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    本当の主人公2章7話[嘘つき]8話 [逆さ十字のカルマ]9話 [デジャヴ]10話 二人きり11話「怖いなぁ」12話「俺にしとけよ」13話「弱いものいじめ(笑)」14話「笑える」15話「弱いもの(笑)」16話「ねえ、びっくりした?」7話[嘘つき]




    さっき、龍と明人と学食に向かってる途中でヤンキーに絡まれてる可愛い女の子二人組を見つけた。

    一人はショートでもう一人はボブの子だ。
    確か…身長はボブの子の方が高かったかな?
    で、ヤンキーが怖いのか、ショートの子がボブの子にぴったりくっついてたんだけどそれがクッソ可愛かったんだ……!

    で、この俺が止めに行ってイケメンオーラ浴びせてやろうとした途端さ、龍馬が「僕が行く。」って言ってヤンキーを撃退しやがった!

    今回ばかりはお前に完敗だって心の中で思ったわ。
    やっぱあいつはいつかやると思ってたんだよな。



    …やっぱすげえ、あの女の言う通りになりやがった。

    その後、学食に女の子二人を合わせた5人で行く事になって、途中で女の子達と待ち合わせしてた朱里と合流したんだ。
    今は、龍とショートの女の子が、大切な話があるみたいで、俺らとちょっと離れたとこにいる。

    やっと龍に春が来た!
    あいつマジでいい奴で、見た目も中身もイケメンなのに周りの奴らが全く気付かねえから焦ってたんだよなぁ…。
    親友として、あいつが独り身で人生終えるのだけはやめて欲しかったからラッキーだな!
    俺やってみたいんだよなー!龍の結婚式の付添人!
    …って、ちょっと気が早すぎるか。


    で、今俺は朱里と、朱里の友達のボブの子と明人と俺で話す事にしたんだ。
    ハンバーグを席に運び、手をつける前に俺から自己紹介をする。
    「俺の名前は智明!誕生日は10月14日!趣味は音楽鑑賞とゲームな!!」
    と、手を挙げ笑顔で言うと、乗ってくれた朱里が自己紹介を始めた。

    「私は朱里!趣味はほぼ智明と一緒!ほら!次晶ちゃんやりな!」
    と、ウザいくらいの笑顔でボブの子の肩をトントン叩く朱里。

    その子の自己紹介を聞きながら、ハンバーグを箸で切り分ける。
    「うち…あ、違う…私は…晶って言います、趣味は…アニメ鑑賞と読書…です、よろしく…!」
    と、あわあわしながら訛りを隠そうとする晶。

    「別に俺らが訛ってねえからって隠す必要無いぜ?気にすんな、晶って名前かっけえな!」
    笑顔で言うと、嬉しそうに「やろ!?」と言った。
    やっぱ、かわいい奴には笑顔が似合うな。
    …関西弁良いな…俺も今度龍に話しかける時訛ってみよ。

    …おっと、そうだ。
    「明人、お前も自己紹介してみろよ」
    焼きそばをもしゃもしゃ食べている明人の肩をトントンと叩くと、少し驚いてから、焼きそばをゆっくりも飲み込み
    「…明人…です…趣味は…リズムゲームです…。」
    と、指で口の端を拭きながら呟いた。
    すると、晶が齧ったからあげを急いで飲み込んでから少し身を乗り出し、
    「リズムゲーム…!我がソウルメイトよリズムゲームも好きなのかい…!?」
    と、明人の発したリズムゲームという単語に食らいついた。
    ソウルメイト…?へー、知り合いだったのか。

    「うん…あの、最近病み曲大量に追加されたやつあるじゃん…?あれ最近すっごいハマってる…んだ…。」
    身を乗り出し、瞳をキラキラと輝かせる晶に向かって、もじもじと照れ臭そうにタメ口でゆっくりと話す明人。
    晶は、その明人の言葉をゆっくりと確かめるように聞きながら何回も頷き
    「あのアーケードのやつ?あれうちもハマってるねん…!今度一緒にやりに行こうや!コンボ数競お…!?」
    と、笑顔で誘った。
    すると、明人は嬉しそうににっこり笑って「うん。」と呟き頷いた。

    …お?……お…?
    「おー?なんだー?明人にも春が来たのかー!?」
    と冗談半分で言ってみると、少しだけ拗ねたように
    「そんな目で見てないよ…」
    と、急いで否定した。

    あー…こりゃあモテるのも時間の問題かな……。
    沢田智明、16にして初めての敗北を知る。



    飯を食い終わり、晶と連絡先を交換する事になった。
    「智明君アイコン自撮りなんや!パリピやな!」
    「なんだそれ…お前もアイコン自撮りじゃねえか…。」
    「お人形さんみたいで可愛いやろ?」
    「はいはい可愛い可愛い。」
    …こいつも絶対モテるんだろうなぁ、オーラと話のノリで分かる。

    なんて事を考えながら晶の自撮りを見ていると、、ふと龍が言っていたことを思い出した。
    「あー、そういや晶ってクラス表のとこ居たよな、あの時のお礼直接言ってくれよ!」

    と冗談半分で言うと、笑顔でこう言った。
    「あの時は助かった、ありがとう。」


    …今気付いたけど…こいつ、結構綺麗な顔してんな…。
    「素直な奴はモテるぞー!?」
    笑いながら肩をポンポン叩くと、晶も俺の真似をして、
    「ならうちは明日イケメンと美女を囲んでパーティーできるな!」
    と、俺の肩をポンポンと叩きながら冗談のようにそう言い、クスクスと笑った。


    すると、横から朱里が割り込み
    「晶ちゃんモテるんだよ、男にも女にも。」
    と、言った。
    やっぱりな、俺の勘は当たってた。
    ……ん?男にも女にも?
    へぇ、すげえじゃねえか…。
    すると、晶が朱里の言葉を聞き、慌てて否定し始めた。
    「違うって朱里!ただ「晶ちゃんになら抱かれていい!」って言われるだけで…。」
    「完璧惚れられてんじゃねえか。」







    目の前に、夢に出てきた女の子とそっくりな子が座ってる。
    現実なのに、夢みたいだ。
    ハンバーグをお箸で切り分けていると、目の前の女の子がサンドウィッチを手に持ち、

    「…現実味がなくて、信じられないかもしれないけど、聞いてくれる?」
    と、手元を見つめながら、恐る恐る呟いた。


    「…今の僕には君を信じる事しかできないよ。」
    女の子の方をじっと見つめてそう言うと、ゆっくり瞬きをしてからそっと話し始めた。

    「…もし…夢を操れたらどうする?」
    夢を…?
    「明晰夢って事?」
    と尋ねて、ハンバーグを口に入れ、ゆっくりと咀嚼する。
    すると、少し首を振りこう言った。

    「似てるけど違うんだ…私はね、毎日真っ暗な夢を見るんだよ、そこには…条件があるんだけどね?自由に人を出入りさせられるし…自由に物を作れるし…夢の中でなんだって出来るんだ。」

    「…そうなんだ。」
    普通なら「羨ましい」と思うかもしれない。
    でも、僕は彼女に同情していた。
    夢で何でも出来るからって、現実が上手くいくわけじゃない。
    それだけじゃなくて、一番怖いのは…

    「…たまに、たまにね?…夢と現実の区別がつかなくなっちゃうんだ。」
    と言い、苦しそうに笑う彼女。

    うん、そりゃあそうだよね。
    夢は妄想よりもリアルだもん。
    だからこそ、区別がつかなくてリアルか夢か分からなくなるなんて当たり前だよ。
    …毎日なら、尚更。

    「…それは、能力か何かなの?」
    と聞くと、少し考えてから口を開き、
    「そうなのかも…いや、そうじゃなかったら…今頃解決してるだろうし…。」
    と、また苦しそうに笑った。

    彼女の言い方からして、病院や、カウンセリングに通ったりしたんだろうな、と想像できた。

    …この子のこの表情、苦手だ。
    僕まで心が締め付けられる。
    お箸をぎゅっと握り、彼女を見つめていると、少し明るい顔で
    「…でも君がいて良かった…君は自覚ないだろうけどね…。」
    と、苦しそうじゃない、純粋な顔で笑った。

    …やっぱり、さっきの笑顔より何倍もかわいい。
    …あれ?でも、自覚がないってことは…僕も力を持ってるのかな…?
    いや、そうじゃなきゃあの目のことは説明できない。
    偶然とか、光の反射とかじゃない。
    僕の目が直接光ったんだ。
    あの、夢に出てくる怪物みたいに。

    その時、ふと怪物のことを思い出した。

    「ちょっと気持ち悪いかもしれないけど…聞いてくれる?」
    と切り出すと、真剣な顔でゆっくりと頷いた。

    その彼女の顔を見てから説明する。

    「…夢でしょっちゅう君が出てくるんだけどね…君が僕の名前を呼んでから、おっきい怪物に変身するんだ。」

    と言うと、少し驚き僕をじっと見つめた。

    そして、ゆっくり口を開き、
    「…松田、龍馬…君?」
    と、僕の名前を呼んだ。

    「やっぱりあれ君だったんだ!どうして僕の名前を知ってるの…?」
    少し身を乗り出して聞くと、

    「ちょっと複雑な話になっちゃうんだけどいいかな?」
    と言い、首を傾げた。
    頷き、彼女の説明を聞く。

    「夢は、人の頭の中に登録された単語と、その時の体調と運勢からランダムで選ばれるシステムなんだ。」

    …なるほど

    「でも悪夢はちょっと違ってね?普通の夢と対してシステムは変わらないんだけど、悪夢は「悪夢」っていうジャンルなんだ、そのジャンル中にも色んな種類がある感じ。」

    と言い終わってから、サンドウィッチを一口かじる女の子。

    「…?」
    理解出来なくて、少し首を傾げると、間を置いてから
    「ちょっと違うかもしれないけど…夢はオリキャラ創作で、悪夢は二次創作…?」
    といい、彼女も首を傾げた。
    …オタクなんだ。

    彼女の説明で、本当に、何となくだけどわかった気がする。

    「どうして悪夢だけは違うのかな?」
    素朴な疑問をぶつけると、ゆっくりとサンドウィッチを飲み込んでから

    「好きな物は違っても怖い夢は大体一緒でしょ?真っ暗闇でおっきい怪物に追いかけられたら誰だって恐怖で逃げるし。」
    と言い、にっこりと微笑んだ。

    「私は言っちゃえば悪夢専門なんだ、「人の悪夢」っていうアニメに二次創作として「私の夢」ってタグを付けて投稿してる感じ!」

    ……この例え気に入ったんだろうなぁ…。

    「なるほど…」
    と言いながら頷くと、少しにっこりしてからまた真剣な顔になり

    「で、何で名前を知ってるかって話なんだけどね?私が名前を知ってる人じゃないと夢の中に入れないんだ。」

    と、小声で説明してくれた。
    「なるほど…じゃあ…入ろうと思えば…朱里さんの夢にも入れるって事?」
    「入れるよ!…でもね…私、君と会った記憶があんまりないんだ、ただ名前だけを知ってる…みたいな。」
    サンドウィッチをお弁当箱の中に置き、少し申し訳なさそうに笑う彼女。

    「なら、どうしていつも僕を襲わせてるの?悪夢だから?」

    話を聞いたときから気になっていた事を尋ねると、小さく笑ってこう言った。
    「ふふ、ごめん…この子反応楽しいなって思っていじめてた…。」
    「えぇええ!!??」

    そんな…意地悪だな…。
    彼女の言葉に驚くと、嬉しそうにケラケラ笑い
    「一昨日…「…乗ったな、怪物め…」…って言ってたよね?」
    「ぬああ…!?」
    「言っとくけどあれ悪夢だよ…?何楽しんでるの…ふふ…」

    と、一昨日の夢のことを馬鹿にし始めた。

    ど…どうしよう…すっごい恥ずかしいんだけど…
    「「俺は死んでもここを動かないぜェ…」って…ふふふ…男の子だね…」
    「やめて!!お…怒られたいの…!?」
    と言っても、悪びれる様子もなくケラケラと笑う女の子。
    「ごめんごめん…笑わせないで…ふふふ…。」

    もう…恥ずかしいなぁ…。

    俯き、恥ずかしさを隠すようにご飯を口にいっぱい運んでいると、女の子が大きく息を吐いてから
    「…君に会えたら話そうと思ってたことがあるんだ。」
    と、真剣な表情で話し始めた。

    「君の能力はどんな能力なのか、夢で試してみていい?」

    …僕の、能力…か。
    まぁ…知って損する事は無いと思うし…。
    …欲を言えば、もう少しだけ話していたいけど…。
    なんて事を考えながら女の子へ視線を移動させると、僕の目をじっと見つめ、僕の言葉をじっと待っていた。。

    ご飯をゆっくり飲み込み、
    そんな彼女に、僕が言った言葉は。

    「…その代わり、君の事沢山教えて?まずは…君の名前。」


    「…池崎、池崎…彩。」


    8話 [逆さ十字のカルマ]

    彩さん達と会った12日後の日曜日。
    智明の提案で、智明と、明人君と、彩さんと、朱里さんと、ボブの子と僕の6人でカラオケに行く事になった。

    本当は一週間くらい前に行きたかったんだけど、みんなの予定がなかなか合わなくて無理だったんだよね…。

    智明からの
    『10時に駅前で待ち合わせな!』
    というメッセージに
    『了解!』と返信をして、上手く聞こえる歌い方を調べてから布団に入る。



    その日は、僕が一片の報いのアリスになった夢を見た。
    経理のお仕事や、みんなのお世話をしてた。
    凄く忙しかったし、途中でハプニングもあったけど、すごく充実してた。

    一番嬉しかったのは、僕の大好きなラフとお話できた事だ。
    …本当に、すっごく楽しかった。



    そして、起きた瞬間決めた。

    今日から夢をまとめた日記を書こう、と。
    夢日記が危険だというのは知ってる。
    だけど…何となく。

    いや、絶対に日記を書かなきゃいけない気がした。



    まるで、誰かに脅されているかのように。






    20XX年 4月22日 日曜日

    一片の報いのアリスになる夢をみた。
    屋敷の中はお花の香りがして凄く幸せだった。
    夢の中でもラフは最高にかっこよかったなぁ。
    今度、グッズショップに行ったらラフのアクキーとクリアファイルを買おう。





    準備と着替えを済ませ、戸締りを確認してから駅前に向かう。

    白いTシャツと黒いズボンってちょっと適当に選びすぎたかな…。
    バイト代入ったらもっとちゃんとした服買おう…。
    その時には智明に付いて来て貰わなきゃ。
    僕一人じゃ不安だし。



    駅前に着くと、明人君がベンチで、携帯ゲームをしながら待っていた。

    「明人君―!おはよ!」
    明人君の右隣に座り話しかけると、僕の顔を見て少し目を見開いてからイヤホンを外し
    「おはようございます…!」
    と、笑顔で返事してくれた。

    …明人君の服装ちょっと参考にしてみようかな。

    明人君の今日のお洋服は…。
    グレーのVネックシャツに…黒のスキニーパンツ…?
    それと逆さ十字のネックレスと…耳にはマグネットピアス……?
    靴は…ちょっと底が高いゴツゴツしたブーツ…。
    わぁ…かっこよすぎて参考にできない…。


    「……あの…服装変ですか…?」
    …あー…しまった、また明人君の事じっと見ちゃってた。
    僕がじっと見ていたせいで不安に思ったのか、首元を触ったりとそわそわする明人君に
    「変じゃないよ!かっこいいなって言おうとして…。」
    と否定すると、明人君が頬をほんのり赤く染め、明人君も僕の服を見て、
    「龍馬さんもお洋服かっこいいですよ…!」
    と言ってくれた。

    「ありがとう…!明人君に言われると自信つくよ!」
    明人君の肩をぽんぽんと優しく叩きながらこう言うと、また頬を赤く染めてぐっと俯いてしまった。
    …明人君は照れ屋さんでかわいいなぁ。


    明人君にさっきまでプレイしていたゲームの事を尋ねようとした時、後ろからいきなり手がぬっと伸びてきて、明人君の両方の耳たぶをふにふにと触った。
    …ん?どうして耳たぶ…?

    「盟友よ、耳のこれはもしかして一片の報いの登場シーンでカルマがつけていたマグネットピアスを意識しているか?」

    「…盟友…?」
    後ろを見てみると、クラス表の所にいたボブの子だった。
    僕に気付くと、視線を明人君から僕に移動させ、
    「始業式ぶりですね、こんにちは。」
    と、挨拶してくれた。

    …この人も一片好きなんだ…。

    「晶よく分かったね、流石盟友…!」
    すると、明人君が声で晶さんだと気付いたのか、振り向いてから嬉しそうにニコニコと話し始めた。
    …この子晶さんって言うんだ。

    明人君の笑顔を見て、ふんわりと微笑み、耳たぶをさらにふにふにと触る晶さん。
    …会った瞬間は気付かなかったけど…晶さんって結構声低いんだ…。
    かっこいいなぁ…。

    「盟友を舐めてもらっちゃ困…え、待って耳すっごい柔らかい…!龍馬君も触ってみて、すっごい柔らかい…。」

    …この子自由だな…。
    …えっと…さ、触ってもいいのかな…?
    「ごめんね…あ、すっごい柔らかい。」
    晶さんに言われた通り、明人君の耳たぶを触ってみると、晶さんの言った通り、明人君の耳たぶは僕が思っていた以上に柔らかかった。
    例えるなら…マシュマロとムースの間くらい…?

    でも耳たぶが薄いからピアスとか開けやすいかも…。
    ……明人君にピアス…絶対似合うじゃん…。
    一個でもオシャレだけどインダストリアルとか軟骨とかバッチバチに開けるのも似合うんだろうなぁ…。
    0Gくらい拡張するのもかっこいいな…いや、むしろ全部ってのも……。
    いや?耳だけじゃなくてボディーピアスとかも似合うんじゃ…!?

    …あれ?なんで……僕こんなにピアスの事知ってるんだ…?

    「あの…もう…良いですか…?」
    …ハッ…!!
    しまった…ずっと考え込んでた…。
    「あ!ご…ごめんね明人君!触り心地良くてびっくりしちゃってさ…。」
    明人君から少し離れてから何回も謝ると、耳を赤く染め、微笑みながら
    「…次からは20秒で…100円…取りますからね…?」
    と、冗談を言った。
    明人君…明人君ってなんでこんなに優しいんだろ…。

    「1万払う、2000秒撫でさせてくれ。」
    …わ、ガチ勢だ…。



    財布から一万円札を取り出そうとする晶さんを二人で止めていると、丁度残りの3人が集まってきた。


    9話 [デジャヴ]


    6人でカラオケに向かっていると、晶さんが独り言のようにこう呟いた。
    「…カラオケとか何ヶ月ぶりやろ。」

    すると、晶さんの隣の明人君が、そっと顔を覗き込むように、少しだけ背を屈め
    「ソウルメイト…もしかして…カラオケあんまり好きじゃなかった…?」
    と質問した。
    すると、少しだけ首を横に振り、残念そうにこう答えた。
    「いや?カラオケはすっごい好きやねんで?でも最近時間が無くて行けてないねん…。」
    …晶さんって結構忙しい人なんだ。
    そうだよね…今回も晶さんの予定がなかなか合わなくて結構遅めになっちゃったんだもんね…。

    するとその時、智明が明人君と晶さんの会話に割り込み
    「晶って休みの日とか何してんだ?あんま街で見ねえけど…。」
    と、尋ねた。

    「休みの日か…大体は家の手伝いしてるよ!手伝ったらめっちゃお小遣い貰えんねん!」
    「へー、お前ん家店やってんのか…。」
    「うん!みたいな感じやな!」
    …へぇ…そうなんだ…。
    お小遣いを貰えるって事は結構繁盛してるのかな…?

    2人の会話を聞いていると、彩さんが晶さんに
    「ねぇねぇ、今度晶ちゃんのお家に遊びに行っていいかな?」
    と、話しかけた。
    すると便乗したように、朱里さんや明人君、智明も
    「行ってみたい!」と言い、晶さんが嬉しそうにニコニコと笑いながら「また今度な!」と答えた。
    …迷惑じゃなければ僕も行ってみたいな。

    なんて考えていると、晶さんがまたもや嬉しそうに
    「…お父さんうちの事大好きやから…うちの友達見た瞬間泣くかもなぁ…。」
    と言い、くすくすと恥ずかしそうに笑った。
    可愛らしい親御さんだなぁ…。

    すると、晶さんが突然声を出してケラケラ笑い出し、
    「あはは!そうや!うちの親の泣き顔を見たいならいつでも来ていいよ?大歓迎や!」
    と言った。

    「あ、私遠慮しとく…」
    「俺も」
    「ごめん晶ちゃん…」
    「晶さんごめん、僕も遠慮しとくよ…。」
    「……ソウルメイト、今日は共鳴しなかったね…。」
    「………。」




    カラオケに到着し、フリータイムでたくさん椅子がある少し広めの部屋を取った。

    部屋の中央に白いテーブルがあり、それを囲うように一人がけの黒いソファーがコの字型に並んでいて、ソファーの向かい側に機材や液晶画面があり、画面の前にはマラカスやタンバリンが置いてある。


    部屋に入り、智明が明かりを調整して、僕がリモコンを部屋の中心にある机に置く。
    すると、朱里さんが入り口から一番近いソファーに座りながら
    「智龍モテそうだね…!」
    と、言ってくれた。
    「そう?へへ……」
    朱里さんの言葉に喜んだその時、朱里さんの隣に座ろうとしていた彩さんが、朱里さんの手を引き、

    「朱里ちゃんの馬鹿!龍智だって言ってるじゃん!」
    と、怒った。
    …りゅうとも…?
    それに便乗するように朱里さんも彩さんの手を掴み、少し大きな声で
    「彩ちゃんの方が大馬鹿でしょ!?絶対智龍!」
    と反論し始めた。

    「…これが腐女子か…。」
    何かを悟ったような目をしてそう呟く、隣の智明。
    腐女子は…BL好きの女の子の事か。
    …最近の腐女子は僕と智明のコンビでも萌えるんだ…。

    …龍智と智龍ってなんだろ、何が違うのかな。
    すると、真ん中に座ってた晶さんが何かに気付いたように顔を上げ、いわゆるイケボでこう言った。


    「リードするから攻めだと決まったわけじゃないし…支えるから受けだと決まったわけでもない…ゆっくりじっくり考えようや、時間は山ほどあるんや…。」

    「……天才か…」

    …あれ、なんかデジャヴ。

    二人がなんか気持ち悪い感じで仲直りしているのを見ながらマイク2つをリモコンの隣に置くと、智明が
    「トップバッターはじゃんけんで決めようぜ!」
    と、手をグーにして前に突き出した。

    すると朱里さんが便乗し、智明と同じく手を前に突き出し、
    「いいね!トップバッターだから歌上手い人の方がいいな…!」
    と言った。
    …軽くプレッシャーかけないで…。

    その二人を見て、彩さんと明人君が少し顔を見合わせ頷き、二人の真似をして、手を突き出した。
    …可愛いコンビだな…。

    僕と晶さんも手を突き出し、
    「じゃあ行くぞー!じゃん!けん!!」

    智明の合図に合わせ、チョキを出す。




    「じゃんけんってほんまクソ!」
    と、パーを出し一発で負けた晶さんが、リモコンを操作しながら文句を言った。
    「さーて、晶はどんだけ歌が下手なのか!」
    そんな晶さんをからかう智明。
    「うっせぇ!!」

    下手かどうかは置いておいて…晶さんってどんな歌歌うんだろ…。
    ハードロックとか歌ってほしいな…絶対かっこいい…。
    なんて考えていると、晶さんが嬉しそうにリモコンを操作しながら
    「よっしゃ!見つけた!入れるで!」
    と言いながら画面にリモコンを向けた。
    すると、ピピピ…と電子音が鳴り、液晶画面に大きく曲名が表示された。
    …おぉ…一片の主人公のキャラソンだ…。

    そして、晶さんが液晶画面の隣に立ち
    「大天使晶ちゃん、歌います…聞いてください。」
    と、まるでバラードを歌う前のアーティストのようにこんなことを言い出した。
    何言ってんだこの子。

    「〜♪ 流れる時代に身を任せ、新の誘惑に胸を染める…はっきり見えていた、貴方はただの夢だと。」

    …!
    うっま……!!
    歌うっっま!!!




    「こんなもんかな!龍馬君と智明君前通るでー!」
    と言いながらマイクをテーブルに置き、席に戻る晶さん。
    「…お前…歌手なれんじゃね……?」
    そんな晶さんを険しい顔で見つめ、そう言う智明。
    智明の言葉を聞いて、首を振りながら
    「またまたご冗談を…。」
    と否定する晶さん。


    …晶さんすごいなぁ…。
    晶さんの歌のインパクトが強すぎてぼーっとしてると、彩さんが明人君の肩をさすり、ニコニコしながら
    「よし、次明人見せてやりな!」
    と言った。

    …明人君も歌上手いのかな…?
    と期待し、明人君を見つめると、僕をチラッと見てから俯きこう言った。

    「流石に恥ずかしいよ…こんな…大勢の前で……。」
    確かに…智明くらいになれば
    『俺の歌を聴け!ピッピロピロピー!』
    とか言えるんだろうけど…
    …ちょっと恥ずかしいよね…。

    すると、晶さんが不安そうにキョロキョロと周りを見ている明人君を元気づけるように
    「大丈夫やで、みんなソウルメイトがシャイな事分かってるやろ、そんな「歌わなあかん」ってプレッシャー感じる必要無いんやから。」
    と、言った。

    「大丈夫だよ、それに明人歌上手いし!誰も笑わないよ!」
    何回も頷きながら彩さんがそう言うと、明人君がマイクを手に取り
    「……頑張ってみる……」
    と、リモコンを操作し始めた。


    …智明と朱里さん…いつもいっぱいおしゃべりしてるけど…
    こういう、人が大切な決意をしようとしてる場面の時は、何も言わずに相槌を打つだけ、っていうの
    …ちゃんと空気読めててすごいなぁって思う。

    智明のこういうところ、好きだな。
    もちろん、朱里さんも。

    ピピピ……という電子音がなり、少し咳払いをしてから、明人君がマイクの電源を入れた。


    次の瞬間、ベースの重低音が部屋に響き、さっき晶さんが歌ってた曲よりかなりアップテンポな曲が始まった。


    「〜♪ 望みの光なんてあるはずなくて、落ちるところまで堕ちたみたい…」

    うっま……!!
    歌うっっま!!!

    デジャヴ。



    「……恥ずかしかった……」
    と言いながら、マイクを置き、ぐっと俯く明人君。
    「…晶と明人でコンビ組んでデビューしてもいいんじゃね…?」
    そんな明人君を見ながら、腕を組み、真剣な顔でこう呟く智明。

    …確かに、もしこの二人がCD発売したら買っちゃうもん。
    身内だから贔屓目で見ちゃう部分もあるけど、この2人ならプロくらい狙えちゃいそう。

    すると、女の子二人がリモコンをぴこぴこと操作し、
    「明くん次この曲歌って!」
    「デュエットデュエット!」
    と言いながらマイクを二人に手渡した。

    すると、少し戸惑い、晶さんの側に寄り話しかける明人君。
    「…ソウルメイト、僕このラップパート恥ずかしいから歌えない。」
    「じゃあそこうちが歌おか?」
    「……ほんと?ありがと……」

    …明人君、素敵な女の子見つかったみたいでよかった。
    すごくお似合いだ。



    10話 二人きり

    「なんかカラオケ飽きたな…。」
    と言いながら、コーラの入ったコップをコースターの上に置き、足を組む智明。

    すると、晶さんが何かを思い出したかのように
    「それならさ、次駅前にあるショッピングモール行かん?ええやろ?」
    と言いながら、隣に座っている明人君の肩を抱いた。
    …晶さんって智明以上に人との距離近いなぁ…。

    すると、明人君が恥ずかしそうに俯いて身体をぎゅっと縮めた。
    「……晶…やめて…恥ずかしい…。」

    明人君がそう言うと、晶さんが少し驚いてから
    「シャイやなぁ…可愛い可愛い…。」
    と、ニヤニヤしながら明人君の頭をワシワシと撫で始めた。
    「晶…やめて…。」
    と拒否しながらも、どこか嬉しそうに口角を上げる明人君。
    …明人君…もしかして頭を撫でられるの好きなのかな?
    始業式の時も智明に撫でられて喜んでたし…だとしたら凄くかわいいなぁ…。


    すると、彩さんが晶さんの手を掴み、
    「晶ちゃん!私の弟いじめないで!」
    と注意した。
    いとこだけど弟みたいな存在なんだ…。
    明人君大切にされてるんだなぁ…。
    「本心は?」
    「晶明美味しいからもっとやって。」
    「了解!」

    …さっき言った事取り消して良いかな。






    ショッピングモールに到着すると、晶さんと明人君が楽しそうに早足でゲームセンターに向かって行った。
    「ソウルメイト!負けた時の罰ゲームは《超過激な表紙のBL本をアルバイトさんのレジに並んで買う》な!」
    「望むところだよ盟友…!」
    本当に仲良しだなぁ…罰ゲームの内容はよくわかんないけど…。

    「朱里!俺らもゲーセン行くか?」
    と、2人の背中をぼーっと見つめていた朱里さんに話しかける智明。
    わぁ…サラッと朱里さんのこと誘った…智明は凄いなぁ…。
    なんて考えていると、朱里さんが僕ら2人をチラッと見てから
    「…うん!レースゲームしよ!負けたら罰ゲームね!」と言い、智明と共にゲームセンターに向かった。

    けど、すぐこちらに戻ってきて、朱里さんがこっそり彩さんに絆創膏を手渡した。
    ……絆創膏?
    指でも怪我してるのかな…?
    2人の事を交互に見つめながら首を傾げると、朱里さんが少しだけ小さな声でこう聞いてきた。

    「…2人はどうするの?」
    あ……。
    …よ…よし!僕も誘ってみよう…!

    「さ…彩さん、僕達もゲームセンターに行ってみる?」
    僕と朱里さんを交互に見つめる彩さんにこう尋ねてみると、嬉しそうに微笑み
    「うん!私やりたいゲームあるんだ!行こっか!」
    と言ってくれた。




    ゲームセンターに到着し、リズムゲームのコーナーに居る明人君と晶さんを見てみると、荷物を置きながら楽しそうに会話をしていた。
    晶さんもだけど、明人君も見た事ないくらい大きな動作で話しかけてて…あの二人本当に仲良しなんだなぁ……ちょっと羨ましいよ…。


    ケラケラと楽しそうに話している2人を見ていると、彩さんが僕の肩をトントンと叩き
    「ねえねえ龍馬君、エアホッケーしない?」
    と、言いながら遠くの方を指差した。

    …エアホッケー…?
    エアホッケーってなんだっけ…。
    「えあほっけー…?」
    と、言葉に出してみてもピンと来ず、首を傾げているとクスクスと笑い、説明してくれた。

    「なんて言ったらいいのかな…丸い板を弾き合うやつだよ、相手の手元にある…溝?に落としたらいいやつ!」
    と、物凄く丁寧に説明されても微塵も分からず、
    「まるいいた…?てもとのみぞ……?」
    と、アホ丸出しのようなことを言っていると、またクスクスと笑って

    「やったほうが早いか!おいで!」
    と、笑顔で僕の手を引いて連れて行ってくれた。







    「龍馬君結構強いね…エアホッケー…。」
    エアホッケーをプレイし終わり、みんなの元へ向かっていると、彩さんが僕にこう話しかけてくれた。

    「ほんと…?あんまり自信なかったんだけど…」
    どこに何をどうすればいいのか分からないまま、きゃあきゃあ言いながら打ち返していたらいつの間にか勝ってた…なんて言えるわけないよね。

    もしかしたらこれが僕の才能なのかもしれない…。
    腕を磨けば世界レベルに行けるかも……。

    なんてくだらないことを考えていると、彩さんが優しく微笑みながらこう言ってくれた。
    「また今度二人でエアホッケーしに来ようね、次は負けないから!」
    「…!うん!また来ようね…!」

    …やった!また遊ぼって言ってくれた…!
    それも2人でって…!
    「こ…今度は智明じゃなくて、僕からみんなを誘うから、待ってて。」
    と言うと、僕の顔を見て少し目を見開き、そっと目を逸らしてからこう言った。

    「…二人きりの…つもりだったんだけど…」

    …えっ…?2人…?
    「え…!あ、ごめん…!二人だね、うん!2人で遊ぼ!!」
    と、慌てて訂正すると、「うん」と頷いてくれた。

    …二人きり…か…。
    …そういえば、もう少しでゴールデンウィークだから…よし、その時に誘おうかな。
    ……誘う勇気があったら、だけど。
    …いや、マイナス思考になるのはやめよう。
    誘う、絶対に。
    誘うんだ松田龍馬!男だろ!よし!!

    そう決意した瞬間、胸の中に何か温かい感情が溢れるのを感じた。
    ……もしかして、これが…なんて。


    そんな事を考えながら、彩さんに話しかけようと、彩さんの方へ顔を向けると…

    彩さんの耳が真っ赤に染まっていた。







    「みんな遅いね…。」
    「だね…。」
    ゲームセンターの近くでみんなを待っていると、彩さんが僕の肩をトントンと叩き、
    「そういえばさ、今日一片の夢見たよね…?」
    と、話しかけてくれた。
    そっか…あれ彩さんが見せてくれた夢だったんだ…。

    「見たよ、でも彩さんは悪夢しか見せられないんじゃなかったっけ?普通に楽しかったんだけど…。」
    と言うと、首を振り
    「いや、あれは悪夢だよ?だって屋敷から出れないし…一片の世界では誰がいつ死ぬか分からないし…。」
    と答えてくれた。

    ……そっか…そういえば夢では屋敷から外には出てなかったな。
    それにラフと話しても全く嬉しくなかった。
    嬉しいって感じたのは目が覚めてからだっけ。

    …そっか…あれ…悪夢だったんだ…。

    すると、彩さんが僕をじっと見つめてから
    「…龍馬くんの能力の特徴は…悪夢を怖がらなくなる事なのかな…メモしなきゃ…」
    と、独り言を呟きながら、鞄からノートを取り出した。


    ノート…?僕の事書き留めてるの…?
    なんか恥ずかしいな…ちょっとくすぐったいや…。
    なんて事を考えながら、彩さんから目を逸らし、壁に背を預け、ポケットから携帯を取り出す。

    智明に「待ってるよ」って送っておかなきゃ…。

    一回だけ軽く咳き込んでからメッセージアプリを開き、智明とのトークルームを右手の親指でタップする。

    そして、彩さんが黄色いペンケースからボールペンを取り出し、ノートを開いた瞬間、ペンが彩さんの指の間をすり抜け、吸い寄せられるように地面に向かって落ちていく。



    しかし、落ちた筈のペンは僕の左手にしっかりと握られていた。

    「びっくりした…!龍馬くん反射神経すごいね…!なんかアリスみたいだった!ありがとう!」


    驚きお礼を言う彼女に、
    僕の反射神経。
    さっきまでの僕の行動に、
    今手に握られている携帯とペン。
    彼女が持っているノートに、
    無造作に貼られている付箋。
    全てに疑問を抱き、
    恐る恐る口から出た言葉は


    「…ねえ……僕…さっき…彩さんの方見てなかったよね…?なんで……拾えたの…?」

    「…えっ?」





    11話「怖いなぁ」





    丁度良いタイミングで、ゲームをしていた4人が僕たちの所に集まり、これから晶さんの罰ゲームの為に本屋さんに行くことになった。
    …本当…晶さんって運がない子だな…。
    まぁ、ゲームの場合は運じゃなくて実力の差だろうけど…。

    …でも、
    「罰ゲームってほんまクソ!!」
    なんて言いながら怒っている晶さんを
    「腐女子の本気見せちゃえ…!」と、楽しそうにからかってる明人君を見てたら…その…晶さんには申し訳ないけど…明人君が負けなくてよかったって思っちゃうな…。
    ただの想像だけど、晶さんが勝ったらきっと一生それをネタにしてきそうだし…。


    …そういえば…。
    「朱里さんと智明の罰ゲームは何だったの?」
    「デコピンだぞ。」
    「痛かった。」
    「へ…へぇ……。」
    …平和だな…。







    本屋さんに到着し、みんなが晶さんについていく形でBLコーナーを見に行った時
    「おい、龍。」
    突然智明が僕の肩を抱き、小さな声で話しかけて来た。
    智明が僕にヒソヒソ話…?珍しいな、何があったんだろう。

    「…お前…彩ちゃんのこと好きだろ。」
    「うへ!!!???何言ってるの智明!!!!!!」
    智明の口から思いもよらない言葉が出た驚きでつい大声が出てしまった。
    すると、智明が僕の頭を軽く叩き、キョロキョロとあたりを見渡してから
    「馬鹿、声デケェよ…で、彩ちゃんの事…好きなのか?」
    と、またもや同じ質問をして来た。

    そんな「彩ちゃんのこと好きか?」なんて突然言われても…。
    「…最近会ったばっかりだから…そんな事考えられないよ…。」
    と答えると、真剣な顔でこんな事を言い出した。

    「会ったばっかだから分かんねえだと!?」
    「智明も声おっきいよ」
    「だってよ!そんな事言ってると運命の相手逃しちまうだろうが!もし彩ちゃんが龍の事好きで、一週間以内に告白しなきゃ転校しちまうとかそんな状況だったらどーすんだよ!!」


    ……智明…ラブコメの読みすぎ…。
    …でも…もしそうだったら…どうしよう…。
    ………彩さんに想いを伝えなきゃ…会えなくなってしまうとしたら…。
    ……僕は…。


    「もう一回聞くぞ、好きなのか。」

    僕に視線を合わせる為か、少しだけ背を屈め、いつもより低い声で真剣に聞いてくる智明。
    その智明の顔を見てから覚悟を決め、小さな声で決意を口にした。

    「……うん、好きだよ…彩さんの事。」

    智明の目をしっかりと見てそう答えると、智明が少しだけ目を見開いてから
    「そうかそうか…これで龍を思う存分いじれるな!松田彩ちゃん!」
    と言いながら僕の背中を軽く何回も叩いた。
    …本当、少しでも信頼しようって思った僕が馬鹿だった。


    その時、いつの間にか近くにいた、レジ袋を持った晶さんが

    「…やべ…ヤーさんがおる…隠して…超怖い…。」
    と小さな声で呟き、智明の背に隠れた。

    やーさん…?
    店内を見回すと、胸元を開けたいかついお兄さんたちが少年誌を見ていた。
    …あぁ、あの人達か…。

    「…多分こっちには来ねえだろ…なんかヤクザにトラウマでもあんのか?」
    と、自分の背後にいる晶さんに話しかける智明。
    すると、晶さんが少しだけ顔を出し、恥ずかしそうに話し始めた。

    「…ちっちゃい頃な、ヤーさんの集団に「おっちゃんら怖いな!ちっちゃい子泣くで!」って言ったらめっちゃくちゃ怒られてん…それからトラウマ…。」

    …それ完璧晶さんが悪いよね。
    いくらあの人達でもそう言われたら傷つくよね。
    それ完璧晶さんが悪いよね。


    晶さんの話を聞いていたその時、視界の隅で、いかついお兄さん達が僕達のいる漫画コーナーに向かって来ている事に気付いた。
    …あの人達も漫画とか読むんだ…まぁ、好みは人それぞれだしね。
    「晶さん…お兄さんたちこっち来た、離れたほうがいいかも…。」
    と伝えると
    「わかった、ありがとうな…!」
    晶さんが僕にお礼を言ってから、店の奥の方にあるカフェに向かって早足で歩いて行った。


    …あんなに怖がるって事は…。
    もしかして、晶さんが言ってたあの言葉は冗談で…本当はもっと大変な思いをしたのかな。

    あのお兄さんたちから乱暴されたりしたのかな…?
    …だとしたら、許せないな。


    と思いながら、少し乱れていた漫画を綺麗に並べ替えていると胸元の開いた服を着た、ガタイの良いいかついお兄さんが僕に向かって話しかけてきた。

    「おい兄ちゃん、小説のコーナーってどこにあるんや」

    ヒェッ………怖い…。
    まさか…整理してたから店員さんだと思われたのかな…?
    智明も居ないし…あのチキン男め…逃げやがって!
    仕方ない…怖いけど僕の力でなんとかしよう…。

    いかついお兄さんに、恐る恐る
    「あの…僕、店員さんじゃないんですけど……。」
    と言うと、舐めるように僕の顔と服を見始めた。
    あぁ怖い…めっちゃ怖い…。
    「紛らわしいことすんなや!」とか言われるのかな…。
    怖い、たすけて…誰か…。

    「…兄ちゃん…。」
    「は…はい……」
    智明、明人君、彩さん、晶さん、朱里さん。
    お父さん、お母さん、よくお菓子をくれた叔父さん。
    今までありがとう。

    「すまんな…整理しとったから店員さんやと思ったわ…堪忍な!」
    …あれ…思ったより優しい…良かった……。
    「いえ…あの、小説のコーナーは多分あそこだと思いますよ…。」

    と、恐る恐る、小説のコーナーを指差すと、指差した方を見てから、また笑顔でこう言ってくれた。
    「そうか、ありがとうな!兄ちゃんここの店員向いとるんちゃうか?」
    「えへへ…そ…そうですかね…?」

    …なんか、この人が悪い人だとは思えないな…。
    まぁ、悪い人なんだろうけど…僕がイメージしてる人たちとはちょっと違うかも…。

    なんて考えていると
    「じゃあ小説見てくるわ、兄ちゃん堪忍な!」
    僕の頭をわしわしと撫でてから、小説のコーナーに向かって行った。
    そのお兄さんの背を見ながら、

    「…みんなあの人みたいに優しかったらいいのに。」
    と独り言を呟く。
    ……なんか…あの人誰かに似てるんだよなぁ…。
    誰に似てるんだろ…。

    ……ま、いっか。





    帰り道。



    カラオケに行った後ゲームセンターに行って次は本屋さんに…と、久しぶりに休日を友達と満喫した後、晶さんと偶然帰る方向が一緒だったから、途中まで一緒に帰る事になった。

    横からだと前髪と長いもみあげが邪魔であまり顔が見えないけど…晶さんって本当に美人さんだなぁ…。
    智明が言ってた通り、性別関係なくモテそうだ。

    今日一日で気付いたけど、晶さんはカラオケに行く道では自然と車道側に立っていたし、お話をする時もしっかりとみんなの目を見て話を聞いていた。

    男の僕でも尊敬するくらい紳士だし…でも完璧じゃなくて…本当誰からもモテそうだなぁ…。

    それに…

    「なぁ。」
    今日1日の晶さんの行動を振り返っていると、晶さんの方から話しかけてくれた。

    「?ど…どうしたの?」
    少し首を傾げながら尋ねると、優しく微笑みながら
    「明人さ、龍馬君と知り合えたことすっごい喜んでたよ、もし良かったらさ…今よりももっと仲良くしたげて。」
    と言った。

    …あぁ、こりゃあモテるな。

    「勿論!今度遊びに誘おうかなって思ったんだけど…いいかな?」
    と尋ねると、笑顔で「ええやん!」と言ってくれた。
    …晶さんって、周りの人のことちゃんと見てるんだなぁ。

    「あ、でもうちが「仲良くなれて喜んでた」って言った事明人には内緒な?明人恥ずかしがるやろうから…。」
    ほら、やっぱり完璧だ…。
    「ふふ、分かった!」

    僕も晶さんに弟子入りすれば今より少しはモテるのかな…。
    なんて考えながら晶さんから目を逸らし、自分の足を見ながら歩いていると…
    「そういえばさ…」
    また話しかけてくれた。

    「うち、龍馬君の事は遠くから見てるだけやったけど…思ったより明るくてびっくりしたんよ。」
    思ったよりも明るくて…?
    僕の第一印象って暗いのかな…。

    「ごめん、なんか…話しかけ辛かったかな?」
    と、少し首を傾げて尋ねると、首を横に振って否定し、焦りながら話し始めた。

    「ちゃうって!ただ…あんまり人と喋ってるイメージ無かったから、もっとクールな人なんかなって思ってたんよ。」
    「くーる…?僕が?」
    また首を傾げ尋ねると、頷き楽しそうに

    「うん!やけど話してみたら結構明るいしアホやし…正直びっくりした…!」
    と、言ってくれた。
    アホは余計だけど。

    「なら良かった…僕も晶さんはすっごく大人しくてクールな人だと思ってたからびっくりしたよ…!」

    晶さんを見て、少し微笑みながら言うと、少し目を見開いてから
    「えぇー?何言うてんの?今でもクールやろ?」
    と、カラオケの時と同じようにイケボで言った。

    「そうですねー、はいはい」
    「おい流すな!」


    …晶さんは楽しい人だな。
    隣で少しニヤニヤしながら歩いていると
    「あ、せや龍馬君!もう一個言いたいことがあるねん!」
    僕の肩を叩いてから、その場に立ち止まり、ゆっくりと話し始めた。










    「能力を持ってんのはお前だけやと思うなよ?」

    さっきまで話していた人とはまるで別人のように、冷たい目で僕をじっと見つめる晶さん。

    「え……なんで…能力の事を……?」

    その場に固まり、少し震えた声で話しかけると

    「それはこっちのセリフやっつーの…いっちょまえに目光らせよって…にわかのくせに。」
    と、後頭部をワシワシと掻きながら低い声で呟き始めた。

    …そっか、晶さん…僕が目光らせた時、彩さんの隣にいたんだ。

    「…彩ちゃんとの出会いに運命感じとんのか知らんけどな…お前と会わんかったら、彩ちゃんは絶対こっちを選んどるんや…これがどういう意味か分かるか?」

    僕の方に歩み寄りながら、さっきよりもさらに低い声で話す晶さん。

    気付いたら僕の目の前に立ち、僕の右肩をポン…と優しく叩いてから


    「龍馬、もう能力使うな。」

    と、彼女が口にした途端、彼女の瞳があの怪物のように黄色く光った。




    12話「俺にしとけよ」







    20XX年 4月23日 月曜日

    今日は夢を見なかった。
    いや、多分夢は見たんだけど全然内容を覚えてない。
    それより、昨日晶さんが言っていた言葉が気になる。
    晶さんの能力はどんな能力なんだろう。
    誰かの能力を真似するとか、人の真似をする感じの能力なのかな。
    なんて、僕自身の能力も分かってないのに、何考えてるんだろう。








    月曜日。


    「君さえ良かったら…僕と付き合ってくれない?」
    体育の授業が終わり、教室に戻ろうとした時、中庭から正統派なセリフで告白する、爽やかな男の声が聞こえた。

    青春してるなぁ…。
    …俺も、いつかあいつに言えたらいいな。

    なんて、寒いことを考えていると中庭からまた男の声が聞こえた。



    「…ダメかな?朱里さん。」




    …朱里………?

    中庭を覗いてみると、朱里と、恐らく朱里と同じクラスのイケメンな奴がいた。

    正直に言おう。
    俺は自分をかなりのイケメンだと自負しているが…
    告白してた奴はその俺でさえも認めるくらいのイケメンだ。

    それに動作もキッチリしてて…多分いいとこの坊ちゃんなんだろうな。
    …性格もしっかりしてそうだ。


    …そっか。

    朱里…いい奴見つかったな。
    俺なんかよりも、ずっと。

    中庭に背を向け、下唇をぎゅっと噛みながら教室へ帰る。
    …子供っぽいけど、心の中でだけでいい。
    朱里に一生伝わらなくて良いから言わせてくれ。


    絶対、
    俺の方があんな男よりお前の事を大事にできる。


    あのイライラから解放され、尚且つ癒しを補給する為に、教室に着いた途端明人に
    「あれ、お前髪伸びたな…?」
    と話しかけると、自分の髪の毛を触りながら小さな声で
    「…そうかな……自分じゃよくわかんないです…」
    と、言った。

    …やっぱ癒やされるわ、犬とか猫の動画を観た時と同じくらい癒される。
    こいつ子犬なんじゃね。

    「ちょっと伸びたんだしさ、これを機に前髪上げてみたらどうだ?結構いけてると思うぞ?自信持てよ。」
    と言いながら明人の前髪を撫でると、俺の手を離し、少し乱れた前髪を手で整えながらこう言った。

    「…いえ…大丈夫です…」
    「そっか…まぁお前の好きにすりゃいいけどさ、前髪下ろしっぱなしだったらデコにニキビできちまうから気を付けろよ?」
    と言いながら肩を優しく叩くと「…はい」と小さく返事した。

    …やっぱ癒やされるわ、子犬よりかわいい。

    髪の毛の話が終わり、明人に課題の事を聞こうとした時
    「こんにちはー…あきとくんのお友達?」
    と、のんびりした話し方の奴が話しかけてきた。

    こいつは…確か…扇…廉って名前だっけ?
    「おう、お前も明人の友達か?明人はモテモテだな!」
    と、言うと目を細めて笑いながら、明人の後ろの席に座った。
    「だよねー、嫉妬しちゃうよー…」


    …明人俺ら以外の友達もいんだな…良かった。

    金髪で、前髪を…なんだっけ、ポンパドールにしてて…?
    ラブレットが二つ、右耳に5つ、左耳に5つ、合計12個ピアスが空いてて、ワイシャツを第二ボタンまで開けて…?ズボンを右足だけ膝まで折った裸足にスリッパか…独創的なファッションだな、校則に囚われないスタイル、尊敬しちまうぜ。

    にしても…こいつキャラ濃いな、高校デビューではしゃいだ末に髪を金に染めた俺が言えたことじゃないけど。

    「レンとは良い金髪仲間になれそうだわ!よろしくな!」
    と、手を差し伸べると、目を細めて笑いながら俺の手をぎゅっと握り
    「綺麗な金髪でしょー、よろしくね!ともあきくん!」
    と言った。

    …明人の友達、良い奴そうで安心したわ。







    昼、一人で食堂に向かっていると、朱里が廊下で携帯を触っていた。
    「…あ……っ…。」

    朱里の顔を見た途端、告白されていた光景を思い出し、心臓がぎゅっと締め付けられる。
    …だめだ、もう諦めなきゃいけねえのに。
    ……俺なら大丈夫だ、金髪だろ。
    沢田智明。
    初めて髪を染めて龍馬に会った時のあの冷たい目を思い出せ。
    あれに比べたら失恋のダメージなんてちっぽけなもんだろ。

    「朱里!学食行かねえか!?」
    心の奥に沸く嫉妬を鎮めるように、朱里に駆け寄って話しかけると、こっちを見て
    「智明…!うん、行こ!」
    と、笑顔で答えてくれた。

    …やっぱマジで可愛いな、こいつ。

    …ダメだ、俺らはただの友達だ。
    略奪愛なんて趣味じゃねえ。
    ダチならダチらしくからかってやろうじゃねえか。
    そうだ、そうだ沢田智明。
    俺はラブコメの主人公じゃねえ、主人公は朱里だ。
    俺は三角関係の当て馬役だ。

    学食に向かいながら、朱里に告白されていたことを聞いてみるんだ。
    そうだ沢田智明。
    「そういえばさ?お前イケメンに告白されてたよな!羨ましいなぁ本当!!」
    と言うと、目を見開いてから
    「…見てたんだ…」と呟きやがった。

    「俺ラブコメ大好きだからさ、リアルであんなことがあるとは思わなくて…あ、勿論誰にも言わねえよ?」
    顔を覗き込み、そう言うと、首を軽く横に振り、こう答えた。
    「…良いんだよ、で、どこまで聞いた?」

    …ど…どこまで…?
    まさか断ったのか!?それとも「イケメン好き!抱いて!」とか言ったのか…!?
    どっちだ、どっちだ!!

    「…告白されるとこまでかな、それから先は俺が勝手に妄想しとくわ!」
    と言い、朱里の肩を叩くと、朱里も俺の肩を叩きこんな事を口走りやがった。
    「じゃあその妄想のサポートの為に言わせていただきます!」

    まじかよ、まじかよ、まじか。
    「おう!聞かせてくれ!」
    と言うと、朱里が笑顔で口を開いた。

    いや、聞きたくない、いや聞きたいけど、どういう反応をすれば良いんだ、待ってくれまだ心の準備が、落ち着け俺、脳内で掌に人を書いて飲み込むんだ、いいな。人人人。おちつけ、おおちつけ、おつつっkおちっつりおちつくおちつけとにかくおちつけ。さwsだともあき。誰だそれ。

    「好きな人がいると断ったでござる。」
    ふぁっ
    …しまった、変な擬音出しちまった。

    …待てよ、好きな人だと?それより…断ったんだ…それは…よ…良かった…。
    でも好きな人…?あんなイケメンに告られて「好きな人がいる」って断るって…朱里に好かれてるやつってどんだけいい男なんだよ…羨ましいな畜生…代わってくれ…。

    …よし、落ち着け、俺。
    いやもう落ち着いてんだよ、最早口癖になってんな。
    「え?好きな人って誰だよ!聞かせろ!!」
    無理矢理笑顔を作りながらそう言うと
    「言わないよ!自分で考えなー?ほら妄想妄想!」
    と、からかうように答えた。

    …そんな事、言われたら



    「…俺の都合の良いように考えちまうけど、それでも良いのかよ。」

    気付いたら、そう言っていた。
    訂正しようにも訂正出来ず、黙り込んでしまう。

    廊下の喧騒が遠くに聞こえて、何故か耳の奥で昔聞いたバラードが流れていた。
    『意味深な歌詞の羅列』から始まるバラードで、捉え方によって意味が180度変わってしまうような歌詞の、そんな曲が。

    喉と眼球がカラカラに乾いたその時、朱里がほんのり頬を染め
    「……それで良いんだよ、馬鹿明。」
    と答えてから、俺を置いて食堂へ向かった。


    両想いだと気付いたのは、耳の奥に流れている曲がバラードじゃないと気付いた時だった。





    13話「弱いものいじめ(笑)」



    4月24日、火曜日。
    授業のための準備をしていると、ふと、何かを必死で探している明人くんが視界に入った。
    …どうしたんだろ。

    「明人君…?」
    椅子から立ち上がり、明人君の席へ向かうと、後ろの方からクスクスと女の子達の笑い声が聞こえた。

    ……?何だろ…。
    「どうしたの?何かあった?」
    元々曲がっている背を更に曲げ、ずっと一人で何かを探している明人君へそう尋ねると、震えた声でこう呟いた。

    「…僕の…筆箱がなくて…。」
    「…?筆箱?」
    ………なるほどね。
    明人君の肩を優しく摩ってから、後ろの方で話している女の子の集団の方へ視線を移動させてみると、僕達からサッと視線を逸らし、またクスクスと笑い出した。

    …本当に陰湿だな、もう。

    すると、僕たちと女の子達を見て何かを察したのか、智明が女の子達の方へ向かい
    「なぁ、お前らなんかしたのか?」
    と、尋ねた。
    しかし女の子達は「何が?」ととぼけている。


    「…見つかるまで僕のペンと消しゴム貸してあげるね。」
    俯き、手をぎゅっと握りしめている明人君にそう伝えると、震えた声で
    「ありがとうございます…。」と呟いた。


    ……クソ、許さねえぞあの女共。
    …あれ、何言ってんだ…僕。






    昼休み、明人と龍を学食に連れて行く前、
    「おい、お前ら」
    と、教室の後ろの方でたむろってる女グループに話しかけてみると、リーダー的なポジションにいる女が目を輝かせ、こちらに近づいて来た。

    「智明!どうしたの?」
    「いやさ、明人が筆箱なくて困ってるらしいんだわ…お前ら明人の筆箱見てねえか?」
    怒りを隠す為に、出来るだけ明るい声でそう尋ねると、わざとらしく「さぁー?」と首を傾げやがった。
    そいつに一歩詰め寄り、
    「本当に、知らねえんだな?」
    と、いつもより低い声でそう言っても
    「知らないってば!」と半笑いで否定される。

    …そういうのは知ってる奴がする反応なんだよな。

    リーダー格の女から目を逸らし、他の女を見てみると、その中の一人の女がゴミ箱を見ながらくすくすと笑っている事に気付いた。
    …まさか。

    ゴミ箱を覗き込むと、アリスのアクキーがついた筆箱が、埃まみれのゴミ箱の中に捨てられていた。
    …これ、多分…明人のだ。
    このアクキー…龍馬と交換した明人の宝もんじゃねえか…。

    筆箱を拾い上げ、埃を手で払い落とす。
    すると、俺の行動で気が付いたのか、明人がこっちに来た。

    「明人…これ、お前のか?」
    と尋ねると、筆箱を手に取り、唇を強く噛み締めてからゆっくりと頷いた。
    「……大丈夫か?」
    そう問いかけながら明人の背を優しく撫でると、シャツが濡れていることに気付いた。
    ……今日は雨降ってねえし…。

    ………典型的なやつか。
    まだ4月だぞ、馬鹿じゃねえの…。
    「…そのシャツ濡れてて持ち悪いだろ、俺のジャージ貸してやるからそれに着替えろ、いいな。」
    明人の背をポンポンと叩きそう伝えると、首を振り、か細い声で「大丈夫」と呟いた。

    「大丈夫じゃねえだろ…。」
    …確かに…こういう状況だったら拒否したくなっちまうよな。
    「どうせ迷惑になる」とか「巻き込んでしまう」とか考えちまうか…。
    んー……どうしたもんか…こういう場合は放って置くのも一つの手だけど、身体が冷えちまうしな…。

    と悩んでいると、後ろでたむろっている女達の笑い声が聞こえた。
    …クソが。

    そいつらの前に立ち、
    「お前らは明人が気に食わねから笑えるんだろうけどさ?明人が大好きな俺らからしたらクソほど笑えねえよ。」
    と言うと、そいつらの顔が引きつった。

    「…生活指導の先生怖えから注意されたくねえだろ?…だからもうこんな事すんのやめろ。」
    後頭部を掻きながらそう言うと、リーダー格の女が明人をギロリと睨んでからゆっくりと頷いた。

    「……それならいい!おい龍!明人!飯行くぞー!」
    女達から顔を逸らし、いつも通り二人に話しかけると、明人が小さい声で
    「…ありがとうございます。」と呟いた。

    「…気にすんな、早く気付いてやれなくてごめんな。」
    「いえ…気にしないでください…。」
    「…また何かしてきたらすぐ言えよ、俺らが守ってやるから。」
    明人の肩を抱き、そう言うと
    「はい……借り、できちゃいましたね。」
    と笑いながら言った。
    …ちょっと元気出たか、良かった。

    「だな!将来万倍にして返せよ?」
    と、明人の顔を覗き込み、いつもより高い声で言うと、クスクスと笑った。

    …何でこいつが女子に気に入られないのか分かんねえな…。
    嫉妬みたいなもんか?







    食堂に到着し、隅にある四人がけのテーブル席を取る。
    ラーメンを運び、明人の頼んだサンドウィッチの隣に置くと、ふとバイトのことを思い出した。
    やっべぇ…今の今まで忘れてた…。

    「そういえばよ、俺今日からバイトする事になったんだ」
    と言うと、龍馬が少し驚いた顔をしてこう聞いて来た。
    「そうなんだ…どこのお店?」
    「駅ん中にあるラーメン屋、あそこの店長と俺の親父が仲良くてさ、俺さえ良ければ働かないかって言われたんだ」

    と説明すると、龍馬が頷き
    「そうなんだ!今度二人でいこっか!」と明人に話しかけた。
    明人は龍馬の言葉を聞いて嬉しそうに何回も頷いてる。
    …前より仲良くなったんだ、良かった。

    「じゃあお前らが来るまでにバイト慣れとかなきゃな!かっこ悪いとこ見せたくねえし!」
    「じゃあ今日行こ!」
    「おい、話聞いてたか、慣れるまで来んなって言ってんだよ。」





    14話「笑える」









    教室から、複数の人の声が聞こえた。
    当たり前といえば当たり前なんだけど、不自然にガヤガヤしてる。
    ……何かあったのかな。
    と思い、そっと教室を覗くと、明人君の周りを見覚えのある女の子達が囲んでいた。

    「あんたさ?智明に守ってもらったからって調子乗ってんでしょ。」
    と、明人君の前髪を掴みキレる、いじめの主犯格の女の子。
    …智明は…そっか、今日バイトか…

    本当陰湿だな、もう。
    …止めに行こう。
    微力だしヘタレだけど…僕も明人君の救いになりたい。

    「ちょっと…!何し…。」
    教室に足を踏み入れると、クラスメイトの一人が僕の前に立ちはだかり
    「おいおい!邪魔する気ー?」
    と、半笑いで止めてきた。

    …なんなの、誰この人…。

    「…明人君をいじめる必要ないでしょ?」
    クラスメイトの顔をじっと見て言っても
    「あんなのいじめじゃねえって!」と躱される。

    ……あれがいじめじゃない?
    明人君の前髪を強く掴んで罵るのがいじめじゃない?
    どう考えてもあれはいじめでしょ…本当胸糞悪い…。
    …くそ…。

    ……そうだ、あの能力って使おうと思えば使えるのかな。
    「…僻みとか嫉妬でいじめるなんて下衆がやることだよ。」
    と、目に力を入れて言ってみても、少しだけ驚いてから
    「何…手品?カラコン?へー、上手だねー!」
    と馬鹿にされてしまった。

    …クソが、空気の読めねぇ馬鹿だな。


    「…どいて、明人君に意地悪する必要なんてない!」
    無理矢理通ろうとしても、そいつに邪魔をされて通れない。
    「明人君…!!」

    名前を呼ぶと、明人君が恐る恐る、僕の方へ顔を向けてくれたんだけど…。

    その彼の頬が、びっしょりと濡れていた。



    …泣い…てる…。


    「あき…と…君……。」
    …僕が…もうちょっと…智明みたいに力があれば…。
    ……。
    「はいはい仲良しだねー!おら早く帰れよ!」
    ショックで軽い放心状態になっていたせいで、ろくに受け身が取れず、思い切り廊下に倒れ込んでしまった。

    「ぐっ…!」
    腰思いっきり打っちゃった…。
    ……いや、僕よりも明人君の方を優先しなきゃ。

    …目を光らせるのがダメなら…。
    ……そつだ、他の夢を使おう。

    と思い、少し前に彩さんが見せてくれた夢を思い出す。
    何か、何か……明人君の助けになれる夢を…。
    智明みたいに軽く躱して…2度と手を出させないようにする…そんな感じの…強い人の夢…。

    必死に脳を回転させていると、ふと、一片の報いのアリスの顔が浮かんだ。
    あの、冷酷な執事を。

    ……そうか、アリスになればいいんだ。
    明人君もアリスが好きだって言ってたし、ちょうどいい。

    そう決意し、そっと立ち上がると、全身にじわじわと怒りが満ちていくのを、腰の痛みや喜怒哀楽までもが脳の隅に溶けて消えていくのを感じた。

    アリスは、こんな感覚をいつも味わっていたんだな。
    「んだよ、しつけえな…早く帰れって!!」

    僕の身体を突き飛ばそうと伸ばされた右手の手首を掴み、ぐいっと僕の方へ引き寄せてから、少し背伸びをして、そいつの耳元にそっと囁く。

    「……どけよ、モブが」
    「………っ…!!」


    クラスメイトを掻き分け、明人君の方に向かう。
    「りゅうま…さん…りが……ござい…ます……。」
    すると、明人君が僕が来たことに気付いた途端、更に涙を流してしまった。

    …明人君…怖かったね。
    僕が来たからもう大丈夫だよ。
    「…帰ろっか、明人君。」
    微笑んでから明人君の髪と頬を撫でると、涙を拭いながら小さく頷いてくれた。



















































    その時の僕は気付かなかった。

    いや、気付くはずもなかった。

    涙を拭いながら、何回も頷き、

    僕に「ありがとうございます」と何回も呟く








    明人君の頬が、ニタリと歪んでいることに。








    20XX年 4月25日 水曜日

    今日は夢にまた怪物が出てきた。
    今度は、おっきいビル街に
    怪物を見て、人が叫びながら逃げていた。
    小さい子が怪我をして、お母さんの名前を呼んでいたのが印象的だった。
    すると、怪物が僕を見て、僕めがけて襲いかかってきた。
    僕は怪物から逃げる為に色んな所を走った。
    フェンスとか、ビルとビルの間を飛び越えたり…
    正直、結構楽しかった。
    これこそ夢って感じだよね。
    まぁ、最後はビルから落ちて終わったけど。



    15話「弱いもの(笑)」


    5月2日、水曜日。

    明人君がいじめられていた日から、ちょうど一週間が経った。
    あの日から一週間しか経ってないからか、毎日のようにあの日を思い出しては、何故かとてつもなく不安になってしまうんだ。

    また明人君がいじめられてしまうんじゃないか、とか。
    今度は僕までもがターゲットになるんじゃないか、って。
    まぁ…最近はいじめられないって明人君が言ってたし…今のところは安心しても大丈夫なのかな。

    なんて事を考えながら、ざあざあと激しく降っている雨を見ていると、靴箱から僕の方へ走って来るような足音が聞こえた。

    少し気になって後ろを振り向くと、体力が無いのか、僕から少し離れたところで呼吸を整えている明人君がいた。

    「明人君…、どうしたの?忘れ物?」
    傘の柄に充てていた手をそっと離し、明人君に恐る恐る話しかけると、こっちに少し近寄ってから話し始めた。

    「ごほっ…あ…あの…明日…暇ですか?」
    「明日…暇だけど、どうしたの?」
    と尋ねると、「良かった、」と小さく呟いてから
    「…この前の、お礼をしたいんです…だから…その……」
    と、湿気で少し髪が広がるのか、自分の後頭部を撫で、僕の顔色を伺いながら、恐る恐るこう言葉を続けた。


    「…僕の家、来てくれませんか…?」








    次の日、明人君に家の住所を教えてもらい、携帯の地図を見ながら家へ向かう。
    まさかゴールデンウィーク初日に明人君と会えるなんて思わなかった…。

    「……ここ…かな?」
    地図と辺りの景色を注意深く見ていると、大きなマンションの前で、僕を待っている明人君を見つけた。

    「龍馬さん…!」
    僕に気付くと、まるで飼い主を見つけた子犬のようにパタパタと駆け寄ってくる明人君。

    「明人君、お待たせ!」と言うと首を振り小さな声でこう言ってくれた。
    「全然…待ってませんよ…!」
    …優しいなぁ、明人君。





    「今度僕の家来る?大したおもてなしはできないけど…。」
    「え…い、良いんですか…?」
    「勿論!」
    明人君と二人で軽い雑談をしながらマンションのエレベーターに乗っていると、ふと智明のことを思い出した。
    「そういえば明人君、智明の事は呼ばなくていいの?」
    と言うと、忘れていたのか、携帯を取り出して智明にメッセージを送り始めた。

    ま…まさか忘れてたとは…。
    いつもは僕が忘れられてる側なのに…ちょっと新鮮だな…。
    すると、明人君が何かを察したような顔で
    「…龍馬さんに言ってもらうまで智明の事忘れてました…。」
    と、まるで一つ一つの単語を確かめるようにゆっくりと呟いた。
    …明人君って結構ドジなところあるんだなぁ…。


    「じゃあ言わないほうがよかったかな…?明人君のお礼独り占め出来たかも…。」
    エレベーターから降り、そう言いながら、わざとらしく口角を上げて笑ってみると、少しだけ戸惑った後、クスクスと笑ってくれた。

    …本当に可愛いな、明人君。




    「…あ…ここです…ちょっと待ってくださいね…。」
    明人君が、エレベータから少しだけ離れた位置にある黒い扉の前に立ち止まり、ポケットから取り出したカギをカギ穴に差し込んで、ゆっくりと扉を開けた。
    306号室なんだ…またお邪魔する時があるかもしれないし覚えとこ…。

    「お邪魔します…!」と言いながら靴を脱ぎ中に入ると、中は思ったよりも静かで、少し違和感を感じた。

    「…一人暮らしなの?」
    と聞いてみると、首を横に振り小さな声で答えてくれた。
    「いや…姉さんと住んでます…今日は大事な予定があるみたいで、朝から留守にしてますけど…。」
    姉さん……?彩さんと一緒に住んでるんだ…。
    なんか、ちょっと…羨ましいかも…なんて。
    …いや、ダメだ、何考えてんだ僕…。
    なんかちょっと変態チックになっちゃったし…冷静になろう、深呼吸深呼吸。

    「龍馬さん…?どうかしましたか?」
    「ん?何でもないよ、心配しないで。」
    「そ…そうですか…?」
    「大丈夫大丈夫。」
    「あ…ならいいんですけど…部屋…こっちです…。」

    明人君に案内され、玄関を入ってすぐの場所にある部屋の中に入る。

    明人君の部屋は黒と白で統一されてて、タンスの上とか色んなところにアニメのグッズやポスター、それと綺麗な風景の写真が飾ってある。
    センスいいなぁ…

    タンスの隣にある本棚には、漫画や小説が1巻から丁寧に並べてあり、明人君の綺麗好きな性格が出ていて…でもよく見ると、漫画と小説で隠すように…BL本と思わしき者が並べてあった。
    上手だなぁ、明人君…。

    部屋の隅にあるベッドには、枕元にクッションやペンギンさんのぬいぐるみが並べてある。
    …このペンギンさんお気に入りなのかな、かわいい…。

    部屋をきょろきょろと見渡していると、明人君が何かに気付いたような表情をしてからこう言った。
    「あ…ここ…座ってください…。」
    「ご…ごめんね…明人君…ありがとう…。」
    …座る場所に悩んでた事バレちゃった…。

    明人君が指を刺した場所へ腰を下すと、明人君が何かに気付いたように小さく声を上げ、小さな声で
    「あ…そうだ…飲み物、持って来ますね…。」
    と呟いてからニッコリと微笑み、部屋から出て行った。

    …そんなに気を使わなくていいのに…いや、普通使っちゃうか…。

    …なんか…落ち着かないな……どうしよ…。
    にしても…明人君の部屋って整頓されてるな…僕の部屋とは大違い…。
    なんて思いながら明人君の部屋をまた見渡していると、目の前の机の下にある引き出しが少し開いていた。

    …机の中に引き出しがあるならここに本隠せばいいのに。

    と思いながら引き出しの中をそっと見てみると、中にノート3冊と写真が入った分厚いファイルが入っていた。
    ノートにはそれぞれ番号と日付けが振ってあり、ファイルにも同じく番号が書いてある。


    「……なんだろ…これ…」

    明人君への罪悪感より、好奇心の方が勝ってしまい、適当にノートのページを開く。







    後でノートを見たことを心から後悔するとは知らずに。



    16話「ねえ、びっくりした?」


    ノートには、こう書かれていた。






    __________________________



    5時34分起床
    二度寝、7時24分起床、目覚まし時計を破壊。
    目覚まし時計に怒ってるあの人が可愛かった。
    起きた後すぐに洗面台に行き冷水で顔を洗う。
    歯を磨き、隣の家の猫に餌をあげ、自らも朝食を食べる。
    朝食は2日連続インスタントの焼きそば。
    朝食がインスタント…料理が出来ない貴方も可愛い。
    携帯で予定を確認しながら朝食を取り、始業式だと言うことを確認する。
    焼きそばを片付け、制服に着替え、大急ぎで自転車に乗る。
    高校に到着し、自転車を降り、階段を大急ぎで駆け上って時計を確認し安心する。

    クラス表がなかなか見れなくて背伸びをしてたのが最高に可愛かった。
    あの人に話しかけられた晶が憎い。
    僕に頼ってくれたら人なんてかき分けられたのに。
    それと智明という男が憎い。
    あの人の背中を叩いてた。
    ただ幼馴染なだけであの人をバカにしてる。
    僕だっていつでもそばにいるのに、なんであいつばっかり。

    始業式
    幸せ、目が合った。
    4回もこっちを見た。
    目が合った時笑ってくれた。
    笑ったって事は不快じゃないって事。
    見てても不快じゃないならずっと見てていいかな。
    あの人以外の自己紹介なんてどうでもいい。
    あの人の好きなタイプは友達思いな人。
    自分は当てはまっているかな。
    あの人の事ならいつでも思ってる、それじゃダメかな。
    ダメだろうな、僕は貴方の友達じゃなくて恋人になりたい。

    あの人が話しかけてくれた。
    あの人からすごくいい匂いがした。
    自己紹介なんていらない、名前も何もかも全部知ってる。
    智明に肩を抱かれた、鬱陶しい。
    あの人に肩を抱かれたい。
    あの人の笑顔を間近で見れた、幸せだ。
    あの人がまた僕をじっと見つめた、幸せ。
    智明は邪魔だけど、いつか二人で出かけたい。

    智明と揉めてるあの人も可愛かった。
    正直、あのまま喧嘩してて欲しかった。
    そしたら、あの人のそばにいる人が僕だけになる。
    いつかそうなってほしい。
    でもあの人が『僕を巻き込みたくない』と言ってくれた。
    両思いかな。
    両思いだ、きっとそう。
    そう思い込もう。

    あの人に名前を呼んで貰えた。
    嬉しい、何回も呼んでもらえるようにいっぱい話しかけなきゃ。
    でも、あの人が気に入ってるこのキャラも大切。
    本性を出したら絶対に嫌われる。
    晶の言った通り、弱い人間のフリをしなきゃ。

    フードコートで姉さんの友達と会った。
    あの人以外からの好意なんて、不快でしかない。
    それが姉さんからでも。
    あの人とご飯を食べた。
    たこ焼きを選んで正解だった。
    いつもより何倍も美味しかった。
    幸せだ、もう、死んでもいい。

    あの人とゲームセンターに行った。
    音ゲーをしてたらあの人がずっと隣にいた。
    心臓が壊れるかと思った。
    幸せすぎる時間だった。

    IDを交換した、スクショして印刷したい、愛おしい。
    それとあの人がバイトをしているコンビニを見つけた。
    目をつけてたコンビニの1つだった。
    勤務時間は大体予想できる。
    5回に1回くらいの確率で会えるように計算しよう。
    そうじゃなきゃ偶然会えたって状況にならない。
    あの人のバイトしてる姿は、きっとかっこよくて世界で一番素敵だ。


    僕は、7月8日生まれのO型
    好きな食べ物はハンバーグで
    嫌いな食べ物はタコと魚介類
    タコが嫌いな理由は吸盤の食感。
    魚介類が嫌いな理由は小さい頃歯茎に骨が刺さったトラウマ。
    猫派できのこ派つぶあん派な
























    松田龍馬
    貴方を愛している。
    貴方の為なら、なんだってできる。


    ___________________________



    「…えっ……。」

    なんで…僕の事を書いてるの…。
    それに、愛しているって…。

    脳の処理が追いつかないまま、次のページを開くと、こんな事が書かれていた。









    ___________________________




    龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん龍馬さん

    __________________________________





    反射的にノートを閉じてしまった。

    「…何……これ……」

    手が震え、目が忙しなく動く。
    脳に汗が流れるような感覚がし、うなじに意識が集中する。
    脳が自分の許容範囲を超えた時、人はこんな感情になるのかと感じた。


    まさか、と思い写真の入ったファイルを開くと、
    予想通り、僕の写真がみっちりと入っていた。

    どこを開いても全て僕が写っている。
    制服姿や寝起き、それに着替えている時やお風呂に入ってる時の写真まである。

    中には、どこで手に入れたのか、中学の時の修学旅行で、智明と一緒に撮影した写真もあったけど、智明の部分だけが雑に切り取られていた。

    ……なに…これ……。

    脳が正常に働かないまま、ファイルをパラパラと開いていると、挟まっていたのか、一枚の紙が落ちてきた。

    そこには、乱雑に書かれたノートとは違い、とても綺麗な字でこう書かれていた。


    「龍馬さん
    今引き出しの中を見ていますね?
    ええ、貴方の行動なんて全て分かっています。
    ここに隠したのも、部屋に一人にしたのも
    連絡先を交換したのも
    あの日貴方に誘ってもらえるように
    前髪を伸ばして貴方のお気に入りになったのも
    全部、今日という日のため。」


    背中に、汗が伝う。
    手が震え、恐怖で声が出ない。






    その時、扉が開き
    鍵がカチャリと閉まる音がした。

    「……やっと捕まえた…まさか一年もかかるなんて。」

    首を少し傾げ、ドアの前でニタリと微笑む明人君。

    額から頬へ汗が流れ、顎を伝い太ももにポトリと落ちる。

    (…逃げなきゃ)

    そう決意するも、足がすくんで動けそうにない。
    顔を上げると、すぐそこに嬉しそうに笑う明人君が。

    抵抗の為、声を必死で絞り出すと
    「……怖いよ…明人君…」
    怯えからか、自分の声じゃないような震えた声が出た。


    すると、この声のおかげか、明人君がピタリと動きを止め、目を見開き僕をじっと見つめた。
    「…龍馬…さん……。」
    …よかった…やめてくれた。

    しかし、そんな明人君の口から出た言葉は、僕の予想を裏切る言葉だった。






    「…あぁ…やっぱり…怖がってる貴方も可愛い…。」



    少し首を傾げ、自分の唇を撫でながらそう呟く明人君。
    髪の隙間からちらちらと見える目で見つめられると、恐怖が倍増し、また体が強張った。


    ど…どうしよう…こういう場合ってどうすれば…。
    なんて考えていた次の瞬間、腕を掴まれ、床にぐっと押さえつけられてしまった。
    明人君の華奢な身体からは想像もできないくらい強い力で。
    「あ…明人君……?」
    「龍馬さん…貴方をこうして愛せる日をどれだけ夢想したか……。」

    と言いながら、顔をぐっと近付けられる。
    目に明人君の前髪が入りそうで、ぎゅっと目を瞑ると、クスクスと笑い

    「…ふふ……このままじゃしにくいので、ちょっとピンで止めますね。」

    と言い、ポケットからピンを取り出し、慣れた手つきで前髪を横に留め、また僕の腕を押さえつけた。

    こんな状況で言える事じゃないかもしれないけど、明人君は、本当に顔が整っているなぁ、と思っってしまった。

    すると、僕が見惚れていることに気付いたのか、僕の目をじっと見つめ、こんな事を話し始めた。



    「龍馬さん、僕の顔よく見てますよね。
    かっこいいですか?可愛いですか?ブサイクですか?
    今よりも綺麗な二重が好きならメイクについて詳しくなります。
    鼻が今よりも高い方が好きならすぐに整形します。
    この目が怖いですか?なら今すぐにでも抉ります。
    顔だけじゃない、
    体型も性格も名前も性別も何もかも
    全て貴方の好みになります
    胸は大きめが好きですか?
    足は細い方が好きですか?
    全部教えてください。
    僕も、貴方に全部を教えます。
    だから…お願いです。
    もう二度と、その綺麗な瞳には僕しか映さないで。」



    僕から少し顔を離し、馬乗りの格好で自分のカッターシャツのボタンを外し始める明人君。
    そんな明人君の行動を見ていると、これからされる事が過ぎり、血の気が引いていく。


    「明人く…やめ…」

    否定する言葉を言い終わる前に、

    強引に唇を奪われた。


    「ん″…っ!ちょっ…。」

    明人君から顔を無理やり背けると、ガリッと音が鳴り、僕を見下ろしている明人君の唇から、ジワリと赤色の何かが滲み始めた。

    「………っ…。」
    …唇…噛んじゃったんだ…。
    「……!ご…ごめん……。」

    反射的に謝罪の言葉を口にすると、優しく微笑み
    「…良いですよ、気にしないでください。」
    と言ってから、唇の切れた所を舐め、また僕にキスをして来た。

    僕の顔を強く押さえ、まるで…今度は背けるなと言っているかのように舌を侵入させ、僕の口内を犯し始めた。

    口の中に、じんわりと鉄の味が広がる。

    「…ぅ………ん…ッ…。」
    明人君の胸を押して抵抗をしてみても、僕の手を掴んで指を絡め、逃げられないように押さえつけてくる。
    「あ……明人く……ッ…!」

    僕から唇を離したと思ったら、今度は頬や鎖骨、首に軽くキスを落とされる。


    静かな部屋に、軽いリップ音と布の擦れる音が響いている。

    「明人君……やめて…」
    と言いながら、明人君の体を押して僕から離そうとしても、明人君の力は僕なんかより何倍も強くて、いくら押してもビクともしない。



    そして、僕が一番恐れていた事をし始めた。

    「ちょ…っ…!どこ触って……ッ…明人く……っ……!」
    僕の服の中に侵入してきた明人君の手を掴み、腕を離そうとすると、とある事に気付いた。
    明人君の手や唇が震えている事に。

    …明人君?

    震えている明人君の手をそっと撫でると、何か異変に気付いたのか、明人君が僕の顔色を伺いながら
    「…優しくしますよ。」
    と言った。
    「…っ…そういう問題じゃ…それに僕達………!」

    明人君が綺麗だから忘れていたけど…明人君も僕も男なんだ。
    それも…大切な友達。
    その大切な関係を……こんな事で壊したくない。


    「…なら立場入れ替えます、僕が女役に…」
    「ちょっ……何が?どういう事……!?」


    その時、インターホンが鳴り

    その直後に、智明の声が聞こえた。


    「明人ー!来たぞー!」


    「…智…明………」

    そっと親友の名前を呼ぶと、明人君の纏う雰囲気がひんやりとした雰囲気に変わった。

    「……クソ。」
    と、呟いてから、ブチっ…と髪が抜けるくらいの勢いで、前髪を止めていたピンを取って僕から立ち上がり、扉の方へ歩いて行った。

    …何を…する気なんだろう…。
    それより…明人君…なんで…震えて…。
    怖いのなら、しなきゃいいのに…。
    なんて事を考えていると、明人君が智明を部屋に連れて来た。


    そんな明人君に焦ったのと、僕の服が乱れているので察したのか、
    「…何してんだ、明人。」
    と言い、明人君を少し睨む智明。

    「智明には関係ないよ。」

    いつも通り、智明に向かって優しい口調でそう言う明人君。
    そして、智明に微笑んでから、





    ドスン…と、智明のお腹を思い切り殴る音が響いた。



    「ぐっ…!!」
    お腹を押さえ、座り込む智明。

    「智明!!」


    その智明を見下ろし、前髪を手で分けながら





    「…だから引っ込んでろよ…ぶっ殺すぞ。」


    と、低い声でそう言った。



    「…明人…く……ん…??」

    …明人君が、智明を殴った…?
    頭の整理が追いつかず、うずくまる智明と明人君を交互に見つめる。

    …それに…あの口調…。
    ゲームしてるときみたいな…あの口調…。

    焦りで、さっきの明人君みたいに手や指先がカタカタと震える。
    すると、僕の方へ近づき、
    「…あは…びっくりしました?」
    と、優しい口調で言ってから、僕の胸元のボタンを留め、僕の髪を撫でながら微笑む明人君。



    ……びっくりどころじゃないよ…こんなの……。

    …悪い夢でも…見てるのかな。
    正ちゃん Link Message Mute
    2022/06/21 11:37:03

    本当の主人公2章

    #オリジナル #創作 #オリキャラ #一次創作 #HL表現あり #BL表現あり #本当の主人公

    more...
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