グレンという青年について彼女との出会い 地方の片田舎の小さな小さな領主の次男坊に生まれたグレンは、騎士学校へ入学という事で体よく家を追い出された。歳の離れた兄と、弟と双子の妹がいる。自分と弟の母は一緒だが、兄と妹は違う。更に言うなら、兄と妹も違う。3番目の母は、グレンの実母に似ているという理由で疎んでいる。弟が父親似で、グレンほど対応が酷くないことが幸いだろう。
若干不和がある家族だが、ほそぼそと領地経営をしている。緑豊かで、天候も安定しており、特色である農業は順調だ。順調だが、若干金が足りない。義母の金使い荒いのだ。それもあって騎士学校へ入れられることになった。騎士になって稼いでこいと言う訳だ。嫌な尻拭いだ。
弟や妹の養育費が足りないかと言われたら従うしかない。家族は好きでも嫌いでもないが、弟や妹たちに罪はない。
「いってらっしゃい」
そう家の前で見送りをしてくれたのは弟だけだった。まだ小さい 弟を、この何もない田舎に残していくのは不安しかない。不器用な弟はいじめられないだろうか…。後ろ髪を引かれながら家を後にする事しかできない。
◇◇◇
数年後、無事騎士学校に入学して実地演習を行えるようになった。
今日は実家の近くでの演習だ。
『弟は元気だろうか』
手紙のやり取りはしていても顔を見ることは叶っていない。義母や兄が実家に近寄らせてくれない。どこにそんな力があるのか不思議だ。
雲一つない空を見上げて一瞬気がそれた時だった。前方で馬車が襲われている。ここは治安がいいと言われているのに。
「何をしている!行くぞ!」
教師が助けに入るといった。学生に何を…そんなことを言っている場合ではなかった。制圧にかかるためにグレンは刀を抜いて向かった。
あらかた制圧が終った。ただの山賊だったようだ。やはり治安が悪い。……父や義母、兄のせいじゃないかと疑ってしまった。首を降って馬車から聞こえるか細い声の方へ体を向ける。
「大丈夫か?」
奥で小さな女の子が震えて丸くなっていた。弟と同じぐらいの歳だろうか、そう思いながら手を差し出す。
おずおずと差し出された手は小さい。抱えて外へ出る。大丈夫だからと言いながら頭を撫でる。きゅっと服を掴む様子は不謹慎ながら可愛らしいと思ってしまった。
これがリディルとの出会い。
まさかリディルだとは思わなかった。あの時から可愛かったと言うと弟からは呆れられた。
彼女との再会「グレンさん」
グレンは執務室でくっそ面倒くさい報告書を書いてたらライドが手紙を持ってきてやってきた。受け取ると弟からだった。
「ライド。ありがとう。良い働きをしたご褒美だ」
「いや!?ご褒美じゃないですよね!?書類仕事増やさないで!!」
「はいはい。途中までやっといたから頑張れ。俺はこれを読む」
キリッと真面目くさった顔を一瞬見せて椅子を後ろ向きにしてから、手紙に目をおとす。後ろでなにか言ってるが気にしない。それより弟だ。
「えーっと…」
家は相変わらずの事。無事に学校を卒業できそうな事。そして、幼馴染の女の子がそっちに行くとの事。
「幼馴染の女の子?」
首をひねっていると、後ろから声が聞こえた。
「女の子と言えば一人新人が配属される…と言うか来ましたよ」
「は?てか、まだいたの?」
「いーまーしーたー」
コホンとドアの方から音がした。見ると、文官が立っていた。騒がしくて声をかけるタイミングがなく、咳払いをしたらしい。グレンは立ち上がりライドと二人でおとなしくする。
「新人です。あとよろしくお願いします」
一言告げると足早に立ち去っていった。文官の後ろに居たらしい女の子が姿を現した。
「初めまして!リディルです!よろしくお願いします」
元気よく言い切ると、がばりと頭を下げた。
「頭上げて。俺が隊長のグレン。で、隣が副隊長のライド。よろしくね」
「よろしく」
「はい!!!」
自己紹介も終わり…なはずなのにグレンの顔から目を離さない。そういえば、弟からの手紙で「幼馴染の女の子が来る」とか言っていたな。この子だろうか?それにしても、見たことある顔な気もする。ぱっちりとした若草色の目に長い明るい茶色の髪に可愛らしい顔立ち。
「えーっと?どこかで会ったことでもある?」
「………グレン「くん」だ…本物のグレンくんだ…!ずっと、私ずっとあの日から、助けてもらった時からずっと憧れて…会いたくって……!!ここまで来ました!」
興奮したのか顔を赤らめて言い切った。グレン「くん」?と思った事を忘れてしまうような勢いに押されて、ライドと一緒に呆気にとられた。
グレンの方が我に返るのが早かった。そういえば、女の子を数年前の演習で馬車が襲われてるのを助けた事があった。
「あの時の!大きくなったね」
「大きくなったって……」
隣で呆れ顔をしてるライドを無視してリディルに笑いかける。
「改めてよろしくね」
そう言うと、リディルは目に涙を浮かべ、近づいてきて勢いのままグレンに抱きついた。
「はいっ!よろしくお願いします!」
と言って泣き出したのはライドと二人で困ったと、顔を見合わせた。
「はいはい。嬉しいのはわかったから涙拭いてね」
◇◇◇
結局、嬉し泣きをして抱きしめてきた女の子にたじたじになってしまった。抱きしめられるのは初めてではないのに年甲斐もなくドキドキしてしまったのは内緒だ。
あの小さな子が大きくなって目の前に現れた。グレンの姿を見て騎士になりたくてここまで来たと言っていた。この理由すら可愛い。更に健気で可愛さが増すというものだ。……何ということだ可愛さしかない。
距離が近づくまであと少し。