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    秘密の会合非番の昼下がり。
    人気の少ない縁側でどこから入って来たか妙に毛並みの良い野良猫と共に日光浴に興じる大倶利伽羅の姿があった。
    喧騒の耐えない本丸でこのひと時の静寂はとても貴重であり、彼の膝の上で欠伸をかきながら良いように撫でられて微睡んでいる猫を見ると思わず口元が緩んだ。
    このまま誰にも邪魔されることなく時間が過ぎれば良いと思った矢先、目の前の茂みがガサガサと揺れ始めた。思わずびくりと肩が跳ねたが可能性は至極低いものの敵襲の可能性を見込み大倶利伽羅は膝の上の猫を優しく抱き上げ横に置くと息を潜めながらゆっくりとその茂みに近付く。
    本体は部屋にあるが最悪拳でどうにかする算段だった。
    ガサガサと揺れ動く茂みの目の前に立ち真ん中を分けるようにして両手で拓く。


    「……何をやっている」
    「うわ、びっくりした。なんだ伽羅ちゃんか脅かさないでよ」
    「伽羅ちゃんと呼ぶな」
    「倶利ちゃん?」
    「やめろ」


    茂みに潜んでいたのはこの本丸の大将・審神者その人だ。しかしこんな所で出会う事など今まで無かったのだが何か理由でもあるのかと表情一つ変えずに大倶利伽羅は考える。そもそも昼餉の後からずっと縁側にいたのに気配もなく何故こんな所から現れたのか。
    審神者と言えど元は人間なので特殊な訓練など受けてない限り戦士である刀剣男士に気配すら気付かれず動くことなど出来ないはずなのだが。顕現してしばらく経つがここの審神者がそう言った特殊な訓練を受けた云々の話は全く聞かないどころかごくごく普通で一般的な家庭の出である事、なんなら運動神経は平均以下で運動嫌いのインドア派である事は最早誰もが知る事実だ。


    「なんだ、それは」


    審神者の足元にあったのは密封ボトルに入った醤油、チューブ式のバター、塩胡椒が入った籠。調味料オンリーのラインナップにますます頭の中が疑問符だらけになる大倶利伽羅に、審神者は表情一つ変えずに声色だけ変えて彼を見た。


    「……見たな」


    じっと見つめてくる審神者に大倶利伽羅は一歩退いた。
    がすかさず彼の腕を掴むと審神者は籠を持って立ち上がり、そのままどこかへ歩き始めた。


    「これを見ちゃったんじゃあ野放しには出来ないな」
    「おい、離せ。どこへいくつもりだ」
    「あそこならこの時間帯人居ないと思ったんだけどなー伽羅ちゃん居るのは誤算だったなー」
    「何を企んでいるのか知らないが俺を巻き込むな」
    「まぁまぁそう言いなさんなって。あの通路見られた以上は口止めしなきゃいけない決まりだから。あ、他の子には勿論他言無用でね」
    「おい…!」


    嫌なら本気で手を振りほどく事も出来るのだがやけに機嫌良く話す審神者を無下に出来ず、企みも悪い方向のものでは無いと確信しているもののそれが何かを確かめておいた方が良いのではないかと正義感と面倒事に巻き込まれたくないと本音とが葛藤して振りほどけずにいた。
    あれよあれよと連れてこられたのは審神者の私室がある離れ。
    建物の裏からなにやら薄いが煙があがっている。
    ボヤかと想定してもその割に目の前の部屋の主は特に慌てる事もなく反応すらしていない。


    「お待たせー。あと一名追加ね」
    「おかえり!って大倶利伽羅?」
    「主ー!水分出てるから早く醤油!」
    「バターは」
    「抜かりなく。はい醤油。あ、伽羅ちゃんは獅子王の方使って」


    部屋の裏手に回るとそこには二台の七輪を囲む様にして何かを焼いている獅子王、御手杵、山姥切国広の姿が。
    貰った醤油をすかさず網の上で焼いている何か、椎茸にかける御手杵と先にバターを乗せて溶かす山姥切。獅子王の方の網には新しい生椎茸が乗せられており大倶利伽羅に紙皿と割り箸が手渡された。


    「なんだこれは…」
    「寄せ飯の会」
    「なんだそれは…」
    「なんだ主、話してこなかったのか?」
    「茂み通路で見つかって話す前に着いちゃったから」
    「そもそもなんだ通路って」
    「え?足元の扉見てたわけじゃないの?」
    「何の話だ。突然茂みから出てきて調味料入った籠を持っていれば見るだろう」
    「主の早とちりだったわけか」
    「マジか。まぁ一人増えたところで問題ないしいいよ」


    そう言いながら焼き上がったばかりの椎茸に七味とマヨネーズを付けて頬張る審神者。獅子王も自分の分を美味そうに頬張る。


    「農業指導してくれた農家さんいるだろ?たまにあの人やそのご近所さんから頂き物をするんだ」
    「大抵は厨へ行くが…たまに全員に行き渡らない少量のお裾分けが来る」
    「それを最初は御手杵と俺とがこっそり食っちまおう!って人気の少ない所で食おうとしたら山姥切に見つかっちまってさ。そしたらその内主にもバレて」
    「敷地内とは言え勝手に山で火を使おうとしたから私の目の届く範囲でやるなら黙認するよって言うのがそもそもの始まり。気付いたら会合になってたんだけど」


    咀嚼しながら御手杵、山姥切、獅子王、審神者と続き謎の会合について説明を受ける。光忠が時折、使おうと思ってた調味料が一時だけ見当たらない時があると歌仙と堀川に相談していた事をたまたま居合わせ聞いていた大倶利伽羅は一人納得する。
    その犯人は目の前の食いしん坊達であると。


    「通路は」
    「言ってなかった?この本丸隠し通路がいくつかあるんだよ。あの茂みの所もその出口の一つ。最初は短刀と脇差までの大きさだったんだけど気付いたら太刀くらいまでならすんなりいけるようになってたから驚き。流石に槍や蛍丸以外の大太刀は無理だけど」
    「初耳だ」
    「まぁ中の経路も時々変わってる感じだから正確な道順がどうなってるかは定かじゃないんだけど。出口は確実に決まってる場所だから後で地図渡すね」
    「俺たちでも未だに迷うよなぁ」
    「だが出口さえ見つければなんとかなる」


    突然背後から鶴丸国永が出て来たり行き止まりの廊下から太鼓鐘貞宗が出て来る理由がこんな所で判明するとは思ってもみなかった。よくちょっかいを出してくるこの二振りはやたら神出鬼没だと思っていたがそんなカラクリがあった事を知れたのは大倶利伽羅にとって僥倖だった。後で地図を確認し対策を立てようと強く心に誓う。


    「今日は生椎茸。食卓に出すには心許ない数だし天気良いし折角なら炭火焼きで食べようって話になってね。調味料足りなくなって私が厨に行ってた所を伽羅ちゃんに見つかったわけだ」
    「ほい!大倶利伽羅の分!」
    「おにぎりも焼いていいか」
    「えーいいなー米ー」
    「昼餉の余りを歌仙から貰った」
    「歌仙はなんだかんだまんばには甘いね」
    「安心しろ。小さめに握ってもらったのがいくつかある」
    「よっしゃ!おにぎりは俺ん所で焼こうぜ!」


    早速焼きおにぎり作りに着手する三振りを見ながら大倶利伽羅は皿の上の焼き椎茸を見つめる。


    「お腹すいてなかった?」
    「いや…」
    「椎茸ダメとか?」
    「そうじゃない」


    醤油のボトルを掴み数的垂らした後、丸ごと頬張る。一口噛むと肉厚な食感と共に椎茸の旨味が一気に口の中に溢れる。生醤油のサラリとした旨みがより椎茸の素材そのものの味を引き立てている。厨組の食事も美味いがそれとはまた違う美味さがある。


    「…美味い」


    ボソリと呟くと審神者が嬉しそうに笑った。


    「でしょう!」
    「アンタがドヤる事じゃない」
    「クールだねー相変わらず。椎茸もうちょっとあるから食べてって。バター醤油でいい?」


    聞いておきながら既に網の上の椎茸にはバターが乗っており程よく溶けだしている。炭火により際立つ椎茸の芳ばしい匂いに相まって食欲を掻き立てられる濃厚なバターの匂いが大倶利伽羅の胃袋を刺激した。


    「…チーズ」
    「え?」
    「醤油を垂らした後、チーズを乗せても美味いんじゃないか」


    出来たてのバター醤油椎茸を受け取りながら提案する大倶利伽羅に審神者は驚いた。慣れ合うつもりはないと断言している彼の事だから告げ口はしなくとももう来ないかもしれないと考えていたので彼から提案が来るとは思ってもみなかったのだ。そしてそれを聞き逃さなかった三振りが彼の背後に立っている。


    「それいいな!」
    「パセリのみじん切り乗っけると色味も良さそうだな」
    「取ってくるか、チーズを…!」
    「歌仙に見つかったらまずいんじゃないか?」
    「って、もういないし。まんばの食に対する機動力の速さ何?」
    「飯が美味い、美味く食おうってのは悪い事じゃないしな!」


    焼きおにぎりにも使えるじゃないかと話が膨らんでいるのを見ながら大倶利伽羅は気が向いたら顔を出してやらん事もないと思い椎茸を口に運んだ。
    その横顔が心做しか綻んでいたのを審神者だけが見ていたがそっと胸の内に閉まっておくことにした。
     
    れぐ Link Message Mute
    2023/01/09 1:31:47

    秘密の会合

    #刀剣乱舞
    大倶利伽羅があるものを見付けてしまい巻き込まれる話

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