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    Vowvow


     クリスマスの夜には、夜景の見えるレストランを予約して、ふたりで食事をして、サプライズでプレゼントを渡して……と、そう思っていたのに。実際にはそのうちのひとつだって用意できなくて、自分の甲斐性の無さにうなだれたくなる。
     クリスマスに向けたイベントは山ほどあって、デビューから二年経ったとはいえまだまだ駆け出しのオレたちには有り難いほどの過密スケジュールだった。けしてそのせいにするつもりはないのだけれど、今日やろうと思っていたことを明日やろうに変えた日が何日もあったことは事実だ。
     普通の恋人同士が過ごすクリスマスと全く同じようになんて出来ないことはわかりきっていたけれど、オレが初めての恋人であるハヤトには出来るだけそれと近いクリスマスを過ごさせてやりたかったのだ。オレが初めて、だなんて何度思い出してもニヤついてしまいそうだけれど、でもそれが事実だ。だからこそ、こういう行事みたいなものは大切にしたかった。

    「ハルナ、帰りにちょっと寄りたいところあるんだけどいい?」
     仕事が終わって解散になるとすぐ、ハヤトにつかまった。いい? なんて聞いているもののその目はオレが拒否するとは微塵も思っていない目で、指はオレの服の袖をしっかりと握っていた。もちろん拒否する理由なんてないので頷くと、ハヤトは安心したように笑う。
    「どこ行くんだ?」
    「いいとこ!」
     行き先を聞いてもハヤトは教えてくれなかった。他のメンバーと別れて二人で街中を歩いて行くと、だんだんとカップルが増えてくるのがわかる。だが周りのカップルには目もくれず、ハヤトはオレの袖を握ったまま通りをずんずんと進んでいく。
    「なぁハヤト、この先って、もしかして……」
     クリスマスにカップルが集う大通り。それにははっきりと覚えがあった。それもそのはずだ、オレはハヤトをここに連れてきたことがある。二年前の今日、ろくにデートもできず、プレゼントも用意できない、その埋め合わせにと。
    「へへ、気付いた?やっぱり綺麗だよな、ここ」
     煌びやかなイルミネーションの下でどこからか聞こえてくるクリスマスソングに合わせてハヤトがメロディを機嫌良く口ずさむ。その姿は二年前にも見たもので、変わったことといえばゆっくりと寄り添うようにしてオレの隣を歩いていることだ。
     ついこの間にも思えるような二年前のここでのことを思い出す。“ずっと一緒にいる”だなんて、二年前のオレはよくそんな小っ恥ずかしいことが言えたなと思う。アイドルとして駆け出したばかりのあの頃、他の誰よりもいちばん大切にしたい人が生まれて初めてできて、自分のそばに引き止めたくて必死だったのだろう。実際一緒にいた時間としては友人だった頃とほとんど変わらなかったけれど、できるだけハヤトを最優先にしてきた。それはもちろんこれからも同じだ。
    「ハルナ?」
     ハヤトに呼ばれて、いつの間にか足が止まっていたことに気付く。きょとんと不思議そうにオレを見上げるハヤトの顔を見ながら、ここでならもう少しだけ恥ずかしいことを言っても許されるかななんて考えた。年に一度、大切な人と過ごすため煌びやかに飾り付けられたこの場所でなら言えるんじゃないかって。そうでなければきっと、照れ屋のハヤトは聞いてくれないかもしれないし、それ以上にかっこつけたがりのオレはこの場所の力を借りないと言えないだろう。これはこの二年でよく学んだことだ。
    「あのさ、ハヤト。オレ、もうハヤトにオレの全部をあげられるんだ」
     ぱちぱちとハヤトがまばたきをする。よくわからないとでも言いたげなその瞳に微笑みかけて、足りなかった言葉を付け足していく。
    「二十歳になったから、オレは自分で自分の道を決められるんだ。だから、オレはハヤトと一緒に生きていく道を選びたい。……なんて、くさいかな」
     やっぱり照れくさくて最後は冗談めかしてしまったけど、ハヤトはしっかりとオレの言葉を真正面から聞いてくれた。いつまで経っても変わらないであろう純真な色の瞳が揺らめいて、涙が滲む。だけどそれは溢れることなく、ハヤトは口を開いた。
    「じゃあ来年、またここに来よう。そしたら、俺の全部をもらってくれる?」
    「それって……」
    「うん、俺もハルナとずっと一緒に生きていきたい」
     きらきらに光る瞳を細めながら、きゅうっと両方の手が握られる。ハヤトの言葉と両手のあたたかさに、今度はオレのほうが泣きそうだった。こみ上げる気持ちが抑えきれなくて、涙が溢れるよりも先にハヤトを抱きしめる。もしかしたらすでに泣いていたかもしれないけど、それがハヤトに気付かれさえしなければいいと思った。やっぱりオレはかっこつけたがりみたいだ。
    「来年なんて待てない。今すぐハヤトがほしい」
    「二十歳になったから、ってハルナが言ったんだろ」
     ハヤトがくすくすと笑う声を肩越しに聞きながら、このぬくもりを当たり前に抱きしめられることに感謝した。それから、ハヤトがオレをここへ連れてきてくれたことにも。
    「ハルナとここに来れてよかった」
     オレの気持ちを見透かしたかのような言葉に、思わず体を離してハヤトを見た。ふわりと微笑むその表情は、オレにしか見せない顔だ。それにつられて、ついこちらまで頰が緩んでしまう。
    「嬉しいこと聞けたから。ずっと、離さないでね」
     肩に置いていた手がとられて絡められる。縋るような祈るようなその手のひらを振り払うはずもなく、しっかりと握り返す。

     聖なる夜に誓おう。このあたたかい手を絶対に離さないと。


    春隼



     ただいまぁ、とやけに間延びした声に振り返る。これはまたスタッフさんたちに連れられてお酒を飲んできた声だ、と顔を合わせずともわかった。ふわふわとどこか宙に浮いたような声は、春名が成人してからこの一年半の間に何度も聞いた。初めて春名がこの状態で帰ってきた時にはよくわからないまま抱きすくめられ、なんとか携帯を引き寄せてプロデューサーに助けを求めたのをよく覚えている。
     おかえりと春名を迎えると案の定ほろ酔い加減で、手にはコンビニ袋がぶらさがっていた。お酒に強いらしい春名は、外で飲み足りなかった時にはこうして度々お酒を買って帰ってくる。
    「また買ってきたの」
     少し呆れたように隼人が言うと、
    「まーまー、ハヤトのもあるから許せよ」
     そう言って袋から炭酸ジュースを取り出して隼人に手渡すのだった。
     今日はコーラを渡された隼人は春名の明日のスケジュールを脳内で思い返して、明日に響かない程度ならいいか、とコーラのプルタブに指をかける。それを上機嫌で見届けた春名は自分の缶チューハイも開けて、隼人の持つ缶へこつんとぶつける。そして美味しそうに缶を傾けるものだから、つい気になってしまった。
    「な、ハルナ。お酒ってそんなに美味しいの?」
     ゆるい笑みをたたえた表情が、こちらを向く。気になるの、とにんまり笑った春名に、頷きで返す。
     春名の手にある缶には大きく「白桃」と「アルコール9%」なんて文字が踊っている。その9%がどんなものかなんて隼人にはわからないけれど、白桃はよく知っている。時期になればスーパーに数多く出回り、缶詰であれば季節を通して食べられるものだ。その組み合わせが、春名やプロデューサー、他にも事務所の成人した仲間たちをどうしてそんなに虜にしてしまうのか、ただ単純に興味があった。この場合、「白桃」ではなくて「アルコール9%」のほうが重要性を持っていることは十分承知しているのだけれど。
    「気になんの?でもハヤトにはまだ早いだろ〜?」
     けらけらと春名が笑う。確かに隼人がお酒を飲めるようになるには、あと二ヶ月ほど経たないといけない。でもだからこそ、目の前の「アルコール飲料」に興味を持ってしまう。飲んだらどんな感じとか、どうしてそんなふわふわしているのかとか、普通のジュースと何が違うのか、とか。
     じっと見つめていると、じゃあと春名が口を開く。
    「ほんとに飲ませたらプロデューサーに怒られるし、気分だけ分けてやるよ」
    「気分だけ……?」
     春名の言っていることがよくわからなくてきょとんとしていると、春名の手が頬に伸びてくる。柔らかく撫でられたかと思うとその手が後頭部へと回って、一瞬で春名の顔がすぐ近くまで来ていた。そのまま春名の熱を持った唇が隼人のそれに重ねられて、ツンとしたような香りとほんの少しの苦味に、これがアルコールなのかと感じた。嗅ぎ慣れない香りと味は隼人の頭の中をぐるぐるとして、本当にアルコールを摂取したわけではないのにお酒を飲んでしまったかのような、そんな感覚になる。唇を味わうように食まれて、そのせいか慣れないアルコールの感覚のせいなのか、くらくらとしてきた中でなんとか腕を突っ張って春名を押し返す。
    「ほら、ハヤトにはやっぱり早かっただろ?」
     真っ赤になった隼人の顔を見てそう笑う春名は大人の顔をしていて、隼人にはそれが悔しくて仕方なかった。


    四季隼



    『ホワイトデーに自撮り付きメッセージを♡』
     突然、そんな通知がロック画面へと現れた。その画面を見ながら、そういえば今日はホワイトデーだったのだと思い出す。ホワイトデーライブの選抜メンバーに選ばれてから、3月14日はライブ本番の日という認識しかできなくなっていた。
     通知の発信元は画像をコラージュできるアプリで、きっとホワイトデー用の素材が追加されたんだろう。指を滑らせてパスコードを入力するとロックは解除され、入れ替わるようにしてそのアプリが起動する。
    「伊瀬谷、なにをしているんだ?」
    「ハヤトっちに写メ送ろうと思って!」
     麗っちも入る?と聞くと、首を横に振られた。その代わりに、伊瀬谷は本当に先輩が好きなんだなと柔らかく目を細められる。
     そう。オレはハヤトっちが好き。恋人になって数ヶ月、いやもっと前から、ハヤトっちが大好きで仕方がない。そんなオレの大好きなハヤトっちが、顔を真っ赤にしながらオレの胸にチョコを押し付けて走っていってしまったのがつい一ヶ月前のこと。オレはハヤトっちからバレンタインチョコをもらったのだ。でも、ライブの準備で慌ただしく一ヶ月を過ごしていたのでお返しを用意出来ないまま今日になってしまった。ファンへの飴ちゃんと一緒に買うこともできたけれど、ハヤトっちにはなにか特別なものを返したかったのだ。それを考えていたら、……このザマ。でもたった今、いいことを思いついた!
     バレンタインに冬馬っちたちがやってたみたいに投げキッスのポーズを作って、インカメラで写真を撮る。そしてそれをさっきのアプリでスタンプとかフィルターとか、とにかくメガイケてる感じに加工して、ハヤトっちに送った。
     ハヤトっちとのトーク画面をしばらく眺めていると、既読がついたと思ったらすぐに返事、じゃなくて、電話がかかってきた。あまりにも早いから、ちゃんと写真を見てくれてないんじゃないかって気がする。
    「ハヤトっち!?写メ見てくれたっすか!?」
    「見たよ!遊んでないで仕事しろよな!もうすぐ本番だろー」
    「えー、オレのキチョーな本番前ショットっすよ!?超レアっす!……嬉しくないっすか?」
     ちょっと不安そうな声音を作れば、電話の向こうでハヤトっちが慌てるのがわかった。
    「嬉しくないとか、そうじゃなくて……ちゃんと仕事しろって!他の選抜メンバーとかプロデューサーに迷惑かけるなよ!」
    「わかってるっす!オレ、ちゃーんと歌うっすよ」
     ハヤトっちの声の後ろから、他の先輩達の声もする。みんなで見に来てくれているんだとわかると、もっともっとやる気が出る。やる気はもともと100パーセントだけど、その上まで行けてしまいそうな、そんな気分だ。
    「テンション上げすぎて、音外すなよ?」
    「ダイジョーブっすよ!麗っちも薫っちも、歌ミスるとメガ怖いんすよ〜」
    「ダンス苦手だろ、大丈夫か?」
    「翔太っちと漣っちにみっちりしごかれたっす!」
     今日のためにカンペキにしてきたオレが、本番前にハヤトっちと話せた。そうなったらもう、怖いものはなにもない。
    「先月もらったチョコのお礼、サイッコーのライブで返すっすよ!見ててね、ハヤトっち!」
    琉里 Link Message Mute
    2022/06/25 19:43:36

    Vow

    pixiv初出:2017年1月14日
    以前上げたクリスマスの話の2年後にあたる話。春名20歳、隼人19歳。

    他、2ページ以降順に短い無題のお話ふたつ。
    春隼(寮同室設定、春名20歳、隼人19歳)
    四季隼(ホワイトデーライブ2016ネタ)

    #SideM腐 #春隼 #四季隼

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