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    ミラーリング「主さん知ってますか?」
     隣に腰を下ろした堀川くんは自分用のご飯を机の上に置きながら私に笑いかける。隣失礼しますね、と一言言い置いて行儀良く正座した彼は今日の厨当番で、ちょうど今からお昼ご飯なのだという。対する私はお箸を料理と口とで行き来させるのに忙しい。口の中に入っていたご飯をきちんと噛んで飲み込んで、そうしてそこそこの時間をかけた後に出た言葉は「何が?」という至極どうでもいいものだった。それに堀川くんは少し笑って自身の湯呑みにお茶を注ぎ始める。
     私はご飯を食べるのがとても遅い。料理を口に運ぶのも咀嚼するのも飲み込むのも、自分では普通の早さだと思っていたけれどとてつもなく遅いのだと審神者になってからようやく気付いた。刀剣たちの食べるスピードが早すぎるというのもあるかもしれないけれど、大体いつも食べ終わるのは私が最後となっている。
     今はお昼時を少し過ぎたところで、つい先ほどまで大勢の刀で賑わっていたというのに広間にはもうぽつぽつと何振かが居座る程度。温かそうな湯気が立ち昇る湯呑みに口をつけた堀川くんはつい、と視線を斜め前へ向けると悪戯っぽく笑って首を傾げた。その拍子にさらさらの黒髪が揺れて、細められた目元をちらりと隠す。
    「肥前くんって実は食べるのすごく早いんですよ」
     まるで内緒話を打ち明けるかのように潜められた声は私の耳にしか届かない。笑いを押し殺すように滲ませた堀川くんの言葉に釣られるように視線を動かせば、いくつもの空いた机を通り越したその先に一人ぽつんとご飯を食べている肥前くんがいた。
    「そうなの?」
    「そうなんです」
     肥前くんの目の前には私と同じようにまだ幾つかの料理が残されており、食べるのがすごく早いと言われてもいまいち実感は沸かない。今日だって私と同じくらいの時間に広間へ来ていたけれど、まだ食べ終わるにはもう少し時間がかかりそうなくらいなのだ。
     ふふ、と小さく笑いを漏らした堀川くんはそれ以上特段言うことはなかったようで「いただきます」と両手を合わせると料理へと箸を伸ばし始めた。堀川くんは食べるのがとても早いし一口が大きい。私が自分のご飯も食べず見ている間にもぱくぱくと食べ進められ、幾つかあった小鉢の中身はもう空になってしまった。
    「…もうちょっとゆっくり食べた方がよくない?体に悪いよ」
    「んー、僕らは早く食べる癖ついちゃってますからね。あ、主さんはゆっくり食べてください。体によくないので」
    「もう…」
     悪びれもせず言い切る姿にため息をつけば楽しそうな笑い声が返ってくる。このままだと堀川くんはすぐにでも食べ終えてしまうだろう。私も早く食べ切ってしまおうと再び箸を伸ばしたところで、視界に肥前くんの姿が入り込んだ。
     私のようにただ食べるのが遅いというわけではなく、味わって食べているのだろうなということが伝わってくる食べ方、とでもいうのだろうか。こう言ってはなんだけど、普段の言動や態度からは想像もできないほど丁寧な所作で食事が進められていて驚いてしまう。隣に座りあって食事を共にしたことはないけれど、離れていてもわかるほど肥前くんの食べ方は綺麗なのだ。
     そういえばいつも食事を終えるのも私より少しだけ早いくらいだったな、と思い出す。空になった皿を厨房へと下げに行くタイミングが大体同じなのだ。あれだけ丁寧に食べていれば遅くなるのも仕方ないだろう。堀川くんは食べるのが早いなんて言っていたけれど、見る限りそんな気配は全くない。
     骨張った指に挟まれた箸がゆっくりと伸ばされて、そして一口分の料理を掴んでまた引き戻される。がぱりと開けられた大きな口とは対照的に、箸に掴まれた一口分の料理は少しだけ小さい気がした。
    「あ、」
     自分の食事も進めずぼんやりと肥前くんを見つめていたら急に顔を上げた彼と目が合ってしまう。ばちん、と音が鳴りそうなほど誤魔化しようもないくらいかち合ってしまった視線が恥ずかしくて慌てて目を逸らす。言い訳のように箸を持ち直せば隣から堀川くんの忍び笑う声が聞こえてきた。
    「笑わないでよ…」
    「だって見過ぎですよ、誰だって気付きます」
     食事している所を見られるなんてあまりいい気はしないだろう。申し訳なさに顔を上げることすらできず、そのまま料理とだけ見つめ合ったまま懸命に箸を動かす。小さく切り分けた焼き魚を掴んで、口に入れて、咀嚼する。何度も口の中で噛み砕いて、そうしてようやく飲み込めば何故かまた堀川くんの方から笑い声が聞こえてきた。
    「主さんって一口が小さいですよね」
    「だから食べるの遅いんだよね…」
    「いいと思いますよ。それにほら、肥前くんの一口もここでは小さいみたいですし」
     含みのある言い方に堀川くんの方へと顔を向ければ、彼は何やら悪い顔を浮かべて肥前くんを見るように促してくる。また目が合ったらどうしようと思いながらも肥前くんの方へ視線をやれば、何事もなかったかのように食事を再開している姿があった。
     皿に置かれた焼き魚に丁寧に箸を入れては持ち上げ、そうしてゆっくりと口に運ぶ。がぱりと開けられた大きな口には不釣り合いなほど小さく切り分けられた小さな魚。
    「ね、可愛いことしますよね」
     まるで私に見せつけるかの如く、途中から混ざり合った視線もそのままに料理を飲み込んだ肥前くんは口の端についたご飯を舐めとったのだった。
    c_han8 Link Message Mute
    2022/11/16 22:16:33

    ミラーリング

    #刀さに #女審神者 #ひぜさに #肥前忠広

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