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    宵の席 締まりのない笑みに真っ赤な顔。そしてやや呂律も危うくなったいつもより高い声。
    「肥前くんはぁ、私のどこが好きですかぁ?」
    「おい誰だこいつに酒飲ませたの」
     甘えるように伸びてきた腕をいなしつつ周りを睨めば途端に逸らされる顔、顔、顔。だから一人で先に行かせるのは嫌だったんだ。執務室にまで届く宴会の騒めきにそわそわと落ち着きのない様子だったから、たまにはいいかと許したのがそもそもの間違いだった。溜まっていた仕事の後処理を片付け大広間に向かえば見事に出来上がった審神者が満面の笑みでおれを待ち受けていたのだ。
     本丸の中だ。間違っても変なことはされていないだろうが、どこからどう見ても完全に酔っ払ってしまっている審神者の姿に思わず頭が痛くなる。弱いんだからあれほど飲むな、飲ませるなと常日頃から言っていたというのにおれが目を離すとすぐにこれだ。
     ふにゃふにゃと何やら訳のわからないことを言いながら絡み付いてくる審神者の白い腕は酒のせいで体温が上がり火照っている。こんなにも簡単に片手で捕まえられてしまうほど細い腕をしているくせにこうも警戒心がないのはどうしたものか。酔いが醒めたら小言の一つでもくれてやらないと気が済まない。
     肥前くん肥前くん、と普段より随分甘えたになった審神者が情けない笑みを浮かべたまましなだれかかってくるのを仕方なく受け止める。断りもなく膝の上に乗り上げた体が落ちないように支えてやれば、さっきまで顔を逸らしていた周りの刀達から途端に揶揄い混じりの口笛やら囃子声やらが聞こえてくるのでもう一度睨みを効かせる羽目になった。
    「肥前くん、楽しいねぇ」
    「おれは楽しくねぇけどな」
     審神者がこうなってしまった以上、おれが酒を飲むわけにはいかない。別に飯が食えりゃ飲めなくたって構いやしないが、この後の片付けやら介抱のことを考えると眉間に皺が寄ってくる。
     夕方過ぎから始まった久々の宴会は、既に大広間のあちこちにいくつもの大きな体が打ち捨てられるように転がっていた。何故か半裸で転がされているもの、苦しくないのか猫のごめん寝のような体勢で寝息を立てているもの、普段言い争いが絶えないくせにこんな時だけ仲良さそうに肩を預けあって大口開けて寝ているもの。一体どれだけ飲めばああなるんだか。まだ日付も変わる前だというのに大広間の中は随分な有様だった。
     大きい連中は自業自得ということで放っておいてもバチは当たらないだろう。もう冬ではないのだから風邪を引く心配も少ない。おれの他にも大して酔わずに最後まで残っているものがいればいいが、飯関係だけ軽く片付けてあとは審神者さえ部屋に連れ帰れればそれでいい。
    「ねぇそれ美味しい?」
     宴会後の算段をつけつつ机の上に箸を伸ばせば鼻にかかったような甘い声が聞こえてくる。何が楽しいのかふふ、とご機嫌に笑いながらおれの首筋に頭を擦り寄せるのはいいが、こいつはここがどこだかわかってやっているのだろうか。いやわかってないんだろうな。酔っ払いには羞恥心も理性も何もない。
     一口ちょうだい、と少しだけ体を離し危機感もなくぱかりと口を開けた審神者の口に箸を運んでやれば向かい側に座っていた鯰尾からひゅう、と下手な口笛が届いた。音が出ていない、完全に口で言っている口笛は滑稽で、隣に座る骨喰の「揶揄うのはやめた方がいい」という正論すら聞いていないにまにまとした笑顔は癪に触る。
     無視を決め込んで再度机の上にある飯に箸を伸ばせば、大人しくしていればいいものを審神者の両腕がおれの体にぎゅうっと巻きついた。そしてそのまま甘えるように首筋から頬へ火照って熱い審神者の顔が擦り寄せられる。酒の匂いに混じって届く審神者の匂いと、柔らかい髪が肌に当たってなんともこそばゆい。
    「…おい、服が汚れたらどうすんだ」
     女の細腕で出せる力などたかが知れている。だというのに腕を伸ばしたままの姿勢でそこから動けなくなってしまったおれの耳元に届くのは「…ね、部屋行こうよ」なんて言葉なのだからやっていられない。所詮酔っ払いの戯言だ。相手にするだけ無駄になる。
     けれど膝の上に乗り上げたままの審神者の体は熱く、そして嫌になるほど華奢で柔らかい。宴会後の片付けや諸々、やらなければならないことがいくつも頭を掠めては通り過ぎていく。明日は確か早朝から畑当番に割り振られていたはずだというのに。
     はぁ、と大きく息を吐き出せばぴたりとくっついていた体を離して審神者が嬉しそうに笑った。
    「今夜はお楽しみですかね」
    「……うるせぇ」
     にんまりと笑った鯰尾の言葉も、周りから聞こえてくる囃子声も全て聞き流し、審神者を伴って立ち上がれば一際大きい歓声が湧き上がるのだから嫌になる。どいつもこいつもおれ以外、どうしようもなく酔っ払っているのだ。
     差し出す前に絡まってきた審神者の手はこれ以上ないくらいに熱い。明日の畑当番を代わってくれるような奴はいるだろうかと考えて、警戒心も危機感もなく向けられる審神者の締まりのない笑みを見たら全てがどうでもよくなってしまった。まぁ明日のことは後から考えればいいだろう。どうせ夜はまだまだ続くのだから。
    c_han8 Link Message Mute
    2022/11/16 22:04:02

    宵の席

    ここに投稿するにあたり書いたひぜさに漁ってたんですけどこれ書いたの3月らしいですね…月の流れ早いな…。

    #刀さに #女審神者 #ひぜさに #肥前忠広

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