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    ご機嫌ウルフと隼人くん
     仮装に使った被りものが入った紙袋を抱えて事務所の階段に座り込み、隼人は春名が出てくるのを待っていた。まだかと何度も事務所のドアを見上げるけれど、それが開いて出てくるのは春名ではない。帰るために着替えが必要なほどの本格的な仮装をしていた同世代のアイドル達を何人も見送って、またドアを見上げる。春名の仮装はいつかのハロウィンライブのときに着ていたオオカミ男だったけれど、あれは着替えに時間がかかるものだっただろうか。
     事務所を会場にした大盛りあがりのハロウィンパーティーが終わると、片付けと着替えで事務所の中はとても慌ただしかった。とっくに日が暮れていたので年齢の低い順に大人に車で送られ、着替えの必要ない高校生は送られなくとも早く帰れと事務所から追い出されてしまったのだ。春名と一緒に帰るからその間片付けを手伝うと申し出ても手は足りているからと断られ、慌ただしく動く大人たちを見ていたら声をかけるのも邪魔になる気がして隼人は大人しく事務所のドアが見えるところで座り込んでいるのだった。
     キィ、とドアが音を立てる。もはや癖になっていた仕草で期待もせずにドアを見上げると、事務所から出てきたのは今度こそ隼人の待つその人だった。しかし、想定と少し違う雰囲気に隼人は目をぱちくりとさせる。わりぃ、お待たせ、と声を掛ける春名の上から下までを眺めて、違和感の正体に気がついた。
    「あれっ、ハルナ今日上着それなんだ?」
     隼人が指摘したのは、春名が着ている冬用のコートだった。今日は仮装をしたあとで顔を合わせたから、隼人は今日の春名の私服を見ていなかったのだ。
     最近急に冷え込んだとはいえ長袖のジャケットを羽織っていれば十分だと思っていたのだけれど、そう思うのは隼人だけだったのだろうか。
    「そうそう、最近夜寒くなってきただろ?」
     言いながら春名はキャスケット帽のつばを目深に引き寄せる。そういえば、今日春名の頭に乗っかっているのはヘアバンドではなく帽子だ。珍しいと言うほど珍しくもないけれど、普段の春名の服装を考えるとやっぱりちょっと変わっているようにも感じる。
     いざ建物の外に出たって隼人自身はちっとも寒くないので、春名の言い分はあまり腑に落ちなかった。日の暮れた時間の冷たい風は少し肌寒いかもしれないけれど、風に煽られたコートの前を慌てて閉める春名ほどではない。なんだかいつもより寒がりな春名を不思議に思いつつ、隼人はその隣に並んで歩きだす。今日は、隼人の家に春名を泊めるのだ。夕飯は事務所のハロウィンパーティーで食べてきてしまったからまっすぐ隼人の家に帰るだけで、兄は出掛けているから家に二人きりになる。そう考えてしまうと落ち着かない気持ちになって、スキップでもしそうな足を抑えて春名の腕を掴んだ。
    「あっためてくれんの?」
     突然くっついてきた隼人に驚きながらもふにゃりと顔を崩れさせた春名は、自分の手のひらを隼人のそれと重ね合わせ、指を絡める。寒そうにしていながらも春名の手は温かく、触れていて心地がよかった。
    「手、あったかいじゃん」
     繋いだ手を頬に持ってきてくっつけると、隼人の頬は思いの外冷えていたらしい。ハヤトのほうが冷たい、と笑った春名が、もう一方の手を反対側の頬へとあてる。そのまま頬を揉まれて、子供扱いをされているような気恥ずかしさに隼人はたまらず声をあげた。
    「もう! 歩きにくいってば!」
     照れ隠しに咎めたところで春名がやめるわけもなく、そんなふうにじゃれつきながら隼人の家へと向かうこととなった。

     玄関に入ると、当然のことながら家の中は真っ暗だった。じゃれて忘れていたのに、今日は二人きりなのだということをはっきりと自覚してしまってまた隼人の心がふわりと宙に浮かぶ。
    「ハルナ、俺の部屋わかるよな? 飲み物とかなんかあったら持ってくから先に行ってて」
    「おう、わかった」
     浮いた気持ちを隠すように春名にそう指示をして、隼人自身はキッチンのあるリビングへと入っていった。冷蔵庫を覗いてペットボトルのジュースとコップを二つ。それから、スナック菓子をいくつか見繕って腕に抱えた。気持ちを落ち着けるために二、三度深呼吸をしてから自分の部屋へと向かう。
    「ハルナー、お待たせ……って、あれ?」
     隼人が自分の部屋へと入ると、春名は荷物を床に置いただけで窓際近くに立っていた。隼人の部屋には何度も来ていて勝手はわかっているはずなのに、コートも帽子もそのままだ。そわそわと落ち着かない様子で、机にジュースと菓子を置いた隼人を少し頭を動かしただけで振り返り、すぐにまた視線を窓の外へと戻した。
    「どうかした? 寒い?」
    「いや、そういうわけじゃねーんだけど……」
     歯切れの悪い言い方に隼人は首を傾げる。本当は寒いのに、遠慮でもしているんだろうか。もしかしたら、寒いのは気温のせいじゃなくて春名の体調が悪いんじゃないんだろうか。でも、さっきまでは寒いと言いながらもじゃれて遊んでいたせいでそうとも思えない。
     真意の掴めない春名に困って、隼人は春名の背中ににじり寄る。近づいて触れたら、少しは春名の考えていることがわかるんじゃないか。そう思ったからだ。コート越しの背中に手のひらで触れて、額を肩に寄せる。それからゆっくりと抱きしめるように腕を巻きつけると、春名が慌てたような声をあげた。
    「は、ハヤト!?」
     無視してぎゅうと腕の力を強めれば、春名はさらに慌てて逃げるように身を捩る。腕の力だけでは春名を抑えることができないので、隼人は身体もぴったりと春名にくっつけた。すると、春名の尻のあたりでコート越しになにか柔らかいものがあるような違和感がある。なにかが、当たっているのだ。
    「ハルナ、なんか隠してる……?」
     隼人は一歩引いて腕と身体を春名から離し、コートの裾をめくる。するとそこには、春名の髪のトーンを落としたような色の尻尾が、さわり心地良さそうにゆらりと垂れていた。ふわふわとした毛足の長いそれは、先ほどまで隼人も目にしていたものだった。そう、ハロウィンパーティーで春名が着ていた衣装とセットになっているオオカミ男の尻尾だ。
    「これ、って……衣装のやつじゃん! ダメだろ、事務所に置いてこないと」
    「ちがっ、そうじゃないんだって!」
     なにが違うと言うのだろう。なんの思惑かは知らないが、春名がつけているのは衣装の一部だ。使う予定は無いとしても、プロデューサーや賢がきちんと管理してくれている大切なものであることには変わりない。それなのに、それを持ち出してしまうだなんて。
     隼人がキッと目を吊り上げると、それにたじろいだ春名は窓際へと後ずさる。怒った隼人をなだめるように肩へ手を置き、違うという言葉を重ねながら被りっぱなしのキャスケット帽を取った。
    「違うんだよ。耳も、ほら。……今朝起きたらこうなってたんだ」
     キャスケット帽の影からは、どうやって隠していたのかわからないほどに大きな獣耳がピョコンと姿を現した。それも尻尾と同じ色をしていて、ハロウィンライブの衣装とそっくりだ。それでも、春名は違うと主張する。それに、『起きたらこうなっていた』というのは尻尾と耳のことだろうか。
     春名が言うには、満月とハロウィンが重なったせいでこうなったんじゃないか、ということだった。月のせいなら明日になれば戻る、とも。
     説明されたからといってはいそうですかなんてすぐには納得できなかったけれど、ちゃんと生えているからと耳の付け根を見せられては疑いようもない。明日になっても戻らなかったらどうするのかと隼人が問えば、春名はそうなったらそのとき考えよう、なんてからからと笑った。
     尻尾を隠す役目を終えた春名のコートを受け取って、隼人はそれをハンガーに掛ける。その間も春名の耳や尻尾が気になってしまって、こっそりと振り返ってしまう。春名は先ほど隼人がリビングから持ってきた菓子を物色していて、尻尾は機嫌良さそうにゆらゆらと揺れ、その中に気になるものがあったのか耳はピクリと動いた。
    「ハヤト、これ開けていい?」
    「……えっ? あっ、うん、どれでもいいよ」
     隠し事がなくなったからなのか、春名は今日一番の上機嫌で無邪気にスナック菓子の袋を開ける。それに代わるかのように、落ち着きがなくなっていたのは隼人のほうだった。
     春名の隣に座れば、床についた手の甲を春名の尻尾が触れていく。柔らかな毛がくすぐったくも気持ちよくもあり、ついついその動きを目で追ってしまった。
    「でさー、そんときシキが……、って、ハヤト、聞いてる?」
    「えっ!? あっ、あー、ごめん、なんだっけ」
    「聞いてなかったのかよー」
     ごめんと謝りながらも、隼人の意識は春名の頭上へと向いていた。春名が話すごとに、感情を表すかのように耳がよく動くからだ。隼人が話を聞いていないとわかったときにはぺたりと下を向いて垂れていたそれが、隼人の興味を惹いて仕方がない。春名が頭の位置を動かせば、それを追って隼人の視線も動いた。
    「ハヤトさぁ、もしかしてこれ、気になる?」
     いたずらを思いついたかのように、春名はニヤリと笑って言った。わざと耳をピクピクと動かせば、隼人の視線は一直線にそれに注がれる。
    「……ちょっと触ってみたい、かも」
     控えめに告げた言葉は、春名の機嫌をさらに良くするには十分だった。尻尾はパタパタと床を叩いて、ついでに隼人の手もからかうようにかすめていく。
    「どーぞ」
     ずいっと頭を差し出されると、隼人は毛並みのいいオオカミ耳にこわごわと触れた。作りものではない耳はあたたかくて滑らかで、隼人が触れるとふるりと震える。付け根から耳の先まで毛並みに沿って撫でれば、撫でるごとにゆっくりと倒れていった。まるでそれは本当の動物みたいで、なんだか可愛らしくも思えてくる。
     隼人は夢中になって春名のオオカミ耳を撫でていた。だから、ゆっくりと動いている春名の腕に気付かなかったのだ。突然腰のあたりを掴まれ、春名のほうへと引き寄せられる。バランスを崩して思わず春名の首にしがみつくと、爛々と光る瞳が隼人を見上げていた。
    「ハ、ルナ……?」
    「へへ、つかまえた」
     なにが起きたのか隼人が理解できないうちに、春名はあぐらをかいた膝の上に軽々と隼人を乗せる。そして首筋に顔を埋めて、そこにいくつもキスを落とした。
     春名の髪やオオカミ耳が隼人の頬や耳をくすぐって、首筋のキスと合わさりぞくりとした快感が背筋を伝う。肩を押してもびくともしなくて、春名の力が強いのか隼人の力が抜けてしまっているのかわからない。余計なことをするなとでも言うように甘噛みをされると、今度こそちっとも力が入らなくなってしまった。
     そのまま床に押し倒されて、隼人の視界は春名でいっぱいになる。それから、興奮して強く振られた尻尾が時たま視界の端に映り込んだ。
    「今日のオレはケモノだから、優しくできないかも」
     唇を舐めた舌が、ひどく扇情的だった。獲物を捉えた野性的な瞳からは目が逸らせなくて、今からこの獣に食われるのだと思うと身体が震える。その震えは恐怖ではなく、これから起きることへの期待だ。
     べろりと首筋を舐められ、耳を食まれる。隼人が春名の髪に指を絡めると、普段はないオオカミ耳にすぐ行き当たる。それを撫でると春名は気持ちよさそうに目を伏せ、それから上機嫌で隼人の服を脱がせていった。


     隼人が目を覚ますと、カーテンを閉めなかったせいで窓からは強い日差しが差し込んでいた。昨日家を出る前に部屋の隅に用意していた客用布団が敷かれ、そこにくるまった春名の腕の中に隼人は閉じ込められている。なんとか身体を動かすと思いの外簡単に腕の拘束は抜けられたが、身体はあちこち軋むように痛かった。主に下半身がひどく重たくて、昨日は気にしていなかったけれど優しくできないと言っていたのは本当だったんだなと今更ながらに実感する。自分の身体をよく見ればいたるところにキスマークやら歯型やらがついていて、あまりのやりたい放題ぶりに苦笑してしまった。それを許したのは自分なのだから、春名を責めるつもりはさらさらないけれど。
     そういえば、と隼人は視線を春名の頭の上に移す。昨日春名の感情を素直に表現していたオオカミ耳は、春名の言ったとおり跡形もなく消えていた。そこに指を潜らせても地肌にはなんにも見つけられなくて、夢だったんじゃないかとさえ思う。だって、ハロウィンで満月だから耳と尻尾が生えるだなんて聞いたこともないし、春名がオオカミ男だなんて話も全く聞いたことがない。
     でも、夢だとしたらどこからどこまでが夢だったのだろう。
    「夢でもなんでも、いいか」
     そうひとり呟いて、隼人はまた春名の腕の中に潜り込む。
     きもちよかったし、たまにはケモノな春名も悪くないかもしれない。そんなことを考えながら、まどろみの中へ落ちていった。
    琉里 Link Message Mute
    2022/06/25 20:17:41

    ご機嫌ウルフと隼人くん

    pixiv初出:2020年10月31日

    #春隼 #SideM腐

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