イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    男2人の秘密の話「いつまで秘密を隠してるつもりだ?もう時間がないんだろ?」
    「君だって娘に隠してる事があるだろう?グリス君、僕はもう何も伝えないつもりだよ。ルウは何も知らない方が良い」
    「けど、良いのかよ、ナナはお前に嫌われてると勘違いしたままだぞ。話すべき事は全て伝えておいた方が良い!」
    「娘の事は愛してるよ。けど、辛いんだよ。本当の事を話したら、きっと娘は傷付いて泣いてしまうし、僕は心から軽蔑されてしまう。だから、何も知らせないまま僕は逝くよ」
    「良い訳ないだろ!このバカ魔獣!」
    オレと言い争っているこの魔獣は、オレの主人の父親で、グーという。今の主人は人間と魔獣のハーフ。オレは担当する主人の恋愛を手助けする天使で、特殊な矢を使えば一発で恋愛成就させる事も出来るが、現在の主人がそれを望まないため、今はただ主人の恋を見守っている。そんなオレの特技は情報収集で、今の主人であるナナの事を、実際に出会う前から調べていた。オレは数年前から、集めた情報を駆使して、主人達の恋愛を手助けしていたからだ。そんな中でこいつ、グーの事を知った。人間に恋をして、子供まで授かったのに、相手が出産時の事故で死んだ後、子供を施設に預けてほぼ娘から逃げていたこいつは、もう長くはない。人間でいえば80歳と高齢のうえ、身体中患っているのだ。今は人気のない山奥の洞穴で、静かに1人で暮らしている。
    「グリス君、僕は殺人者だ。自分の家族を守りたいが故に、危害を加えてきた人間を食い殺した。でも結局シュナは死んだし、僕もほぼ人間として生まれたルウを手放してしまった。娘は、段々とシュナに似てきている。彼女の事を思い出して悲しくなって、娘なのに上手く話す事が出来なくなり会話が成立しない。そんな僕がいつまでも父親ヅラできないし、静かに消えていくよ」
    「アホな事言ってると、もう干し芋持って会いに来ねーぞ!お前が殺人者ならオレも殺人者だよ」
    「でもあれ、グリス君のせいでは…」
    オレは首を横に振った。あれは確かにオレの過失だった。オレは、前の主人を自殺で失っているのだ。

    オレの前の主人は、アリスという名の、平民で太っていて顔中ニキビだらけの女の子だった。次の主人はこの子だよと上層部に告げられた時、オレは正直頭を抱えた。別に容姿が悪い奴は恋愛をするなと言わない。ただ、彼女が好きになった相手が悪かった。貴族で勉強もスポーツも出来、おまけに高身長で顔立ちも良かった。なので女の子にモテモテでご主人に勝ち目はなかった。どう見ても恋敵達の方が彼に釣り合った。なのでオレは、アリスに会う前にダイエット方法やニキビの治し方を沢山調べてから下界に降りた。そして彼女に告げた。
    「オレはお前の恋を助ける天使だけど、ハッキリ言ってお前に勝ち目はない。だからまずは痩せて、更にニキビも治してもらう」と。彼女はショックを受けていたが、それで彼の彼女になれるのなら…とオレの指示に従った。今思うと、彼女にこそあの特殊な矢を使えば良かったのかもしれない。あの矢には意中の相手に惚れてもらう魔法がかかっていて、どんな相手でも主人に惚れさせる事が出来る。でもそれは一時的な事で、いずれは魔法が解けてしまうから、オレが帰った後、結局フラれた元主人達も沢山見てきた。この仕事を始めた5歳の頃は、そんな事気にも止めてなかった。グリス君は周りと比べて一番弓が得意だねと誉められるのが嬉しかったし、一時的でも主人達を幸せにした自分が誇らしかった。でも年齢が上がるにつれて、オレの中に疑問が湧いてきた。これ、本当に手助けになってるのか?だからオレは数年前から矢に頼らなくなった。主人が変わる度に、周りからは持ってけと言われているが、オレは自分の情報収集力を信じて武器にした。結果、時間はかかるけどオレが帰った後の破局率は下がった。矢を使った方が早いし効率良いのに…という周りの声は無視した。
    アリスは少しずつスリムになっていった。オレは毎日学校が終わった後にアリスを走りに行かせ、その後に必ず腹筋もさせた。時々オレも人間サイズになって同じ事をやり、彼女を励ました。もっともオレは運動音痴なので、すぐにへばってしまったが。ニキビの方も徐々に改善していった。アリスがニキビを潰したり触ったりする度オレは叱ったし、色々な洗顔料や化粧水を試したりした。
    「グリス君、有難う。君が来なかったら私は自分を変えようとは思わなかったわ。きっとずっとデブスで終わってた。今は少しでも痩せると嬉しいし、ニキビも減ってきたから自分に自信が出てきたわ」
    そう言って笑みを浮かべたアリスの顔を、今も忘れられない。
    アリスとの付き合いが長くなってく度に、オレは彼女の長所にも気付いていった。成績は良いし、歌は上手いし、お菓子を作らせたら王国一じゃね?と思った。私は将来パティシエになりたいのと言っていたアリスは、月に何度もお菓子を作って近所に配っていて、成績も良いから時々近所の子供達に勉強を教えていた。近所の人達は、みんなアリスが大好きだった。下界に来る前、こいつの容姿だけでこの恋はダメだなと思った自分を恥じた。容姿はちょっとアレでも、他に長所は沢山あるじゃないか。子供達と路地で楽しく歌っているアリスを見て、こいつの恋は絶対に叶えてやりたいと思った。
    そんなある日、突然アリスの恋が叶った。相手の男から告白されたのだ。
    放課後、帰宅しようとしたらラブレターを渡されたらしい。
    「グリス君、有難う。君のおかげで恋が叶ったよ。でも、君とはお別れだね。痩せて綺麗になったから付き合いたいって…嬉しい」
    「それはアリスが頑張った結果だろ。良かったな」
    そう言いながら、オレは違和感を感じていた。恋が叶ったなら、オレに帰還命令が出る筈なのだ。何故それがない?
    「ううん、やっぱり君のおかげだよ。君が背中を押してくれたから少しだけ女としての自信を持つ事が出来たんだよ。これ、フィナンシェ焼いたから持って行って」
    「ああ、有難う。パティシエになる夢も諦めるなよ。じゃあな、アリス」
    こうして別れたオレ達であったが、それが意中の相手の悪意であった事に、手遅れになってから気付くのだった。
    天界に戻ったオレは、上層部から何故帰還した?と聞かれ、すぐに下界に戻された。アリスのところには戻れないので、何日も遠巻きで彼女を見守っていたが、おかしい箇所は何もない。オレと別れた後もダイエット等は続けていて、アリスは更に痩せて綺麗になっていった。ニキビは消え、化粧も覚えて、もうデブスではなくなっている。意中の相手とも上手くいっている様だ。席が隣同士の2人は授業中こっそり手を繋いだり会話をしたり、お昼も一緒に食べたり、月に何度もデートをしたり…なのに、何故帰還命令が出ない?明らかにオレはもういらないだろ。
    モンモンとした気持ちのまま数ヶ月がたち、ある日、意中の相手の方を見ていると、明らかに疲れていた。机に突っ伏して顔色が悪いそいつに、友達らしき奴が話し掛けている。
    「お前、もう限界だって。もうあいつなんかからかうなよ」
    「そうだな。もう何ヵ月も騙してるんだ。俺も疲れたしもう良いだろう」
    「しかしまあ、まだ魔道書もないのに凄い魔法だな。呟いた嘘を相手に見せる幻影魔法なんてさ」
    「どこまで効果を出せるか試したら、数ヶ月もったわ。アリスが好きだから交際すると呟いてみたら、あいつ、俺と交際してる幻をずっと見てるみたいなんだよね。ついでに最近見掛けないけど、近くを飛んでた妖精?っぽいのにもかかったっぽい。もう魔法解くわ。痩せたとはいえ、誰があんな元アマガエル女と付き合いたいんだよ」
    オレはカッとなり、奴を殴ろうと人間サイズになり、空いていた窓から教室に浸入したら、教室の戸口に立っていたアリスと目が合った。気まずい。アリスはオレを無視して、意中の彼に声をかける。
    「次、別の教室なのに来ないから…ねえヴィシャス君、私に酷い事をして楽しかった?」
    奴は暫く俯いていたが、やがて顔を上げ「ああ、楽しかったよ。むしろ感謝してほしいぜ。貴族のこの俺と幻でも付き合えたんだからな」と答えた。
    オレは奴に平手打ちをし、泣きながら駆けていくアリスを追った。学校から逃げ出し、街中を駆け巡った。いつの間にか天候は荒れていて、雨も風も酷い事になっていた。
    「アリス…待ってくれ…オレは運動音痴なんだぞ」
    何とか追い付いたオレは、ゼーゼー息を整えてアリスに話し掛けた。彼女の背後には、大雨と強風で荒れている川があった。
    「ごめんなさいグリス君。私の事を止めに来てくれたのは嬉しい。でも、私、もう生きていたくないの。幻だと気付かずに、恋が叶ったとはしゃいでた自分が恥ずかしいよ。まさか好きな人本人にからかわれていたなんて…ごめんなさい、さようなら」
    そう言ってアリスは、背後の川に飛び込んだ。勿論助けようと手を伸ばしたが、掴み損ねた細い手は、オレの手をすり抜けて濁流した川へと沈んでいった。それでもオレは諦めたくなかった。意を決してオレも川へと飛び込んだ。だが、オレはそもそも泳げなかった。溺れながらアリスの名前を叫んだ。あいつは死んじゃダメだ!恋は叶わなかったけど、ご近所みんなに好かれていて、パティシエという目標もあったのに…。
    『グリス、帰還せよ。アリス・ドルチェは逝去した。恋愛続行不可能だ』
    「うるせえ!アリスは死んでない!てゆかオレ、今帰還出来ねえよ!」
    帰還命令に突っ込みを入れながら、オレは少しずつ沈んでいった。
    目を覚ましたら、オレは天界に戻されていた。回復魔法が使えるオレの彼女が助けてくれたらしい。
    「全くもう、運動神経死んでるくせに無茶するから…。グーたん助けるの大変だったのよ」
    「…ごめん、クラルス。アリスは?」
    「残念だけど、ご逝去したわ。彼女、川に飛び込んだ翌日に下流から遺体が見付かったんだけど、とても酷い姿になっていて…葬儀はみんな泣いていたんだけど、ヴィシャスだけはこっそりほくそ笑んでたのを私は見たわ。イケメンだけど、性格は最悪な奴だったのよ。あの子、可哀想に」
    オレはゆっくり起き上がり、もう一発殴ってくると呟いた。
    「止めなさいよ、グーたん。あなた1週間も目を覚まさなかったのよ。まだ休んでなさいよ。それに、殴ってもあの子は戻って来ない。受け入れなさい」
    クラルスの言葉に、ボロボロ涙が溢れてきた。オレだけじゃなく、アリスも助けて欲しかった。そう呟くと、それは無理よとクラルス。アリスは流された直前に岩に勢いよくぶつかっていたらしく、その時点で即死だったらしい。オレは幸せを願った主人をこんな形で失った事にショックを受け、引きこもりになった。
    そうこうしているうちに、クラルスに別れを告げられた。いつまでも落ち込んでるオレに嫌気が差したと言っていた。もしまだ私の事が忘れられないなら、もう一度私の事を振り向かせてよ?さようなら。そう言って彼女はオレから離れていき、オレは失恋のショックでも泣いた。

    「アリスは好きな奴にからかわれたショックで死んだんだ…。もし、オレが矢を使って恋を叶えてやっていたら、その後フラれたとしても怒りの矛式はオレに向かう筈だから、自殺なんてしなかったかもしれない」
    「グリス君…それでも僕は君は悪くないと思う。君はただ恋の手助けをしただけ。相手が性悪だったから、上手く恋が実らなかっただけだよ。そんな君は今、ルウの為に頑張ってくれてるんでしょ?有難うね」
    僕はそう言って彼に笑いかけた。
    「そうでもないぞ。ナナはオレに何もさせてくれないし。オレ、本当は上層部にもう2度と自己流の手助けするな。お前のせいで前主人は死んだんだ。矢で解決しろと言われてるけど、納得いかないから変わらずに自己流貫いてるし。まあ、上層部の命令で初対面の時に一発だけ打ったけどな。見守ってほしいが現主人の願いなら、オレはそうするだけだ。それより、お前の事をちゃんとナナに話せよ。何も言わないで逝くのは、父親として最低だぞ。せめて本名だけでも教えてやれよ」
    「今更?ルウは18年もずっとナナで過ごしているのに?」
    ルウという名前は、娘がまだシュナのお腹の中に居た時に僕が名付けた名前だ。水の様に他人の心を潤わせ、誰からも必要な存在とされる人になってほしい。そんな願いを込めていた。シュナと一緒に子育てしたかった。けれど、僕が悪い人間をカッとなった勢いで食い殺してしまったせいで、シュナから怯えられ拒絶され、傷ついた僕は彼女を数日間放っておいてしまった。絶対に離れるべきではなかったのに…。そのせいでたった1人で出産させ、そして逝かせてしまった。
    一緒に居れば僕にも出来る事はあったかもしれないのに。シュナが最期に辿り着いた村は村人がほぼ良い人だったし、産気付く前に周囲に助けを求めていれば、結果は違っていたかもしれないのに。
    シュナは、僕が心から愛した人間だった。初めて出会った時、可愛い人間が山に来たと思い、僕は彼女に笑いかけた。彼女は全裸の僕に慌てていたけど、当時の僕は彼女が何故慌てているのか分からなかった。少しずつ彼女から人間社会の事や言葉を教えてもらい、最初は全く分からなかった人語を僕は完璧に覚えた。彼女の事が好きだったから、彼女が来なくなった時期も自主的に勉強をしていた。そして久しぶりに会った時、片言の人語ではない僕の喋り方に彼女は驚いていた。シュナ、僕はね、今でも君を愛してるんだ。可愛くて努力家でたくましくて、そんな君だから僕は集落の掟を破ってプロポーズし、一線も越えたんだ。僕達は世間的には夫婦ではない。でも君は僕の自慢の妻だよ。そんな君の忘れ形見は、ほぼ君に似てるよ。可愛くて努力家でたくましい。でも結構泣き虫で、髪質だけ僕に似ちゃったらしく、硬い髪で毛先ボサボサな女の子になっちゃった。
    そんな可愛い娘を、ほぼ人間だからと施設に預けて、君に似てきたからと段々と距離を置くようになった僕に、今更何が言える?
    「グリス君、君だったらどう思う?今更になって本名を告げられ、父親が殺人してて、更にその父親はもう長くはない。泣くでしよ、そんなの」
    「泣くだろうし軽蔑されるな。でも、それでも伝えるべきだ。だって、お前の娘は今、無意味な仕事をしてるから」
    グリス君が言うにはルウは、昔僕が食べてしまった人間を探しているらしい。その子達の母親が、今になって息子を探してほしいと、魔法騎士団に依頼をしてきて、それをルウが引き受けたらしい。
    「お前が食ったあいつらの母親ももう歳だから、自分らが死ぬ前に行方不明になった息子にもう一度会いたいんだと。悪さばっかりしてきた息子でも、母親から見たら大事な子なんだとよ」
    「ええ…もうとっくに僕の血肉になっちゃってるよ。どうしよう」
    うろたえる僕にグリス君は頭を抱えた。
    「だから、全部話せってば。お前は娘にずっと無意味な仕事をさせるつもりか?お前が抱えてる秘密の方が、ナナには大事な事だ。オレの秘密なんて、わざわざナナに言う必要は無い事だしな」
    明日、ナナをここに連れて来る。心の準備しとけよ!と言い残し、グリス君は帰っていった。
    ええ…明日?僕はどうしようと頭を抱えた。

    ナナ、ごめんな。でもこれが受け止めなきゃいけない現実なんだ。探してる相手はもう…。
    「色々とショック過ぎて、涙が止まらないんだけど…パパ、嘘でしょ?数年ぶりの親子の再会なのに、何でそんな話されなきゃいけないの?」
    「ルウ、ずっと逃げててごめんね。パパは殺人をしてしまったんだ。シュナとルウを守らなきゃと思って」
    「本名すら教えてくれなかったのは何で?私は今更改名なんてする気は無いよ」
    「それは伝え損ねただけだよ。今更変えなくて良いよ。僕が勝手にそう呼ぶだけだから」
    「やっと私と向き合ってくれたと思ったのに、そんな話を聞いて、どうして良いのか分からないよ…。魔法騎士失格だけど、私はパパを投獄なんてしたくない…。しかももう長くないって何?そんなに体調悪いの?治せる病気なら治してよ…生きてよ、私の家族はもう、パパだけなのに」
    父親の胸に顔を埋めてボロボロ泣くナナの姿は、痛ましかった。泣くだろうとは思ってたけど、やっぱり見てるこっちも辛い。
    ナナはひとしきり泣いた後、オレの方を振り向いて、どうするか決めたわと呟いた。

    辛い選択をさせてしまったと僕は思う。
    娘は、依頼者に一部嘘をついたらしい。
    息子さん達は魔獣に食べられてしまったみたいです。調べたところ、その魔獣は既にもう死んでいます。娘はそう嘘をついて、依頼を完了させたらしい。
    「…パパが食べてしまった息子とその母親はね、調べてみたらもう本当にどうしょうもない人達だったみたい。息子達はスリや盗撮など、殺人以外の悪事を日々行ってきた無職コンビで、それでも母親達は息子可愛さに我が儘放題させてたみたい。でも、私はそれでもパパを守る為に嘘をついた事に若干心が痛むよ。あんな息子でもお腹を痛めて40数年産み育てたのにこんな最期なんて…と、お婆さんに泣かれたらね…」
    娘はそう言って、干し芋に噛りついた。
    数日前、僕の告白にショックを受けて泣きわめいていた娘は、仕事を終えて干し芋を手土産に再び僕に会いに来てくれたのだ。干し芋を挟んで向かい合った娘に、僕は謝罪する。
    「ごめんね、ルウ。僕のせいで…」
    「でも、パパが守ってくれたおかげで私は無事に生まれる事が出来た。ママは私のせいで死んじゃったけど…。殺人と聞いてショックで泣いちゃったけど、これで良かったのかもしれないね。有難う、パパ」
    僕は首を振った。シュナが死んだのは1人にさせた僕のせい。絶対にルウのせいではない。
    「ルウ、僕が死ぬ前に渡しておきたい物があるんだ」
    僕はそう言って席を立ち、洞穴の奥に向かい古いリュックサックを持ってきてルウに手渡した。
    「シュナが最期に持っていた荷物だよ。人間はそういうのを遺品って言って、残された家族が大事にするんでしょ?僕は間もなく死んで居なくなる。だから、今後はルウが持ってて」
    そう言うと娘はポロポロと泣き出した。
    「ごめん、パパが実は高齢で患ってる事は知ってるんだけど、やっぱり辛いよ…。やっとまともに話せる様になったのに…私が知らないママの話も沢山聞きたいのに…病気だけでも何とかならないの?」
    「魔獣を診てくれる回復魔道士なんて居ないよ。それに、僕達は抗わずに病気も受け入れて死に向かっていく。そういう習性があるんだ」
    娘はリュックサックを地面に置いて、僕に抱き付いた。
    「一見ピンピンしてるのに…本当に患ってるの?」
    「実はかなり辛いよ。ダルイよ、全身。特に魔法使ってると…でも、ルウに本当の姿は見せたくない。怖がるかもしれないし」
    「…良いよ。そっちが楽なら魔獣に戻りなよ。私は受け入れるよ」
    そう言われたので僕は魔法を解除し、魔獣の姿になると、娘は格好良いよ!怖くないよ!と少し笑ってくれた。でも今再び魔法使うと全裸?と聞かれたので、僕が頷くと、娘は少し照れてそっぽを向いた。
    「シュナによく怒られてたよ。どれだけ服をダメにしたら気が済むの?ってね。そんなシュナの元に、僕ももうすぐ行ける…」
    僕がそう呟くと、逝かせないわ!と娘ではない女の子の声がして、声がした方向を向くと、天使と目が合った。
    『回復魔法、天使の微笑み!』
    その天使に微笑まれた瞬間、僕の身体全体からダルさが消えた。
    「…グリス、その子誰?」
    僕が口を開く前に、娘が息切れを起こしているグリス君に問うと、女の子が代わりに答えた。
    「私はクラルス、グーたん…グリスの元カノよ。グーたんがどうしても現主人の父親を助けてくれと頭を下げるから、助けに来てあげたの。あなた、どう?完治させたからもうダルさとかは無いと思うけど」
    「有難うございます。もう大丈夫です」
    僕が彼女に頭を下げると、娘も続けてお礼を言った。
    「クラルスさん、有難うございます。そんでグリス、今日全然姿が見えないと思ったら天界に帰ってたの?」
    「ナナの父親を助けるには、もう元カノに頼るしか無いと思ってな。昔、死にかけた俺を助けてくれたクラルスなら、病気くらい楽々治せると思ったんだ」
    「あの時はグーたんを失うかと思って泣いたよ。まあ、後に私からフル事になるんだけど」
    「あんたら昔、一体何があったのさ」
    「ナナは聞いたら絶対泣くから教えない」
    娘達の会話を聞きながら、僕は干し芋を噛った。病気になってから味覚が落ちて、少し味気なく食べていた好物が美味しい!嬉しい!
    「あ、そうそう。私がした事はあくまで病気の治療だけ。老化はどうにもならないから、親子で一緒にいられる時間は多く見積もってあと10年くらいだと思うわ。それは頭に入れておいてね」
    干し芋を貪る僕に彼女はそう言い、じゃあ私、グーたんと少し話してから帰るわと、ヒラヒラと僕と娘に手を振った。

    「有難うな、クラルス。おかげでナナに父親との時間を作ってやる事が出来た」
    洞穴から少し離れた場所で、オレ達は岩に座って話をしていた。
    「次はないからね、グーたん。私だって忙しいんだから。それにしてもあの魔獣、今日私が来て良かったかもしれない。あのままだと数日後にはご逝去してたかもしれないわ」
    「そんなに悪かったのか…」
    「うん、私は相手を見ただけで健康状態が分かるんだけど、内部はもうボロボロだったわ」
    クラルスの言葉にオレは絶句した。
    あと少し遅かったら、ナナは父親との関係を修復出来ないままお別れしてたかもしれないのか。
    「ねえ、グーたん。グーたんはまだこんな自己流な手助けを続けるつもり?」
    唐突なクラルスの質問にそうだけど?と答えると、彼女はため息をついた。
    「グーたんのやり方に上層部がカンカンなのよ。魔法の矢も使わず、ただ見守るだけなんて仕事してないのと一緒だって。このままじゃグーたん、あの子の担当外されちゃうわよ」
    「ナナは見守ってほしいと言ったんだ。それに下手に手助けしようとすると、意中の相手に怪我させる事になるぜ。オレと初対面の時、違和感を感じて相手を突き飛ばして正気に戻してたのを上層部だって見ていた筈だ。あいつは自分の恋愛に他人の手が入るのを嫌うタイプなんだよ」
    「でも、それじゃあの子に勝ち目は無いわよ。恋敵にも甘い顔してる時点で負けヒロインじゃない」
    「それはオレもそう思うわ。だがな、仮にフラれる事になってもナナは後悔しないと思うんだわ。絶対泣くだろうけど、恋してた期間を悔いる事は無い。どんな結果になってもな。上層部に言っておいてくれ、オレを担当から外しても良いが、ナナの場合誰が担当になっても意味はねーぞと」
    「…まあ、あの子ならそうかもね。でも約束して。もう2度とアリスちゃんの時みたいな無茶はしないで…」
    そう言うとクラルスはオレにすがって泣き出した。
    「あの時グーたんも死体かと思うくらい、かなりの大怪我を負ってたのよ…でもまだ何とか心音はあったから、私の魔力を全部注いで治療したの。なのに全然目を覚まさないし、このままお別れになっちゃうのかと…私はもう、あんな思いをしたくない…」
    「そうだったのか…ごめんな」
    オレはクラルスを抱き締めた。
    「泣いてる女の子には胸を貸さないとな」
    「格好良い事言ってるけど、元カノを抱き締める口実でしょ?でも今だけ貸して。思い出し泣きが止まらないの」
    オレの胸でボロボロ泣いてるクラルスに、やり直せないか?と問いかけると、上層部の命令無視して説得もせずに好き勝手やってる彼氏なんて嫌だ!と彼女。
    「じゃあ、上の人間にオレの事を認めさせたらもう一度…」
    「考えとくわ」
    クラルスはそう言うと、フフッと微笑み、オレの頬にキスをした。
    くーま🐻 Link Message Mute
    2022/12/11 20:12:54

    男2人の秘密の話

    ブラクロオリキャラ、グリス&グー編です。
    グリス君が主軸の話になってしまいました。
    #ブラクロオリキャラ

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品