三枚紙浦部戦から数か月たった頃だろうか。
俺がひと月ねぐらと決めた宿に一通の手紙が届いた。
どこで人がここにいると分かったのだろうか。と、ぼんやり思う。
真っ白な封筒に自分の名が書かれた部分を見た後、差出人の名前を見る為に封筒を翻しての裏に目を向けた。
所在地は書いてない。
しかしそこには"平山幸雄"の文字が存在した。
赤木しげるへ
こうして俺が手紙を書く事は可笑しな奴だとお前は笑うだろう。
出来ればこの手紙をちゃんとお前に読んで欲しいが、お前の事だから読んだりしたりせず、読み流すかも知れない。
最悪は見もせずに捨てるだろう。
お前は他者の気持ちを汲まない。それらはみんな、分かった上で俺はこの手紙を書いている。
これはただ、俺がお前に知って欲しいと勝手に思った事を記しただけの手紙だ。
まずお前には謝らなきゃならない。
俺が自ら招いた結果でお前に借りを作るような結果になった。
その上、お前とは勝負すら出来る事は無かった。
お前とは本当に、あの時は勝負をしなきゃいけなかったのに。
浦部との決着について、お前に俺の処遇の決定権が委ねられたから、俺はこうして筆を執っていられる。
すまなかった。
そして、有難うな。
きっとお前は何も思ってないとは思う。
自分がしたいようにして、俺を助けただとか約束を反故にされただとかは思ってないはずだ。
先にも言ったが、俺が言いたいだけだから何も言わずにそのまま受け取って欲しい。
俺はまだこの世界にいると決めた。
今度は偽としてではなく、自分自身の名前で地に足を付ける。
一度足を踏み入れた世界だし、俺も男だからそう簡単に引けない。
お前や浦部に在って自分に無い物と向き合う為にも。
自分が信じてる確率の絶対性を嘘にしない為にも。
赤木、お前だって何かを見失わないからそうして生きているんだろう?
その何かに、俺は自分の信念に置いたものを据えたいからこの道を選ぶんだ。
揺らいでしまえば人はどれ程脆いのか。
それをもう俺は知っている。
だから、絶対に、二度とそれを歪めたくないんだ。
自分を裏切って生きるのはもうやりたくない。
そして俺は知りたい。
勝負する世界で生き続ける人間の目に、当たり前に広がる景色を。
この世界に居れば俺だってそれなりにやってきたのだから、絶対に見えるはずなんだ。
俺がそれを掴んだらお前ともう一度向き合いたいし、今度こそ勝負するつもりだ。
必ずお前と同じ領域まで行って、驚かせてやるよ。
逃げたりはお前に限ってないと思う。
この手紙を見て居たなら頭の片隅にでも入れていて欲しい。
赤木、お前は凄かったんだ・・認めたくはないけれど。
恐らくお前が居る世界は、浦部たち大多数の勝負師の半歩先の世界なんだ。
お前がこの先、変わる事がないならきっとその領域で俺は出会うだろう。
それともまさかそれ以上の先がまだあるのか?
それ以上歩みを進めるのは勘弁しろよ。
何度追いつこうとキリがないだろう。
最後になるが、お前は知ってるか?
ここ最近不特定の雀荘に、白い服の男が勝負する相手を探しているらしい。
今はそこまで噂では無いが、連れて行かれた先にはとても強い勝負師がいるのだという。
俺はまだ見た事は無いし、噂程度だから真実とも限らない。
ただ、もし本当だとしたら俺はその男に呼ばれてみたいと思ってる。
お前のような対戦相手だとしたら、前哨戦にはぴったりだと思うからな。
でも、下手したらお前の方が先に会うかもしれないな。
お前は何をしなくとも目立つから。
手紙を出す事はきっとこれが最後だろう。
それじゃあ、またいつか。
平山幸雄
20191117
・このあと、手紙がどうなるかというと多分しげるは紙飛行機作ってどんどん窓外に放っちゃう。
凄く機嫌良さそうにして。