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    後編廻天に滞在して3日が経過しようとしていた。


    「すっかり傷痕が分からなくなりましたね。やはり此処の温泉の効果は凄い」


    色々な湯に入る頃にはアレックスの首の傷痕はすっかり消えていた。
    だが。


    「団長。何か言ってみて下さい」


    就寝前。
    これが日課になりつつあった。
    アレックスの傷の確認、そして話すように促す。
    その言葉にアレックスは口を開く。
    だがやはりその口から声が放たれる事は無かった。
    それを見てサイラスは


    「焦らなくても大丈夫ですよ。傷痕もこうして消えたし変わらず温泉に浸かればきっと以前みたいに話せるようになります。頑張りましょう」


    変わらず優しい言葉を掛けるサイラスにアレックスはコクリと頷いた。


    (有難う)


    口を動かしてそう伝えればその言葉が今となっては理解出来るまでになったサイラスは


    「はい」


    と答えた。


    「ではそろそろ寝ましょう。折角温泉で温まったのに起きていたら湯冷めしてしまいます」


    サイラスはそう言うと部屋の電気を消した。
    部屋の中が暗くなる。
    布団へ入り横になるサイラスに続きアレックスも布団の中へと入る。


    「団長…その…団長の布団はそちらですよ」


    だがあろう事かアレックスは敷いてある自分の布団では無くサイラスの布団の中へと潜り込んだ。


    (寒いのだろうか…?)


    そう思った。
    それともやはり声が戻らない事に不安があるのだろうか?
    最強と言われる男とは言えひとりの人間だ。
    3日も経過しているのに何も成果が出ないこの現状に不安を感じているのだとしたらやはり助けになりたいと思った。
    苦笑を漏らすと横になるアレックスの横に入り布団を掛けた。
    それを見てアレックスは安心した様に目を細めると口元に弧を描く。
    そんな至近距離にあるアレックスを見て思わずサイラスはドキッとした。


    「心臓に悪いな…」


    そうぼやいたサイラスの言葉にやはりアレックスは楽しそうに笑っていた。


    (綺麗だ)


    普段は仮面に覆われた顔。
    けれど今は素顔を晒し普段では着ることも無い見慣れない装いをしている。
    そんなアレックスは同性なのにやはり美しいと思った。


    「もし…もしも今団長が話せていたらこのまま俺は手を出していたかもしれない」


    「?」


    サイラスの突然の言葉にアレックスは不思議そうな表情を浮かべた。


    「話せない相手に手を出したら無理矢理強要しているみたいで…なんかそれは嫌です」


    素直すぎるサイラスの言葉を聞いてアレックスはとてもサイラスらしいなと思った。


    (気にしなくても良いのに)


    そう口を動かす。
    それを見てサイラスはなんとなく察すると焦りながら


    「お喋りはこの辺にして寝ましょう」


    そう言う。
    その言葉にアレックスは頷くと


    (おやすみ)


    そう口を動かして目を閉じた。


    「おやすみなさい、団長」


    サイラスは答えるとアレックスと同様に目を閉じた。
    布団の中微かに触れる互いの手はとても暖かった。










    翌朝。
    目を覚ますサイラスの腕の中にはまだ夢の中に居るアレックスが向かい合わせの状態でいつの間にか収まっていて。
    少し驚いたサイラスだったが折角の療養と言う事もあり無理に起こす事はやめた。
    アレックスの身体はとても暖かくて心臓の音が微かに伝わってくる。
    生きていると言う事を実感して安心した。


    (それにしても…)


    こうして改めて見ると腕の中に収まるアレックスの自分より幾らか小さな身体に気付く。
    それなのに騎士団を率いて常に最前線で剣を振り果敢に敵へと立ち向かうアレックスの背中を見てサイラスはアレックスの事を格好良いと思っていたし心から尊敬して憧れていた。


    (そんな人を目の前にしてこの状況はあまりにも不敬だ…)


    そう分かってはいるもののサイラスは嬉しかった。
    思わず蒼銀の髪の毛にそっと触れてみた。


    「……」


    するとピクリとアレックスの身体が動いたのと同時にうっすらと瞳が開いた。
    琥珀色の猫の様な大きな瞳にぼんやりとサイラスが映し出される。


    「あ、おはようございます。団長」


    そんなアレックスの瞳を見てまるで猫みたいだなとサイラスは思った。


    (おはよう)


    アレックスは目を擦りながらそう答えた。
    普段では決して見る事の出来ないアレックスの寝起きはあまりにも無防備で自然で。
    そんなアレックスを見てサイラスは口元を綻ばせると目を細めた。


    「早朝の日課の鍛錬をしたい所ではありますが…廻天ではやめておきましょうか」


    そう言いながらアレックスの手を引き身体を起こすと立ち上がった。


    「その代わりと言ってはなんですが目覚めに一風呂浴びに行きましょう」


    そう声を掛けるとアレックスはコクリと頷いた。










    100以上もある温泉。
    その全てに入る事はとても困難だ。
    だがそれと同時にもしかしたら喉に効く湯があるかもしれないと言う希望がある。
    できるだけ沢山の湯に浸かりたい。
    十分に癒されたと国王に認められるまでは居られる国。
    それを考えると完治していないアレックスにとって滞在時間は余裕がある。
    だがサイラスはそうでは無い。
    ほぼ傷も完治していた。
    前に此処へ訪れた時の様にいつ番頭から手紙が送られてくるか分からない状況。
    だからこそサイラスは焦っていた。
    アレックスを一人残して自分だけ廻天を去る訳にはいかない。
    その為にも朝から時間を惜しむ訳にはいかなかった。


    「見て下さい、団長。朝日が丁度登る頃ですよ」


    まだ辺りは薄暗く人の姿はなかった。
    サイラスの言葉を聞きアレックスは空を見る。
    サイラスの言う通り丁度太陽が顔を半分覗かせていた。
    それと同時に徐々に辺りは明るくなっていく。
    シュヴァリエの朝はとても早い。
    早朝から剣を手に鍛錬に明け暮れる故、こんな光景は見慣れている、と言えばそれだけかもしれないがこうしてのんびりと朝日を見る事など当然無かった。


    「…こうしてのんびりと湯に浸かりながら朝日が昇るのを団長と見ると言うのも良いものですね」


    ふ、と口元に笑みを浮かべ嬉しそうにサイラスは言った。
    だがハッとした。


    「あっ、すいません…自分達は遊びに来ている訳ではなかったですね」


    そう謝るサイラスを見て何処までも真面目な男だなと思うアレックス。
    口元を綻ばせサイラスの前へ移動して首に腕を絡ませるとそのまま顔を近付けてキスした。


    (私も同じ事を思っていたよ)


    そんな気持ちを込めて。


    「ッ…団長」


    唇を離し突然の事に焦るサイラスを見てアレックスは悪戯っ子の様に笑った。
    そんなアレックスの表情にサイラスはやはりドキッとしてしまう。


    「そんなに俺を煽らないで下さい…」


    そう言いアレックスの手を掴んだ。


    「さぁ、そろそろ上がりましょう。昨夜女将に頼んで団長の喉に良い朝食を頼んだんです。あ、あと、医者に出された喉の薬もちゃんと飲んで下さい。苦くて嫌だって団長実は飲んで無かったでしょう?」


    そんなサイラスのお小言を聞きアレックスはバレていたのかと苦笑を漏らした。












    宿に戻り朝食を済ませると再び二人の温泉巡りは始まる。
    1日温泉へ連れ回すサイラスに流石に身体がふやけてしまいそうだとアレックスは苦笑を漏らした。
    だが自分の為にここまで一生懸命してくれるサイラスに感謝していた。
    やはり今こうやって話せない状態になったのが自分の所為だと思っているのだろうか?
    それがアレックスには唯一気掛かりだった。
    横を歩くサイラスの顔を伺う様に見る。


    「ん?どうかしましたか?」


    それに気付きサイラスはピタリと足を止めた。
    だからアレックスは首を振ってみせた。
    そんな時だった。


    「にゃーん…」


    一匹の猫の鳴き声が聞こえて来ると猫はアレックスに近付き足にスリスリと頬を擦り付けた。
    それが可愛くて擽ったくて。
    顔を綻ばせアレックスはしゃがむと猫の頭を撫でた。
    そんな光景を見てサイラスは複雑な表情を浮かべた。
    やはり自分には寄って来ない猫に凹みながらもそんな猫を撫でるアレックスが可愛らしくて。


    「にゃーにゃー」


    不意に猫の鳴き声が大きくなりサイラスは不思議に思いながら猫を見る。
    そのまま猫は歩き始めた。


    「とても人懐こい猫でしたね…団長?」


    そう言うサイラスの手をアレックスは握るとグイグイと引っ張り出した。


    「急にどうしたんですか?」


    そのまま歩き出すアレックスの手を振り解く事はせずサイラスは猫の後を追うアレックスに従い歩いていく。
    歩いて行く事数分。
    気付けば辺りは大通りや宿のある場所からすっかり景色が変わっていた。
    自然が溢れている場所。


    「そんなに歩いてない筈なのに随分と遠い場所に来てしまった様な錯覚に陥りますね」


    広がる景色にサイラスはそう言った。


    「にゃーん」


    すると再び猫の鳴き声が聞こえてきた。
    黒い猫は金色の瞳を二人に向けるとそのまま何処かへ消えてしまった。


    「なんだったんだ…一体…ん?この匂いは…」


    不意に匂ってきたのは廻天の街に漂っていた嗅ぎ慣れたものだった。


    「近くに温泉でもあるのでしょうか?」


    そう聞くサイラスの手をアレックスは引いて再び歩き始めた。


    「団長?」


    良いから着いてこい、と言わんばかりにアレックスはサイラスを引っ張る。
    少し歩いていくとそこにはやはりサイラスが予想した通り温泉があった。


    「余り人の手が加えられていない様な…ですが不思議ですね。この前も猫に誘われて温泉を見つけたんです。妖華の温泉と言って黒妖精達を癒す為に…そうだ、団長。入ってみましょう」


    突然のサイラスの提案だったもののアレックスはそのつもりだったのか素直に頷いた。


    「まずは俺が入ってみます」


    サイラスはそう言うと浴衣を脱ぎ湯に足をつけてみた。


    「平気そうです。冷たくも無いし熱すぎも無い。丁度良い湯加減です」


    サイラスの言葉を聞きアレックスも浴衣を脱ぐと湯の中へ入っていった。
    辺りはすっかり暗くなっていて空には星がうっすらと出ていた。


    「もうこんな時間だったんですね。どうりで腹が減っていた訳だ」


    空を見てそんな事を言うサイラスの言葉にアレックスは笑った。


    「あ、すいません…団長。ちゃんと肩まで浸かって下さい」


    そう言うとアレックスの手を掴み引き寄せる。
    そのまま腰に腕を回すと座る自分の膝の上へと座らせた。
    随分と大胆な行動に出るサイラスに少し驚いたもののこの前の様に言う事を聞かない自分を逃がさない為にしたのだろうと思った。
    サイラスの身体を背もたれにしてアレックスは空を見上げた。
    廻天はアルストリアよりも空が澄んでて星が沢山見えた。
    夜空を見るアレックスの横顔はほんのりと赤く染まっていてやはりサイラスは


    「綺麗だな…」


    そう口にした。
    その言葉に反応してアレックスはサイラスへ振り返る。
    それと同時にサイラスの顔はアレックスへと近付いて行くとそのまま唇を塞いだ。


    (またこの人の声が聞きたい…俺の名前を呼んでほしい…)


    悲痛なサイラスの願い。
    その時、突然空に一つの流れ星が流れた。


    「〜〜ッ」


    不意にそんな苦しそうな声が聞こえてサイラスは閉じていた目を見開いた。


    「ッはぁっ!そんなにされたら流石の私でも死んでしまうよ」


    唇を離されると頬を染めたアレックスからそんな声が漏れた。


    「団長…声が…!!」


    そうサイラスに言われて改めてアレックスも自分の声が聞こえてきた事に気付いた。


    「ん?ああ…本当だ。心配を掛けてしまったみたいですまなかったね」


    謝罪するアレックスの身体を自分の方へ向けるとサイラスはそのまま強くアレックスを抱きしめた。


    「サイラス?ッ、少し痛いよ…」


    それを聞いてはっとすると腕の力を緩めた。


    「すいません…でも嬉しくて…本当に良かった」


    そう言いながら肩口に顔を埋めるサイラスの頭に触れアレックスは撫でた。


    「団長、俺は猫じゃありませんよ」


    やはりそんなアレックスの態度に不満を漏らすサイラス。
    アレックスは笑った。


    「そうかい?先程の猫、君に良く似ていたと思ったんだが」


    そう言いながらアレックスは考える。


    「思えば彼が此処へ導いてくれたのかもしれないね」


    そう呟いたアレックスの言葉にサイラスはふと思った。


    「そう言えば何故あの猫に着いていったんですか?」


    「ん…なんとなく、かな?」


    「え?」


    アレックスの言葉にサイラスは苦笑を漏らした。
    そんなサイラスを見てアレックスは付け加えた。


    「黒い毛をした彼が誰かに似ていたから思わず気になってしまったんだ。まるではぐれない様に自分に着いてきて欲しいと、そう言ってるみたいでね」


    「それって…」


    そう言いかけるサイラスの言葉を遮る様にアレックスは


    「さぁ、そろそろ宿に戻ろうか。腹が減ったのだろう?」


    そう言うと立ち上がりサイラスの手を掴んだ。


    「はい、団長」


    「ん?」


    「そう言えばあの…告白の返事をまだ聞いてませんでした」


    急に真剣な表情でそんな事を口にするサイラスにアレックスはキョトンとする。
    宿で好きだと告げられた事を思い出した。
    そして口元に笑みを作ると


    「ふふっ、私の今までの態度を見て分からないかな?好きでも無い相手に簡単に唇を許さないよ?私は」


    「それは…つまり…」


    「さぁ、宿に戻ろう。サイラス」


    「ッ…はい」


    ずっと聞きたかった自分の名を呼ぶ声にサイラスは嬉しそうに頷く。
    そんなサイラスを見てアレックスは微笑むと


    「有難う…」


    そう言った。
    後日二人きりの温泉旅行の感想を興奮気味に聞いてくるハリエットに対して思わず口籠るサイラスと笑顔でかわすアレックスの姿があったとか。

    終わり
    ꒰๑͒•௰•๑͒꒱ℒℴѵℯ❤ Link Message Mute
    2023/03/26 14:24:02

    後編

    続きです。
    最後はハッピーエンド!

    #ymkr腐 #サイアレ #腐向け #二次創作

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