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    本当の主人公 8章68話「伏線回収」69話「Blow」70話「一片」71話「本当の主人公」72話「こんなのただの文字列」73話「チェーホフの銃」74話「実質最終話」
    68話「伏線回収」

     昔、心優しい青年がいた。
     彼は誰に対しても公平に接し、皆から愛される要素全てを兼ね備えている。
     彼の表情や言動、体格に声、彼を形成するもの全てが魅力的で、彼と接した全ての人は彼に魅了され、彼は性別を問わず全ての人間から愛されていた。

     青年の名は沢田智明。

     そんな完全無欠な彼には、親友がいた。
     誰に対してもいい顔をし、接した人皆が苦手意識を持つような人間だ。
     表情は地味で陰険で、彼を形成したものはすべて偽物だった。

     親友の名は松田龍馬。僕だ。


     一人称が変わったのが始まりだった。
     自分の事を「りゅうま」と名前で呼んでいた僕。
     成長するにつれ自我が芽生え、名前で呼ぶことに恥じらいを持った僕は、小学校に上がるくらいのタイミングで、自分を表す漢字一文字を決めることにした。


    「俺」


     冷ややかな視線。

     僕は、可愛かったらしい。

     それから始まった

     母親の

    「智明君の真似か」

     その言葉から全部変わっていった。

     智明は、小さい頃から背が高くて、器用で、でも内気で。
     僕とは正反対だったから、二人でよく言っていた。

    「中身が反対だったらいいのに」

     いつの間にか、そうなっていた。

     でも、でもさ、一つだけ言わせてくれよ。
     僕はまだいい。智明だよ、問題は。
     智明はただ背が高かっただけ。
     筋肉質だっただけ。
     なのになんでみんな智明に強さを求めんだよ。
     どうせお前らこれ読んで笑ってんだろ?
    「作家になりたいとか言ってたくせにこれか」とか思ってんだろ?


     キーボードを強く叩く。
     唇に髪が触れた。
     人の真似をできる自分に気付いた。

     なんだ、僕、チート能力持ってる。

     主人公みたい。

     僕、もう泣く必要ない。


     てか、今思ったんだけどさ?智明はなんで俺と同じ高校通ったのかな?
     俺みたいな根暗と一緒で…とか言ったらあいつ怒るかな。


     内気で、アリにすらビビってた智明が、怒って、俺の顔面ぶん殴ってくれるのかな。



     もし、そうなら。

     そうなったら、僕は。



     頭に響く朱里さんの言葉。



    「もしもし晶さん?ちょっと、良いかな?」

     この行動で、何もかもが変わると信じて。



    69話「Blow」



    「話したい事があるから、学校が終わったら前話してた駐輪場に来てくれたらうれしい」
    低く、冷静な龍馬さんの声。

    突然だった。
    突然の、龍馬さんからの誘い。
    僕たち一人一人に電話でそう伝えた龍馬さん。

    姉さんは目を見開いて驚き、晶は「少し嫌な予感がする」と言っていた。
    朱里は何も言わずに頷いて、智明は僕たちみんなの顔を見比べてから「行こう」と言った。


    「龍馬、もう来てたんか。」

    晶が手を振る。視線の先には私服の龍馬さんが。
    龍馬さんは少し照れくさそうにこう言った。
    「まぁ呼んどいて遅れるのは違うしね…。」
    「はは、確かにそうだな。」

    龍馬さんの言葉に返事をしながら鞄をそっと地面に置く智明。
    その横に自分の鞄を置くと、晶があたりを見渡しながらこう言った。
    「ええ場所やな…初めて来たけどここに自分の骨埋めたいくらいや!」
    「初めてじゃないじゃん…。」
    「え?初めてやけど…?」
    「なになに、なんか食い違ってる…?」
    「来たじゃん!まえ!」
    「え…?来たっけ?」

    …みんなの会話が遠くに聞こえる。

    そして思い出す。
    一度家に帰るという智明と、トイレに行きたかった朱里と晶の為に、龍馬さんのマンションの前で待ち合わせることにした事を。

    「…明人君、大丈夫?」
    ぼーっとしている僕に気付いた朱里がこう話しかけてくる。
    「…大丈夫、お前は?」
    そう尋ねると、朱里は頷き
    「平気だよ…でも、晶の言ってた「嫌な予感」って何なんだろって思っただけ…。」
    と言った。

    …確かに、晶の勘は結構当たるし…龍馬さんが誰かを呼び出すなんて…ちょっと、意外だから、本当に…何か、駄目な事が起こるかもしれないな。



    「いきなりだけどさ、僕って地味だよね?」

    …本当に突然だな。

    「じ、地味って…?」
    姉さんが龍馬さんにそう尋ねる。
    すると龍馬さんは頷き、こう続けた。

    「身長168、体重59、筋肉もなければ声も間抜けでおまけにこの顔。」

    …。

    「僕と仲良くしてくれる人たちはみんな智明を見てて、僕の本質になんて微塵も興味なさそうで…仕方ないよね。」

    …は?
    なんで龍馬さんが自分を卑下する必要があるんだ…?

    気付いたらこう言っていた。
    「龍馬さんは魅力的ですよ!線が細そうに見えて実は意外と筋肉質で…!声だってかっこよくて顔だって」
    「君が僕を好いてくれた理由は僕と僕のお父さんが瓜二つだったからだろ。」

    …!

    「僕はいつも誰かのおまけで、誰かの代わりで、誰かの、過程でしかなかった。」
    「…龍。」
    名前を呼ぶ智明。
    「僕だって自分の人生の主人公になりたいんだよ。」
    「龍」
    智明を右手で制止する龍馬さん。
    「…龍」

    「最初から全部気付いてた。でも馬鹿なふりをしてた。」
    「ば、馬鹿なふりって、お前」
    「だって、そうじゃないと小説として面白くないでしょ?」
    「…龍…」
    「龍馬さん…何を…?小説…?」
    「もうみんな気付いてるでしょ?なんで馬鹿なふりしてるのさ…。」
    「馬鹿なふり…」
    龍「ねえ、こうすれば読みやすい?」
    智「龍…」
    龍「分かりやすく馬鹿な文章書いて、本質に気付きそうなタイミングで馬鹿になったりして…」
    龍「なんでそうやって生きてきたと思う?本心がこれだってみんなに知られたら嫌われちゃうからだよ」
    龍「みんなって誰か気になる?」
    龍「お前だよ、間抜けな顔で口開けてぼーっと目で文字追ってるお前。ブルーライト浴びてぼーっとバカ丸出しで僕たちを見てるお前に言ってんだよ。」
    龍「お前らはいいよな、精々2時間くらいありゃ僕らの人生全部見て好きに批評できんだから」
    龍「智明は何言ってもかっこいいし、晶さんは弱さを出せば「ギャップ」って言って貰えるし、彩さんは可愛いしミステリアスだから突然暴言を吐いても受け流してもらえる…明人君も可愛いし最悪人を殺したって見逃してもらえる…朱里さんだって頭がよくて美人だから突然発狂したって可愛い、いつものかって言って貰える…でも、僕は?」
    龍「智明が居なくて、能力がなければこれに出られすらしない僕は?」
    龍「なんも取り柄の無い僕が突然発狂したらどうなる?怖いし意味分かんないって困惑するだろ…?」
    龍「だから、僕の人生にお前がいてよかったよ」
    龍「智明」


    崩れ落ちる龍馬さん。
    龍馬さんの目の前に立っている智明。

    嬉しそうに笑う龍馬さん。
    怒りに満ちた表情の智明。
    絶句する朱里。
    ただ見つめている晶。
    口を押さえてる姉さん。
    そして、僕。




    …龍馬さんを…殴った…?

    70話「一片」


     破裂音、そして呻き声。布が激しく擦れる音。
    龍馬君の血が龍馬君の服にじんわりと染み込んでいく。
    智明君の頬に龍馬君の拳が当たり、口から血をぼたぼたと流す智明君。

    歯が折れ、口の中が切れ、それでもお構いなしに殴り合う二人。
    嬉しそうな龍馬君、悲しそうな智明君。
     何年も生きて、繰り返してきて、その中で、初めて見る光景。
     11月24日から先。初めての、体験。


    何か変わるかもしれない、今回は違うかもしれない。直感でこう思った。


     止めようとする晶ちゃんを制止し、ただ、今は見守ろうと伝えた。

     これが、何か、変化の…一つになれば。

     龍馬君が、生きやすくなる、理由の一つになれば。

     私の初恋。

     私の、大好きな人が、少しでも、生きてて、楽しいと、思ってくれたら。



    「龍馬君…」







    新学期、智明と明人君と僕の三人でショッピングモール行ったの楽しかったな。
    その後二人がバイト先に来てくれて嬉しかったな。
    アクキー交換できたの嬉しかった。
    学食で彩さんと二人で色々話したの楽しかった。
    能力について知れて嬉しかった。
    4月後半にみんなでカラオケとショッピングモール行ったの楽しかった。
    皆の色んな顔見れて幸せだったな。
    皆の色んな顔見れて幸せだったな。
    エアホッケー楽しくて、上手く出来て、あ!特技できたかも!とか思ったっけ。
    ゴールデンウイークに誘えなかったのちょっと後悔してる。来年は誘えるかな。
    彩さんのこと好きだって気付いたのこの日だったっけ。
    5月に明人くん家に行ったの、怖かったけど智明以外の友達の家に行ったの初めてだったから嬉しかったな。
    朱里さんと二人でカフェに行ったのも楽しかった。
    晶さんとも合流したっけ。
    怖い思いもしたし、させたけど…楽しかったな。
    智明の家に行って、晶さんが僕に「もう心は読まない」って打ち明けてくれたの嬉しかったな。
    皆で学食に行ってご飯食べながら内緒話したの楽しかったな。
    女の子三人が転校生のお話しする時微塵も息が合ってなかったの面白かったな。
    その後の智明、明人君、僕の三人で出かけて、偶然女の子三人とも合流したとき楽しかった。
    ポピーラビット、今も大事に持ってる。
    お揃いで買いたかったな。買えるかな。
    タピオカも美味しかった。味はしなかったけど。
    テスト勉強も楽しかったな。
    来年もみんなで集まって勉強会したいな。出来るかな。
    僕の家で勉強会して、みんなで飲み物飲みながら能力の話したのも楽しかったな。
    晶さんが僕の家に来てくれたのも嬉しかった…晶さんは覚えてないみたいだけど…。
    旅行も楽しかった。
    景色が綺麗で、朱里さんと智明の話もして…本当に楽しかった。
    明人君大暴れに朱里さん大覚醒…猫が犯人のスパイゲームも楽しかった。
    いっぱい歩いて結局いつものファミレスに行ったのも、明人君、彩さん、僕の三人で回ったのも楽しかった。
    コーヒー美味しかった。
    学校で、彩さんに抱きしめられた時、嬉しかったな。
    緊張して震え止まらなかったけど、夢を思い出して…なんか、安心して、全部を肯定してくれているような、そんな気がして。
    学校に行けなくて一人でうじうじしてた時、みんながお見舞いに来てくれたの嬉しかったな。
    皆が聞かせてくれる近況全部面白くて、嬉しかった。
    朱里さんが電話してくれたのも嬉しかった。
    カウンセリングで自分の事話せたの嬉しかったし、池崎直樹さんといっぱいいろんな話したのも嬉しいし、めちゃくちゃ楽しかったな。
    夢も見つかって、大好きな人が僕の書いた文章を読んでその上褒めてくれた。
    本当のお母さんに会えたのも嬉しくて…僕の話いっぱい聞いてくれて。
    皆でストーカー捕まえたときも楽しかった。
    智明がストーカーの子に「髪短いの似合ってる」って言って対処したの凄かったな。
    その後朱里さんがアラートで苦しそうだったの、ちょっと胸が痛かった。
    明人君が、家に僕を、呼んでくれたの、嬉しかったな。

    全部、楽しかったな。


    71話「本当の主人公」


    トイレで晶が言った言葉を思い出す。。

    「呼び出した理由、考察できるか?」
     心当たりはあるけど、何故か、隠さなきゃいけないような気がした私ははぐらかした。
    「考察して何を対策するつもりなの」と。
     晶は納得したのか頷き、おとなしく龍馬君のいる場所に向かった。



    龍馬君に電話した時、私が彼に言った言葉も、同時に思い出した。



    「最後にひとつだけ、言っても良い?」
    『うん…』
     か細い声で返事する龍馬君。
    「…」

     言おうか迷った。私の言葉は無責任な上に横暴だったから。

    『…朱里さん?』

     でも、私の言葉で、龍馬君を救える可能性が一ミリでもあるのなら。

    「…龍馬君が前、智明の家で言ってたように、秘密を共有し合わない友達も良いと思う」
     震える声。龍馬君は相槌を打ちながら聞いてくれた。
    「でもその結果龍馬君は苦しんで…晶は一人でずっとわけわかんないことやってたわけで…」
     何故か濁る視界。
    「だから私は、悩みだったり自分の本質を揺るがしてしまうような秘密は、大事な人に共有し合うべきだと思うんだ」
    『…』
    「たとえ、喧嘩をしてでも」



    殴り合う二人。
    血が舞い、倒れ、それでもずっと殴り合ってる二人。
    私には愛情表現に見えた。

     血を浴びる拳、いつの間にか笑顔になってる智明。

    「俺らさ!こうやって!喧嘩したことあったっけ!?」

    智明の胸倉を掴みながらそう尋ねる龍馬君。

    「ない!あってもないってことにしよう!!」

     元気にそう答える智明。

    「あはは!なんだそれ!!」



    …龍馬君…


    「智明そろそろ限界なんじゃない!?」
    「全然!!めっちゃ舌噛んだししばらく何食っても血の味しかしなさそうだけど!全然平気!!」
    「マジで!?こんな、血まみれなのに!?正気!?そろそろ終わらせたいんじゃない!?」
    「絶対嫌だね!!俺はさ!!死んでもここを動かないぜ?龍馬!!」


    72話「こんなのただの文字列」
     マンションの狭いスペースに智明の咆哮が響き渡った。
    それは僕達5人の内臓を震えさせ、僕のトラウマを呼び覚ますトリガーになった。
    なってしまった。
     あの怪物と同じ声。性衝動に芽生えたあの日から見始めた悪夢を思い出してしまった。
    獅子に似た怪物が僕を襲い、身体を引き裂き咀嚼する悪夢。
    僕の両親が、僕の部屋で体を絡め、愛を確かめ合っている姿を見た時の嫌悪感を思い出した。
     汚い声で喘ぎ、両親が何をしているのか不安で震えている僕を見つけると「混ざるかい」と声をかけたあの母親の恍惚とした顔が脳味噌に過った。
    明人君にレイプされた時も思い出した。智明と一緒に風呂に入った時も思い出した。全部、同じように勃起していた事も思い出した。

     そうだ、あんたらは明人君の思いをBLだなんていうくだらない文字で例えたよね。
    僕の彩さんへの思いをNLだとかいうくだらない文字で例えたよね。
    晶さんの、彩さんへ対する思いをGLだとかいう二文字で例えたこともあったよね。
    僕の、僕達の感情をたった二文字で例えられた。
    じゃあ僕もあんたらを真似して、たった十一文字でこれから起きる…僕にとって最高の愛情を表現してあげるね。



    「智明が僕を殴る」



     血と唾液が混ざり胃を満たした。血走った目で僕を見つめる智明が綺麗に見えた。
    不安そうに見つめている4人が馬鹿に見える。いや馬鹿なんだよあいつら。
     皮膚が裂ける。どろりと鼻から熱が漏れる。それが智明の手を濡らした。気にせず殴る智明。

     もっと殴れよ。

     気付いたらそう呟いていた。
    目を見開いてちょっと引いてる智明。
    嬉しいな。僕にこんな熱い感情持ってくれてるなんて。

     胸倉を掴み押し倒す。
     
     驚く智明に拳を振り下ろす。
     
     血が出て歯が折れた。
     
     わー智明は歯が折れてもイケメンだね。

     鼻血が出てもイケメンはイケメンだ。

     くたばれ。



     智明の皮膚が裂けた。僕と同じ場所の皮膚が裂けて血がドロリと流れた。
    「おそろい」って言ったら何とも言えない顔してる。可愛いね智明。

     智明が吐いた。
     思い切りお腹殴ったら吐いた。
     吐瀉物が僕の身体にかかった。
     僕はそれを手で掬い取って舐めた。

    「…っ…!?」

     引いてる智明が可愛い。
     吐瀉物がついた頬を手で拭い、僕から少し距離を取る智明。

    「ねえ智明ー、お前の親友こんな奴なんだよ。お前のゲロ舐めてんだよ。お前が守ろうとしてくれた奴こんなキモいんだよ。それでもまだ親友って言ってくれんの?」

     笑ってみせると、歯と上唇の間でゲロと血と唾液が混ざってぐちゃりと音が鳴った。
     それが智明にも聞こえたのか、分かりやすく怯えてからそっと僕から視線を逸らした。

     ほら、貴方こんなの読んだらイラッとしちゃうでしょ。
     気持ち悪いって思うでしょ。ね。
     嗚咽した?僕の事嫌いになった?
     これでもまだBLって思う?
     まぁ殺し愛って言葉もあるくらいだもんね。
     興奮してる馬鹿もいるのかな。


     気持ち悪。一生一人寂しく抜いてろよ。


    「あのな、龍馬…お前…お前に…」
     ぜぇぜぇと喉を鳴らしながらそう呟いて、智明が鞄からとある物を取り出し
     それを僕に向けた。

    「それ…本物?」

     智明が取り出した物は拳銃だった。


     うわ、やば。興奮する。
     それだけでイきそう。


     智明が僕に銃向けてる。
     殺す気なんだ。
     うれしい。
     智明が
     僕に
     こんな感情
     持っててくれてたなんて。
     うれしい。
     うれしいな。
     うれしい


    「撃ってみろや沢田ぁ!!!!!!」
     さっきの智明に負けないくらいの大声で、僕が人間の中で一番怖くてかっこいい晶さんの真似をして叫んでみると、唇をぐっと噛み締め、涙で瞳を輝かせながら




     銃口を、自分の頭に向けた。
















     は?

     待て

     おい

     やめろ

     ともあき


     やめ

     ともあき?


     やめら

     しぬな


     ともあき


    「ともあき!!!!!!!!!」

     気付いたら走ってた
     間に合わないって分かってんのに走ってた
     ともあきが
     智明
     いかないで






    「龍馬、俺は、お前のためなら死んだっていい。」


     智明がそう呟いたのを最後に、あきらさんが僕の前に立ちはだかり、僕の頭を掴んで頭突きをしてきた。

     うっわ古典的、ダッサ。

     って思いながら、僕はその場に崩れ落ちた。





    73話「チェーホフの銃」



     僕の初恋は智明だった。
     その感情をBLだとか後付けだとか蛇足だとか言わないで。
     ただの「恋」だって言って。
     ただの「愛」だって言って。
     記号二つで表そうとしないで。
     僕の感情を無駄だって思わないで。
     一時の気の迷いだって思わないで。
     隠してた努力を無駄だって思わないで。


     智明、だいすき智明。

     最初は嫉妬だったなって思った。
     智明を取られたくないって威張ってた。
     でもそれが間違いだって知った。

     親が同性愛者嫌いだったから。
     ヘテロ至上主義者だったから。
     智明と遊んでたら「女の子とも遊べ」って言われた。
     ホモか?って言われた。
    「そうだよ?悪い?」って言いたかった。
     言えなかった。

     今思うと酷い親だよなって思う。
     でも僕にとって親はあの人たちしかいなかった。
     でも他にもいた。
     あの人達以上に優しい親が。
     それを知れたのは晶さんのおかげだった。

     智明。
     もし僕が好きだったって言ったらどういう反応するのかな。
     もう好きじゃないけど、好きだった、って言ったら、ちょっとは残念がってくれるかな。

     智明。
     智明、ねえ智明。
     智明。だいすきともあき。






    「ともあき……。」












     全てが無に等しく感じる。
    俗に言う倦怠感が身体を襲い、俺を捻くれ者にする。

     俺は立派な人間になりたい。
    俺は立派な男に、立派な人に、尊敬されるべき存在にならなければ、いけない。
    俺に全てを与えてくれた皆に、恩返しをしなければいけない。
    俺は、俺は何もかもを胸に刻んで、しっかり咀嚼して味わなければいけない。
    俺は、こう生きなきゃ、俺は、俺は。




     …沢田智明に、ならなきゃ、いけない。

     俺の、理想の男に。




     俺のこの髪は、智明らしくない。
     綺麗な耳?智明らしくない。
     なあ智明、俺はどうすればいい?

     普通に生きろ

     そんな事言わないでくれ
     俺はお前になりたい
     俺はお前みたいに普通に生きたい

     真似なんてしないでくれ

     智明、頼む、答えてくれ
     智明。
     俺は、俺はどうすれば…。

     王になれ 王になるんだ︎■。

     王になんてなれない
    全てを無に還すような そんな事

     お前ならなれる。

     やめてくれ、頼むから。
     俺はお前になりたい
     智明、答えてくれ。
     俺はお前になりたい
     手を伸ばしてくれ
     俺の髪を撫でてくれ
     お前という、お前の、お前の、全てを
     智明。
     智明。
     智明。
     智明。







     共に生きようと、言ってくれ。



     ……あぁ、これが酩酊感だ。
     そうだ、そうだぞ





















    龍馬。







    俺の、いちばんの、宝物。



    74話「実質最終話」


     目を覚ました。
    「…目ぇ覚ました?」
     起きてすぐ視界に入ったのは、ずっと付きっ切りで僕を見てくれていたのか、どこか疲れた様子の晶さん。

    「晶さん…僕、何日寝てた?」
    「三時間」
    「あぁ…」
    「しょうもない時間」
    「確かに」
    「どうせなら一日丸ごと寝えや」
    「ほんとにね…」

     …

    「ねぇ晶さん…」
    「?どした?」
    「智明は…?」

     そう尋ねると、晶さんは「ちょっと待ってて」と言い、立ち上がって部屋から出ていってしまった。

     …にしても…。

    「ここ、まさか…晶さんのおうち…?」

     広い和室で…わ、なんか変な金ぴかの置物ある…でも、こんなお家…冷蔵庫ないほうがおかしくない…?

    なんて考えていると、晶さんが、包帯だらけの智明を連れてきた。
    「ごゆっくり~」
    「ありがと晶さん」
    「…あは、お前ミイラ男みてえだな」
    「鏡見てから言えよ」
    「ごめんごめん…傷大丈夫か?」
    「大丈夫だけどさ」
    「うん」
    「一回自分のほっぺにデコピンしてみていい?」
    「やめろ、絶対痛いって」
    「ぎゃーーーーー!!!!!」
    「ほら!!言わんこっちゃない!!!!」

     …あぁ、なんだ、普通に話せるじゃん…。
     僕がデコピンしたほっぺを恐る恐る撫で「大丈夫か?」と尋ねてくる智明を見ながらそんな事を思った。

    「ねぇ智明、大切な事話したいんだけどいい?」
     そう聞いてみると、智明は目を丸くしてから、数回頷いた。

     悩んだ。何を言おうか、物凄く悩んだ。
     …

    「…朱里さんと幸せになってね、応援してるからさ」
    「うん、お前もな?相手が…彩ちゃんか、明人かは分かんねえけど」
    「…気付いてたんだ」
    「当たり前だろ?何年お前の幼馴染やってると思ってんだ?」
    「…ありがとね、智明」
    「こちらこそ」

     智明はさ、僕の思いに気付いて、あえて無視してくれてたのかな。
     ねえお母さん、僕とは大違いでしょ?僕が智明の真似したってなれるわけないじゃん。

    なんてことを考えながら智明の横顔を見ていると、ふと、智明が持っていたあの拳銃が頭に過った。

    「智明、あの拳銃誰から貰ったの?」
     と尋ねてみると、智明は少しだけ黙ってからこう答えた。
    「晶だよ…お前と、朱里と晶の三人が家に来てくれた時に渡された」
    「そ、そうなんだ…」

     じ、じゃあ…あの時本屋さんで向けられた拳銃は…本物だったんだ…。
    「突然拳銃向けてごめんな」
    「いや、大丈夫…」
    「…龍?」
    「え?あー、なんでもないよ…」

     あれ本物だったんだ…拳銃握っちゃったよ僕…ヒィ…。
     拳銃持ってる人に「弱虫」とか言っちゃったよ…。
     どうしよう…晶さんの事がもっと分からなくなっちゃった…。

    「…龍、家…どうだった?」

     と…突然だな。
     でも、事情を知ってる人にはちゃんと報告しといたほうがいいよね。

    「お父さんもお母さんも僕の顔見て喜んでたよ」

     そう言うと、智明は、ぎこちない笑顔で「そうか」と言った。
     ここで、「よかったな」って言わない智明は、本当…心の隅までいいやつだなって思っちゃうな。

    「…智明は、お家どう?」
     お返しにそう尋ねてみると、智明はどこか悲しそうに「慣れてきたよ」と返事した。

    「…卒業したらどうするの?家継ぐ?」
    「…継ぎたい気持ちはあるし、継げるなら継ぎたいけど…逃がして、普通に生きるチャンスをくれた親父の思いは無駄にしたくない」
    「そっか…分かったよ」
    「…」
    「智」
    「…あは、久しぶりにその名前で呼ばれたわ…」
    「僕も久しぶりに呼んだ気がする」
    「…」
    「…智明」
    「うん?」
    「……新学期さ」
    「うん…」
    「…三年の一発目…」
    「…」
    「僕ら二人…ミイラ男で迎えんのか…」
    「ふふ…あはは!そう考えたらなんか間抜けだな俺ら!……あー…笑ったら痛ぇ…」
    「マジで滑稽!痛がってんの面白……痛い…」



    正ちゃん Link Message Mute
    2023/01/26 20:14:52

    本当の主人公 8章

    俺達の一番の宝物
    #オリジナル #創作 #オリキャラ #一次創作 #XX表現あり #本当の主人公

    more...
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