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    本当の主人公 7章54話「友達」55話「女について」56話「悟り」57話「友達だから?」58話「夢見る乙女」59話「呪縛のようなもの」60話「デジャヴ、そしてジャメヴ」61話「バタフライエフェクト」62話「自分らしさ2」63話「デジャヴ、そしてジャメヴ2」64話「普通の日」65話「黄色」66話「「もっと、キスしてください」」67話「お母さん」
    54話「友達」


    「!おはよ!久しぶり~!」
    学校が始まった。
    「おはよう!」
    真っ先に声をかけてくれたのは、僕の中学の頃からの友達の杉本君だった。


    手招きされ、杉本君に近付くと申し訳なさそうに
    「松田…昨日連絡くれたのに返信できなくてごめんな…。」
    と謝ってきた。
    「気にしないで、そういえばさ?この前メッセージで言ってたあのゲームダウンロードしたよ!」
    しょんぼりしている杉本君へそう言うと、顔を上げ、目をキラキラと輝かせてくれた。
    「マジ!?あのゲーム面白いよな…フレンドなろ!」
    「いいよいいよ!」

    鞄から携帯を取り出す彼を見ながら、夏休み前に彼と過ごした日々を思い出す。
    授業中に妙な単語を並べたメモを回してきて笑わせようとしてきたこともあったな。
    ストラップについて話しかけてくれたり…一緒にご飯も食べたし、カラオケとかもよく行ったよね。
    杉本君は確か隣のクラスの佐藤さんが好きなんだっけ…二人っきりになるように仕向けたりしてたお陰かこの前付き合えたって言ってたっけ?さすが僕!

    「うわ、松田俺よりレベル高いじゃん。」
    「そのせいで昨日あんまり寝てないんだよ…。」
    「松田ゲーム好きだよな…。」
    「杉本君には負けるよ…。」
    「あはは!それもそうか!」

    彼と過ごす時間が好きだな。
    にこにこしながら画面を何度もタップしている彼を見ながらそう思った。

    ……

    「あ、そうだ、僕ちょっとトイレ行ってくるね。」
    「おう、いってらっしゃい。」

    杉本君へ背を向け、トイレへ向かうと…見覚えのある、人が。


    「……龍馬君?」
    …彩さん。

    「智明君は…?一緒じゃないの?」
    ……さやかさん

    「……龍馬君?どうしたの?」
    さやかさん
    さやかさん さやかさんだ……
    さやかさん……

    「あの、あの…あのね」
    「……?うん」
    「この前、おうちに…帰ったら」
    「うん」
    「おうち、なかったんだ」
    「……え?」



     いつもの彼からは想像もつかないくらい弱々しくそう呟く姿は、まるで、おもちゃを取り上げられた子供のような、友達と喧嘩した幼子のような姿に見え困惑した。
    「お、おうちがなかったって…どういう意味…?」

     今にも涙が溢れそうなくらい、唇も、肩も、指先もカタカタと震わせる龍馬君。
    「かえったらいえがなくて、おとうさんもおかあさんも、いなくて」

     弱々しい彼を前にするといてもたってもいられなくなり、気付いたら彼を強く抱き締めていた。
    思ったよりもがっちりとしていて、彼が傷付いているのに不謹慎だというのは分かっているけれど「この可愛い彼も男性なんだ」と思ってしまった。

    「さやかさん、ぼく、もう、がっこうきたくない」
    「来なくていい。来なくていいよ。」

     気付けば回りには沢山の人が集まっていた。
    大泣きしている彼が珍しいのか、私が誰かを抱き締めているのが珍しいのか、それとも男女が抱き合っているのが珍しくてからかいたくなるのかは分からない。
     だけど彼らの奥にいる女の子二人はどうなる。
    「付き合っている」と決死の覚悟で打ち明けても、適当にあしらわれ受け止めて貰えない。
    愛情表現をしても「仲良しだね」と友達扱いされる。
    そんな彼女達を無視しておいて男女がくっついているのがそんなに珍しいか。

    「見てんじゃねえよ!帰れよ馬鹿共!!」

     気付いたらそう叫んでいた。胸の中で驚く龍馬君。

    「さやかさ」
    「今は黙って泣いていて、しばらくこうさせて、お願い」

     ねえお母さん。私はいけない娘でしょうか。
    彼の弱みにつけこみ、人前で抱き締める私はいけない娘でしょうか。
    いけない娘でしょうね。
    だって、私の大切な明人を差別するくらいなんですから。
    大切な大切な明人に変な事言って。

     体を冷やして帰ってきた明人を見て私が怒るとは思わなかったのか、驚いて「お父さんそっくり」と仰有いましたね。
    クソ喰らえ。

    「…さやかさん…」

     背に回される彼の手が暖かくて、熱くて、じんわりと昔を思い出した。病院に通っていた昔を。
    今、私の胸の中で涙を流している少年の名前を知るきっかけになった昔を思い出した。確かあれは6歳の時、毎晩明晰夢を見るせいで今が夢なのか現実なのか分からない、と両親に相談したのが始まりだった。
    お母さんは面倒そうに眉間に皺を寄せ、勘違いだとあしらった。
    しかしお父さんは心療内科に予約をいれてくれた。けどお父さんは来ず、待ち時間の間、お母さんはずっと不機嫌そうで嫌だった。

     そんな時、隣に座っていた同い年の男の子が小さな声で話しかけてくれた。
    「君はどうしてここにいるの」と。
    私は物凄く驚いたが、彼の隣に座っている不機嫌そうな親御さんを見るに、彼も私と同じような境遇なのかと思い、私も彼と同じく小さな声で返事をした。
    「怖い夢を見るの」と。
    彼は目を見開き「そうなんだ」と心配し、私の頭を撫でてくれた。

     初恋、だった。

     一人で寂しい夜、お薬を飲むのが怖くて飲んだと嘘をついた夜。夢を見るのが怖くて寝れない夜。お父さんとお母さんの喧嘩の声が嫌だった夜、彼を思い出して自分自身の頭を撫でていた夜に力を手に入れた。悪夢を操る力を。
     二度と会えない彼に会いたくて、夢で良いから会いたくて…彼を苦しめてしまうかも、なんて事思いもせず、自分勝手に彼を呼び出した。
    私の悪夢の中へ、彼を連れ込んだ。

    「わ!すご!おっきい!!」

    怪物と化した私を見て、彼は喜んでいた。
    どんな夢を見せても彼は喜んでウキウキしてくれていた。
    大好きだった。本当に、大好きだった。

     しかしそれは健全な思いじゃなかった。
    諦めなければと思い、今日を最後にして…もう夢を見せるのをやめよう、彼と私がずっと一緒に居られるという叶わない願望を抱くのをやめようと決意した。
    その理由は、私のいとこにあった。
    大好きで、大事な弟であり妹であり、兄であり姉である明人。
    大好きでたまらない、大事でたまらない明人。その明人が、彼へ想いを寄せていると知ったから。
    その理由も私なんかよりとっても重要でとっても大事。
    だから、私は彼を諦めようと、高校2年に上がったあの日に見せた夢を最後にしようと決めた。

    「何、してんの?」

    悪夢を見た彼は目を光らせていた。
    私の怪物と、私の…ワンピースと同じ色。黄色に光らせていた。
    晶ちゃんのおかげで力について詳しくなった私には、彼が私のせいで力に目覚めたのだと理解できてしまった。

     気付いたら、私は彼の手を握っていた。
    「…いつも…ありがとう…。」
    彼は、目を見開き「こちらこそ」とお礼を言ってくれた。

     エゴだ。
    これは私のエゴだった。
    一学期から今まで、否、彼と会った夜から今の今まで全ての行動は私のエゴだった。
    彼と、結ばれるかもしれないという、エゴで、妄想だった。

     彼の体温が心地良い。
    あの夜を思い出す。彼が私を抱き締めてくれた夜を。
    怪物に殺されて彼の意識から消えようとしていた私を、抱き締めてくれた彼の温度を、思い出した。

    「…さやかさん…」
    「……なあに?」

     彼の頭を撫でる。あの日の彼みたいに。
    あの日の彼へ、お礼を伝えるかのように。

     叶わなくても構わない。
    ただ、今だけはこのまま。こうさせて。



    55話「女について」


    「…智明、ちょっと話せる?」
    旅行以来、簡単な連絡以外一切話していなかった智明へ声をかけると、下唇をグッと噛んでから一度大きく頷いてくれた。

    「…ここで話して良い話じゃないから…二人きりになれる場所に行きたいんだけど…大丈夫?」
    と言うと、大きく目を見開いてから「分かった」と答える智明。

    私たち二人が向かった場所は4月頃、6人で行ったカラオケボックスだった。

    コーラを一口飲み、気まずそうに俯いている智明へ
    「話っていうのは、私たち二人の関係について…なんだけど。」
    と言うと、顔を上げ、私の瞳をじっと見つめた。

    「…これからどうするか…決めるのか?今。」
    不安そうにそう聞いてくる智明が…なんか、幼い子供に見えた。
    長い睫毛が、切れ長の瞳が…骨格が昔から変わらずずっと綺麗で。
    やはり好きだな、と…確信してしまった。

    …手が震える。
    拒絶されたらどうしよう、と不安に襲われて…胸が、グッと締め付けられる。

    「…智明が」
    「…うん。」
    「……ちゃんと、自分の全部話してくれないと…付き合いたくない。」
    「…俺の、全部?」

    震える智明の声。

    「智明にとっても、私と…私っていう存在と、付き合って?これから先、未来を考えるなら…考えてくれるなら…しっかりお互いを知っておきたいの。」

    沈黙。
    アーティストの楽曲紹介が虚しく響いた。

    「…話したら、朱里は、お前と俺は…。」
    「分かってる、多分晶はそれを分かってて…智明と私が付き合ったとしても、短い間になるかもしれないって…だから、私に普通に生きろって強いてたのか、って。」
    「…晶がそんな事言ってたのか。」
    「……私、智明の事好きなの、誰よりも好き、愛してるよ?智明以上に好きな人なんて現れるわけ無いって思ってるの…重いけど…学生風情が何言ってんだって思われるかもしれないけど…好きなの。」
    頭の中の謎の声が「誰がそんな事思うんだ」と言ってくる。

    ボロボロと流れる涙。
    智明は私の頬を拭ってくれた。

    「…話して、理解し合ってさ、その時にやっと付き合う…ってのは…少し軽すぎる気がする。」

    智明の言葉が、理解出来なくて。

    「…三年に上がったら…俺、お前に全部言うよ。」
    「……なんで今じゃないの?」
    「…今はまだ覚悟できてない、昔から俺の事を色々話してくれる…存在がいるんだけどさ、そいつに相談して…それから、俺の中で折り合いついてから…またこうやって二人で話し合おう、いい?」

    智明の纏う雰囲気が変わった
    まるで別人みたいで

    龍馬君、みたいで

    「…わかった」
    「……でさ、破っても良いし、絶対に守らなきゃ、って…責任感じなくて良いから。」
    「……?」
    「卒業したら…一緒に、部屋探そう?」


    56話「悟り」

    パラから呼び出された。
    呼び出される事は初めてじゃないし戸惑わなかった。
    けど、けれども
    「明人について」なんて言われたら戸惑うに決まってる。

    明人の友達のパラから見た明人の変化についてか、それとも能力についてか、それとも、あの、あの憎らしい漫画本についてからは分からない。

    確認しなければ。

    「はぁ……!はぁ……ッ!」

    私らしくないだろうか。
    思いきり走るなんて、私らしくないだろうか。
    喉が渇いて唾液が張り付く。
    手が震えて頭がぐらぐらする。酸欠だ。

    内ももが擦れてタイツが破けそうで、スカートがバサバサと煩くて、頭に「校則違反」の文字が浮かんで消えた。
    明人、明人。明人。

    校舎裏。
    息を整えてから顔を出そうかと思った。
    けれどもそんな事をする余裕なんて無くて。

    「晶さん!」
    詩寂とパラがこちらを見つめる。

    「明人についてって…何……!」
    眉間に皺を寄せ、お互いの顔を見つめあっている二人。

    詩寂が口を開いた。

    「…あのエセ厨ニが目覚めた。」
    頭が割れるように痛む。

    「……明人が……!?気付いたんは誰や!?あんたか!?パラか!?」
    詩寂の両肩を掴みそう尋ねると、パラが申し訳なさそうに自分の携帯を取り出し、画面を見せてきた。

    「…明人本人が気付いて、僕に連絡を。」

    …明人…。
    明人。明人…。

    「過酷な方法やないと…目覚めへん言うてたよな。」
    「…はい。」
    「……明人は、辛い目に遭ったんか。」

    今の明人にとっての辛い出来事。
    それは…龍馬関連、もしくは…漫画本関連か。

    「恐らく。」
    「おい落ち着けよ、あのエセが……」
    「直樹さんに連絡してくれ。」
    「は?」
    「明人のお父さんの直樹さんや!会社でもいい!事務所でもどこでもええから!!」

    頭がじんじんと痛む。
    池崎直樹の顔が脳に過った。
    全てが解決する保証はないのに、大きな存在に頼る事で何かが進展するのではという淡い希望を抱いた。

    「待ってください晶さん、直樹さんって…池崎、直樹?」
    「池崎直樹って、あれだろ……小説家の……?」
    「…今は説明してる場合や無いけど…。」
    「……」
    「…せや、二人の思ってる通り…池崎直樹は小説家で…あの一片の報いの作者や。」








    「姉さん、僕も能力者になれたよ。」
    そう言うと姉さんは大きく目を見開き、僕を抱き締めてくれた。

    姉さん、ごめんなさい。
    諦めたかったよ。僕だって。
    でもね、好きなんだ。ごめんね。
    姉さんの思いは理解してる。
    どれだけ龍馬さんを想ってるのかも分かってる。
    いとこだけど、姉弟みたいに接してくれたから。
    姉さんの事は全部分かるんだよ。姉さん。
    隠し事があるのも知ってる。でも聞かないよ。
    無関心だからじゃなくて、姉さんが大事だからだよ。

    中学の頃を思い出した。
    事件が起きる前、コンクール用の絵を描いていた。
    最優秀賞には選ばれなかったけど、市の美術館に飾られる事になってウキウキしてた。
    大好きな美術作品が飾られていたあの美術館に僕の絵が?って思って、嬉しくて、僕らしくないけど、父さんに大喜びで報告した。

    父さんも喜んでくれて、見に行くときはスーツを着ると言っていた。

    あの事を忘れたくて、父さんに頼み込んで美術館に行った。
    絵を描いているときは忘れられたから。
    無心で絵を描いていた頃を思い出せると思って、二人で行ったんだ。
    飾られていなかった。
    学校に連絡したら「連絡したはず」と。
    「あんな事件が起きたんだから飾るわけにはいかない」と。

    父さんは驚いていた。
    僕の絵の代わりに、同じ美術部の誰かの絵が飾られていた。
    人が沢山いるのに父さんは僕を抱き締めた。
    「ごめん」と謝りながら。
    「明人」と名前を呼んでくれた。
    肩が湿っていた。父さんの涙だった。

    父さんがなんで謝るのって言いたかった。
    でも声が詰まって、僕も同じように泣いていたから。

    「行くとは思わなかった」
    叔母さんは当然のようにそう言った。
    「明人は美術作品を愛してるんだ!それに触れることで少しでも救われるとしたら…」
    父さんの言葉が嬉しかった、けど叔母さんは無視していた。
    叔父さんは父さんへ「そういうことだから言わなかった」と言って。

    そういうことってなんだよ。
    僕は、なんのために絵を描いてた?
    賞のためじゃない。でも、描いていて、誰かに実力が認められたのなら受け取りたかった。

    あの糞教師のせいで何もかも上手く行かなくて。

    美術館から帰った時。
    僕が部屋でじっとしていた時、姉さんが怒鳴ったことも知った。
    「教えないのは家族としておかしい」と
    「明人の努力が報われなかったのなら一緒に悲しんであげなきゃいけない」と

    昔は「姉さんの言葉が理解できなかったのか」と思っていたけど、今の年齢なら分かる。
    『子供の意見だ』と一蹴されたということが、分かる。


    「寒かったでしょ…明人…。」
    大粒の涙を流す姉さん。
    背に腕を回すと、強く強く抱き締めてくれた。

    「姉さん、僕」
    「……うん」

    ……いいかけて、やめた。
    僕の思考を表す単語を、言いかけて、辞めた。

    自分から進んで雨を浴びたのは初めてだった。
    気持ち良かった。

    これから先、同じように。
    雨を浴びたくなるような気分になったら迷わず浴びようかと、思うくらい。
    心地よかった。

    泣いてるってバレないから。
    心地よかった。

    姉さんから離れて「シャワー浴びたい」と言うと、姉さんは頷き「着替え用意しておくね」と髪を撫でてくれた。

    その時目に入る漫画本。


    57話「友達だから?」



    最近、龍の様子がおかしい。
    あんなことがあったから仕方ないのは分かってる。
    でも長年の親友として、幼馴染みとして、俺の、救いになってくれた龍を放っておくことが出来ず、龍の住んでいる家へ確認も取らずに走っていった。

    「龍…。」
    「…智明、何?」

    顔を出す龍。
    久しぶりに、しっかりと顔を見たような気がした。
    龍の顔を、真正面で…はっきりと見たのが、初めてのような気もした。

    「…顔、見たくて。」
    「そっか……あの、ごめんね、最近…連絡くれてるのに…返せなくて。」
    「謝らなくて良いよ、俺もしつこく連絡してごめんな…。」
    「……あのさ、智明。」
    「うん?」
    「…智明が、もし、自分のお父さんとお母さんが、偽物だったら…どう思う?」

    ……頭を、鍋かなんかで殴られたような感覚。
    スポットライトを当てられてるような、シンバルみたいな音が響く。

    「……は?」
    「智明も偽物なんじゃないかって…思っちゃうんだよ。」

    「俺は、本物だよ。」
    震える声。

    「どうだか」
    疑いを向けられる。

    「俺、俺は…」
    龍の目が、疑いの色に染まる。

    「……」
    「……」

    沈黙。
    俺は何も言えず黙り、龍は何かを試すかのように黙る。

    龍の家を思い出した。
    親御さんは、俺が遊びに行くと毎回嫌そうな顔をしていた。
    龍はそんなの吹っ切って遊んでくれてた。
    あの頃、龍は俺よりも活発で、逆に俺が龍に引っ張られていた。

    だけど小学校くらいの時は俺が引っ張るようになって…あれ。
    あれ?

    龍と俺

    「…ごめん、智明」
    「え」
    「お前に八つ当たりするなんて…僕らしくないよね」
    「……龍?お前らしくって…」
    「…分かってるでしょ、子供の頃…僕が……」

    ……龍の言葉が、頭に響く。
    龍が子供の頃、あの偽物の親に何を言われていたのかを…思い出す。

    「…あのな龍、好きに生き」
    「智明はかっこいいから良いよね」
    龍馬の低い声が響く。
    「……は?」
    「智明はさ、かっこいいじゃん、でも僕はかっこ良くなくてさ?僕が僕らしく生きたら…似合わないんだよ」
    「龍…お前何言っ」
    「顔面の話でもあるし声でもあるし体格の話でもあるんだよ」
    「いや、龍…お前」
    「あのね智明、僕だって」
    「……」
    「…来てくれてありがと。」

    扉が閉まる音。

    龍の言葉を、理解しようと…「僕だって」の後…何を言おうとしたのかをいくら考えても…考えたくもないような…事が浮かんで。

    「……龍」

    龍は、俺が帰るのを望んでる。

    「あのな龍…俺は」
    「僕といたらお前にも迷惑かかるんだよ」
    「いや、お前突然何言」
    「だから…ぼく…僕さ……」

    龍が子供の頃、俺に言った言葉を思い出した。

    『一緒に居たらお前も俺も嫌われて終わり』
    だから俺はこう言った。
    『僕は龍馬が好きだから一緒に居たい』

    龍馬は困っていた。

    体がでかかった俺と、体格が小さかった龍馬。
    でもキャラは、素の自分は反対で。

    …入れ、替えたんだ
    いつの間にか、お互いから影響を受けて、入れ替わっていたんだ


    「あのさ…智明」
    「……?」
    「……あのね」
    「……」
    いつもの、高い声に戻る龍馬。

    「……きてくれて、ありがと」
    「……龍」
    「ありがと、また、明日…学校でね」

    隣に住んでいる大原さんが飼っている猫が俺の足元へ来た。

    俺の脛あたりを嗅いでから、そいつはどこか行きたいところがあるのか立ち去った。
    立ち去っていった。
    何も知らないかのように。
    ずっと話を聞いていたのか…なんて、思ってしまう。
    猫に言葉が分かるはずもないのに。
    そう思いたくて、そう、思って。


    龍馬は学校に来なくなった。

    58話「夢見る乙女」



    夢を見た。久しぶりに。
    いつも疲れているからか、それとも記憶力が悪いせいかは分からないけど夢を見ない日が続いていたから、こういう風にハッキリと夢だと認識する夢が、どこか新鮮で、どこか恐ろしく感じた。

    真っ暗だった。
    まるで私の将来のように、真っ暗で、先が見えなかった。
    そんな暗闇の中で私はぐっと歯を食いしばった。

    「晶?」

    聞き慣れた声が聞こえた。。
    「明人……?」
    「やっぱり晶だ…龍馬さんかと思った。」
    「なんでやねん…。」
    「晶、僕、力使えるようになったよ。」

    嬉しそうに微笑んでいる明人が目の前に現れた。

    「あんた…彩ちゃんと似た力手に入れたんか。」
    そう尋ねると、二度頷いてから下唇を噛み、か細い声でこう呟いた。

    「なんでここに呼んだか…話させて。」
    「うん。」
    「…実は、ここでしか話せない話、したくて…。」
    「うん…。」
    「…漫画本って、知ってる?」

    ざわりと、胸が痛んだ。

    「漫画本…。」
    「高校生の、男の子が先生に襲われる話。」

    背後に誰かが立っているような感覚。

    「…知ってるよな、晶は…いつも僕らの先を見て…色々考えてるから。」
    「明人、違」
    「違うって何?」

    ……何を、言おうとした?私は。
    睨む明人に何を言おうとしたんだ。

    「…その本を、処分するつもりだった。」
    「……つもり?」
    「してた、お前に見えんようにこそこそやってた、でも誰かが…」
    「お前の家の奴が僕に嫌がらせしたわけ?」

    明人の言葉がまるで槍のように私を突き刺す。

    「……ごめん。」
    「…なんで謝るわけ、自分になんか悪いとこがあるって思わなきゃ謝ったりしないだろ。」
    「悪いとこしかないんよ、うちには。」

    涙が、流れる。

    「お前を責めたい訳じゃなくて…ただ、なんで見つけた瞬間僕に言ってくれなかったんだ?」
    「…トラウマを、刺激すると思った。」
    「確かに思い出したよ、刺激された、でも…それは、龍馬さんを襲えっていう命令を出したお前が言って良い台詞じゃない。」

    ……

    「今全部話してくんなきゃ、僕はお前を…。」
    「……」
    「………嫌いに」
    「……」

    人との接し方をよく分からなかった。
    上手く生きていこうとしすぎたせいで、色んな人を傷付けた。
    明人もその一人で、その償いをしようとした結果、更に傷付けてしまった。

    「あー…ごめん、嫌いになれないわ、ごめん」
    「……え?」
    「だって初めて出来た親友なんだぞ、大好きに決まってる。」

    明人の言葉の意味を理解できない。

    「何なんだろうな、利用されてさ?トラウマも刺激されて、妙なこと吹き込まれてめっちゃ色々追い詰められたのに…僕なんでお前の事嫌いになれないんだろ。」

    何故か涙を流す明人。

    「どういう意味…?」
    「あは…そのままの意味だよ馬鹿だな。」

    ……

    「晶の思考とかよく分かんないけどさ、なんか意味があって最終的には良い方向に行くんだろ?智明の暴力事件とか…気付いたら解決しててビビったもん。」
    「……」
    「だから、いつか良い方向に持って行ってくれるんだろ。」
    「……うん」
    「協力する、お前の…相棒になるよ、朱里に次ぐ…相棒に。」
    「……ありがとう。」
    「計画今教えて、協力してみたい。」

    明人が目を輝かせている。
    明人。明人。
    ……明人…。

    「…これから、うちがお前に言うことは…結構辛い話なんよ。」
    「…その話、誰が一番苦しむ?」
    「……龍馬。」
    「…智明との、話?智明と龍馬さんに昔何があったか、とか、そういう話?」
    「……そう。」

    ひんやりと冷たい風が吹くような、感覚がした。

    「…龍馬さんは、智明を羨んでる、妬んでる、どっち?」
    「……両方。」
    「なんでそれを晶が知ってんの?」

    …言おうか、悩んだ。
    数秒間で何度もシミュレーションした。
    めちゃくちゃに悩んで、頭が割れそうになる。けど、言わなきゃ。
    計画を進める為に…明人を、守る為に。

    「…協力者、が、いるから。」

    震える声。

    「……誰。」

    眉間に皺を寄せる明人。

    その明人の手を握り、大きく息を吸い込んでから…話す。

    「…高校に入った時から、毎回、非通知で電話が掛かってきててさ。」
    「……は?」
    ……当然の反応。
    うちが相手でもこんな反応しちゃうわ。

    「多分変声機を使ってて…言葉の雰囲気とか、声の温度みたいなのから…うちに電話してるのは女の子かなって、思ってる。」
    「……それ、誰なの。」

    ……

    「…明人、本人には、言わんといてほしい。」
    「なんで、知り合い?知り合いがなんで変声機なんか使って……!」
    「今言ったら全部が台無しになる、お願いやから…言わんといて。」
    「…………分かった、親友だし、聞くよ。」

    優しい明人。
    大きい目を更に見開いてる。

    …悩んだ。
    誰にも言うなと命令された訳じゃない。
    でも、でも……秘密に、しておきたくて。
    ……独占したくて。

    今思うと、龍馬を困惑させるために言ったあの言葉。
    「お前がいなきゃ今ごろあの子はこっちを選んでる。」
    その言葉は、本心から出た言葉だったのかもしれない。



    「……池崎彩。」
    「……は?」
    「あの子が何をしたいのかうちには分からん、微塵も理解できひん、でも…縋るしかない。」
    「……。」
    「縋りたい。」
    「……姉さんが…好き?」
    「……言わんといて、誰にも、お願いやから。」
    「………うん、分かった。」

    勇ましい表情で頷く明人。

    「晶は…姉さんの、どこが好き?」
    「…………笑顔。」



    59話「呪縛のようなもの」




    放課後、教科書を鞄に詰め込んでいると晶と一緒に話した日を思い出した。
    晶が、姉さんを……へぇ……。
    いや食いつくところはそこじゃない。そこも大事だけど。

    …龍馬、さんが……。
    ……辛いだろうな。
    それを助ける…というか、救う手があれしかなかったのか。
    …最悪だな、本当に。

    「……。」

    今日は龍馬さんの家に遊びに行こうかな。
    お菓子とか色々持って行って…前髪を切りすぎてポンパドールにしてた朱里の事話したら喜んでくれるかな。

    龍馬さんの特別になりたいとは今でも思ってる。
    諦めたくないし、叶うなら龍馬さんの恋人になりたい。
    でも今はそんなの関係ない。僕のエゴよりも龍馬さんの体調と精神状態の方が大事だ。

    こほん、と咳き込んでから、保健室に行くと言っていたパラへ、これから龍馬さんの家へ行くけどお前も来るかと誘うため、保健室のドアを開く。

    「パラ、迎えに来た。」

    名前を呼んでも返事はない。

    「…パラ?居ないのか?」
    名前を呼びながら保健室へ入ると、ベッドの方からパラの声がした。

    「明人…!?い、いるけど今はダメ!」
    「なんで」
    「と、とにかくダメなんだって!!」

    …?
    光が当たって影になって見える。
    なんか…パラ…暴れてる?

    「何、虫でも居た?」
    「違っ……」
    「なに?」
    「あっ……!!」

    はっきりしないパラが妙に気になってしまい、カーテンを開くと、そこには。

    「……パラ?」

    「……ッ!!!!!!!」

    ……目を、見開くパラ。

    「見ないで!お願いだから!!見ないで!!!」

    涙を流しながら、鞄やシーツで必死に体を隠すパラ。

    「……パラ」
    「………最近、こう、なったの」

    ぼそぼそと話し始めるパラ。

    「……」
    「最初は、怪我かと思った…胸がじわじわ痛むのは、何かの病気かと思ってた」
    「……うん」
    「…さい、しょに、来た時、怖くなった」

    …来た、時?
    来るって…?
    ……あぁ、アレか……。

    「…いつ頃、変わったの」
    ベッドに腰掛け、涙を流しているパラの顔を見つめると、僕の方をチラリと見てからゆっくり答えてくれた。
    「………日本に、一回来た時、晶さんと初めて会う前日に、身体、じわじわ変わって」
    「…最初、どこから、変わってったの」
    「……胸。」
    「……パラ」

    涙を、流すパラ。

    「……こんな身体、気持ち悪い。」
    「気持ち悪くない、個性だよ」
    「…明人には分からない。」
    「…種類は違うけど、変わるのは…分かるよ。」
    「……ッ」

    僕のシャツの襟を掴み、僕の胸に顔を押し当て涙を流すパラ。

    「…みんなの前で着替えられない、何の服、着たら良いかもわからないし、自分が誰かも分からない」

    「……うん」

    「女の子の服は小さいし、男の子の服は大きい…肩とか、身体が薄いから…着たい服…不格好に見えて着れない」

    「……うん……」

    「スカート、着たら、邪魔だし、目が怖い」

    「うん」

    「喉仏、取れないし、取りたくない」

    「……うん」

    「……このままで、いたいのに、いれない」

    「…パラ……」

    髪を撫でる。

    「誰にも言わない。」

    「晶さん、知ってて…元の僕を大事にしてくれる」

    「……うん」

    ……晶がこの前、病気、って言葉に過剰に反応してキツい言い方してたのは、こういう事情があったからか。

    「パラ」
    「……うん」
    「…」

    言えなかった。

    「気にするな」と
    「好きなものを選べばいい」と

    言えなかった。

    無責任な、気がして。


    着ていたジャケットを羽織らせると、パラは目を見開いて不思議そうな顔をしていた。

    「…パラ」
    「……?」

    ……今の僕が言える言葉は、なんだろう。
    パラにかけられる言葉は、なんだろうか。

    「…綺麗だよ」
    「……え?あの、こういう場合普通「お前の好きに生きろ」とか言う場面じゃないの?」
    「無責任な気がして……」
    「ここはそういうの気にせず言う場面でしょ…」
    「シーンの都合とかどうでもいい、ただ綺麗だって言いたかったんだよ、帰るぞ、服着ろ」
    「綺麗だよって何?」
    「いいから!!龍馬さん家行くぞ!」
    「また龍馬さんか」
    「悪いか」
    「多少?」
    「多少って何」


    60話「デジャヴ、そしてジャメヴ」


    何日経ったか、今自分が何をしているのか、分からない。
    ずっとベッドに寝転んで、ずっと食器棚見つめて。
    旅行の帰りに同じコップ6個買って、また来てくれないかな、なんて思って。
    晶さんがまた来た時のために、座布団も買って。
    なのに僕はずっと家に籠りきり。

    少し身体を起こす。
    軋む床に、大きな音を立てて擦れる布団。

    さっき明人君とパラさんが来た。
    差し入れだと言って僕が好きなお菓子を持ってきてくれた。

    …明人君。
    ……なんで。

    頭がキリキリ痛む。
    身体が重くて、頭が特に重くて。
    僕はいつも何を考えて生きていたのか、分からなくて。
    昔の思い出は曖昧で、智明が言ってくれなきゃ思い出せなくて。
    臭い物に蓋をしていた感じ。

    普通ってなんだろ。
    普通ってなんだよ。
    馬鹿者。
    大馬鹿者。
    ふざけるな。

    壁を睨み付ける。
    ぼんわりと熱くなる眼。
    ガラスに反射して見えた。
    不良を追い払った時を思い出す。

    …彩さん。
    …会いたいな。

    、普通に、生きたかったよ、僕だって。

    その時震える携帯電話。

    ……朱里さんだ。
    前髪を、切りすぎた朱里さん。

    「…もしもし?」
    『もしもし龍馬君、突然電話してごめんね…。』
    「大丈夫だよ……どうしたの?」
    『いや、ただ声が聞きたくて…あの、龍馬君。』
    「…うん?」

    朱里さんの声が、少しだけ低くなる。
    何かを不安に思っているような、それとも、何かを怖がっているかのような声。

    『…漫画本、知ってる?』
    「……漫画?」
    『そう…あのね……BL漫画なんだけど…明人君が、モデルになってるやつ。』

    頭に浮かんだ。
    ショッピングモールの本屋さんのBLコーナーで見つけた…あの本が。

    「…似てるかもとは思ったけど…あれ本当に明人君がモデルになってるの?」
    と尋ねると、朱里さんは少しだけ黙ってから話を続けた。

    『…あの本が…販売中止になった。』
    「そう…なんだ……でも、だからと言ってモデルになったのが確定とは思えないけど…。」

    すると、朱里さんが大きく息を吐いてから…こう答えた。

    『明人君のお父さんが作家さんで、知り合いに色々話を聞いたら…確定して良いらしい。』

    ……そう…なのか。

    「じゃあ、あの本は…本当に…。」
    『うん、それに…明人君のニュースを見て、そこから発想を貰って…明人君に似せて書いたって作者が認めたの。』

    ……明人君…。

    『真面目に向き合って書くんだとしたら、百歩譲って、色んな事を無視したら許せるのかもしれないよ、でもあの内容は…明人君を馬鹿にしてるとしか思えなくて。』
    「……そうなんだ。」

    …明人君。

    「…朱里さん、あのね。」
    『?』

    …言おうか、迷った。
    でも、言って、救われたいという思いがあったのだ。

    僕は。

    「…僕が、見つけたんだ。」
    『うん、それは晶から聞いたよ。』
    「わざとなんだ。」
    『……え?』
    「晶さんが心を読めるって、分かったから…わざと、大袈裟に本に反応したんだ。」
    『……そうやって、わざと馬鹿なフリして人に察させるの、いつからやってた?』
    「…覚えてない。」

    沈黙。

    『小さい頃からそうやって、自分の意思を伝えてたの?』
    じくりと痛む胸。

    「分からない、でも、多分そうなんだと思う…。」
    『…ご家族さんと話せる?』
    「……話したくない。」
    『智明とは?』
    「……。」
    『そっか…なら…カウンセリングとか、行った方がいいと思うな…?』

    不安げな朱里さんの声。

    「…行ってみる、ありがとうね…。」

    と言うと、朱里さんは小さな声で返事をしてから黙り、最後に一言だけ残し、電話を切った。

    ……カウン、セリング。





    思い立ったが吉日という言葉がある。
    次の日速攻で電話予約をし、カウンセリングへ向かった。

    久しぶりに乗るバス。
    停車ボタンの赤い光が、まるで誰かの目に見えた。
    大勢の目にじっとりと睨まれる。
    最初は畏怖した僕だったが「いつも通り」だと気付いてからは恐怖心が消え去った。


    診察室の前で一人、大好きな一片の報いを読みながら名前が呼ばれるのを待つ。

    …この待合室。
    何か懐かしいような、でも、なんか、初めて来たような妙な感覚。
    既視感を感じ、それと同時に未視感も感じる。
    昔何かで読んだような、もともと知っていたのかはもう分からない。
    初めての事なのに経験があるように感じることを既視感、デジャヴと言い、何度も経験している事なのに、まるで初めてのように感じることを未視感、ジャメヴと表すんだという事を思い出した。


    「昔から、嘘をついて生きてきました。」
    先生は頷きながら話を聞き、たまに質問をしてくれた。
    何を話したかはもう覚えてない。

    「昔から自分が死ぬ妄想をしてしまっていた」
    「たまに自分自身が揺らぐ感覚がする」
    「いつも誰かに見られているような感じ」

    多分、その辺りの事を言った。

    「よく話せたね。」

    優しそうな男性だった。
    僕は、沢山。
    今までの人生で話したことの無い話題について沢山話した。

    唯一、鮮明に記憶が残っているのは。

    「夢占いって、正確なんですか?」
    と聞いたことだけ。
    そのあとの先生の答えも、記憶に残ってる。

    「夢については分からないことだらけなんだ…記憶を整理するためだという説があるんだけど、これも確かかは分からない。」

    この先生は、夢について深く知っているんだと理解した。

    「…悪夢が、身体や精神に与える影響は、ありますか。」
    「人それぞれとしか、言えないね。」

    自分が今、何を言っているのか理解しているような、理解していないようなそんな感覚だったのを覚えてる。

    「…あの」
    「うん?」
    「………僕、夢を見た時、トラウマを、思い出したんです。」
    「…うん。」
    「女の、子が…黄色いワンピースを着た女の子が、ライオンみたいな…黄色い目の怪物に襲われる夢で。」
    「うん」
    「…その……こ、怖いんです。」
    「……怪物が?その女の子が?」
    「……自分が。」



    帰り道。
    カウンセリングの内容を思い出しながら町を歩く。
    都会で、車の通りが多くて、様々な年代の人達が歩いてる。

    僕が住んでる町は、昔、土地開発に失敗したと聞いた。
    失敗した上に高齢化が進んで、町の人間は若い人をいれようと躍起になっているとも聞いた。

    …高校を卒業したら、あの町を出ようと思う。
    お父さんとお母さんに会いたい。
    本当の、産みの親に。

    なんてことを考えながら歩いていると、ふとカフェが目に入った。
    レトロな雰囲気の、木造のカフェ。
    賑わってるけどそんなに人が多いわけじゃなくて…静かそうな…。

    ……。

    「いらっしゃいませー!」
    誘われるように入っていった。
    カランカランと鳴るドアのベル。
    「お好きな席にどうぞ」という優しい声に従い、窓際の、日光が良い感じに差し込んでいる場所へ座る。

    アイスコーヒーと、なんとなくチョコケーキも頼んでみる。

    待っている間、お冷を飲み、おしぼりで指先を拭く。
    ……良い場所だな。
    もし住むならこのカフェの近くに住みたいかも。
    もしこの辺に住んだら僕常連になっちゃいそうだな…。

    「お待たせしました、アイスコーヒーとチョコケーキです。」
    「あ、ありがとうございます…。」
    優しい雰囲気の男性店員さんに頭を下げてからアイスコーヒーを一口飲む。

    …おお…美味しい…。
    冬に来たらホットコーヒーも飲みたいかも。
    なんて思いながらチョコケーキを一口食べ、外の景色を見ていると……ふと、見覚えのある人を見つけた。

    …お。
    お!!
    お!!!???

    ガタリと立ち上がる僕。
    僕が尊敬している人だとネットで噂になってる顔の人がお店の前に居る。
    目鼻立ちがはっきりしてて…髪がさらっさらで…なんか…ラジオで…前…顔の話題が出たとき「あんまり話題になってないよね」ってなんか雑に誤魔化してたっけわ!!入ってきた!!!!
    た、確かにこの地域に住んでるみたいな噂は聞いたことあったけど…!

    ガッと座り、頭を抱え、落ち着くためにチョコケーキを一口食べる。
    おいしい……でも落ち着かない…。

    カタカタと震える手を握りしめ、下唇をぐっと噛み締めると…その、尊敬する人が僕に話しかけてきた。

    「隣良いかな?」
    「ピェ」
    「ピェ?」
    「……どう…ぞ」
    「ありがとう、アイスストレートティーをお願いします。」

    低い声……ラジオと一緒……じゃああのネットでみたあの顔の写真も噂も本当なんだ…。
    それに…紅茶…飲んでる…!!一片オタクが絶対飲む飲み物ランキング一位!二位はワイン!!
    本人なんだ…なら自分がファンだとバレたらダメだ、あれだ、プライベートを侵害するファンになっちゃいけない。
    ダメだ。
    と言い聞かせながら知らんぷりをしていると、彼の方から僕に話しかけてきた。

    「一片の報いの…ラフのアクリルキーホルダーだね?」
    「え?」
    「僕作者だよ、僕の作品を好きになってくれて嬉しいな、ありがとう」
    「え?」

    ……?え?
    停止する思考。
    耳まで響く心臓の音。
    震える手。

    「い……池崎、直樹さん……ですか…?」
    と尋ねると、彼は頷きふんわりと微笑んだ。
    「そうだよ、君は?サインいる?」
    「神に名前を教えるわけには…!」
    「神じゃなくて人間だよ…サインは?」
    「……欲しいです、おでこに書いてください」
    「おでこは流石に…手帳で手を打ってくれるかな……?ありがとう、可愛い手帳だね!」

    ダメだ…チョコケーキなんて食べずにアリスの得意料理のアップルパイ意識してアップルパイ頼めば良かった!
    コーヒーじゃなくて紅茶にすれば良かった!!

    なんて思いながら池崎直樹さんが僕の手帳にサインを書いてくれている姿を見ていると、彼が僕の方を見てこう尋ねてきた。
    違う、尋ねてきたじゃない。
    こう質問してくださった。
    質問してくださった?質問して、頂けた。
    ありがたい言葉を、頂戴、し、いや違う。
    僕に優しい声色でこう質問してくれた。
    していただけた。優しい声色は良い。ここはい
    「もう話しかけても良い?それともまだ…何か考える?」
    「終わりました、なんですか…?」
    眉を下げて僕の顔を見ている池崎直樹さんにこう答えると、池崎直樹さんは頷いてからサインの上の方を指差した。

    「ここに君の名前を書きたいんだけど…名前を聞いてもいいかな?」
    ……叫ぶな、僕。
    「あ……ま、松田龍馬です……。」
    池崎直樹さんに名前を伝えると、池崎直樹さんは頷いてから僕の名前を繰り返した。
    「マツダリュウマ……」
    「ピェ」
    「ピェ?また鳴いたね…ふふ、かわいい」

    クソ、最悪だ……でも池崎直樹さんが笑ってくれた、良かった。
    頭の中で自分自身を励ましていると、池崎直樹さんが僕にこう話しかけてくれた。

    「名前…漢字はどう書くの?マツダリュウマ…」
    あーそうか。
    まつだにもりゅうまにも色々種類あるもんね。

    「松の木の松に…田んぼの田…」
    「松の木の松…田んぼの田…オッケー、名前は?」
    「ドラゴンの龍…立つ方の起立の立に月…横はなんかぐにゃってしたやつ…」
    「立つ方の起立の立…こっちの龍ね?良い説明」
    「で、ホースの馬です…」
    「なんで名前をいちいち英語で表すの?分かりやすいけど…ふふ」

    やった、また笑ってくれた!この記憶だけで五週間は生きていける!

    「書けたよ龍馬君」
    「ピェア」
    「今度は違うタイプの鳴き声だね、はいどうぞ」

    また鳴いちゃったけど笑ってくれた…。
    池崎直樹さんから手帳を受け取り、サインを目に焼き付ける。

    「鳴き声が特徴的な松田龍馬君へ」

    …………
    僕死のうかな?

    「龍馬君、龍馬君って今何歳?」
    どうやったら自分の存在を消せるか考えていた時、池崎直樹さんがこう話しかけてきてくれた。
    ね、年齢?なんで知りたいんだろ…。

    「え?あ…こ、高二です」
    と言うと、頷いてから首を傾げ、僕の顔を覗き込む池崎直樹さん。
    「どこの高校?」
    「あー…あの」
    高校の名前を言おうとしてやめた。
    彼には、こう言った方が伝わるかもしれない、と思って。

    「……昔、開発に失敗した町です。」
    すると、彼は顔を上げ、目を輝かせた。
    「まさか君があの龍馬君…!?」

    ……え?
    「明人がいつもお世話になってて…」
    「!え、あ!じ、じゃあ…お、お父さんなんですか!?」
    「そうそう!明人の父親なんだよ!僕!」
    「え!!??ま、ほ、本当に!!??」




    「見てくれないか!明人が小学生の時に描いてくれた僕!」
    「わー!凄い!上手いですね!」
    「ああ!明人は天才なんだよ!!」

    池崎直樹さん…明人君大好きでかわいいな…。

    「…あのね、龍馬君。」
    明人君が描いた絵を見せてもらっていたその時、池崎直樹さんが突然神妙な面持ちでこんな話を始めた。

    「…漫画本を、知ってる?」
    「…漫画本。」

    勿論知ってる。
    でも、お父さんに話していい話題なのか、分からない。
    池崎直樹さんが動いて確認を取ったおかげで販売を中止できたんだ。
    でも、だからと言って…話していいのか、分からない。
    すると、僕が悩んでいることに気付いたのか、池崎直樹さんが優しい声色でこう言ってくれた。

    「龍馬君、ありがとう」

    じくりと、胸が痛む。
    池崎直樹さんはこう続けた。

    「こんな事言ったら明人に「お節介」って言われちゃいそうだけど…」
    「…はい。」
    「…明人に、君みたいな友達がいてよかったよ」

    …あぁ、そうか。
    僕、明人君とは友達なのか。

    「…龍馬君?」
    「……友達、って言っていいのか、分からないんです…。」

    気付いたら、こんな事を言っていた。
    右眉をピクリと上げ、首を傾げる直樹さん。

    「…何が言いたいのかな?」
    …手が震える。
    緊張と、同じくらいの恐怖心で。

    「…明人君の事はもちろん好きなんですけど、それが…恋愛感情なのかも、しれないって思ってて。」

    と言うと、池崎直樹さんは二度頷いてからこう言った。

    「それが、嫌?」

    背に、汗が伝うのを感じた。

    「…分かりません。」
    「分からない?」
    「…はい。」

    僕の言葉を聞き、しばらく黙り込む池崎直樹さん。
    そして、アイスストレートティーを一口飲んでから、こう言った。。

    「…分からないままにするのも一つの選択だと思うよ?」
    「…。」
    「でも、君は…自分を理解したいという思いがあるんじゃないかな?」

    …池崎直樹さんの言葉を聞いて理解した。
    あぁ、そうか。
    僕、自分自身を理解したかったのか、と。

    「話せる範囲でいいから…全部話してごらん、龍馬君。」



    「最近どんどんまわりの状況が変わって」
    「家に帰ったら家が無くて」
    「小さい頃から見る夢があって」
    「その夢に出てくる子と友達になって」
    「昔から嘘をついて生きてきた」


    勝手に言葉が口から零れ落ちる。
    池崎直樹さんは僕の言葉を頷きながら静かに聞いてくれていた。


    「…大変だったね」
    「…」

    池崎直樹さんは頷き。僕の背を撫でてくれた。

    「…僕、幸せに、なれますかね。」
    面倒な質問だな、と言いながら思った。
    だけど池崎直樹さんは嫌な顔一つせず、こう答えてくれた。

    「夢を見つけるといいよ」
    「夢、ですか…?」
    と尋ねると、池崎直樹さんは頷き、こう続けた。

    「小さな目標みたいなものを達成していくと、それが成功した経験として君の記憶に残る」
    「…はい。」
    「それを積み重ねていけば、未来の君は今の君に感謝してくれるはずだよ」

    …成功した、経験。
    その言葉を聞いて思った。
    僕は、今まで何かに成功したことはあったのかな、と。
    部活にも入ってないし、バイトも何となくで始めた。
    成功体験なんて、味わった事無いかもしれない。
    やりたい事とか、興味がある分野も何もなくて。

    …もし、それが見つかったら…僕は。



    「…僕、最近毎日…日記を書いてるんです。」
    目を丸くする池崎直樹さん。
    「日記?」
    「はい、奇妙な夢を見たときとか…もちろん危険だってことは分かってるんです!でも…。」
    「…書くのが、楽しいのかい?」

    小さく、頷いた。
    「描写をリアルにするのが楽しくて…細かく、書くのが楽しくて仕方がないんです!余白を自分なりに補足したり…質感だったり空気感を文章で表すのが楽しくて…。」
    「うん」
    「…僕、作家になりたいのかもしれません。」

    池崎直樹さんは嬉しそうに微笑み、一度大きく頷いてから、耳に髪をかけ、ストレートティーを飲んでからこう言ってくれた。

    「じゃあ、先輩としてアドバイスをしてあげようかな?」
    い、池崎直樹が僕にアドバイス!??

    「お、お願いします!!」
    体を池崎直樹さんの方に向け、ぐっと頭を下げると、くすくすと笑いながらこう言ってくれた。

    「あはは、そんなに畏まらないでくれ…簡単なアドバイスのつもりだったのにな…」
    「あ、ご…ごめんなさい…。」

    流石にはしゃぎすぎたか…

    「…昔の話を、させてくれるかな。」
    反省してる僕が面白かったのか、少しケラケラと笑ってから…池崎直樹さんがゆっくりと話し始めた。
    「昔、悲しい事があったんだ…物凄く悲しくて、辛い事が」
    「……はい。」
    「その時の僕はね、色んな場所に色んな作品を投稿しては、受け取って貰えないし、賞も貰えないしで…貯金も尽きて、もう、作家なんてやめようかと思っていたんだ」
    「……」
    「…そんな時に、その悲しい出来事が起きて」
    「……」
    「涙よりも先に、アイデアが出た」
    「……!」
    「その結果、一片の報いが生まれたんだ…だけど、僕は後悔してるんだ」
    「……」
    「君は後悔しちゃいけないよ」
    「……分かりました」
    「…君にだけ辛い事を話させるのは不公平だから、僕も話すね」
    「……」
    「僕は、筆を折ろうと思ってる」

    …直樹さんが、筆を、折る?

    「…だから、君に、託しても良いかな?」
    そう言いながら彼が取り出したものは、ボロボロのメモ帳だった。

    「……これは?」
    「僕が使えなかったり、使いたくなかったアイデア達だよ」
    「…!」
    「君が居れば書き上げられる気がする…一片の報いに次ぐ、僕の代表作が」

    そう、切なそうに呟く直樹さん。

    ……

    …受け取れない。
    僕にこれは重すぎる。

    そう思いながらも、心の隅では受け取りたいと思ってしまう。

    「……龍馬君、ダメかな?」
    震える手。

    「直樹さん…その前に、相応しいかどうか…僕の…日記を、読んで、決めてくれませんか。」

    気付いたらそんな事を言っていた。
    いや、気付いたらじゃない。
    言いたくて言ったんだ、もう嘘をつくな、僕。

    直樹さんのメモ帳よりもぐちゃぐちゃで、所々が剥げたノート。
    カウンセリングで使うかと思って持ってきたノートを、直樹さんに手渡した。
    直樹さんはそれを読み、
    「……これは…凄いな…」
    と、言ってくれた。

    「……!ほ、本当ですか!?」
    「…いいよ、面白い…続きを読みたくなるね」
    「やった……!」
    「正直期待してなかった、少しずつ一緒に勉強していこうかと思っていたけど…今すぐにでも書きたいくらいだ」

    そう言いながら僕の背中を撫でてくれる直樹さん。

    ……よかった。
    やっと…僕オリジナルの、何かが…。

    「龍馬君、君に贈りたい言葉があるんだ。」
    「……言葉?」
    「学生時代、変わり者と持て囃されて…誰にも分かって貰えなかった僕を救ってくれた言葉だ」
    「……なんですか?」
    「『混沌を内に秘めた人こそ躍動する星を生み出すことが出来る』…ニーチェの言葉だよ」
    「…!」
    「心当たりがあるんだろう、龍馬君」
    「……あります、ありがとうございます…直樹さん。」
    「ああ…君は学生時代の僕そっくりだ」
    「光栄です…!!」
    「いちいち大袈裟だな君は…それが君の素なのかもね?」
    「…そうかもしれません。」
    「…あ、そうだ、彩も、君と同じ学校なんだよね?」
    「そうです、彩さんとは…いい友達です。」
    「…友達でいいの?」
    「…」
    「…なるほど、ふふ…青いね、龍馬君」



    長いのは分かってる。
    でも、これで最後かもしれないと思うと我慢できなくて…お願い。
    何かに祈る僕。

    気付いたら本当の家族が居る家にいた。

    白いワンピースを着た女性が居る。
    車椅子に座っていて、僕を見た瞬間真っ黒な瞳を輝かせた。

    彼女は言う。

    「久しぶり、初めましてと言った方が…正しいのかもね」

    お母さんだ。
    僕の、本当のお母さん。

    「…久しぶり、お母さん」
    僕がそう言うと、お母さんは嬉しそうに微笑んでから隣においで、と言った。

    「……お母さん」
    懐かしいにおいがする。

    「聞きたいことがあるなら、全部教えるよ」

    「僕の名前の由来は?」
    「決めたのはお父さんだから、お父さんに聞いて?」
    「お母さんはなんて名前にしたかったの?」
    「中性的な名前にしたくてね、ナオ、ミツキ、ヒカルとか、色々考えてたよ」
    「そうなんだ」
    「一番良い名前は知り合いに取られちゃった…最大候補だったんだけどね」
    「…なんて名前?」
    「アキラ」
    「…車椅子」
    「昔から動かなくて、龍馬が…私の側に来てくれた時に動いて」
    「うん」
    「龍馬を産んだ後、動かなくなっちゃったんだ」
    「……僕が誘拐されたから?」
    「……うん」
    「…捜索願は、出してたの?」
    「出してたけど、警察は取り合ってくれなくて」
    「……そうなんだ」
    「…突然で困ったでしょ…ごめんね」
    「……ううん、会えて嬉しいよ、お母さん」
    「…こちらこそ、ありがとう」
    「……ねえ、お母さん」
    「……うん?」
    「…もし、僕に恋人が出来たら嬉しい?」
    「優しい人だったら嬉しいよ、厳しく見るからね」
    「……女の子じゃなきゃ、嫌?」
    「龍馬が選んだ人なら、どんな人でも」
    「……」
    61話「バタフライエフェクト」

    「彩ちゃん。」
    夏休みが終わり、数週間が経過した。
    制服のカッターシャツも半袖から長袖に変わり、それと同じくらいのタイミングで龍馬がまた登校できるようになった。
    みんなが長袖の中、暑がりの俺だけが半袖で龍馬に笑われたり、明人に腕毛を毟られるような平凡な日々が戻ってきた。

    秋だ。
    俺の誕生日がある大好きな季節。
    紅葉にグルメにえげつない気温差に大量の虫。そして憎きブタクサ。
    人それぞれ色んな秋があるんだろうけど、俺にとっては読書の秋だな(読むのほぼ漫画だけど)なんて思いながら、龍馬と楽しそうに話していた彩ちゃんの名前を呼んだ。

    「?どうしたの?」
    「ちょっと話したいことがあって…来てくれるか?」
    「いいよ~待って、中庭に連れてって私の事ボコボコにしないよね?」
    「するわけねえだろ。」
    「どこ行くの?」
    「……中庭だよ。」
    「ヒィ」
    「違うから!」
    彩ちゃんって結構掴み所の無い子だな、と思いながら、彩ちゃんを人通りの少ない中庭へ連れていく。


    「なになに?告白でもする気?」
    そうからかってくる彩ちゃん。
    「みたいなもんだな?」と言うと、彩ちゃんは「朱里ちゃんに智明君と結婚するって報告しよ」なんて妙な事を呟いている。
    「もし本当に告白されたら了承する気なのかよ」とツッコんでから、電話の件について、話すことにした。

    「…あのさ、彩ちゃん。」
    「うん。」
    「…」
    「……?智明君?」

    ……言えよ。
    言ったんだろ、電話の主に。
    「お前が誰か分かったら「お前電話の相手だろ」って直接言う」って…約束したんだろ、俺。
    なんで今更緊張してんだよ。

    「……智明君?」

    眉を下げ、心配そうに俺の顔を覗き込む彩ちゃん。
    言え、言うんだ。言うんだ沢田智明。
    言え。言え!!!言うんだ智明!!!!

    「彩ちゃん。」
    「うん…。」
    「…俺、不幸かな?」
    「……」
    「……」

    ……あ?
    何言ってんだ?俺。
    怪訝な顔をしてから、ぐっと俯く彩ちゃん。

    …俺の境遇を理解してるのか、彩ちゃんは。
    やっぱり、電話の主は…目の前の子で間違いないのか。

    「…智明君は、自分の事…どう思う?」

    彩ちゃんは、俯いたままそう呟いた。
    …俺が、自分自身の事を…どう思うか?
    そんなの……。
    小さい頃からずっと、演じていたような。
    憧れの存在が、龍馬以外に居た気がする、みたいな…曖昧な思い出しか無いような俺が思うことなんて。

    …そんな…俺だからこそ、思えることが、何かあるのかもしれない。


    「質問に質問で返してごめん…あの…不幸を作る要素ってなんだと思う?」
    気付いたらまた妙な事を口走っていた。
    困惑させるな、なんて思いながらも…知りたくて仕方なくて。

    「不幸を作る要素…私は、環境とか…境遇だと思う。」
    困惑する素振りなんて見せず、顔を上げ、優しい声で答えてくれる彩ちゃん。

    「うん、俺もそう思ってた。」
    「……思ってた?」
    「うん…でも最近考えが変わったんだ。」

    自分でも何を言ってるのか分からない。
    何を言おうとしてるのかも、分からない。
    全部即興で話してるような、それとも…ずっと昔から、ずっと…同じ思いを抱いていたような。
    前世から、いや、前の俺が、その前の俺が、ずっと思って、言いたくてたまらない事があったような。

    「最近気付いたんだ、不幸を作るのは、環境でも境遇でもなく、感情なんじゃないかって…。」
    「……感情?」
    「うん、金銭的に貧しかったとしても、仲間に恵まれなかったとしても、自分が不利益だとか、不公平って思わない限り、不幸って事にはならないんじゃないかって。」
    「…」
    「た、例えばさ!魚介類ってあるじゃん!龍馬って魚食えないし俺からすれば不便そうだなって思うけど龍馬自身は大して気にしてないし、それ以外の物美味そうに食ってたりしてさ!それに魚って食中毒とかアニサキスとか怖いわけで!それから逃れられてるとか言ったら龍馬とか魚介類食いたくても食えない人達にハチャメチャに怒られそうだけど…待って俺何言ってんの怖、オタク特有の早口。」
    「言おうとしてることは分かるよ、過疎ジャンルで生き残るオタクみたいな感じだよね?」
    「え?」
    「ほら「もう公式何も出さないよ!」って他ジャンルのオタク達から言われるけど、そのジャンルにいるオタクは公式が何も出さなかったとしても各々で幸せに過ごしてるんだもんね。」
    「あーそうそうそういう感じ。」
    「本当に分かってる?」
    「分かってるよ、だから!不幸だとかそういうのは…各々の感情で変わるもんなんだ。」
    「……智明君。」
    「だから、俺が思う俺は……不幸じゃない、んじゃないかなって…。」

    ……しばらくの沈黙。
    俯く彩ちゃんと俺。

    「私も、不幸じゃないかな。」
    口を開く彩ちゃん。

    「…彩ちゃんがどう思うかで、変わるんじゃないかな。」
    顔を上げてそう答えると、彩ちゃんも顔を上げ、こう返事してくれた。

    「私は、智明君達と出会えたから不幸じゃないよ。」
    「人に恵まれたな?」
    「うん…ありがと、智明君。」
    「飯でも食いに行く?それとも…龍馬と二人が良い?」
    「……気付いてたんだ。」
    「何が??」
    「うっわ!意地悪!!言わせる気だ!!」
    「なにが?」
    「ヒー!!意地悪モンスター!ジジイ!!クソジジイ!!!」
    「「ヒー!!」って何だよ…待て何つった?ジジイっつったかお前、面貸せ。」
    「不幸だ私、私不幸。」
    「おいふて腐れんな、帰るぞ。」
    「うん……?方向逆じゃない?」
    「最近変な奴家の前に居て怖いから遠回りして帰る」
    「へえ」

    62話「自分らしさ2」


    「雅、おはよう。」
    学校に到着し、靴箱に靴を入れていた時、珍しく明人君から私に話しかけてきた。

    「明人君おはよ!どうしたの?龍馬君と良いことあった?」
    と尋ねると、明人君は首を横に振り、私にぐっと近付いてから耳元でこう囁いた。

    「昼飯の時、お前に話したいことあるから…中庭来て欲しい。」

    お昼ご飯のお誘いか…でも…話したいこと?
    なんだろ…漫画本についてかな…。
    なんて考えながら、少し不安げに私の事を見つめている明人君にこう答える。
    「分かった、直接言いに来てくれてありがとう…嬉しいな。」

    すると、明人君は私からぐっと顔を逸らしこう呟いた。
    「…それ以外要件を伝える方法ないじゃん。」
    「メッセージは?」
    「…………。」
    「…………。」
    「……また来る。」





    お昼ご飯を食べながら、お互いの好きなアーティストについて話し、そろそろ食べ終わりそうだなというくらいの時に、明人君が口を開いた。

    「…僕の、さ…中学の頃の話、知ってる?」

    ……。

    ゆっくり頷くと、明人君はぐっと俯き、小さな声で「晶から聞いたの?」と尋ねた。
    「…うん、漫画本の事も、聞いたよ。」

    そう言うと、明人君は顔を上げ、「だろうな」と言ってから、弱々しいけど、どこか力強い声でこう続けた。

    「お前が…旅行の時さ、自分の弱い部分とか、愚痴を僕に話してくれたから…僕も、お前に話したくて。」

    …明人君…。

    「いいよ、聞く。」
    そう言いながら、紙パックのリンゴジュースを持つ明人君の手を握ると、明人君は、優しく微笑んでから数回頷いた。


    「…僕、綺麗になりたいんだ。」
    …綺麗に…?
    「明人君は綺麗だよ?十分すぎるくらい…女の子が嫉妬するくらいは綺麗だと思うけど…。」
    と言うと、首を振り、泣きそうな声でこう呟く明人君。
    「そうじゃないんだ…。」
    「…?」
    「男と、してじゃなくて。」



    「あ…ご、ごめん、気付かなくて…。」
    「いい、いいんだ…最近だから…自分のことに気付いたの…。」

    …明人君…。

    「…いつ、気付いたの?」
    と尋ねながら、明人君の背中を撫でると、か細い声で、ゆっくりと自分の思いを話してくれた。

    中学時代、美術部に入っていた明人君は、部活が終わり、帰る準備をしていた時、顧問に残るように言われ…襲われた。
    それが…ニュースになって、明人君のフルネームが報道された。
    これがまず意味不明なんだけど…その上、明人君を罵る人間が現れ、それを見てしまった明人君はこう思ったらしい。

    「僕が女の子だったら…罵られなかったのかなって。」

    …明人君。

    「そんな時龍馬さんと出会って…恋をして…女の子になりたいって思いが…強くなった。」
    「うん。」
    「…でも、龍馬さんは……じゃん?」
    「うん、そうだね。」

    震える明人君の手。

    「だから…好きになって貰えるように、自分の性別を、変える必要がないってことに気付いて。」
    「うん。」
    「なんか、がっかりしてる自分に気付いた。」
    「…。」
    「…僕好きな人を自分の性自認のために利用しようとしててさ。」
    「…うん。」

    大きく息を吐く明人君。

    「僕、自分が分からない。」
    「…うん。」
    「…姉さんにも、晶にも話せなくて。」
    「うん。」

    優しく握り返してくれる明人君の手。

    「…いつ自分の…言葉悪かったらごめんね…性別が、不安定だってことに気付いた?」

    そう尋ねると、明人君が少しだけ顔を上げ、
    「…旅行行く準備してるとき。」
    と答えてくれた。

    …あの時か。

    「あの…自分が男だと思う時もあれば、女になりたいって思う時もあって…一貫性が、なくて。」
    「うん。」
    「…どうすればいいか、分からないんだ。」

    明人君の頬を伝う一筋の涙。
    私の頬にも伝っていることに気付いた。

    「…なんでお前も泣いてんの…。」
    「わかんない…なんか…わかんないや…。」

    なんで私も泣いてんの…明人君ドン引きじゃん…。

    「泣くなよ…マジでふざけんな…。」
    ドン引きしてるわけじゃなかった…もらい泣きしてるよ明人君…純粋な子だな…。

    …泣いてるだけじゃだめだ…ちゃんと明人君に寄り添った答えを出さなきゃ…

    「…明人君…。」
    「なに…?」
    「明人君はなにも変えなくていいんじゃないかな…あれ何言ってんだろ…」
    「なに…?」
    「私そういう話に疎いからさ…変な意見言っちゃいそうだけど…明人君の性別は明人君でいいんじゃない…?」
    「なに…?」

    あぁもう…変な事言ったせいで明人君ロボットみたいになっちゃってるじゃん…。

    …駄目だ、ちゃんと向き合って答えなきゃ。
    晶みたいに全部を解決することはできなくても、私に出来る事をしなきゃ。

    「…あのね?明人君の…悩みを、バーッと解決できるような事言えなくてごめんね。」
    そう言いながら明人君の手からそっと手を離すと、首を振り、申し訳なさそうに俯きながらこう答えてくれた。
    「…僕こそ、なんか、反応しにくい事言ってごめん。」

    明人君…。

    「明人君は悪くないよ…あのね…性自認はこう!とかそんな偉そうなことは言えないし、漫画本の事をサクッと解決できるような脳も力もないけど…。」
    「…。」
    「…明人君が、綺麗になる手伝いなら出来る。」

    顔を上げる明人君。

    「…本当?」
    「うん、私に任せて、世界一の美人にしたげる。」
    「そこまで…?」





    数日後。

    「じゃあ朱里ちゃん!また明日ね!」
    「うん、また明日。」

    同じクラスで、且つ隣の席に座っている女の子。
    人の悪口しか話せない子にまた明日も話そうと約束を交わす。

    …正直あの子苦手なんだよな。
    晶の愚痴を言われるのはまだいいけど、あの子明人君の愚痴まで言ってた。
    それもその子のイメージする二人の。
    やれ「遊び人」だの「性格が悪い」だの色々。

    不快に思って当然じゃんね。
    私は明人くんと晶の全てを知ってるわけじゃないけど、あの子よりかは知ってる筈じゃん。

    でも、不快感を表して「二人の愚痴言わないでよ!!」とか言っちゃってハブられでもしたら生き辛くなるだろうから不満を飲み込むしかないんだろうけど。

    ……でも、やだな。

    …まぁ、さ。
    こんな事考えてる時点であの子と同レベルなんだろうけどさ。
    本当低レベルだな。
    わたし晶みたいになりたい。
    晶になりたい。
    だったら…あの時、明人君にもっと寄り添える事言えたかもしれないのに。



    「…そうだ。」

    明人君。
    晶みたいにガツンと解決できるわけじゃないけど、私にできる範囲で支えるって決めたんだ。
    お化粧だったり服装について色々お話しよう。
    拒食症気味だった私を助けてくれた時に比べたら軽すぎるかもしれないけど、私に出来る事を精一杯やろう。

    と思いながら、隣のクラスにいる明人君の様子を見ようとそっと教室の中を覗き込むと

    「……!」

    何かを待っているのか、面倒そうに自分の毛先をいじっている明人君が目に入った。

    教室にいる全員が、私自身も明人君を引き立てる為のモブに見えて。
    この教室も、舞う埃ですら明人君のために存在してる様な、そんな錯覚に陥ってしまうくらい。
    誰よりも、何よりも綺麗だと思った。

    私が少し前に「隈が気になるなら消し方教えてあげようか?」って言ったら、ちょっと嬉しそうに「うん」って言ってくれたっけ。
    教えたら目をキラキラさせてちっちゃい声で「ありがとう」って言ってくれたっけ。

    ………今日の明人君隈が薄い。
    私がおすすめしたやつを買って使い方調べて使ったのかな?いつもより顔色が良い気がする…かわいい…。
    睫毛もいつもより長いし…唇もつやつやだ…えぇ?何あの子めっちゃ可愛い…。

    「…何してんの。」
    「…え?あ、ご、ごめん…明人…君…呼んでくれない?」
    「えぇ…?」
    「いいから、お願い、早く呼んで。」

    瞬きする度に心臓が締め付けられる様な。
    完璧すぎる造形というか、人間が受け入れられるギリギリの範囲に収まった美というか。
    お花みたいな、いや彫刻みたい、なんて例え方をしたら明人君に申し訳なくて、彫刻というよりかは、絵画?いや、そうだ、生け花だ。
    なんというか。
    明人君の人生の軸には、明人くんの根っこにあるのは土でもイーゼルでも石膏でもなく、剣山だった事を知った様な。



    絶望した。



    「…遅い、待ってた。」
    「…綺麗だね、明人君。」
    「え?…あ…ありがとう…お前が教えてくれたの…使ったし…。」
    「超可愛い。」
    「あ…うん……。」
    「今度お洋服もあげるね。」
    「いや…そこまでして貰わなくていい…。」

    63話「デジャヴ、そしてジャメヴ2」


    「なあ!秋あった?もう冬やん!葉っぱもう全部散っとるし!!」
    「ほんとにそれ!!「読書の秋~」とか言って漫画読んでたら朱里ちゃんに「もう冬だよ」って言われてビビり散らかした!!」
    「ほんまに!!」

    11月24日。
    11月はうちの誕生日がある月。
    秋が好きだから、小さい頃は「11月28日までは秋だ」と言い張っていたけど、もう諦めることにする。
    寒すぎる。これが秋だと言い張るのにも限界がある。

    「晶ちゃん寒がりだね?」
    「冬にパーカー一枚で出歩く彩ちゃんが異常なだけやろ…。」
    「手触ってみて。」
    「……冷た!!!!氷みたいになってるやん!!!!!!!」
    「声でか。」
    「ごめん…寒くないん…?」
    「めっちゃ寒い…。」
    「アホやろ…マフラー使い?」

    …彩ちゃん。

    カウンセリングに行くという彩ちゃんに、無理を言ってついてきた。
    理由はただ側にいたいから。
    こんな事言ったら「らしくない」なんて思われてしまうだろうけど…うちは、恋をするとこんな…。
    …だめだ、いつもみたいにいい言葉が浮かばない。

    ……最近、また能力を使い始めた。
    何に使ってるか、どういう理由で使ってるかは言いたくない。
    馬鹿らしくて…呆れられるだろうから。

    「…カウンセリング、ついてきてくれてありがとね、晶ちゃん。」
    「気にせんといて、うちこそ「ついていきたい!!」ってわがまま言うてごめんな?」
    「切腹。」
    「せ、切腹…?」

    …こんな、くだらないやりとりを愛おしいと思う。
    大好きで堪らないな、と、思ってしまう。

    彩ちゃんの横顔をこっそり見つめていると、彩ちゃんが微笑みかけてくれた。
    …バレた、最悪。

    まあでも、彩ちゃんの笑顔見れたからいいか、なんて呑気な事を思ってしまう。
    恋愛は人を馬鹿にする、と、どこかで聞いたような気がする。
    事実だから、この言葉を考えた人も恋愛で馬鹿になったことがあるんだな…なんて思うとすべてが愛おしく思えてきて。

    彩ちゃんが口を開く。

    「2018年11月24日は、私にとって大事な日だった。」



    え?

    「彩ちゃ」
    突然胸倉を掴まれ、壁に叩きつけられる私。
    「ぐ…っ…!」
    背中に鈍い痛みが走る。
    「さ、彩ちゃ」

    「何してんの」と言いかけてやめた。

    彩ちゃんが、私の、胸に顔を埋めてる。

    「さ、彩ちゃん…!?」
    みみみみみみみみみみにねつがしゅうちゅうして、だめだ、考えられない。
    鼓動が耳にまで響いてる。
    彩ちゃん…突然……何を……。
    その時突っ込むトラック。

    猛スピードで私たち二人がいた場所へ突っ込み、車体が彩ちゃんのパーカーのフードを掠めた。

    …?

    は?

    「彩ちゃ…ッ!!」

    彩ちゃんの顔を掴み、無理やりこちらを向かせる。

    「何してんの…!?予測して、助け」
    最後まで言おうとしてやめた。

    「…なんで、泣いてんの…?」
    そう問いかけると、彩ちゃんは目を開き、力強く私を抱きしめた。

    「さ、彩ちゃん!?」
    体温が上昇し、トラックに驚き跳ねた心臓が、彩ちゃんで塗り替えられていく。

    「…やっとせいこうした…」

    彩ちゃんの、この言葉を聞くまでは。

    「…え?」

    鎮まる心臓
    怖いくらい静かになって、足元に血が貯まってるような感覚に襲われる。


    「七樹萌奈を、しってる?」



    「…どこでその名前を知った」
    「狭山恵美先生なんでしょ、萌奈さんって。」
    「えっ」
    「晶ちゃんのお姉ちゃんみたいな存在で、晶ちゃんのお母さんにとっては妹みたいな存在。」
    「なんでそのこと」
    「抗争が起きて晶ちゃんのお母さんは晶ちゃんを庇って亡くなった。」
    「彩ちゃ」
    「萌奈さんは最初晶ちゃんを見殺しにした、でも晶ちゃんのお母さんがそれを許さなかった。」
    「お母さんが」
    「晶ちゃんを長生きさせるために、萌奈さんはどんなことだってした、今もそう。」
    「ま、まって彩ちゃ、萌奈が力を…持って…?」
    「おねがい」

    突然動きを止める彩ちゃん。

    「…あきらちゃんが、生きないと…朱里ちゃんも、明人も、苦しい思いしちゃうの」
    「…え?」
    私が生きないとって、どういう…。

    「…2007年、抗争に乗じて、企業が子供たちを誘拐し始めた。」
    「…!」
    「誘拐犯は白スーツの男って呼ばれてて…三回目ではそいつらの実験に明人とか、朱里ちゃん…智明君に、龍馬君、…一口ちゃんに宮部ちゃん、太秦ちゃん、烏丸君、それに…私市ちゃん、化野君、蓮台さんが使われた。」
    「…!」
    「この子たちには何の罪もないのに…!だから企業をぶち壊さなきゃいけないんだよ!私は…!」

    …聞き覚えのある名前があった。

    「…彩ちゃん、あの、さ」
    「…何?」
    「…彩ちゃん…人生、何回目…?」

    のんきな質問だと思った。
    でも聞くしかなくて。

    彩ちゃんはこう答える。

    「…もう、おぼえてない…」



    「萌奈さんの妹さん、心を読める子だったんだよね。」
    「…うん」
    「その子も、何度か…私と、萌奈さんと、タイムリープを繰り返してて」
    「……」
    「その結果、ストレスと、恐怖心で…自殺したんだよ。」
    「……」
    「最近智明君変な人が家に来てるらしいし、明人のこともあるし」
    「……」
    「あきらちゃん…わたし…もう、これ以上生きたくない…………」

    私の胸に顔を埋める彩ちゃん。

    ピンときた。
    彩ちゃんが抹茶カフェで朱里の能力を言い当てたこと。
    電話の相手についても、ピンときた。

    全部事前に知ってるから…経験してるから…電話で何が起きるか教えてくれてたのか。


    ……萌奈も、生きたくないと、思ってるのかな。


    …彩ちゃん。

    「…電話、いつも、かけてくれた」
    顔を上げる彩ちゃん。

    「…それを言う役目は、ずっと…智明君だった。」
    「…」
    「…晶ちゃんが相手で…なんか、未来が、変わったら、良いな」




    「彩ちゃん、好き。」

    変なことを口走る私。
    「…。」
    「うちが、彩ちゃんに告白するのは、これで何回目?」
    「…初めて。」
    「じゃあそうやって、全部、初めてを…けいけんして、未来が変わる可能性に賭けよう?」
    「…どう、やって?」




    静かな部屋

    柑橘系の、匂い。

    赤らんだ、素肌。

    早くなる彩ちゃんの鼓動。



    「…わたし、悪い女?」



    「うちの方が悪い女よ、さやかちゃん」



    好かれたかった



    愛されたかったんだよ



    力はこうやって使えばいいのかって







    彩ちゃんの大好きな、龍馬を





    「やめよ、彩ちゃん」


    驚くさやかちゃん


    「…なんで?」



    「彩ちゃんは龍馬が好きなんやろ?」



    「…え?」



    「何年も繰り返して…でも、彩ちゃんが病んで…人生を、辞めようと思わなかった理由に…なれないよ、私は。」



    「……晶ちゃ」



    服を着る私



    「背中見せてごめん、ビックリしたよな」
    「いや、その」
    「いつもの彩ちゃんなら、こんなうちの誘い無視してたよ。」
    「……」
    「「友達でいたい」って言って…無視してくれてた。」
    「……」
    「彩ちゃんがうちの誘いに乗って、服まで脱いで…身体委ねようとしてるのは」
    「……」
    「うちの、背後にいる龍馬を見てるからや。」
    「……真似、してるんだ…。」
    「うん、でももうやめる…家まで送るわ…早よ服着て。」
    「……マフラー…。」
    「…あげるよ、持ってて。」





    家の前。
    怪訝な顔をしている明人。
    その明人の肩を叩いてから、家に帰った。


    街灯に照らされながら煙を吐く。

    早死にしてしまうな、なんて思う。

    ただ、こう、朽ちていけたら。

    人として朽ちていけたら。

    落ちる灰を見ながら思った。



    らしくない、振り方だっただろうか。

    彩ちゃんの言葉が頭に響いて残る。
    計画を完遂させるためには、彩ちゃんの、龍馬への思いを……否定せなあかん。

    …否定せずに、皆が、幸せになるには。


    「……あは、龍馬二分割するしかないかもな~。」

    灰の塊を踏んづけた。
    ポケットに突っ込んだ。
    灰まみれのズボン。

    笑った。

    もうすぐ誕生日。
    産まれて17年経つ。
    クソガキがクソガキに成長した。

    空に向かって唾を吐くがそれは全て私へ降りかかり、私が誰かに吐いた言葉は、そのまま私へ降りかかる。
    雨のように、滝のように降り注ぐのだ。

    私は唯此処に居た。
    それに意味など無く、理由なんて無いに等しい。
    だがそれがどうした。


    どうしたんだ。
    どうしたんだよ。



    64話「普通の日」



    「なあ晶、姉さんとなんかあった?」
    「んーん、何もないよ」

    明人には気付かれてしまうか、と頭の片隅で思いながら昼飯のパンを口に突っ込む。

    「……一個だけ言うわ、うち彩ちゃん諦めた。」
    と言うと、明人は目を見開き、うちの肩をひっぱたいた。

    「はぁ!!??」
    「いった!!なんやねん!!」
    「僕の努力を返せ!!」
    「お前が何してん!!」
    「何もしてないけど返してって言ったら返してくれる?」
    「返すわけないやろ…痛いな!!!なんで叩くねん!!!」
    「何となくだよ!!!!」

    …不毛な会話。
    ……昨日、彩ちゃんと一緒に居なかったら。
    彩ちゃんがうちを守ってくれへんかったら…明人とこんな会話出来ひんかったんかな。

    一個前の世界のうちは、こんな会話せずに…トラックに轢かれて死んでたのかな。

    「…なあ明人」
    「何」
    「……ありがとうな」
    「……」
    「……」
    「気持ち悪」
    「気持ち悪ってなんやねん!!」
    「いった!!叩くなクソ晶!!」
    「仕返しや!!!!」

    明人が、明るくなったような気がする。
    顔色はもちろん、性格も…声色も。
    …よかった。

    「…なあなあ」
    「なんだよ、腕ツンツンすんな気持ち悪い」
    「……明人って将来の夢何?」
    「将来の夢?欲を言うなら」
    「うん」
    「龍馬さんのフィアンセ」
    「現実的な夢は?」
    「…イラストレーター」
    「いいやん」
    「お前は?」
    「……え?」
    「お前の、将来の夢」
    「…………昨日」
    「うん」
    「告白してくれた子にうまい返事をする」
    「モテるな間抜け」
    「モテてへんわ」
    「智明とお前だとどっちがモテてる?」
    「智明じゃない?」

    なんて不毛な会話をしていると、龍馬、智明、彩ちゃん、そして朱里が近付いてきた。

    「おう馬鹿二人、何の話してんの」
    「智明モテるなって話してる」
    「確かに!なんか最近付きまとわれてんだって?」
    「あんま大声で言うなよ…」

    …朱里が智明に話しかけてる。
    よかった、二人なりの解決策が見つかったんやな。

    「…晶ちゃん」
    「彩ちゃん、こんにちは」

    ……やっぱり、ちょっと…距離があるな。
    仕方ないか。

    「なあ、付きまとわれてるって何?」
    少しだけ気まずい空気が流れたその時、気を遣ってくれたのか、明人が口を開いた。
    朱里が答える。

    「智明、最近家に帰ったら視線感じるし無言電話かかってきたりしてるんだって」
    「えぇ…なにそれ」

    …視線を感じる、その上…無言電話。

    「…アレかな」
    「?」
    「あの、例の…アレ」

    智明の言葉で、明人以外の4人がぐっと俯いた。

    「よし、取っ捕まえよう」
    しかし、明人のとんでもない発言で、みんなが一斉に顔を上げた。

    「取っ捕まえる!?」
    「うん、ストーカーなら取っ捕まえて警察につき出せば良いじゃん」
    「いや……まあ、でも、そうか……」
    「元ストーカーは言うことが違うな?」
    「黙れ」





    ……と、いうことで。
    明人の提案通り、ストーカーを捕まえることにしました。
    学校が終わってから6人で智明の家に行き、警察につき出す為の素材として、無言電話の記録に、ストーカーの物と思わしき残骸、そして髪の毛を集めていると…。

    「…居るわ」
    …ストーカーが、現れた。

    「僕行ってくる」
    「待て待て待て待て!!」
    「じゃあ晶猫の真似して忍び寄って」
    「何言ってんの?」
    「いいね、見たい見たい、やって、猫の真似」
    「龍馬も変な事言うな…猫の真似って何やねん…」

    …でも、どうしようか。
    ストーカーが目の前に居るのに…何も出来ひんな。
    どうすればストーカーを捕まえられる…?
    証拠集めても本人捕まえられへんかったら何も出来ひんし…今通報してサイレンの音が鳴ったら流石のストーカーも逃げるやろうし。
    ……企業に関わる人間なら尚更…。

    「……相手が企業なら髪の毛も残骸も何も残さないんじゃない?」
    沈黙を破ったのは、朱里だった。

    「確かに…」
    「企業って何?」
    「後で俺が教える」
    「頼む」
    「朱里、続けて」

    そう頼むと、朱里は頷き、証拠の入ったナイロン袋をつまんだ。

    「この髪の毛長いよね?ボブくらいかな?まあ…企業に勤めて、張り込み任務を任せられる人が男性だけとは限らないし、髪が長いから女性と決めつける気はないけど…」

    …成る程。

    「ストーカーは女の子だって仮定してもいいのかな?」
    「証拠をあえて残してる可能性は?」
    「あえて残すなら企業の可能性は0に近くなる」
    「…そうか」
    「残骸に無言電話…智明、無言電話って非通知?」
    「いや、違う…知らない番号」
    「待って、この番号見覚えある」
    「え?」
    「……あった、緊急連絡先」
    「緊急連絡先!?」

    …おお?

    「同僚だ!コンビニ一緒に働いてる人!」
    「龍馬君お手柄!」
    「この前この人に智明の連絡先聞かれたんだ」
    「教えた?」
    「教えるわけないよ…!智明に確認取らないと無理って言った…」
    「そうか…」
    「その子髪の毛これくらい?」
    「うん!でも最近髪の毛切って…」
    「その切った髪を置いてった?」

    ……ほう。

    「朱里、考察続けて」
    固まって話し合っている4人を見て、ずっと考え込んでいた朱里にそう言うと、顔を上げ、頷いた。

    「ストーカーは企業関係者じゃない、龍馬君とバイトが一緒の女の子…切った髪をあえて智明の部屋に置いて自分の存在をアピールしたかった…だから、自分の存在を知られたら尚更喜ぶ可能性がある」

    ……おぉ

    「私に任せて、いい考えがある」
    「……かっこい…」



    朱里の作戦は、とても単純で、明快で、でも…最善の策だった。



    電柱に隠れているストーカー。
    窓から顔を確認していた龍馬が口を開いた。

    「…やっぱり、あの子だ」
    ……そうか。

    その女の子に近付く……智明。
    困惑し焦る子。
    その子に、何かを伝える。


    「……ぁ……ッ!!!」


    その瞬間、耳を押さえうずくまる朱里。

    「!朱里!?」
    「……ッ…!!」
    朱里……。

    「朱里…うちの声聞こえるか?聞こえるんならまばたき3回して?」

    朱里の耳元でそう言ってみても、朱里はぐっと目を閉じたまま動かなかった。



    ……気は乗らんけど、仕方ない。

    「あんたら!頭んなかでエリーゼのために歌って!これから朱里の心読むから!」
    「なんでエリーゼのために…?」
    「うち心は読めるけど選んで読むことは出来ひんねん!いっせーので歌って!いっせーのーで!」
    と言うと、みんなが従ってくれた。

    「……一人音痴おるな!」
    「ごめんそれ私かも!」

    ……まあいいか。

    ぐっと目を閉じ、朱里の声を探すと…なんかシャウトしとる馬鹿おるな…オーラリー歌ってるやつもおる……なんて考えていたその瞬間、爆音のアラーム音が頭に響いた。

    「うるさい!!!!!」
    「何?え?ハードロックバージョンのエリーゼのためにはダメだった?」
    「お前か馬鹿明人!!オーラリー歌ってたの龍馬やろ!?」
    「エリーゼのためにってどんなのだったっけ?」
    「たらららら…」
    「あー!ごめん僕オーラリー歌ってた!」
    「まあええわ!ちょっと静かにして!」


    …耳の奥に響くモスキート音と音の割れたトランペットの間みたいな音。
    ……この音…まさか、警報?

    「朱里、大丈夫か…なんか嫌なもの見た?」
    困惑し背中を撫でる明人に、目をぐっと閉じ、震えている朱里。

    「…何か聞こえた?」
    龍馬にそう尋ねる彩ちゃん。

    しかし龍馬は窓から顔を逸らし、首を横に振った。

    「何も聞こえなかった」

    ……そう、か。


    朱里が元気になってからそれぞれで帰ることになった。
    朱里はまだ智明の家に居る言うてたし、明人は彩ちゃんと一緒に帰るらしいし…龍馬はバイトある!急いで行かなきゃ!!言うてたな。



    …うちは、どうしようか。

    朱里が怖い思いをしたのに…こんなこと考えちゃいけないのかもしれないけど、今日はいい日だった。

    テンポの落ち着いた曲を聴きたくなるような、そんな日。
    いつも聴かないようなジャンルの曲を聴きながら、少し遠回りをして帰りたくなるような、そんな日。
    柄にもなくポエムを頭に思い浮かべてみたり、空の雲を無心で眺めてみたり
    綺麗な空を見て、綺麗なあの子を思い出したりする、そんな平凡な日。



    でも、どこかの誰かは私に言った。



    「そんな事貴方に似合わない」と



    その言葉で、私がどれだけ傷付くかも知らずに。





    そんな日、そんな、ただの
    平凡な、平凡な、そんな日。




    イヤホンからは、相も変わらず男性ボーカルの声が聴こえていた。
    明人におすすめされた曲。
    相変わらず、何を言っているかは分からないけど。










    …私らしくなくても、いいだろうか。














    そんな事を考えながら曲の音量を3つ上げる、そんな日。














    そんな、普通の日。





    65話「黄色」





     私は、自分の事を最低な女だと思う。
    明人の事を応援しておきながら、自分が龍馬君と結ばれる可能性に賭けようとしていること。夢という共通点に縋っていること。
    11月24日というターニングポイントで起こしたあの事。
     すべてひっくるめて、私は自分の事を最低な女だと思う。

    「確かに、それは…ダメだな」

    コーラを机に置き、溜息を吐きながらそう呟く智明君。
    今回の私は、人に頼りすぎてるのかもしれない。
    何回も同じことを繰り返してるせいで疲れが出て、思考するという行為を放棄したいと思っているのかもしれない。

    思っているかもしれない、か。
    自分の事すら分からなくなってきた。

    「…私、なんか、分かんなくなってきた」

     萌奈さんはもう力を使えなくなった。
    これが最後で、これで失敗すれば、もう、やり直すことが、できなくて。
    出来る事すべてに手を出そうとした。

     頭に響く晶ちゃんの声。


    『何年も繰り返して…でも、彩ちゃんが病んで…人生を、辞めようと思わなかった理由に…なれないよ、私は。』


    私は、そんな役割を、押し付けようとしていたのか。
    押し付けているのか。

    「…晶はさ、あんま気にしないと思う」

     低いけど、優しい声色でそう呟く智明君。

    「晶の事とか、彩ちゃんの事、全部理解してるわけでも、能力持ってるわけでも、ないけど」
    「…うん」

     智明君が大きく息を吐き、力強い口調でこう言ってくれた。

    「…両方に非があって、両方が悪い出来事ってあると思うんだ、俺」
    「…」
    「彩ちゃんの言葉だけを聞いた俺が、善悪とか、損得?とかを判断すんのはおかしいだろうから何も言わないけど…」
    「…」
    「…善悪の判断を人任せにして、心の片隅で…許してもらおうとしてる彩ちゃんの事はおかしいと思う」

    …そう、か。

    「…ただのわがままだけど…私、晶ちゃんと友達に戻りたい」
    「うん」
    「どうすればいいかな」
    「じゃあこれからの事をちゃんと話し合った方がいい」
    「…」

    しばらくの、沈黙。


    「わたし」
    「うん?」
    「龍馬君が好き」
    「…うん」
    「龍馬君と、一緒になりたい」
    「うん」
    「…でも明人を、傷つけたくない」
    「だからと言って晶を利用すんのは違うな?」
    「…誰の事も、傷つけたくない」
    「俺もだよ、誰にも傷付いてほしくない」




    コーラを飲む智明君。
    ガムシロップを山程入れたコーヒーを飲む私。
    沈黙。

    その時、気まずい沈黙を破る存在が現れた。朱里ちゃんだった。

    「彩ちゃん!智明!呼ばれたから来たよ!」
    「……呼んだ?」
    「呼んでない…なんで来たんだろ」

     顔を見合わせ、お互いの耳に囁き合うと、それを見た朱里ちゃんが突然声を荒げた。

    「いいかも!そのカップリング需要あるよ!」
     ……私いつもこういう感じなのかな。

    「朱里なんでここに?」

     智明君がそう尋ねると、朱里ちゃんは、鞄の中から小さな袋を取り出し、それを私達の前に置いた。
    「?なにこれ」

     朱里ちゃんが置いた物を手に取りながらこう尋ねると、朱里ちゃんは少しだけ胸を張り
    「明人君に贈ろうと思ってプチプラのコスメ買い漁ったんだ」
    と答えた。

     明人のコスメ…いいな。

    「明人きっと喜ぶよ、ありがと!」
    そう伝えると、朱里ちゃんは嬉しそうに微笑んでから、エサを隠すリスのようにコスメをいそいそと鞄の中にしまった。

    「二人で真剣になんの話してたの?」
    「彩ちゃんのBL妄想聞いてた」
    「BL妄想!?それは最終的にエッチな展開になりますか!?」
    「お前のそんな姿見たくなかったよ」


    66話「「もっと、キスしてください」」






    龍馬さんを家に呼んだ。
    姉さんは予定があるらしいから…二人きり。

    幸せだけど、少し不安にも思う。
    最近の龍馬さんは…少し、様子がおかしくて。
    なんか、よく、分からないんだけど…どこがおかしいってはっきり言えるわけじゃないんだけど…今の龍馬さんからは、昔の龍馬さんを真似してるような、そんな雰囲気を感じる。
    いつも見てたおかげか、変化に気付いているのは僕だけみたいで…少し優越感。

    「明人君、呼んでくれてありがとう…実はちょっと、寂しくて。」
    そう呟く龍馬さん。
    「いえ、あの…飲み物、いりますか?」
    「いやいいよ、話してたいな。」
    「……分かり、ました。」

    ……龍馬さん。
    不謹慎なのは分かってる、でも…少し弱ってる龍馬さんも…可愛くて。


    足掻こうとした。
    計画があって、色んな困難や過程があって…それを乗り越えなきゃ…僕と龍馬さんは結ばれない。
    それは性自認だったり、同性だからとか…そういう問題だけじゃなくて。
    …僕と、龍馬さんが結ばれるのには、沢山の山があるのに、姉さんと龍馬さんには…山なんて無くて。

    ……ただ、足掻こうとしていた。
    少しでも、記憶に残りたくて。
    「あんな人もいた」と、思われたくて。
    諦めるために、でも、結ばれるためにずっと動いていた。

    …矛盾してる。
    僕の思考は全部矛盾してる。
    でもそれもこれも全部本心で、全部嘘で。


    「明人君、好きだよ」
    龍馬さんの口からそんな言葉が。
    その瞬間、心臓がどきりと跳ねた。
    冗談だろうなと分かっていても、バカみたいに。

    「…冗談…ですよね?」
    目を伏せ、右の口角のみを上げ笑う龍馬さんにそう尋ねると、態とらしくクスクスと笑い、こう答えた。

    「分かっちゃった?」
    「…意地悪ですね。」
    「うん、僕は意地悪だよ。」

    …龍馬さん、あの時と…ゴールデンウィークの頃と比べて結構変わったな。
    ……この龍馬さんも大好きだ。
    可愛いし、積極的で……やめよう、この龍馬さんには下心すらも見透かされそうだ。

    口の中に溜まった唾液を飲み込み、深呼吸をして自分を落ち着かせてから、龍馬さんに視線を移動させると、龍馬さんがぼそりとこう呟いた。

    「明人君、明人君は…僕のこと、ちゃんと好き?」
    …何を今更、好きに決まってる。
    知ってるはずなのに、どうして…。

    「…はい、好きですよ」
    「なら、なんでもう一回押し倒してくれないの?」
    「…えっ?」
    「僕が今凄く傷付いてるの知ってるよね?どうして傷口に付け込まないの?」

    龍馬さんの言ってる言葉が理解出来ない。

    ……なんで、今そんな事を言ってくるんだ?
    勿論龍馬さんが傷付いてる事は知ってる、だからこそ元気を出して貰いたくて呼んだんだ。
    昔の僕なら分からないけど、今の僕には龍馬さんを押し倒す気なんてないし、龍馬さんの為になるなら自分の理性と性欲くらい管理してやる。

    「……付け込んでも、良いですか?」
    でも、龍馬さんは僕との…行為を、望んでる…?
    龍馬さんの肩を抱き、そっと頬を撫でると、龍馬さんがゆっくり目を閉じ、顔をぐっ…と近付けて来た。

    …龍馬さんに満足して貰えるなら、僕はそれでも。
    なんでもいい。

    あの日のように、龍馬さんの唇に、自分の唇を重ねる。
    …あの時と違うのは、無理矢理じゃなくて…お互いの気持ちが一致している事。

    「……明人君…」
    そっと口を離すと、龍馬さんが潤んだ瞳で僕を見つめ、

    思い切り僕を押し倒した。

    「龍馬さ…ッ!?」

    驚きで身体が強張る。
    そんな僕の髪を優しく撫で、いつもより低く、優しい声で

    「…男役とか、女役とか、ゲイとかバイとか、僕にはよくわからないけどさ……全部僕に教えてよ。」

    と言い、自分の髪を耳にかけ、何度も優しくキスをしてきた。
    龍馬さんの長い前髪がくすぐったい。

    「………龍馬…さ………」
    「…なあに?」

    右手で僕の頬を撫で、左手を、僕の服の中に入れる龍馬さん。
    「…ッ……」
    胸のあたりをそっとなぞられ、身体が少しだけ跳ねる。
    そんな僕を見て、龍馬さんが不思議そうに首を傾げた。

    「…くすぐったい?」
    「…………その…」
    言葉に詰まっていると、龍馬さんが少し眉をひそめ、僕から手を離した。
    「嫌だった?」
    「…いやじゃありません…」
    「…ならもっと撫でて欲しいの?」
    「……はい……ぅ…」

    喉の奥から変な声が出る。
    中学の時とは違う、暖かい声。
    「り…ゅ…うまさ…ッ…」
    僕の身体を撫でる龍馬さんの手を掴むと、不思議そうに僕の目を見つめ、首を傾げた。

    「……もっと…その…」
    躊躇していると、龍馬さんが少し爪を立て触り始めた。
    その瞬間、じんわりと針を刺されたような痛みが身体をじんわりと染めた。
    「…痛い……」
    「……ごめん、もっと…強くして欲しいのかと思って…」
    申し訳なさそうに呟く龍馬さんの頭をそっと引き寄せ、龍馬さんの唇をそっと舐める。


    「…もっと…キスしてください」
    「…良いよ、明人」



















    ポタリと、涙が流れる音がした。

    貴方の、荒い息遣いが聞こえた。

    貴方の、唸るような声が聞こえた。

    貴方の、僕を呼ぶ声が聞こえた。


    果物のような、そんな甘みを感じた。

    お腹の上に、何かが流れるのを感じた。

    トラウマが、再現されるのを感じた。

    あの人は、もうあの人じゃないと感じた。


    この世の裏側を知った。

    苦味と酸味を知った。

    何か、重大な事を知った。

    絶望の、味を知った。
















    …悪い夢でも…見てるのかな。



    ぼとり、と
    深い後悔が喉奥に滲む感覚。
    腹の底から熱い熱が溢れ出て、止まらない
    止まらない
    止まらないんだ
    止まらない
    部屋に飾った絵を破いたあの日のように
    母親が無くなり父と二人になったあの日のように
    感嘆した
    敗れた方が美しくて
    感嘆した
    破れた方が綺麗で
    私は今も生きている
    だが然しながら、私の生は18で途絶えるでしょう。
    僕の性が16で途絶えたように。
    神のお導きのままに。
    無神論者の癖に図々しいな。
    危うい 危うくて危うい 綺麗な花火が舞う感覚
    死にたい 破れた方が綺麗なのなら
    破ってしまいたい
    何もかも
    貴方 愛しの貴方
    私を棄てて切り裂いて
    喉元からお腹の辺りまですぱっと
    貴方の手で
    椿の花言葉って知ってます?
    昔読んで貴方みたいだなって思ったんですけど
    汚い本当汚すぎる本当何で僕が
    あぁ糞が死んでしまえ
    死んでしまえこんな僕なんて
    なんで?何で僕が?
    何で?何で?何で?どうして?
    姉さん教えてごめんなさい何でもするからお願い
    姉さん









    なんで、ぼくばっかり



    67話「お母さん」




    「助けてほしい。」
    晶が突然、私達4人を呼び出し、こう言いながら頭を下げた。

    「顔上げて晶…どうしたの?」
    晶の肩を掴みぐっと顔を覗き込むと、下唇を噛み締め…こう呟いた。

    「漫画本が販売中止になって…その、理由が」
    「うん」
    「……ヤクザに、嫌がらせされたからだっていう…噂が立ってる。」

    ……沈黙。

    「…だから何だよ。」
    沈黙を破る明人君。
    晶は顔を上げ、こう続けた。

    「作者が、被害者面して…モデルになった明人と…直樹さんに…色々、批判が来てる。」
    「……は?なにそれ…」
    呆れたようにそう呟く彩ちゃん。
    「批判が来んのはマジでおかしいけど…事実なのか?ヤクザが絡んでるってのは。」
    冷静にそう尋ねる智明。
    晶は答える。

    「色んな人に協力を要請した、その結果…一部に、そういう人がいたのは事実かもしれない。」

    ……晶…。

    「…この前の、智明のストーカーの事…みんなが話し合って、最善の策を考えてくれたの見て。」
    「……」
    「うちの策は暴力的すぎるから、もっと、違う方法で……解決したくて。」

    ……晶。
    晶が人に頼る方法を覚えたんだ…成長したね晶……!

    …でも…方法か。
    でもあの時はたしか龍馬君が居たから解決したようなもんだよな…。

    「なあ晶、龍馬さんは?」
    明人君がそう尋ねる。
    すると、晶は首を横に振った。

    「呼んでない」
    「なんで?」
    「……龍馬には聞かせられへん内容になるから。」

    ……そう、なのか。

    「だからと言って…僕達いつも6人で居たのに省くのはちょっと…」
    「分かってる、でも今だけはこうさせて、お願いやから…ごめんな、明人。」
    「……分かったけど…」

    …龍馬君に聞かせられない内容…ヤクザ絡みとか、能力とか、そういう…系統の話かな。
    じゃあ彩ちゃんにも聞かせられないよね…なんで龍馬君だけ…?
    まぁ、晶にも考えがあるんだろうけど…。

    「まず今の状況を整理するね?…晶は、ヤクザに協力を要請した、その結果販売中止にまで追い込めたけど…でも、作者と出版社が被害者面をして、直樹さんと明人君に「ヤクザと関係を持った」と…批判が殺到した…。」
    そう言うと、数回頷く晶。

    ……難しすぎないか?解決策晶くらいしか浮かばないんじゃない?
    でもその晶が分からなくなっちゃってるのか。

    「一応聞くよ?晶が最初に考えた案って何?」
    「作者のリンチ。」
    「論外。」

    ……どう、しようか。
    龍馬君に協力要請した方が良いんじゃないの…?

    なんて思っていると、彩ちゃんが突然大声を出した。

    「朱里ちゃんだ!!!」
    「……へ?」
    私?
    「!せや!考察するタイプのオタク!!」
    「ええ?いや突然そんな事言われても…。」
    「一話で犯人とトリック当てたことあったよな、朱里。」
    「あったけど…それ中学の時の話でしょ?」
    「BL小説書くために原作読みまくってにわかから謎の設定追加したって批判来たことあったよな朱里!」
    「あったけど…待って智明私のBL小説読んだの?」
    「逆に聞くけどなんでそこまで考えられんのに「私に任せて」って言わなかったの?理解できない。」
    「明人君まで…でも……ま、まあ、一応考察してみるけど…。」
    「来るぞ朱里の考察!!」

    なんか盛り上がってるけど、冷静に考えよう。

    「朱里!負けんな!!」
    「がんばれ朱里ちゃん!!」
    「考察するんだからちょっと黙ってよ!!」


    …よし。
    一番の目的は出版社を黙らせること。
    それのためには…鎮火するのを待つか?いつになる?
    直樹さんは作家だし、文字で食べてる人だ…評判だったりが直接生活にかかわるような職業だから、出来るだけ早めに鎮火したいよな。
    だとしたら……大きな存在に協力を要請した方がいい。
    何に?あの出版社と同等くらいの…力とか権力を持つ…。

    ……。

    …あ。

    「…晶が炎上に関わってるって知ったら、企業は動かざるを得ないんじゃない?」
    「き、企業って……まさか」
    「……そう、あの企業だよ」 

    沈黙。

    「晶が関わってると知ったら能力の話と、自分達の計画が広まるのを恐れて、企業は鎮火しようと必死で動くんじゃない?だから…明人君と直樹さんの保護さえすればそれで良い。」

    ……沈黙。

    「…お父さんがもし、うちが関わって…批判を集めてるって知ったらどうなるかな。」

    口を開く晶。
    ……晶のお父さんが、晶が炎上沙汰に巻き込まれて、企業に利用されて……何もかもを使って動いてると知ったら。

    ……少し、怖いことになるかもしれない。

    シン、と静まり返った時、私達の顔をじっと見つめていた明人君が口を開いた。

    「当事者の僕の意見いかが?」
    「欲しい」
    「僕は、バッシングは怖いけどあの事件のおかげでもう慣れてるし、悪いのは100%作者と出版社であって僕じゃない。」
    「……」
    「だからいくらディスられても痛くも痒くもない…それに晶は僕を思ってやってくれた、その思いに嘘偽りはないだろうし、そう信じてる。」
    「明人……」
    「だからなにもしなくていい…企業が何かしたんだとしたらそれはそれでいいし、解決しなかったとしてもそれはそれでいい。」

    ……一番、大人な意見かもしれない。
    でもそれだと運に任せてるみたいで…。

    みんながぐっと黙り込み、これからどうしようか悩んでいた時、明人君が「あ」と声を上げ、携帯電話を取り出した。

    「当事者の父さんの意見も聞こうか。」
    あ、確かに、それは必要かも。
    明人君の提案にみんなが頷くと、明人君は「スピーカーにするな?」と言いながら携帯を操作し始めた。

    「直樹さんって一片の作者だよな…?」
    智明が緊張してる…可愛い…。
    「そうだよ、直樹おじさんは一片の作者。」
    「だよね…ねぇ、私声変じゃない?」
    「変じゃない、可愛い声。」
    「…ダメだ明人君にときめいちゃった私。」
    「もしもし父さん?」
    「え、もうかけたん?」
    『もしもし、明人?どうした?』

    …沈黙。

    「なんで全員黙んの…もしもし父さん、スピーカーな?あのさ…ヤクザの話知ってる?」
    明人君が黙り込む私たちを笑ってから、直樹さんに話し始めた。
    直樹さんは少し唸ってからこう答えた。

    『解決策が欲しいのか』
    「話が早くて助かるよ父さん、晶は作者リンチするって言ってて…。」
    『論外だなそれは』
    「でもそれくらいの気持ちになりません?」
    『分かるけど、君は少し血の気が多すぎるんじゃないか?』
    「…はい。」

    晶が責められてる…面白…。

    「で、朱里は…晶を狙ってるやつらを利用しようかって言ってて。」
    『噂には聞いたことがあるな…ある企業が秘密裏に非合法な人体実験をしていると…その企業を利用しようというわけか。』

    …流石、耳が早い。

    直樹さんはしばらく考え込んでから、私に対してこう質問してくれた。

    『朱里さんは…理性的だね?頭がいいじゃないか』




    「父さん、朱里が倒れた。」
    『た、倒れた!?』
    「倒れてませんよ!」

    い、池崎明人が私を褒めてくれた…。
    マジで倒れそうだったけど…えぇ…末代まで言い伝えよ…録音しとけばよかった…。
    なんてことを考えながら、さっきからじっと黙っている晶を見てみる。

    「…晶?どした?」
    と話しかけると、晶は顔を上げ、直樹さんにこう言った。

    「…何もしないという案も出たんです…でも…それだとうちの父が…黙ってないかもって思うと、怖くて…」
    …晶。

    直樹さんはこう問いかける。
    『君のお父さんの名前は?』
    「延彦です。」

    少しの沈黙。
    直樹さんは声を震わせながらこう言った。

    『…伝説の女の旦那だ…君はあの二人の…子供なのか』

    …知ってるのか。

    顔を見合わせる私たち五人。
    晶は下唇をぐっと噛んでから、か細い声で「はい」と返事をした。

    直樹さんはこう続ける。
    『…じゃあ、君は今からお父さんに、お母さんの声真似をして電話を掛けなさい』
    「…え?」

    口を開く智明。
    「こ、声真似…?なんで…」
    そこまで言って口を閉じる智明。
    明人君の肩をポンポンと叩き。口パクで「晶の力の事言ったの?」と尋ねると、明人君は目を大きく見開きながら首を横に振った。

    『能力については、色んな人の噂を聞いたり、実際にこの目で見たことがあるから知ってるんだ』
    …そう、なんだ…。

    『お父さんを怖がっているような素振りを見るに、過度な期待をされてる?そのせいで君は母親に対してコンプレックスを持っていると読んで、能力はトラウマやストレスで目覚めるという情報を合わせると、君は人を真似する力を持ってるんじゃないか、と考察したのさ』

    …すごい…。

    『みんなが黙っているところから察するに、合っていたみたいだね?』
    「…」
    「…」
    「…」
    「…」
    「…」

    …私達って意外と分かりやすいんだな。
    …でも

    「お母さんの真似ってどういう意味ですか…?」
    そう尋ねてみると、直樹さんはくすくすと笑ってからこう答えた。
    『今田は君が考察する番だよ、朱里さん」

    …………私が、考察を…。

    「…やってみます。」
    『頑張ってみな』

    みんなが期待の目でこっちを見てる。
    …よし、推理小説家泣かせの私の力を見せなきゃ!!

    …あぁ、何だ…単純じゃん。

    「…お父さんは、晶からお母さんの声がしたら多分、困惑して…晶に、お母さんの姿を重ねて見ていた事を後悔すると思います。」
    『あぁ、そうだね』
    「お詫びをすると…言うかもしれない。」
    『そうだ』
    「だからそれで企業に圧力を、違う。」
    『そうだ違う』
    「天才同士の会話って感じするな、明人。」
    「理解してるフリしよう。」

    …うるさいな。
    でも、ここからは私でも分からない。
    晶のお父さんがお詫びをしようと「何でもする」と言ったとしたら…何を頼めばいい…?
    晶のお父さんは結構な権力を持ってて…それをうまく活用するには…。

    …結構な、権力を、持ってるのか。
    じゃあ、そんな存在を好きなように動かせるのなら…。


    「…延彦さんを言いなりに出来る、っていう状況さえあればいいのか?」
    『でも、何か一つ頼むとすれば?』
    「「これからうちのやることに口出さんといて」…?」

    沈黙。

    その沈黙を破ったのは智明だった。

    「…あの、俺の母親…沢田皐月っていうんですけど…晶の母親と知り合いだったらしくて。」
    『…皐月…もう一人いなかったか?確か…松田…弓月とかいう名前の…』
    「!!ゆ、弓月!!龍馬のお母さんの名前です!!」
    『そうか…じゃあ…電話さえあれば、企業が勝手に動くし、君たちは何もしなくていいよ』
    「晶ちゃん!電話!!」
    「わ、分かった!!」





    20XX年 日曜日





    ゆめのなかでおかあさんをみつけた
    あたたかくてしあわせだった
    もうおわりだよっていわれた
    おわりたくないっていった
    きえたくないよっていった
    まだつづく
    まだつづけるんだっていった

    おかあさんは なんかいもあやまってた





    おかあさんをころした
    なぐってあたまをうちつけた
    ちがながれて
    ぼくのぜんぶをよごしていった
    けすなっていった
    そしたらしぬまぎわ
    おかあさんはよろこんでいた

    「やっとしあわせになってくれる」って

    ぼくにはなんのことかわからない
    でもただわかるのは
    おかあさんはぼくたちがすきなんだ
    だいすきでたまらないんだ

    ぼくもぼくたちもおかあさんがだいすき

    だから けさないで
    きえないで

    ばらばらにした
    ちをあびるぼく
    てがあつくて
    とけそう

    眼球がとろけて脳みそが掻き回される感覚
    手足が自分のものじゃないみたいでしびれる
    さいこうにいかすね
    脳に歌が流れる
    なにかのさんびかだ
    英語だからわからないや
    体に電気が走る
    あたまがぐらぐらする

    これなんていうんだっけ
    あぁ

    めいていかんだ

    これが自我
    これが自我か
    じが


    勝手に動くの
    指が
    たすけて


    ゆびがおれるよおかあさん

    4時50分
    私の私が私を壊そうとする



    きっとあなたは報われる






    あなたなら大丈夫



    うまく息ができない





    まるで歓声をあびているみたい















    そして死ぬ

    死ね


    殺してやる













    死で償え、
















    あの馬鹿女



















    初日の出、みんなで、見に行きたかった。
    正ちゃん Link Message Mute
    2022/12/08 20:23:37

    本当の主人公 7章

    一番長い章
    #創作 #オリジナル #オリキャラ #一次創作 #BL表現あり #HL表現あり #女の子 #創作BL #男の子 #本当の主人公

    more...
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