こんな時こそラブアンドピース⭐︎「あれ?レン君」
そう声を掛けるのはウエストセクターのメンターの一人。
ディノアルバーニ。
「…ディノ?」
名前を呼ばれレンは驚いた表情を浮かべた。
「こんな所で出会うなんて奇遇だね。何してたの?」
「……お前には関係な……」
言いかけた言葉を切りレンはディノをじっと見る。
「ん??」
レンの態度にディノは笑顔で首を傾げた。
「ディノは今パトロール中か?」
「ん?まぁね。レン君は?」
再び同じ質問が繰り返された。
「俺は図書館…」
そう言いかけて口籠るレンにディノはもしかして、と思う。
「ブルーノースの図書館に行きたかったのか?」
そう聞いた。
「ッ…そうだけど…此処は…」
「ああ、イエローウエストだね」
ディノと出会った時点でもしかしてと思っていたレン。
やはり嫌な予感は的中してしまったらしい。
「…はぁ。帰る」
レンはがっかりとした様子でディノにそう言って背を向けた。
「あ、うん。気を付けてね」
気の毒になりながらもそう答えた。
だが、そうは言ったものの少し気になりレンの背中を暫く見ていた。
「…………」
やはりと言うのか。
レンはキョロキョロと辺りを見ていて左に行ったと思えば右に行き。
かと思えば再び左に行き、と意味不明な動きをしている。
そんなレンを見ていてディノは苦笑を浮かべた。
「レーン君」
背後から肩を叩き声を掛けるとレンは驚いた表情を浮かべディノの方へ振り返る。
「ッ!お前…まだ居たのか」
「それはこっちの台詞のよーな…いや、なんでも無い。レン君は今日お仕事…?じゃないよな。図書館に行きたがってたくらいだし」
「当たり前だ。…折角のオフなのに無駄な時間を過ごした」
そうぼやくレンは悔しそうな顔を浮かべていた。
そんなレンを見てディノは何かを閃いた。
「ねぇ、レン君?」
そう笑顔でレンの名前を呼ぶ。
「なんだ?」
「今から良い所に案内してあげる」
「え?」
そう言うとレンの手を掴んで引いた。
「なっ?!!おい…っ、急になんなんだ?」
「良いから良いから♪」
ディノはそれだけ言うとグイグイとレンの手を引いたまま前を歩いていく。
強引に振り解けば良かったのかもしれないが此処はイエローウエスト。
自分よりも確実にディノの方が道に詳しいだろう。
そう思い仕方無くついていく事にした。
「はい、到着」
「此処は…図書館か?」
「うん、イエローウエストの図書館」
どちらかと言うと本とは無縁そうなディノが図書館へ自分を連れて来た事にレンは意外そうな声を上げた。
「意外だな。お前…本が好きなのか?」
「んー。正直あんまり好きじゃないかな?まぁ通販のカタログとか見るのは好きだけどさ」
「それは本と言うより雑誌だろ?」
ディノの言葉にレンは呆れてみせた。
「ははっ。アカデミー時代にブラッドが良く本を借りに図書館に通ってたんだよな。それに付き合ってる内に俺もたまに借りたりしてたんだ。パトロールで此処の図書館の前を通ると何時もそれを思い出して懐かしくてさ。場所は覚えてた。本って言っても難しいものばかりじゃなくて色んなジャンルが揃ってるからな」
「そうなのか」
「と言う事で折角だから寄っていきなよ。俺も付き合うからさ」
建物の前で突っ立ったままのレンの背後に回るとディノは背中を押してそう言った。
「お、おい…なんでお前が付き合う必要があるんだ?と言うか押すなっ」
ディノの言動や行動に驚いてレンはそう聞く。
「ルーキーが困ってたら助けるのはメンターの仕事だろ?まさにラブアンドピース⭐︎ってね?」
そう言いながらディノは笑顔のまま作ったピースサインを目の前に翳す。
「それ止めろ…」
キャンプの時に無理矢理このポーズをさせられそうになったトラウマがレンの脳裏に過った。
「それにレン君をちゃんと送り届けないと。また道に迷ったりしたら心配だし」
その言葉には多少の不満があったが道に迷った事実は確かだった。
「はぁ…分かった。時間を大分無駄にしたのは事実だし図書館には変わりがないからな。入る。ただし煩くしたら直ぐに出るからな?」
そう釘を刺すレンの言葉にディノは苦笑した。
「流石に図書館では騒いだりしないよ。てかもしかして俺のが子供みたいな扱いされてる…?」
「仕方無いだろう?ディノはお喋りで煩そうなイメージだから」
「えー。そうかな?まぁ…レン君みたいに静かなタイプでは無いかもしれないけど。けどジュニアみたいに騒がしくも無いよーな…え?俺ってそんなに煩いのか??」
レンの言葉にディノは真剣に考え始めた。
そんなディノがなんだか可笑しくて始めは呆れていたものの次第にレンは面白くなってきた。
「もう良い。ほら、入るぞ。時間が惜しい」
そう言いながらレンは先を行く。
「え?レン君今笑ってなかった?びみょーに口元辺りが」
「……笑ってない」
即答するレンに
「嘘だー。今絶対俺の事笑ってただろ?酷いなぁ」
自分の発した言葉なのにシュンとするディノ。
自分と違って本当にディノは表情豊かな奴だ、とレンは思った。
「やっぱり煩い……帰るか?」
「静かにしますッ!だからほら、入ろう?」
レンの急変した態度に焦るとディノは取り繕った様に笑った。
「分かれば良い」
終わり