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    【とうらぶ】悪い虫【へしさに】悪い虫ある日の夜、首元を蚊に刺された審神者。
    翌る日の朝、へし切長谷部にその痕を見られたのが勘違いの始まりだった。

    悪い虫

    「んー、痒い……!!」

    夏も過ぎ、秋の虫が鳴き始めた頃。
    季節外れの蚊に刺された首元を気にしながら、審神者は政府への報告書を纏めていた。

    「主、へし切長谷部にございます。」

    そこへやって来たのはへし切長谷部。
    第1部隊の部隊長であり、近侍を担う打刀の刀剣男士である。

    「はい、どうぞ。」
    「失礼致します。」

    断りを得て執務室の中へ入ると、朝の挨拶を交わし本日の出陣や任務についての確認が行われる。
    いつもと変わらないやり取り。
    しかし、いつもとは少し違う審神者の仕草に長谷部は敏感だった。

    「首元、どうかされたのですか?」

    確認の最中、何度か首元を触っているのが気になったらしい。

    「いえ、大丈夫です! 大したことではないので……。」

    蚊に刺された程度で長谷部に心配かけるのは申し訳ない。
    審神者は痒くて仕方のない首元を触るのを止めた。
    すると、手で隠れていた虫刺されの痕が露になる。
    何の変哲もないただの虫刺されの痕。
    しかし、長谷部はそれを見て驚愕した。
    白い肌に浮かぶ赤い痕跡。

    (まさか口吸いの痕……!?)

    今が夏だったら長谷部もそんな勘違いはしなかったであろう。
    しかし冒頭にあるように今は秋。
    普通に考えたら蚊はいなくなっている頃である。
    そのため、長谷部は別方向に勘繰ってしまったようだ。
    いや、だが主に限ってそんなことは……。
    そう思い直し、長谷部は冷静に問うた。

    「主、その首元の痕は……?」
    「あ、えっと、昨日の夜にやられちゃったみたいで。」
    「それはつまり、“寝込みを襲われた”ということですか……!?」
    「はい、そうみたいです。」

    会話が噛み合っているようで、全く噛み合っていない。
    長谷部は勘違いを更に加速させていった。

    「どこのどいつですか。主に狼藉を働く者は俺が斬ります。」

    『蚊だよ。』
    そう普通に答えていたら長谷部の勘違いもここで終わっていただろう。
    しかし、掻くのを我慢して痒くて痒くて堪らなかった審神者は、忌々しげにこう言ったのである。

    「蚊蚊蚊蚊蚊!」

    蚊を5回。
    普通なら何のこっちゃとなりそうなものだ。
    だがへし切長谷部は、とんでもない答えに辿り着こうとしていた。

    (かかかかか……)

    なんだか何処かで聞いたことがあるような……。
    そうやって思考を巡らせ、ある男に思い当り長谷部はハッとした。

    (ま、まさか……)


    (山伏国広……なのか……!?)


    山伏国広……『カカカカカ!』と笑う太刀の刀剣男士だ。
    この本丸へやって来たのは最近で、長谷部もまだ掴みきれていない部分はあるが現時点での印象としてはとにかく修行好きで、とてもそのようなことを仕出かす輩には思えなかった。
    まぁ、実際山伏は何の関係もないわけだが。
    やはり長谷部もそこには疑問を抱いたようで確認するようにこう言った。

    「本当に奴が……?」
    「私もまさかとは思いましたが……でも間違いありません!」

    まさか秋に蚊が出るなんて……。
    そういう意味であったが、お互いはっきりと名前を出さなかったために勘違いは続く。

    「……酒を飲んでいたのでは?」
    「お酒……?」

    酒に呑まれたが故の過ちであったのなら……手打ちまでは勘弁してやらないこともない。
    長谷部は少しばかり寛大な心で主からの答えを待った。
    一方、審神者は何故酒の話になったのかわからずに疑問符を浮かべていた。
    そういえば酒を飲むと蚊に刺されやすいという話を聞いたことがある。
    なるほど、だから酒の話かと納得した審神者はハッキリと答えた。

    「いえ、お酒は飲んでないです!」

    瞬間、長谷部は絶句し頭を抱えた。
    酒に呑まれていたわけでもないのにこのような行いをするとは……俺は山伏に対する評価を誤っていたのか?
    就寝中に押し入り、主の御身に触れるだけでは飽き足らず自分の痕跡を残すなど……


    「……圧し斬る。」


    その様が脳裏を過り、長谷部の中に黒い感情が沸き起こる。
    赦すなど無理だ。今すぐにでも手打ちにしてやりたい。

    「主、奴は今何処に?」
    「え、何故?」
    「無論、手打ちにするためです。」
    「手打ちって……え、斬るんですか!?」

    殺る気満々の長谷部に審神者は困惑した。

    「当然の報いでしょう。」
    「心意気は嬉しいのですが、今は何処にいるかわからないし……そもそも斬れるんですか?」
    「俺に奴は斬れないと……?」
    「いくら長谷部さんでも難しいかと……。」

    だって相手は蚊なのだ。
    手で捕まえるのもなかなか難しいのに、刀で斬るなんて器用な真似ができるのだろうか?
    長谷部は優秀だが、流石にそれは無理だろうと審神者は思った。
    しかし、相手が山伏だと思っている長谷部は打刀のお前が太刀に敵うわけがないと言われていると解釈し憤る。

    「俺は主のためなら何でも斬って差し上げます。ですから、どうか主命を……!!」
    「何もそこまで……。」
    「何故!?」

    煮え切らない審神者の態度に苛立ちを募らせた長谷部は感情のまま審神者に近付き、ガッと肩を掴んだ。

    「主は不本意ではなかったのですか!?」
    「本意ではないですが……。」
    「ならば……!!」
    「で、でも斬ってほしいとまでは思ってないので大丈夫ですよ!」

    蚊を斬り損じて本丸をズタズタにされても困る。
    審神者としては当然の意見だった。
    しかし、長谷部には審神者が山伏を庇っている様に映る。

    「主は危機意識が低すぎます!」
    「そんなに怒るようなことですか……?」
    「今はその程度で済んでいるからその様に言えるのです! そもそも被害はそれだけなのですか? まさか他にも……!!」
    「いえ! いえいえ!! ここだけなので大丈夫です!!」

    長谷部の服をひん剥かんばかりの勢いに審神者はつい声を荒げてしまう。
    それが長谷部の琴線に触れた。
    寝込みを襲った山伏は庇うのに、主の身を案ずる俺のことは拒むのか。

    「……わかりました。」

    先程とは打って変わって暗く淀んだ声でそう言うと、長谷部は静かに審神者から手を離した。
    それから気だるく視線を下に向けると、そのままゆっくりと口を開いた。

    「主は、奴を受け入れたのですね……。」
    「え……?」
    「本当に嫌だったのなら、先程のように抵抗すれば良かったでしょう?」
    「抵抗はしたけど……。」
    「けれど、実際は痕を残すことを赦している。所詮その程度の抵抗だったのでしょう。」

    嫌よ嫌よも好きのうち……つまりはそういうことなのだろう。
    主は心の奥底では山伏を受け入れているのだ。
    それに気付きもせず1人憤慨して……実に滑稽だな。
    長谷部は勘違いに勘違いを重ねた結果、審神者と山伏は何だかんだで好き同士なのだと結論付けたらしい。
    そう考えると自分がまるで道化のようだと長谷部は自嘲気味に笑った。
    一方、審神者はそんな長谷部の態度に不安を感じていた。

    (蚊に刺されただけでこんなことになるなんて……。)

    審神者は長谷部が何故怒り、そして呆れたような態度を取るのか必死に考えてある結論に至った。
    確か最も人間を殺している動物は蚊だという話があったはず。
    自分は刺されても痒み以上の症状が出たことがなかったから特に何とも思わなかったけれど、彼の時代では蚊に刺されたことによって命を落とす人がたくさんいたのかもしれない。
    だから彼は注意したのに、理解出来ずにないがしろにしてしまったから怒っているのだろうか?
    そしてあまりに危機意識がない私に呆れ果ててしまったのか……?
    蚊に刺されるような奴に仕えることなど出来ない……そう思っているのかもしれない。

    (どうしよう……長谷部さんに嫌われたら……)

    このまま長谷部に愛想つかされてしまうのではないかと思うと、涙が出そうになる。
    でも刺された自分が悪いのだから、泣くのはズルい。
    とにかく誠心誠意謝らなければ。
    そう思った審神者は、こぼれ落ちそうな涙を必死に堪えながら口を開いた。

    「本当に、ちゃんと抵抗したんです! でも眠くて上手くいかなくて……気付いたらチューってされてて……」


    「ご、ごめんなさい……長谷部さん……。」


    謝罪の言葉にチラリと審神者を見やった長谷部は胸がギュッと締め付けられるのを感じた。
    潤んだ瞳、不安げな表情。
    心なしか震えているようにも見えて……

    「主……!!」

    長谷部は思わず審神者を掻き抱いていた。
    そして心の中でメチャクチャ猛省した。
    主は襲われたのだ。
    どんなに抵抗したところで男と女。
    力で捩じ伏せられたら一溜まりもないだろう。
    それだと言うのに上手く抵抗出来なかったのは受け入れたからだなど暴論ではないか。
    庇うのは主の慈悲深さ故で、先程俺を拒んだのは襲われた時のことを思い出したからなのかもしれない。

    「あぁ、おいたわしや我が主……。」

    それもこれも主を襲ったあの男が悪いのだ。
    主が赦しても俺は赦さんぞ山伏国広……!!
    長谷部の中で審神者と山伏が好き同士だという誤解は解けたようだが、代わりに山伏への悪感情がより増してしまった。
    一方、審神者はいきなり抱き締められた驚きで涙が引っ込んでしまっていた。
    何かよくわからないけれど哀れみの言葉もかけてくれているし、これは赦してくれたということなのだろうか……?

    「あ、あの……長谷部さん……?」

    戸惑いながら声をかけると、『申し訳ありません。』と小さく呟き、そっと審神者から体を離した。
    名残惜しいなどと思う自身の心を戒めていた長谷部であったが、審神者の首元の痕が目に入り眉を顰める。

    (忌々しい……こんなもの消し去ってしまえれば……。)

    思ったと同時にはたと気付いた。
    そうだ、消してしまえばいい。
    長谷部は思い付いたことを行動に移すべく審神者に進言した。

    「主。」
    「は、はい。」
    「もし許していただけるのなら……」


    「俺に、消毒をさせてください。」


    長谷部の申し出に、キョトンとする審神者。

    「消毒……ですか?」

    消毒ということは薬でも塗ってくれるのだろうか?
    でも薬なんて持っているのか?
    そんなことが気になり返事をしないでいると、長谷部は切実な顔で訴えてくる。


    「俺がするのは駄目でしょうか……?」


    その妙に熱のこもった視線にドキリとする審神者。
    いやいや、何をドキドキする必要があるのだ。
    痒くて仕方のないこの虫刺されを消毒してくれると言う。
    断る理由などないじゃないか。

    「えと、じゃあお願いしちゃおうかな……!!」

    そう言うと、審神者は薬が塗りやすいようにと襟元を肌蹴させた。
    まだ少しドキドキして気恥ずかしく、審神者はそっと目を閉じて『どうぞ』と長谷部を促した。
    その様が長谷部にはとても扇情的に映り、思わず息を飲む。

    「では、失礼致します……。」

    少しの間、指で触れられるだけ……審神者はそう信じて疑わなかった。
    しかし、肌に触れるその感触は明らかに指とは違う。
    柔らかく、生温かい。
    それに、何故だか長谷部の体が異様に近く感じる。
    不思議に思った審神者は、恐る恐る目を開く。
    すると……

    「は、長谷部さん……!?」

    首元に男の顔が埋もれている。
    肌に触れる感触……それは紛うことなく長谷部の唇であった。

    「長谷部さっ……イタッ…!!」

    蚊に刺された箇所を強く吸われ、痛みが走る。
    これはどういうことなのだろうか?
    混乱した頭でグルグルと考え、審神者はハッとした。
    そうか! これは毒を吸う的なアレだ!!
    やはり薬を持っているのかという懸念は外れてはいなかったらしい。
    きっと彼の時代には虫刺されに効く塗り薬はなく、これが主流なやり方だったのだろう……多分。
    それを知らずになんてことを頼んでしまったんだ……!!
    しかし今更拒むわけにもいかず、審神者は羞恥に身悶えながら長谷部の消毒と言い張る行為を必死に耐えた。
    それから暫くして唇が離れる。
    蚊に刺された痕は長谷部の付けた痕で綺麗に上書きされていた。

    (消してやった……。)

    自分の残した痕を見て、長谷部はとても満足した。
    と、同時に罪悪感が一気に押し寄せてくる。
    俺は主になんということを……!!
    “消毒”などと耳当たりの良いように言ってみても、やっていることは山伏と同じではないか。
    自分以外の痕跡が許せなかった……自分よがりの醜い嫉妬。
    そんな感情に振り回されて主に手を出すなどあってはならないことだ。

    「申し訳ありません、主。俺は……」

    審神者から少し距離を取ると、深々と頭を下げる長谷部。
    近侍解任か……あるいは……。
    最悪の場合も覚悟して審神者の言葉を待っていると、彼女は慌ただしく口を開いた。

    「頭を上げてください長谷部さん!」

    その声に従って審神者を見やる。
    怒ってはいないのだろうかと様子を伺っていると、彼女はこう言った。

    「その、ちょっと恥ずかしかったんですけど……」


    「でも、嬉しかったです。ありがとうございます、長谷部さん。」


    まだ少し赤い顔でにこりと微笑む。
    毒を吸い出すなんて吸い出す方も危険に晒されるだろうに、不甲斐ない私のために身を呈してくれた長谷部さん。
    こんなに素晴らしい臣を持って、私は幸せ者だなぁ。
    審神者は感慨に浸りながら虫刺されを消毒してくれた長谷部に感謝の意を述べた。つもりだった。
    が、それを受け取った長谷部はというと、頭の中で審神者の言葉をひたすら反復していた。

    (主が……主が俺を受け入れてくださった……!!)

    嫉妬で暴走して身勝手な行いをしたつもりでいる長谷部に、『嬉しかった』『ありがとう』である。
    彼は自身の行為のみならず、“好意”も受けとめてもらえたのだと勘違いして完全に舞い上がっていた。

    「受け入れていただけたこと、とても光栄に思います。」

    いかんいかんと緩む口元を引き締め、真面目な顔をして頭を下げる。
    そして頭を上げると、長谷部は爽やかな笑顔で言った。

    「では、残るは狼藉者の始末だけですね。」
    「まだやる気だったんですか!?」
    「無論です。」

    長谷部の並々ならぬ執着に驚く審神者。

    「長谷部さんは虫が嫌いなんですね。」
    「虫……ですか?」

    何のことだろうか……と長谷部は思った。
    ここへ来てついに勘違いに気付くのかと思いきや、長谷部は『あぁ、なるほどな。』と1人納得してこう答えた。

    「そうですね……」


    「“悪い虫”は……早々に対処してしまわないと、ね。」


    含みを持った長谷部の笑みに、審神者はゾクリとするものを感じた。
    まぁ、でも他の人が蚊に刺されるのも良くないか。

    「では、もし遭遇したらその時はお願いします。」
    「お任せあれ。見事仕留めてご覧に入れましょう。」

    審神者は蚊を、長谷部は山伏を思い浮かべて。

    「それでは主、俺はこれにて失礼致します。」
    「はい、今日も1日宜しくお願いします。」

    こうして朝の確認は一見いつも通り穏やかに、しかし裏で思わぬ波乱を含んで終わりを告げた。

    その後、長谷部が山伏に襲い掛かるまで2人の勘違いは続いたのであった。
    ショコラ Link Message Mute
    2018/08/03 19:00:00

    【とうらぶ】悪い虫【へしさに】

    第三者視点。女審神者の蚊に刺された痕をキスマークと勘違いする長谷部さんの話。カカカは犠牲になったのだ。
    #刀剣乱舞 #とうらぶ #へしさに #へし切長谷部 #女審神者 #刀剣乱夢

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