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    命がけの生存権と恋(前編私の幼少期は、愛情を注いでくれる人が沢山居て幸せな日々だったんだなと、今になって思うの。私は普通じゃない生き物だから、小さいうちに迫害されて殺されててもおかしくないし。
    私は人間と魔獣のハーフ。ママは私の産み方を失敗して出血多量で死んだらしく、パパは私を施設に預けて普段は山で暮らしている。パパはたまに会いに来てくれるけど、魔獣語で話し掛けてくるから会話が成立しない。おかしいな、園長先生曰くパパは人間語も話せるらしいんだけど、何で私とは会話してくれないんだろう?私実はパパに嫌われてる?
    児童養護施設サンライト園。児童養護施設とは名ばかりで、実際は家族や社会に見捨てられた人達も受け入れている場所だった。赤ちゃんだった私のオムツをよく替えてくれたのは元食い逃げの常習犯だったらしいし、両手が無いけど足で器用に木彫りの人形を作る20代のお兄さんも居たし。そのお兄さんは作品の芸術性を認められて、後に貴族に養子として迎えられていったけど。元廃教会だったこの場所で私は沢山の出会いと別れをし、泣き、笑い、様々な事を教わっていきました。
    勉強は勿論、卒園した後に困らない様にと、家事もしっかり教わりました。もっとも私はあんまり頭が良くないし、手先も何とか普通レベルなのでしっかり教えてくれた先生達には悪いなと思ってますが。そのおかげで料理や洗濯は一応人並みに出来ます。
    園長先生は大好きですが、産んでくれたママの事も大好きで、命日には園長先生とお墓参りに行ってました。園長先生は私が赤ちゃんの頃から毎年私の姿をママに見せて、「ナナちゃんは〇歳になりました」という報告と共に、最近の私の言動も報告していました。「ナナちゃんは1歳になりました。よく歩き回るお転婆です」こんな感じに。その後にお供えしていたたこ焼きを半分こにして食べ、手を繋いで園まで帰る。こんな感じのお墓参りは私が10歳まで続きました。
    大抵の子は魔道書を貰ったら卒園していきます。可愛がってくれたお兄さんお姉さんが居なくなるのは寂しかったし、仲良くなった同じくらいの歳の子も、時々養子として他の家庭に引き取られていく事もあり、その度に私は大泣きしました。
    みんなが仲良しという訳ではないので、当然いさかいもありました。私は一部の男子に嫌われていて、殴り合いの喧嘩はしょっちゅうで、その度に相手を軽く怪我させてました。ナナちゃんは人より少し力が強いんだから、気を付けなさいよと叱られる度、私はふくれました。私の生い立ちをバカにして喧嘩を売って来たのはそっちなのに。半獣キモいと言われたらそりゃキレるでしょ?その子達には今も怒ってるし、体臭がウンコみたいになってみんなに嫌われろ!と思ってる。
    でもたった1人だけ、許して友達になった子が居て、その子だけは今も大切に思っている。もう2度と会えないんだけどね。

    その彼女の名前は、チル・ガーデンローズ。通称ローズちゃん。
    母親のお腹に居た時から生まれても数年しか生きられないと言われていた貴族の女の子で、こんな奴家族にいらないと父親が勝手にここに置いていってしまったらしい。当時は何度か母親が取り戻しにやって来たらしいが、その度に父親に暴力で阻止され、やがてどちらも来なくなったそうです。時々ママから手紙が届いていたみたいですが、1通目の『パパさえ居なければあなたと暮らせるけど、怖くて離婚を切り出せないママを許してね』という保身しか考えていない内容に彼女は腹を立て、それ以降は封を切らずに捨てていたそうです。
    彼女は私の2歳上で、美少女で男子からの人気が高く、その取り巻きの男子を使ってやりたい放題していました。彼女が誰かにブスと言えば、取り巻きもその子にブスと言いまくる。そんな感じなので女子からはすごーく嫌われていて、特に私が被害を受けていました。獣臭いですわと取り巻きと石をぶつけてきたり、残飯を食べさせてこようとしたり、魔獣みたいに裸で過ごせば?と着替えを隠されたりしてました。その度に(流石に少し手加減したが)取っ組み合いの喧嘩をしたり、先生が気付いて彼女を咎めたりしましたが、王貴界の人間が下々の者を足蹴にするのに何の問題がありますの?と全く反省しませんでした。結果、彼女は女子の中から孤立しました。女子全員が一致団結して彼女のいじめに耐えたからです。
    話し掛けられても完全無視、取り巻きが暴力を加えようとしたら先生の所までダッシュ、誰かが着替えを隠されたら誰かのを貸す等、みんなで協力し合いました。1人にならない様に常に復数人で行動し、何かあった時に対処出来る様にしてました。結果、私はいじめと無縁になり、気持ち良く毎日を過ごせる様になりました。彼女は面白くなさそうでしたが知らない。あんたが悪い。
    そんな彼女は度々部屋に籠りきりになります。持病を持ってるから当たり前ですが、復数人の回復魔道士が慌ただしく部屋を出入りする光景を何度も見掛けてました。
    「今回も何とか…」
    「あの子、成人になれるのかな?」
    と回復魔道士達が話ながら帰るのを見届けて、友達とそっと部屋に忍び込むと、点滴を付けられた顔色悪いローズちゃんが寝息を立てていました。いい気味だと思う私と、可哀想と思う私がせめぎ合い、苦しくなってそっと部屋から出て行きました。
    彼女の容態は少しずつ悪化していき、日に日に髪が抜けていくと、取り巻きだった男子達が彼女に対してハゲ女ー!と馬鹿にする様になり、彼女は完全に孤立してゆきました。いい気味だと私達女子も便乗し、ハゲーハゲーと馬鹿にしていたら、ある日全員園長先生に呼び出され、一発ずつビンタをくらいました。
    「病気で容姿が変わってゆく相手を馬鹿にするんじゃありません!」と叱られましたが、納得いかないよ先生。そもそも先に人をいじめてきたのローズちゃんじゃん。何でうちらが叱られなきゃいけないの?
    全員納得いかないまま呼び出しは終わり、また大人に叱られなくない私達は彼女に対する完全無視を解除し、ちょっと距離を置く程度にしました。私が5歳の時の苦い思い出です。当時は納得いかなかったけど、今なら怒られた理由が分かります。
    私達が態度を軟化させると、彼女はガンガン私達に絡んでくる様になりましたが、謝罪は一切ありませんでした。ムカツク、でもハブるとまた大人に叱られるかもと私達は仕方なく彼女を受け入れ遊んでました。
    その間にも彼女の病気は進行していき、とうとう彼女の綺麗だった髪は1本もなくなってしまい、常にニット帽を被っている状態になりました。病気だけど親友が出来て嬉しい!と彼女は勝手に私達を親友扱いし、彼女が体調不良で寝込んでいる時だけ私達はホッとしてました。彼女は我が儘で、自分が思った通りに事が動かないとキレるからです。正直マジ疲れるし、奴がいると楽しくない!女子全員が思ってた事でした。
    そのうち益々園への回復魔道士の出入りが激しくなり、彼女は寝たきりになりました。そんな時でした。園長先生に彼女の側に居てほしいと頼まれたのは。は?!と思いました。絶対やだ!と断りましたが、園長先生があまりにもしつこいのと、拾ってくれた恩があるので結局引き受けました。彼女と同室になる事になったので、元々居た部屋に荷物を取りに行くと、同室の子から同情されました。まあ、多分もう長くないし、ローズが死んだらまたこの部屋に戻って来るよ。そんな軽口を吐いて私は部屋の扉を閉めました。

    奴と同室になってから、ナナちゃん大丈夫?と言われる事が増えました。覚悟はしてたけど、めっちゃ疲れるよと友達に返すと、可哀想ー!早く死ねば良いのにねと友達。せっかくの楽しいお散歩の時間なのに、私は眠くてウトウトしながら歩いてます。今、奴は居ない。寝たきりになった彼女はお散歩に参加出来ないのだ。せっかく羽を伸ばせるというのに、夜更けまで話し掛けてくる奴のせいで寝不足だ。時折、先頭を歩いてる先生が振り向いて私達の様子を確認し、ナナちゃん眠いならおんぶしようか?と声をかけてくるし、後方を歩いてる先生には抱っこでも良いよ?と笑われるし。眠くて仕方ない私はおんぶを選択し、先生の背中で少し寝させてもらいました。
    しばらくすると鐘の音と歓声が聞こえてきて、目を覚ますと白いドレスの女性が見えました。結婚式だね。ナナちゃんも大人になったらあれを着るかもしれないよ?先生の呟きに私はときめきました。純白の美しいドレス。あれを身に纏えたらどれほどワクワク出来るんだろう。それ以来、私の好きな色は白になり、園長先生が地域の人から貰ってくる古着は、出来るだけ白い衣服を選ぶ様になりました。
    その日のお散歩の夜、久しぶりに私はブチギレ、奴をひっぱたいてしまいました。病人なのと大人に叱られたくないから喧嘩を我慢していたけど、ローズが悪いんだもん。きっかけは、好きな色は?という奴の質問で、私が正直に白と言うと、私と被ってるからだめーと奴。何で?良いじゃんかと反論すると、白はお嬢様の私にこそ似合うのよ。下民のあんたに似合う訳ないじゃないと鼻で笑われ、ムッとした私がでも私もいつか結婚して白ドレス着るかもしれないし!と声を荒げると、あんたみたいな化け物、一生結婚出来ないわよと言われ、気が付いたら手が出ていました。奴の頬が少しずつ腫れていくのを見ながら、私は止まりませんでした。
    「うっせーわ!だいたいあんた、親に恵外界に捨てられたのに未だに貴族ヅラうぜーんだよ!捨てられたんだから貴族でもねーだろお前!私と同じ下民だよ!下民!」
    しばらく喧嘩を我慢していた分、感情が溢れて止まりません。
    私達は互いに暴言を吐き合いました。
    「私は下民じゃありませんわよ!今はこんな所に居るけど、病気が治ったら王貴界に帰るんですから!」
    「あんた、一生治らない病気でしょ!帰れないくせに何言ってるのよ!」
    「治すわよ!治してパパとママと一緒に暮らすんだから!あんたこそ下民ですらないですわよね?!半分化け物の癖に」
    「魔獣を化け物扱いするの止めてよ!私のパパだよ!化け物じゃない!」
    「ああ、そうよね。化け物はあなただけよね。人と魔獣の子供という訳が分からない生き物だもの」
    「うるさい!あんたなんてハゲの死に損ないのくせに!」
    「何ですって!?あなたなんて殺されても文句言えない化け物の分際で、私になんて事言うの!?」
    私達は互いを罵倒して傷付け合い、悪口のバリエーションがネタ切れで、馬鹿とかアホとか低能な物になった頃、好きでこうなった訳じゃないわ!と同時に叫んでボロボロ泣きました。
    「好きでハーフで生まれたんじゃない」
    「好きで病気抱えたまま生まれたんじゃないですわ」
    やがて私達は向き合って、互いに謝罪しました。
    「言い過ぎた…ごめん」
    「私もごめんなさい」
    「うん…寝ようか、いい加減」
    思い切り喧嘩したからなのか、その日を境に私達は逆に仲良くなりました。私達に遠慮はありません。言いたい事は言うし、言い過ぎたと思えば謝って仲直り。するとどうでしょう。ローズちゃんは少しずつ元気になってゆき、寝たきりから車椅子で行動出来る様になり、他の子とも仲良く出来る様になりました。ローズちゃんがいじめの事を謝った時、最初はみんな今更なんだよ!と怒ってましたが、心から反省している彼女を最終的に受け入れた事で完全にいじめは解決しました。やがて再び髪も伸びはじめ、治らないと言われていた病気も治る見込みが出てきました。信じられない…とローズちゃんをずっと診ていた回復魔道士達は唖然としてましたが、私達は友人の回復を心から喜びました。数ヶ月後、彼女は病気に打ち勝ち、走り回れる位に回復したのでした。もう大丈夫だと回復魔道士達が判断すると、園長先生はローズちゃんの両親にその旨を手紙で伝えました。こうして、ローズちゃんは王貴界へと帰る事になったのです。ローズちゃんが王貴界へと帰る数日前から、私達は泥だらけになるまで彼女と思い切り遊びました。帰った後は2度と会えないかもしれないし、会えたとしてももう遠い存在。だから友人のうちにみんなで遊び尽くしました。かくれんぼや鬼ごっこ、雑草を使ったままごとや冠作り、思い付く限りの事を彼女としました。
    将来の夢も語り合いました。ナナ、私と銀翼に入団しようよ!というローズちゃんの提案に、私は笑って断りました。
    「私は下民だよ。無理に決まってるでしょうよ。てか何で銀翼?」
    「私もナナも白が好きでしょう?2人であの綿飴みたいなの付けようよ」
    「あれ、王族しか付けてるのを見た事ないけど?てゆかさ、今更だけどローズちゃんは何で白が好きなの?」
    「私、実は花で一番ユリが好きなのよ。何か儚げな感じがするわ。綿飴は無理かもしれないけど、2人であの白いローブ着ようよ」
    「…私の夢は花嫁なんだけどな。まあ良いわ。受かるか分からないけど、やってみようか」
    私達は指切りをしました。
    ところが事態は急転しました。王貴界へと帰る前日の夜、彼女は再び病に倒れたのです。直前まで私達は普通に会話をしていたのに、急に彼女が苦しみ出したのです。改めていじめを謝罪してきた彼女に、反省してる人間にいつまでもネチネチ執着して暴言吐かないよ私は…と返事をした時、彼女は胸を押さえて苦しみ出したのでした。私は部屋を飛び出し、園長先生に報告しました。その後は急いで園に来た回復魔道士達が部屋を慌ただしく出入りし、そのまま朝になりました。
    私はいつの間にか寝落ちてたみたいで、部屋の前の廊下で目覚めました。知らない男の怒鳴り声と、女の啜り泣く声が部屋から聞こえてきます。私はそっと部屋を覗き込みました。
    「完治したというから迎えに来てやったのに、死んでるとはどういう事だ!」
    「申し訳ありません。急に再発した強力なガン細胞が全身に転移してしまって、私達の治療が全く効きませんでした」
    「ユリア…ユリア…」
    「ユリアじゃない!チルだ!とにかく、わたしはこんな死体はいらん!引き取らないぞ!」
    「そんな!私達の娘ですよ!」
    「お父様、考えを改めませんか?」
    状況を察した私は、その場に崩れ落ちました。ローズちゃんが、死んだ?
    「そもそもわたしはこんな娘いらなかったんだ!数年しか生きられない欠陥品なんて、ガーデンローズ家の恥だ!なのにお前が産みやがるからこんな事になるんだ!」
    「私はどんな娘でも愛したかった。ユリアは確かに数年しか生きれなかったけど、その数年に愛を注いであげたかった。なのに、あなたが…」
    言い訳するな!と男が女を殴った時、私は衝動的にその男に駆け寄り、足を思い切り踏みつけました。本当は顔面を殴りたかったけど、身長が足りなかったのです。いてえ!と叫ぶ男に、パパならちゃんと子供を愛せよ!と怒鳴りつけました。そしてローズちゃんに駆け寄り、起きてよ!と呼び掛けました。起きてよ!これからはパパとママと暮らすんでしょ?大人になったら銀翼入団するんでしょ!?まだ9歳なのに…逝かないでよ!
    彼女に触れると、ヒンヤリしました。
    「ナナちゃん…ローズちゃんはもう…」
    園長先生が私を彼女から引き離したとたん、ボロボロと涙が溢れてきました。確かに私はかつて、彼女の死を望んでました。でももうそんな事望んでなかったのに…。私は泣きじゃくり、やがて泣き疲れていつの間にかまた眠っていました。
    私が寝ていた間、ローズちゃんの両親は言い争いの末その場で離婚を決意し、彼女の遺体はママが引き取る事にしたそうです。実はママの方は下民で、実家が隣の村にあるそうで、遺体を抱えて普通に隣の村に帰って行ったと後で聞きました。ローズちゃんのママは用事で平界に来ていた時に、これまた用事で来ていたローズちゃんパパに一目惚れされ、無理矢理結婚させられたそうです。やっと娘と暮らせる…私が付けたかった名前で呼べる…暴力を受けなくて良い…と呟いてたそうですが、遅すぎるよローズちゃんママ。どうして大人は手遅れになってからやりたい事を行動に移すんだろう…。パパの方は、私に青筋を立てながらも大人しく王貴界へと帰って行ったそうです。やっと目障りな命が散ったと軽く笑ってたそうですが。散る=チル。ローズちゃんが何故みんなにローズと呼ばせていたのか、今になって分かりました。酷い。
    その日は女子全員が泣いて、ローズちゃんを偲びました。一時的でも死を望んでごめん。私達は今更ながら反省しました。
    友人を亡くしても、それでも日々は流れてゆきます。悲しみは日常に溶かされてゆき、私達は変わらぬ毎日を過ごしていきました。そんな日々はある日突然終わりを迎えました。今度は園長が死んだからです。私が10歳の誕生日を迎えて数日後の事でした。起きてこない園長を先生達が見に行くと、笑みを浮かべて冷たくなってたそうです。園長先生はその時105歳。老衰でした。私は園長がそんなに年寄りだとは知らなかったので(80くらいだと思ってた)二重に驚きました。
    嘘でしょ…園長先生、数日前一緒にたこ焼き食べてたくらい元気だったのに。
    園長先生の葬儀には、卒園生や元先生も沢山来てしめやかに行われました。参列者みんなが泣いていました。先生のおかげで人生をやり直せました、有難うございましたとお礼を言う人が沢山いました。園長先生、私も育ててくれて有難うございました。でもあと5年耐えてほしかった。
    園長先生の死後、この園は閉鎖される事になりました。後継者が居なく、運営が出来なくなったからです。先生達も私達も、みんな散り散りになりました。園に居た高齢者や障がい者はそういう施設に、私達子供はそれぞれ新たな児童養護施設へ、先生達も新しい仕事に就いて再出発になりました。
    私は新しい施設に馴染めず、孤立してしまいました。サンライト園では何かあれば先生が助けてくれましたが、ここでは逆に先生にいじめられました。大衆を一致団結させる方法って知ってる?1人だけでよいからみんなの共通の敵を作る事よ。そう言って先生達は私に白羽の矢を刺しました。みんな、この化け物になら何やっても良いよ。先生達のこの一言のせいで、私はここでは誰とも仲良くなれませんでした。暴言や暴力など、あからさまないじめはありませんでしたが、私はここに居る間、利用者全員から無視されました。会話に入れず孤立した私を、先生達は嘲笑っていました。同じ園から来た子達も、次の標的になりたくないのか助けてくれませんでした。
    だから私は逃げ出しました。あんな所に居たくなくて、荷物をまとめて夜中にこっそり施設を抜け出しました。
    そして私は10歳にして路上生活者になりました。誰にも守ってもらえない、命がけのサバイバル生活が始まりました。

    路上生活は想像以上に大変でした。
    ご飯は飲食店のポリバケツを漁り、まだ食べれそうな物を勝手に食べてたのですが、同じ目的を持った相手と戦わなければなりません。おい、ガキ、それ譲れ!と急に知らないオジサンに突き飛ばされた事もあります。まあ、普通に返り討ちにしましたが。貴重な食料を得る為に毎日知らない相手と喧嘩をし、私はめきめきと喧嘩の腕だけは上がっていき、知らない内にストリートファイターという変なアダ名を周りに付けられました。でも、そのおかげで小銭稼ぎが出来る様になりました。いつの間にか食料関係なく、私と喧嘩したいという相手が増え、傍観者がファイトマネーを投げてゆく。そんな生活に変化していったのです。私は負け知らずで、名を上げていきました。そんな小銭稼ぎのおかげで、ポリバケツを漁る生活からは卒業出来ましたが、路上生活からはなかなか卒業出来ませんでした。純粋に私と喧嘩したい奴、私を化け物扱いして退治したい奴、毎日色んな奴が私の下へ来ました。一度、「女の子が路上生活するの危ないよ。助けてあげるよ」と、優しそうな男性に声をかけられ、何も考えずについていったら彼の自宅で襲われかけた事があり、助けを求める事自体ちょっと怖くなりました。この時ほど特技が喧嘩で良かったとも思いました。
    まあでも、今はドン底でも魔道書を貰って魔法騎士になれば生活は安定する筈と自分を鼓舞して毎日を生きてゆきました。ローズちゃんと交わした約束が、私を支えていました。私の魔法はノートに書いた文章を具現化する物。なので文字を書いてる間は私は無防備。足手まといにならない為に、工夫は必要…なんだけど、具体的にどんな訓練をすれば良いのか分からず、とりあえずノートに何かを書きながら歩き回るという謎の訓練を毎日していました。最初は人にぶつかったり、何かに躓いて転んだり、上手くいきませんでした。動きながら書き物をするのは難しい事なのです。魔法自体も、書いた事を具現化させるといっても何でも出来る訳ではありません。私自身の魔力量や質、その時の体調によっては出来ない事もあります。発熱などの体調不良の時は全く魔法が使えないし、一度ノートに世界平和と書いたら、魔力が足りません、身の程を知れという文字が浮かび上がってきて、悔しくて発狂した事もあります。この欠点を15歳までに何とかしないと…私は日々焦っていました。

    14歳になったある日、私は久しぶりに人に襲われて弱りました。ダンボールの中で寒さに震えながらスヤスヤ寝ていた時、唐突にバケツの氷水をぶっかけてきた馬鹿が現れたのです。その日は凄く寒い日でした。馬鹿は私に氷水をかけた後、死ねよ化け物!と叫んでバケツをぶつけようとしましたが、突如現れた黒いお兄さんにそれを阻止されました。背後から馬鹿の両腕を掴み、何をしてるの?と問い掛けるお兄さん。馬鹿は振り向くと悲鳴を上げて逃げ出しました。お兄さんの怒ってる顔が余程怖かったのでしょう。
    「あの…有難うございました」
    「ううん。ごめんね、もっと早く僕が来ていたら水をかけられなくて済んだのに。体調悪そうだけど、大丈夫?」
    「ちょっとクラクラしてきました…風邪ひいたかもです」
    「君、家出少女?女の子がこんな所で寝ていたら危ないよ。家帰った方が良いよ、送るから」
    「私には居場所も無いし、親も居ません」
    そう答えた時、お兄さんは驚いた顔をし、しっぽ?とミミ?と呟きました。
    「私は人間と魔獣のハーフです…ママは死んでるし、パパは山に居ます。体調不良になるとこうなります…」
    ハアハア言いながら答えると、お兄さんは私を抱き抱え、医者に連れてく!と歩き出しました。え、待ってあの時みたいに襲われたら今の私に勝ち目はない。優しい人程危ない事を、私はもう知っている。私は精一杯暴れようとしましたが、身体が上手く動かずに諦めました。寒気と頭痛で身体がダルい…。
    「…私、ナナって言うんだけど、黒いお兄さんはなんていうの?」
    しばらくして何となく聞いた質問に、お兄さんは苦笑して、僕はゴードンだよと答えてくれました。
    「黒いお兄さんって…。僕はゴードン・アグリッパ。宜しくね、ナナちゃん」
    ふっと笑った彼の笑顔に、私は少しときめきました。
    「だって全身黒いじゃないですか…他に呼びようが…。ゴードンさん、信用して良いんですね?私一旦優しい人に騙されてるから怖いんですけど」
    ゲホゲホと咳をしながら問うと、大丈夫!僕は絶対君を助けるよ!と返事が返ってきて、それよりもう喋るの止めて眠った方が良いよと言われたので、私は彼に抱き抱えられた状態で眠りにつきました。
    彼は約束通り、私を助けてくれました。
    目覚めたら私はベッドに寝かされていて、頭には濡れタオルが置かれていました。ケモ耳としっぽはひとまず引っ込んだみたいです。身体はだいぶ楽になってました。
    「ナナちゃん、起きたの?大丈夫?」
    ゴードンさんが部屋に入って来て、私にすりおろしたリンゴを差し出してきました。受け取った瞬間、医者らしき人も入ってきて、良かったと呟きました。
    「君、40度も熱があったんだよ。ひとまず熱が下がって良かった。3日かかってしまったけど」
    「え?私、3日も寝込んでたんですか?」
    医者らしき人の言葉に、私は目を丸くしました。
    「そうだよ。一応大事をとって今日もここで休んでいくと良いよ」
    そう言うと部屋を出ていき、ゴードンさんと2人きりになりました。
    「ゴードンさん、有難うございます。治療費はいつか絶対お返しします。そして、疑ってすみませんでした」
    私が頭を下げると、気にしないでと彼。
    「僕はこう見えても魔法騎士。人助けするのは当然の事なんだよ」
    そう言うと彼はバサッと牛のマークが入った黒いローブを身に纏った。
    「え!そうだったんですか。私も来年試験を受ける予定なんです。亡き友人との約束で…出来れば銀翼に」
    生きてたら彼女は16歳。私より一足早く魔法騎士として活躍していたかもしれないと思うと切なくなった。
    「そうなんだ、頑張ってね。じゃあ今はしっかり栄養つけて身体を完治させなきゃね」
    彼は私にりんごを食べる事をすすめて部屋を出ていきました。
    私はこの時にゴードンさんの事を好きになったんだと思う。弱ってる所を助けられて惚れるなんて、まるで恋愛小説だけど、もう気持ちは止められなかった。後から聞いた話だけど、ゴードンさんはこの3日間、任務の合間を縫って私の様子を見に来てくれてたらしい。優しすぎでしょそんなの。
    彼が私にしてくれた事はそれだけではなかった。翌朝、医者にお礼を言ってスラムに戻ろうとしていた私を彼は止めて、君はもうあそこに戻るべきではないと、私の荷物を差し出した。どうやら私が寝込んでた間に、荷物をまとめてこっちに持ってきていたらしい。
    「勝手な事をしてごめんね。でも、女の子があんな所で生活するのはやっぱり危険だよ。君が寝込んでた時に、話をつけておいた食堂があるから、君にはそこで住み込みで働いてもらうよ。行こう?」
    私は差し出された手を取って、彼についていきました。

    辿り着いた食堂の人達は良い人だった。ご夫婦で営業しているという洋食店はいつも混んでいて、スタッフを募集していたらしい。2人とも私を温かく迎えてくれて、私の4年間の路上生活は終わりを迎えました。
    「ナナちゃん、僕も時々様子を見に来るから、頑張ってね」
    ゴードンさんはそう言うと、私にペロペロキャンディを渡し、手を振って立ち去っていきました。
    ああ、ようやくまた安心して眠れる日々がやってきた。私は心から安堵しました。
    (後編へ続きます)
    くーま🐻 Link Message Mute
    2022/09/02 17:09:52

    命がけの生存権と恋(前編

    ブラクロオリキャラ、ナナちゃんの小説です☺️長くなってしまったので前後編に分ける事にしました。
    前編は乳児~14歳までの内容となっており、グリス君はまだ出てません。ご了承を

    # #ブラクロオリキャラ

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