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    松井くんにいけないことに誘われる話「罪の味がする…」
    「ふふ、気に入ってもらえたのならよかった」
     髪を耳に掛け、ラーメンに息を吹きかけていた松井くんは私の言葉にそっと微笑んだ。
     僕といけないことしようか、と連れて来られたのは時の政府南館二階。時刻は深夜一時。私たちが今食べているのは松井くんおすすめのバター醤油ラーメン。世界中の罪を全て引っくるめて煮詰めたような味のラーメンは、こんな時間に口にしたという罪悪感も相まってとんでもなく美味しかった。
     
     
     深夜にも関わらずこじんまりとした店内にはちらほらと他の審神者や刀剣男士の姿が見える。深夜帯の演練終わりなのか、それとも私たちと同じように本丸をこっそり抜け出して食べにきているのか、密やかなさざめきのように心地の良い音量で流れ聞こえてくる他のお客さんたちの会話をBGMに私と松井くんは秘密の会合を楽しんでいた。
     店内に設置された小さな窓から見える景色にはちらほらと白いものが混じっている。ここへ来る時も寒かったけれど帰りはもっと寒いんだろうな、とずるずると味が染み込んだ熱い麺を啜っているとすっと横から手が差し伸ばされた。骨張った大きな白い手が耳から落ちかけていた私の髪の毛を掬って耳に掛け直す。冷たい指が耳の形をなぞるように撫でて、そうしてまた何事もなかったかのように戻っていった。店内のテーブル席はぽつぽつと埋まっていて、それならとカウンター席に隣り合わせで座っていた松井くんはもうなんてことない顔をしながら食事を再開している。
    「……松井くんはここ、よく食べに来るの?」
     何かを誤魔化すように啜り終わった麺を飲み込んだ後、絞り出すように吐き出した言葉は少しだけ浮ついていた。他意はない、松井くんにはきっと他意なんてない。髪が汚れてしまわないようにという配慮から出た行動なだけのはずだ。
     けれど触れられた耳にじわじわと熱が集まっていくようで、せっかく掛けてもらった髪の毛を解すように雑にかき混ぜると横から低い笑い声だけが聞こえてきた。
     食べ終わったらしい他本丸の御手杵と同田貫が後ろを通り過ぎるのを待って、他のお客さんたちの邪魔にならないよう声を落とした松井くんが私との距離を詰める。松井くんにとっては少しだけ小さいようなカウンターチェアの上、お互いの肩が触れ合っているのかいないのかわからなくなる、そんなぎりぎりの境界線を保たれたまま私の耳元に顔を寄せた松井くんはわざとなのかどうなのか多分に息を含ませた声で質問に答えた。
    「たまにね。夜戦が終わった後に皆で来ることもあるよ。豊前がここのラーメン好きなんだ。もちろん僕も」
     美味しい?覗き込むように近づけられた顔に怖気付き、反射的に伸びた背筋に合わせてカウンターチェアが軋んだ音を立てる。
    「危ないよ」
     くすくすと笑いながら腰に回された腕にどっと心臓が跳ねる。触れていないと言えなくもない、そんな絶妙なバランスを保たれていた距離間はこれで一気になくなってしまった。抱き寄せられた拍子にぎ、と鳴った耳障りな音にも嫌な顔一つせず松井くんは平然と微笑んでいる。
     いつになく近い距離に「ありがとう、もう大丈夫だから」と返した言葉は上擦ってやいないだろうか。私と違って大盛りを頼んでいた松井くんのドンブリはとっくの昔に空になっている。私のものも、もうない。
     夜警当番の子たちには言い置いて出てきたけれどそろそろ戻らなければならないだろう。腰に回ったままの手と、思っていたよりも逞しい胸板に抱き寄せられたせいで松井くんの顔をまともに見れないまま彷徨う視線は先ほどよりも白いものが多くなった窓の向こうに投げられている。
     耳に触れた手はあんなに冷たかったのに、今体に触れている松井くんの体はなんでこんなに熱く感じるのだろうか。私が落ちそうになったからという理由で回されたはずの腕はもうとっくに優しさの域を超えている気がする。変にどぎまぎとしたままの心臓に気付かない振りをしながら「そろそろ帰ろうか」と言った言葉に私の腰を抱く松井くんの腕の力は一層強くなった。
    「帰るの?」
    「か、帰る、けど…」
     低く落ち着いた声が気のせいでなければ拗ねたように落とされる。思わず松井くんの方へ顔を向ければ丁寧に手入れされた髪の毛が私のおでこに降りかかった。近い、なんてものじゃない。距離を取ろうと後ろへ動きかけた体は松井くんの腕に阻まれ、口から漏れるのはあわあわとしたと何の意味もなさない呻きだけだ。
    「いけないこと、僕としてくれるんだろう?」
    「…今一緒にラーメン食べたじゃない」
    「これは腹拵え」
    「は、腹拵え…何のために…」
    「…知りたい?」
     知りたくない。
     時刻は深夜一時四十五分を回ってしまった。呆れたような顔で見送りに立ってくれた不寝番の大倶利伽羅へ送る言い訳の連絡はどうすればいいのだろう。
     赤くなってしまった顔を覆う私の耳に楽しそうな松井くんの笑い声だけが響いている。
    c_han8 Link Message Mute
    2022/10/02 21:06:45

    松井くんにいけないことに誘われる話

    #松さに #刀さに #女審神者
    Twitterからの再掲なのか松さに本に入れていた書き下ろしだったのか記憶がない

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