くの沈黙のあと、グラントがぽつりと呟いた。ラルフは伏せていた眼を上げ、満身創痍の戦友を見やる。彼は血止めの布を巻いた顔に泣き笑いのような表情を浮かべ、ラルフの顔を見つめていた。


    ―……俺の弟は、まだ、十になったばかりだったんだ。


    ラルフを見つめながらそう呟いた瞬間、グラントの声が微かに震え、黒い目が揺れた。


    ―……なんでなんだろうなあ。


    言いながら、グラントは笑った。だがその笑いは奇妙に歪み、声の震えは、最早隠しようもない程に大きくなってゆく。


    ―なんで、あんな小さな子供が死ななくちゃいけないんだろうなあ……。あんな小さな子が、どうして…………


    声を詰まらせながらそこまで言い終えたグラントの両眼から、一筋の涙がこぼれ落ちた。彼はそれ以上言葉を紡ぐことができず、両手で顔を覆ってうずくまる。食いしばった歯の奥から微かな嗚咽が漏れる。肩を震わせ、弟の名を何度も呼びながら、グラントは泣いた……。
    ラルフは何も言う事ができなかった。彼には故郷と呼べるものはなく、家族と呼べるものも無かったから。故郷と家族を持ち、そして失った彼にかける言葉を見つけられず、ラルフは深い湖のような蒼い眼を伏せ、身を震わせて泣く友の心が少しでも癒やされるように、かたく手を握りしめて頭を垂れる事しかできなかった。

    ……すると。

    どこからともなく、微かな歌声が聞こえてきた。光を望み、朝を信じる。心に染み入るような優しい歌詞と旋律だ。
    ラルフは顔を上げ、涙で濡れた頬のまま、微かな声で歌を歌っていたグラントを見つめた。彼はラルフの視線に気がつくと歌うのを止め、痛々しげな笑顔を作ってみせた。


    ーこの歌、本当にいい歌だよな。あいつに聞かせてやりたかったぜ。


    その声は掠れ、眼は赤く腫れていたが、そう言ったグラントはもう泣いてはいなかった。彼はゆっくりと立ち上がると涙を拭い、ラルフの顔を正面から見やり、強い意志を込めた口調で言った。


    ―倒そうぜ。魔王の野郎を。


    ー……。


    ―あいつみたいな子供を、これ以上増やしちゃいけない。こんな思いを他の奴らにさせちゃあいけない。……そうだろ、兄貴。


    曇りの無いグラントの眼に見つめられたラルフは、瞳に決意を込め、力強く頷いた。するとその瞬間、空に厚く垂れ込めていた暗雲が割れ、雲間から差し込む黄金色の光が二人の男を照らし出した。
    久しく見ることのなかった太陽の眩しさに目を細めたラルフは、思わずその蒼い眼を瞬かせてしまう。彼は見たのだ。黄金色の光の中で、純白の翼をひろげ、大空へと舞い上がる幼い少年の姿を。
    少年は輝くような笑顔を浮かべて背中の翼をはためかせ、天から降り注ぐ光の中を昇ってゆく。その途中で一度だけ振り向き、ラルフを見つめて微笑んだ少年の姿が光の中に消えて行った後、彼は思わず隣に立つグラントへと顔を向けた。
    グラントはその場に立ち尽くしたまま、雲の切れ間から差し込む黄金色の光を見つめていた。
    その目には再び涙が光り、口元には穏やかな微笑みが浮かんでいるのだった。




    ……やがて、雲間からの光は細くなって消え、世界は元通りの闇に閉ざされていった。そう、この地に恒久の光を取り戻すための戦いは未だ終焉を迎えてはいないのだ。
    だが、ラルフとグラント、二人の若者の胸には今や決して消すことができぬ光が宿り、その輝きはいや増すばかりであった。

    彼らは再び歩き出す。広大な大地を覆う闇ですら覆い尽くすことが出来ぬ光を心に宿し、瞳に炎を燃え上がらせて。



    その光の名は『希望』と言った。


    fin.
    MARIO6400 Link Message Mute
    2022/06/08 11:08:16

    夜明けの歌・2

    悪魔城伝説グラントとラルフの二次創作小説です。ラルフのお歌シリーズ第二弾です。
    グラントの過去設定は公式ではなく、自分で考えたものです。


    ちなみに、雲の切れ間から光が差し込む現象は「天使の階段」と呼ばれているそうです。

    #悪魔城 #アルカード #悪魔城ドラキュラ #Castlevania #ラルフ・ベルモンド #悪魔城伝説 #ラルフ・C・ベルモンド  #グラント・ダナスティ

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