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    【前編】許嫁を名乗る不審者に家凸された件について ミクリの家に届いた手紙を仕分けて、緊急性や重要度が高いものから低いものへ、順に並べることは私の仕事のひとつである。もともと、これらのこともミクリがひとりで行っていたことだが、彼の負担を減らせるならやらせてほしい、と私が言い出したことが始まりだ。どうでもいいようで、これが結構面倒くさい。手紙には悪意のあるものもあるため、手袋をつけたまま慎重にペーパーナイフで切っていく。レターオープナーがこの世界にはまだないようなので、今度ダイゴさんに新商品として提案してみてもいいかもしれない、なんて考えながらも作業は続く。
     そして、ミクリの窓口であるホウエンリーグを経由して、たまに私宛の手紙が転送されてくることがあった。
     その中のひとつに、一際目立つものを見つけて摘み上げた。ピンク色の紙に白いレースの模様はなんとも甘ったるくて、いかにも女の子受けしそうなものだが私の趣味とは似つかない。おそらく、私の趣味をよく知らない人間が送ってきたのだろうと思われた。ということはファンレターか何かだろうか、おそらくは私のでたコンテストを見たか、はたまたガラルでの試合を見たか――それとも、ミクリのファンを名乗る、マナーの悪いアンチからの嫌がらせか……と思いつつ、封を切った。
    「何これ、気持ち悪っ!」
     私は思いっきり嫌悪感を顔に出していたことだろう。ライボルトが何ごとかと近寄ってきたので、“オーバーヒート”で焼いてもらった。手紙はなかったことにして、お焚き上げ行きだ。


     その日は偶然、ミクリがリーグに出かけていたので、私はポケモンたちに囲まれながら書類作業をしていた。パソコンにデータ入力、買ったポケモンフーズやお世話に必要な経費の計算……家できる仕事はたくさんある。ミクリはスポンサーがついているトレーナーなので支給品も多いとはいえ、買うものは買わなくてはいけない。
     そこへ、来訪者を知らせるチャイムが鳴り――と、同時にルカリオとライボルトが敵意を剥き出しにした顔で立ち上がった。
     あっ、これはヤベーのがきたな……と私は思った。

     私はインターホンを通して応対しようとしたが、カメラは黒い画面を映すだけだった。ボーマンダの低い唸り声が聞こえるので、音声は拾えているようだが……ボーマンダが唸るような相手に嫌な予感しかしない。呼び掛けたが、応答がないので困った。
    「インターホン、こわれちゃったロト?」
    「ううん、どうだろう。トワ、インターホンにアクセスして」
    「了解ロト!」
     私はスマホロトムに入っているトワに指示を出し、インターホンの中にアクセスしてもらったが……画面は黒いままだ。
    「何も映らないけど、こわれてはいないロト。ハッキングもされてないロト」
    「……ってことは、もっと原始的な方法だね、わかった、ありがとう」
     つまり、カメラを手か何かで塞いでいるのだろう。
     そう話している間にも、チャイムをけたたましく鳴らされたので「出てこい」という意味合いらしい。まあ、よく相手を無理やり引き摺り出すための方法なんて知っているな、と思いながらトワに録画を指示して、チェーンをかけたままドアを開けた。

    「どちら様でしょうか。ただいまミクリ様はご不在なのですが……」
    「君に会いにきたんだ!!」
     ミクリのお客さんじゃないらしい、うわ、めんどくさいな。私宛の新種の嫌がらせだろうか。
     顔に笑みを浮かべながら、男はそう言った。男は薄い金髪は整髪剤で後ろに撫でつけて、上品に仕立てられた白いタキシードを着ていた。それだけでも金持ちだとわかる。金持ちはまた面倒だなあ、ミクリの知り合いだろうか、と思ったがわからない。ただ、ルカリオとライボルト、ボーマンダの威嚇に怯まないところを見ると、度胸はあるらしい。男は私の反応を待たずに話を続けた。
    「この前送った手紙はもう読んでくれたと思うけど、私は君の正式な婚約者だ!! 君を迎えにきたのさ!!」
     手紙、婚約者、迎えにきた……そのワードが私の頭の中で実像を結んだ。
    「ああ、あのピンクに白いレースの」
    「そう!! 無事に届いたんだね」
     あの趣味の悪い手紙の差出人らしい。

    「あれなら二行読んで燃やしました」
    「えっ」
    「燃やしました」

     ねー、とライボルトに目を向ければライボルトは頷いた。お焚き上げしたはずなのに、なんかうざったらしいことになった。
     男は真っ青になったのも一瞬、すぐに調子を取り戻して軽く笑って見せた。
    「あはは、もう君は、本当にその照れ屋さんだね。それなら仕方がない、もう一度君に手紙を書くよ」
    「やめてください、そろそろジュンサーさん呼びますよ」
     その言葉を聞いた男はもう一度、真っ青になった。私は後ろめたいことをしている人間が警察の名前を出した途端怒り出すことをよく知っていたので、この男もやはり後ろめたいことがある人間なのだろうと思った。
    「待ってくれ、僕は本当に君を――」
     そう言って、男はドアの隙間から手を差し入れ
    「ああああああ!」
     その手をライボルトにガブリと噛まれた。これは正当防衛の範囲だろう、ライボルトもすぐに離してやったので、手を噛みちぎる気はないようだし。
    「あっもしもし、アダンさん? すみません、家の前に不審者が――――」
    「だから僕は不審者じゃな――」
    「ライボォ!!」
     直でジュンサーさんではなく、アダンさんを呼んだのは私がこの男にくれてやった最後の優しさだった。やっぱ、逮捕歴がつくとかわいそうかなって。



    「アザレア、大丈夫だった?! さぞ怖い思いをしただろう。ごめんね、私がいないときに、ああどうして今日、君をひとり置いて行ってしまったんだろう」
    「いえ、お仕事だからでしょう」
    「例えほんの少しでも、君のそばを離れるべきではなかったのに……」
     大袈裟な口調で帰ってきた本来の婚約者に強く抱きしめられた。ことの顛末を話すと「よくお師匠を呼んでくれたね」と褒められた。すごい。アダンさんを呼んだだけで褒めてもらえる。
     実は以前も、アンチに家まで押し掛けられたことがあり、その時は相手が女性一人だけだったので自分で対処した。自分ではうまくやったと思っていたのだが、それをルネのジムトレーナーさんが通りすがりで見ていたらしく、アダンさんに報告、ミクリに連絡でバレてしまったことがある。その際は「何者かが家に来たのなら一人で絶対に対処してはいけない」と強くミクリとアダンさん双方に言い含められ、アダンさんには「しっかりしているようで本当に危うい」という評価をいただいてしまった。
     今回アダンさんが使用人を連れて、例の男を連行してくれたのだが「今回はちゃんと呼べましたね。次回……なんてあって欲しくはないのですが、もしあれば必ずそうしてくださいね」と褒められた後に念を押された。よほどダメな子だと思われているらしい。
     今回も前回同様、ミクリの仕事の邪魔になるしな、と連絡しなかったのだが、アダンさん経由で連絡が入ったらしい。ミクリがすぐに帰ってきたので本当に申し訳ない。

    「アザレア、君が無事で何よりもよかったんだけど、私は君に言わなくてはいけないことがある」
    「なんでしょうか」
    「不審な手紙が来た時点で、私に相談しなさい。そして、落ち着いたのならまず私に連絡しなさい」
    「……はい、次からそうします。ごめんなさい」
     久々に見る激おこなミクリ様に、私は大人しく謝った。



    「彼をあのあと自宅に招きまして、話を聞いて確認もしたのですが……本当にオオバコ家の人間でしたよ」
    「へえ……オオバコ家とはまた」
     アダンさんとミクリの間だけで話が進んでいくのだが、そういえば男が「僕はオオバコ家の人間だよ!? 本当に知らないの?」と叫びながらアダンさんに運ばれていたので手を振ってお別れしたのだった。トワが後から検索してくれたところによると、なかなかのお金持ちで、ホウエンでは名家にあたるようだ。要するに由緒正しいお坊ちゃんである。そういえば、タキシードも仕立てが良かったし、乱暴な言葉遣いをする人間でもなかった。彼なりに手紙でアポを取ったつもりだったそうで、今日の日付が指定されていたらしい。
    「アザレア、手紙は」
    「“オーバーヒート”で燃やしたのでないです」
     膝に乗せたしらたまを撫でながらそう呟いた。
    「そうか」
     ミクリに燃やしたことは怒られなかったので、別にいいらしい。とはいえ、犯罪の証拠になるので、残しておくべきだったと言えるだろう。いやでも気持ち悪かったし許してほしい。
    「ミクリ、貴方が憂慮していたことが当たってしまいましたね」
    「ええ、いつかこうなるかもしれないとは思っていましたが……」
     私の知らない間に話がどんどん先へ進んでいくので、どういうことか分からない。どういうことなのだろう。
    「アザレア、君はご両親の実家について聞いたことはある?」
    「いえ?」
     そういえば、聞いたことがない。というより、そもそも私は両親以外の親族と会ったことがないのだ。元々前世で色々あったので、もう親族なんぞ会わなくてもさっぱりという感じだったので気にしなかった。

    「君のお父様はオオバコ家の人間、つまり君はオオバコ家のお嬢様なんだよ」
    「……は? 私のフルネーム、オオバコ・アザレアじゃないんですけど……? トウワタ・アザレアなんですけど……?」
    「それは君のお母様の名前だろう」
    「そういえば」
     そういえば、母のところに婿養子になったのが父だと聞いていたが、父がどうして婿養子になったのかは知らない。考え出してみると、色々知らないことばかりだ。私は両親のことについて、今名乗っている「トウワタ」が母の苗字であることと、両親がラブラブなことと、お人好しなこと、そして今どき珍しいくらいポケモンについて知識が無いことしか知らない。父は私が生まれたアローラでそのまま働いているけれど、仕事も簡単には変われないしな、と気にしていなかった。
     ミクリが私の頭を撫でながら、言い聞かせるように話してくれた。

    「君のご両親はね、身分違いの恋だと結婚を周囲に反対されて、駆け落ちしたそうだよ」
    「そうだったんですか!!? えっなんでミクリが知っているんですか!!? えっ!!」
    「マチューーーー!?」
     つまり、ええと、父は「オオバコ家」といういいとこのお坊ちゃんだったが、母と駆け落ちして私が生まれたということらしい。えええ〜〜〜?? なんで、なんでミクリは知っているの!!?
     しらたまもよくわからないまま叫んでした。多分ノリで叫んでいた。

     父は名家であるオオバコ家の直系ではないが、オオバコを名乗れる人間で、はとこ同士で結婚が決まっていた。しかし、偶然出会った母と恋に落ちる。そして、結婚しようとしたのだが、周囲に猛烈に反対されたため、オオバコ家と縁を切って駆け落ち、アローラへ移住、そこで私が生まれた。だが、私が生まれたことで育児や医療面の利便性を求め、母は私と見知った土地であるホウエンに戻った。
     父はオオバコ家に行方を探されていたため、さすがにホウエンには戻れず、アローラで仕事を続け、たまにホウエンに来ていたということだったらしい。そうか、アローラから出てこないのは、ずっと仕事が忙しいからだと思っていたのだが、実家を警戒していたからだったのだ。

     ということを二十二歳で私は今更知り、そしてなぜか許嫁を名乗る不審者が現れたわけだ。どういうことだろう。
    「ああ、私は元々ご挨拶に伺った際に君のご両親から聞いていたんだ。オオバコ家と何かあったらすまないと」
     先に知っていたらしいミクリはそう教えてくれた。そういえば、私にプロポーズする前に挨拶に行ったんだったね。
    「私は知らなかったんですけど」
    「……知らせたくなかったんだろうね、君に余計な心配をかけさせたくなかったんだ」
     そんな少女漫画みたいなことあるかい!!!!





    『ごめんねアザレア、オオバコの家とは縁を切ったつもりだったんだけど……』
    「ううん、いいよ。お父さん悪くないし」
    『そうだ、確かに私はオオバコの人間だ。ひいお爺さまが二代前の当主で、現れた彼はおそらく、直系のダージの息子さんだろうな……ノニくんだったか。ダージの妹が私の許嫁だった女性だ。おそらく、ダージの中でその約束が引き継がれているんだろう』
    「いや全然わかんないけど、あの男……えっとオオバコ・ノニは多分私のみいとこ?」
    『そうだね』
     そもそも、オオバコ家のような名家になると、血をあまり外に出さない方がいいという考え方があるらしい。
    「前時代的すぎてびっくりした」
    『でもまだそう言った考えにこだわる古い家はあるんだ。アザレアならそう言うと思って、オオバコ家のことは話さなかった。だって、お金があろうと勝手に色々決められてしまうのは嫌だろう?』
    「絶対いや」
     確かに、今ここでノニの話に飛びつけば、私はオオバコ家の持つ莫大な財産の一部を手に入れられるだろうし、トレーナーとして賞金を稼ぐ必要もなくなり、何もせずとも生きていく程度の不動産の資産など不労所得も得られるだろう。
     お金は好きだし必要だが、自由のためにお金が必要なだけであって手段に他ならない。それが目的になることはないのだ。
    『父さんは結婚が小さい頃から血が濃くなりすぎない範囲で決まっていて、それに疑問はなかった。親がそうしろというんだから、そうすればいいと思っていたんだ。でも、君のお母さんに出会って考えが変わった。私は私の選んだ未来が欲しくなったから、許嫁を実家を両親を裏切って、出ていくことにしたんだ』
     そういえば、父がデボン関係の会社で働いているのも、ツワブキ家と元々繋がりがあり、ムクゲさんが計らってくれたおかげらしい。お互いお金持ち同士なので、不思議ではないが……。私がカナズミ育ちなのも、ツワブキ家のお膝元であり、かつ人が多いから逆に探しにくいということなのだろうか。人を隠すなら人の中、というわけである。
     ……お父さんのことを、勝手に日和見でぼんやりしているお人好しだと思っていたが、内実はそうでなかったのだと思う。実際、駆け落ちはロマンチックだが失敗したリスク、そして駆け落ちしたカップルはほとんど別れるという統計を視野に入れると、うちの両親が仲がいいことも稀な例と言える。でも、私も分かりきった、人に与えられた未来より、自分で選んだ未来が欲しかったのだ。だから全て、自分で決めた。お父さんもそうだ、自分の未来を自分で決めて、責任を背負うことにしたのだ。
    『本当に、今は良かったと思っているんだ。アザレアに出会えたから。きっとこの道を選ばなかったら、こんなに可愛い自慢の娘には出会えなかったからね』

     お父さんの一言にボロボロに泣き出してしまって、大変心配をかけてしまった。
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    2020/10/13 11:47:57

    【前編】許嫁を名乗る不審者に家凸された件について

    ##小説 #pkmn夢 #ミクリ夢  #アダン

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