「あのさ、…またね」
呪いみたいだ。
ふとした瞬間に、あの頃の日々を思い出す。
振り返れば悪くなかったって、そう思うほどに年を取った。
毎日前を向いて歩こうと思ってるのに、気付けばうしろばかり振り向いてる。
足の遅い君が、遠くでついて来てくれてる気がして。
今でもふとした瞬間に、呼吸の仕方を忘れる。
朝が来るのが怖くて、枕元を濡らしてる。
包丁を握るたびに、自分に突き立てたくなる。
マフラーを巻くたびに、首を締めたくなる。
顔を洗ったまま、水に沈みたくなる。
それでも、生きてる。
誰と何をしてても、どこにいても、いつの間にか君のことを考えてる。
君と話したことを思い出してる。
懐かしいって笑いながら、君が隣にいないことを寂しく思う。
追い掛けて、消えたら楽になれたかな。
君はなんて言うだろう。
伝えたいことがありすぎて、届かない言葉に窒息させられそうだ。
何度も何度も、最後の言葉を思い出してしまう。
「またね」なんて言わなきゃよかった。
次なんて一生来ないのに。
一歩足を踏み出すたびに、僕の毎日は君との思い出で溢れてる。
息が苦しくなるほど君はどこにでもいて、もうどこにもいないね。
覚めない夢でも見てるのかな。頭がぼんやりして、何も入ってこない。
過去に閉じ込められたみたいに、僕はどこにも行けないのに朝は来る。
最近の僕は涙もろくなったよ。
君はもうどこにもいないのに。
どこにもいないのに。
どこにもいないのに。
深呼吸をして、息の吐き方を思い出す。
前を向いて、朝日を見る。
それでも、僕はきっとここで生きるよ。
君のことを思い出して、君に言えなかったたくさんの言葉を抱いて。
生まれてきたことに意味があるなら、僕は君に出会うだけの人生で良い。
君に出会えたことが、僕のすべてで良い。
だから精一杯生きるよ。
君を愛する人間がここにいたことの証明を、僕の人生を懸けて残す。
君のいない世界で。
君の生きた世界で。