イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    安寧を飲み込む 薄暗い部屋にいた。カビと垢で汚れた畳の上にぶちまけられた弁当を呆然と見下ろす俺がいて、目の前には逆光で表情がうかがい知れない女が一人立っている。……いや、女ではなくあれは母だ。伸びきって乱れた長く黒い髪、生気のない肌と骨の浮いた身体、日に日に窶れ枯れていった一人の女がそこにいる。ジャワジャワと耳障りな蝉の合唱、古くカラカラと音が鳴る換気扇、死にそうなほど茹だった夏の温度、頬を伝う汗と裏腹に腹の底が冷える感覚。何もかもを覚えている。影を背負い顔の見えぬ母がどんな表情をしているかも。その後どんな行動を取るのかも。

    ぬちゃり ぐちゃり

     その身体のどこに力があるのか、細く筋張った華奢な脚が何度も何度も残骸を踏みつける。母の口から憎悪と悲観が混ざった叫び声と怒号が吐き出され、心臓が刺されたように痛んで竦みあがる。ああそうだ、これは恐怖だ。縋るしかない対象から向けられる憎悪と侮蔑のあの視線、あの時母を喜ばせたい一心での行動は結果的に母の心を折るきっかけには十分すぎた。

     やめればいい、逃げればいい。その女にとって己はただの呪いでしかないのだから、母を真に思うならばあの日すぐにでも出ていくべきだった。今の自分にはそれがわかる、だから腰を浮かせて立ち上がろうとしたが体は全くいう事を聞いてくれない。やめろと叫んでも幼かったあの頃に届くわけがなかった。身に刻まれた飢餓感はあの日と同じように俺の腕を動かしていき、最早ゴミのように潰れたそれを奪うように口の中に詰め込む。埃と砂の混じった、ぬちゃぬちゃとした何か。覚えている、忘れるわけがない最悪な食事。もう他人事のように見つめることしかできない。

     伸ばされた小さな手、掴んだ残飯、それら全てを断罪するように女の足が振り下ろされた。

      
     ボキリ

    「ッ!!」

     がばり、と身を起こす。薄暗い室内、柔らかなマットの上で荒い息を吐きながら呆然と虚空を見た。心臓が早鐘をうち、頬を冷や汗が伝う。夏だ、窓の外からは身近な死を吐き散らすように叫ぶ蝉の声が聞こえる。それが先ほど刻まれた傷に重なり、頭の中に引き裂かんばかりの悲鳴が木霊した。それが今の己が現実にいるのか虚ろにいるのかを余計に曖昧にさせる。

     ぐぅ

     不意に小さい腹の虫の音がなる。己から響いたそれに宗家は目をはっと見開いた

    「くわねぇと」

     酷く掠れた呟きは、蝉の声にかき消される。そのまま転がり落ちるようにベッドから出るともつれる脚を無理やり動かし、寝室を飛び出した。焦燥感が宗家の背を押し、汗ばんだ素足が不規則なリズムでフローリングをたたく。扉を開け、倒れるようにキッチンへ辿り着くと勢いよく冷蔵庫をあけた。目の前の掴んだソレがなにかわからない、けれど、そんなことなどどうでもよかった。手を伸ばした先で触れた物を掴んで引寄せる。邪魔な薄いビニールを爪で引き裂いて剥がし、震える手で中身掴んだ。食わねぇと、くわないと、死ぬ。強迫観念からくる衝動のまま、手に持ったそれを口へ運ぼうとして、

    「宗家」

     ふと、隣から低く穏やかな声が聞こえた。それと同時に口元へやっていた手へ、やんわりと包む様に暖かな掌が乗せられる。のろのろと隣を見れば柔く笑顔を浮かべた相馬が立っていて、

    「腹減ったんか」

     そう尋ねて凪いだ様な赤い瞳が焦点の定まらない緑を覗き込んだ。相馬が掴んだ手は震えていて、伺う表情はなにかに怯えるような恐怖を張り付けている。顔色は悪く、呼吸もどこか不規則でいつもより一段と手は冷え切っていた。じわじわと重なる手から温もりが移り、赤い瞳に吸い寄せられるように緑の震えが収まっていく。暫くすれば宗家の首がゆっくりと縦に振られた。

    「ん、じゃあ飯作るからそれくれ」

     相馬が左手を差し出せば、宗家はおずおずと手に掴んだものを置く。生暖かい豚のバラ肉が相馬の手に置かれたのを確認して空いた右手で宗家の頭を撫でた。普段からどこかあどけなさを覗かせる事はあるが、今の彼は何かに怯える子供のような表情をしている。それを少しでも元気づけたくてわしゃわしゃと少し硬い髪を撫でた。

    「ちょっとまっててな」



     とりあえず受け取ったバラ肉とトレイに残ったものを食べやすい大きさに切り、冷蔵庫からたまねぎと茄子を取り出し皮をむいて適当な大きさに切る。とりあえず宗家の腹を満たしてやらない事には落ち着かないだろうから、手早く味を付けて炒めてやろう。さっと油を引いて肉を入れ火が通った時点で玉ねぎと茄子を投入し、ポン酢と砂糖で適当に味をつければいい感じに仕上がってきた。ご飯は冷凍していたものがあったので、片手間で温める。朝食にしてはだいぶボリュームがあるが宗家ならば問題なく完食するだろう。

    「おまたせ」

     タレの絡んだ肉を白ご飯に乗せてやり、宗家の前に出す。ずっと俯き気味だったがつられるように宗家の顏が上がり、手が伸びた。柚子の爽やかさと甘辛い香りに誘われるように箸が白米と肉を掬い上げ、堰を切ったように掻きこみ始める。随分いい食いっぷりだなァ、とこうでなければもっと穏やかに見守れたが。ほんの少し置いておいた自分の分に箸をのばし、一口食べる。さっぱりと食べやすい味付けなお陰で寝起きでも胸焼けはしなさそうだ。うん、美味い。ポン酢はめんつゆに並ぶ一人暮らしの救世主だろう。

    「……うめぇ」
    「そりゃよかった」

     ようやく宗家がぽつりと呟く。顔色はだいぶ戻っていたが、それでも表情が暗いのは自責の念に駆られているせいだろう。全く、ヤクザならばもうすこし手を抜いて生きてもいいだろうに。だが何事にも真剣に考えて接する人間だからこそ、俺はその人柄に惚れたのだが。相馬は緩く目を細め、しかめっ面を浮かべながらなお口を動かす宗家を見つめている。

     宗家は度々こうして飛び起きることがある。その後は大抵冷蔵庫の余り物の総菜を食べて落ち着くようだが、恐らく少し前に巻き込まれた事件で負った心の傷が癒えていないのか酷く取り乱してしまったようだ。休めと言ったがタイミング悪く若衆からの悲鳴交じりの電話が掛かってきて結局引き留められなかったのだが、こうなるのなら無理にでも引き留めるべきだったろうか。

    「悪い」
    「気にすんな」

     あっという間に空っぽになった茶碗を見下ろし、宗家が消え入りそうな声で謝罪を口にした。相馬は少し笑ってそれを受け取ると席を立って座る宗家をぎゅっと抱き寄せる。自分の胸の位置に丁度宗家の頭が来るように、心音は精神を落ち着ける作用があると少し前のテレビ番組でやっていたはずだ。とん、とん、と一定のリズムで背を優しく叩けば宗家の両腕が相馬の腰にぎゅっと回される。まるで子供をあやす様な触れ合いだが、今彼にはこれが必要なのだろう。

    「……もう、大丈夫」

     そっと宗家が埋めていた顔を上げる。瞳からは僅かばかり残っていた不安が消え、いつもの宗家らしい意志の強い瞳に戻っていた。

    「ほんまか?」
    「おう」

     いつも強がるから。よくよく確認してみたがどうやら本当に落ち着いたようだ。そっと身体を離すと宗家は申し訳なさそうな表情を浮かべて重々しくため息を吐く。

    「マジで、キツかった」
    「あんま酷かったら病院行った方が良いんじゃないか?」
    「わかってるけどよ……」

     残念ながら精神的な問題の解決方法など素人では皆目見当もつかない。そんな相馬の心配を知ってか知らずか宗家はガシガシと頭を掻いたあと、ぼそりと呟いた。

    「お前といるのが一番落ち着く」
    「……そーか。……うん」

     ああ全く、こんなことで喜ぶべきではないとわかっているのに。真剣に取り組むべき問題だが、こんなことを言われて喜ばない恋人がいるだろうか?相馬は思わず口元を隠そうとしたがふと思いなおし、宗家の頬に軽いキスをして笑って見せた。

    「俺もそうだわ」

    どんな薬も治療も、隣にお前が居なけりゃ意味はないのだから。
    Link Message Mute
    2023/09/10 21:47:31

    安寧を飲み込む

    やや発狂表現あり。おかしいな、ご飯たべてるとこ書きたかっただけなのになんでこんな……
    雰囲気で読んでくださいませ。

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    OK
    • エキナセアを束ねて医者と医者

      芝さん卓のクラリスさんをお借りしています
    • 小話:雨宿りの中で※かいぶつたちとマホラカルト未通過❌
      pass 通過済みなら yes

      あまりキャピってないレイナを書きたかったので。イズミさんと絡むだけでただならぬアングラさが出て良いですね
    • ひとさじの夢心地個人の趣味前回の耳かき小説
    • 繋ぎ、ひとひらげんみ ×
      パスはHO4ならおおよそ思いつくだろうアレ(三文字)
    • あの頃を一杯この間見つけた、なんとも懐かしい自販機で体験した事を。
      あの時は1人だったんですけど、ああいう場所に友人と行くのは楽しそうですね。
      チープな食べ物ってマジで、独特の味わいがある。思い出込みの得難い味だよな。
    • In Drops
    • 互いの差互いのステータスからくる差っていいよね

      書きたくなった短い話を書きたいままに書いているので、まったくもって短いです。ええ
    • 音吐に溺れる脳イキいいな……という煩悩により休み時間から生み出された雑文。急に始まるし急に終わる
    • てのひらより愛をこめてド健全ド真面目マッサージ話です!!!!!

      三馬鹿のチュートリアル含めて書いたら、だいぶ端折ったはずなのに文字数が。
      最初の方が長いので相馬さんとのやりとりは2ページ目に行ってもらえばすぐ見れます。特に飛ばしても問題はないです。
    • この意はなんたるや相宗というか

      短い話。会いたくなった話。
      多分この後合鍵貰うんじゃないかな
    • 小さな幸せネタバレ増しましなのでげんみ×

      VOID自陣をお借りして勝手にオールスター気味。一真が風邪を引いた話です。
      手探りで勢いのままに書いたので口調も書き口もブレブレです。
      自陣メンバー勝手に借りてますマジですんません。

      パスワードは題材のシナリオ名
    CONNECT この作品とコネクトしている作品