プレゼントはないけど きらきらと宝石のように輝いて、車が通ればその光までも反射して作品の一部のように見せるモニュメント。色とりどりの小さなLEDで飾られた草木はきちんと計算された照明によってライトアップされ、普段とは違った姿を街ゆく人々に見せる。人々は、仲睦まじく肩を寄せ合い、やはり普段とは違った様子でそんなイルミネーションを眺めていた。
……とは言っても、春名は普段のこの場所も人々の様子も知らないけれど。
「すごい……。すごいな、ハルナ!」
ツリ目が丸くなるくらい見開いて、ついでに口も丸く開けてそう言うのは、春名の二歩ほど先をゆっくりと歩く隼人だった。隼人は店から聞こえてくるメロディにあわせて機嫌良くクリスマスソングを口ずさみながら、カップルだらけの並木道を見渡す。すると、何かを見つけてピタリと止まり、明るい笑顔をより一層明るくした。
「ほら、見て!あそこのイルミネーション、サンタの形してる!」
ほらほら、と隼人は春名のほうを振り向いて、サンタクロースの形をしたイルミネーションを指差す。隼人の指差す方向を春名は目で辿る。だが、春名にそれは確認できなかった。
「どこ?」
「え、そこだよ。いるだろ、サンタ」
そこにあるのはただのイルミネーションのはずなのに、サンタが″いる″とあらわす隼人が可愛らしくてくすりと笑ってしまった。
長い脚で二歩。隼人のいる場所へと追いつく。すぐ隣に立って隼人の指が示す場所を睨みつけるが、やっぱりわからない。
「見えないの?ハルナ目悪かったっけ?」
「そんなちっちゃいのか?」
うーん、と唸りながら目を細めてみるが、それらしいものは確認できない。あとは目線の高さくらいしか春名と隼人には違いがないので、少し屈んでみる。隼人も同じことを考えていたようで、ぴょこぴょこと何度もつま先立ちに挑戦していた。
「あ」
「わかった?」
つま先立ちをやめて、隼人は春名のほうを振り向く。しかし一瞬で、勢いよく顔を逆のほうへと背けてしまった。
「見えた?」
「うん、見えた見えた。……それよりさー、ハヤト。耳、赤いけど」
春名は目線を隼人の高さにあわせたそのまま、ほとんどあいていなかった距離をさらに詰める。逃げようとする隼人のコートをつかんで逃げられないようにして、2人の距離はほとんどゼロになった。
隼人は向こうを向いているしあたりはイルミネーションの明かりだけで薄暗いしで、春名から隼人の表情は見えなかったが容易く想像はできた。きっと、振り向いたときに思っていた以上に顔が近くにあって驚いたのだろう。確かにいつも身長の差で少し離れたところにあった顔がすぐ近くにあるというのは新鮮で、春名にとっても少し楽しかった。
それと、隼人がこんなにも照れているのはもうひとつ。キスを思い出したのだろう。
春名と隼人は所謂恋人同士だった。今日ここへ来たのもデートのつもりで、わりと有名なイルミネーションのデートスポットを選んだ。手を繋ぐことはよくしていたし、キスも何度か。その先は、いつかきっと。春名はそう思っていた。隼人も同じ気持ちだったら嬉しいけれど、どうだろう。
「ハーヤト」
引き寄せて、抱き締める。人が見てたら、と隼人は抵抗したが、カップルしかいないから他人なんて見てないよ、と言われて大人しくなった。
「プレゼントもなにもできなくて、ごめんな」
いつのまにか春名は屈むのをやめていて、いつもの距離から隼人の髪に鼻をうずめる。その距離に隼人は少しだけ寂しくなって、甘えるように春名へ体を預けた。
「プレゼントとかそんなのいいって。ていうか、ここ連れてきてくれたじゃん。みんなで練習して、そのあともハルナと一緒にいられて、それだけで嬉しいよ。バイト入れないでくれてありがと」
「ほんっとお前、いい奴……」
ぎゅうっと強く抱きしめて、すぐに緩めて、春名は隼人を自分のほうへと向き直らせた。まだ頬に赤さが残る隼人の肩に手を置いて、戸惑った表情をじっと見つめる。
隼人は、自分にはもったいないくらいの恋人だと春名は思っていた。音楽に一生懸命で、照れ屋で可愛くて、泣き虫で守りたくなって、でもいざというときには頼れるくらい強くてかっこいい。今も、神妙な面持ちの春名を大人しく見つめ返している。純粋で穢れのないこの瞳を、守り続けたいと思う。
「ハヤト」
「うん?」
月並みな言葉だとしても、その気持ちに嘘はない。バイトと練習と勉強に追われて恋人らしいことができなくても、心だけは、隼人にあげられる。それが隼人に伝わればいいと春名は思った。もう少し欲を言うなら、それで隼人が笑顔になってくれたらいい。
息を小さく吸い込んで、心を声へと変える。
「ずっと、一緒にいるから」