狂気と確率|千字越え版①あか♀×ひら♀※原作の”アカギの偽”って設定を女子になってる二人に割り当てたら地獄になった
※学パロ
<side:H>
私を"すきだ"というその人たちは、いつも私の先に彼女<アイツ>を見ている。
彼女はとびきりの特別である。
生まれ持っている雰囲気が、私たち普通のものでは無い。
所謂、カリスマ的な魅力の類だろう・・本人はその類を持ちながらも、交友範囲は皆無に等しいのもまた不思議で。
歩き靡く髪の一筋すらに見とれる者もいる。
それは私にだって分かる。
通った瞬間の空気が、そこだけ少し気温が低くなって、澄んでいるような気がするのだ。
"赤木しげる"という名前は、これもまた不思議だが彼女<アイツ>を指す名前である。
女子なのにどうしてか?と、思う者はこの学校に勿論沢山いる。
だけれどもう私は彼女が、いつか誰かに『自分に宛がわれているただの名称であって、気にするような事ではない』と、話していたのを知っている。
その名前を周囲が思うほど彼女の意識の中で、大きな割合に入っていないのは明白だった。
何にも彼女を縛る事は出来ない。
それを教える一端でもある。
彼女の一端に魅せられて、焦がれて、手を伸ばそうとする者は多かった・・でも結局誰もが、彼女に枷など付けれる訳も無く終わる。
アカギは決まって「もう付き合ってみたい人が決まってるから」と断るらしい。
つまりそれは誰か彼女にとっての"特別"がどこかにいるのだろう・・相手については色々な憶測を呼んだ。
流れてくる噂に教師だの、他校生だの・・飽きもせず代わる代わるの名前になるのは、それが"とびきりの特別"をもつ人間の宿命なのだろう。
『会話の種に持って来い。って、思ってそう・・』
窓際、後ろから二番目の席で外の青空を見つめる。
細かく千切れた雲がゆっくり動く様を、目で追った。
耳に入ってきてしまう男子と女子の、どう考えても尾びれが二つも三つも重なってそうなアカギの話題にそう思う。
正直なところ・・私は彼女の話題を聞きたいとは思ってない。
今ここで聞かなくとも、後で嫌というほどその話題に直面するからだ。
だって。
私と付き合う人は。
私に"すきだ"と、言ってくれる人は、みんな・・。
「アンタ、なんで最初から自分の事を見もしない人間なんかと一緒にいるの?」
一番会いたくなくて。
一番、知られたくない人。
放課後の図書室で、気づけば自分の目の前に白銀の髪の毛が枝垂れ柳のように視界を塞ぎ、冷たく見下ろす伏し目から目が離せなくなる。
私には付き合っている人が、いる。
その人が部活終わりまで帰るの待っていて欲しい。と、強請られたので何をする用事もない私は図書室で時間を潰して待とうとした。
自分以外は居るはずもない図書室は、少し居心地よくすら感じられる。
そのはずだった。
自分が室内に入ってから、それ程間を空けずにアカギが図書館に現れるまでは。
夕陽の色と影の色が交互に室内を占め照らしつける中。
アカギは気づけば本棚を背に倒れ落ちた私の行く手を遮るように、その場を手とその長い髪の毛で覆いつくす。
降ってきた言葉にも目線にも、胸が押し潰されそうな気持になって床に着いた指に思わず力が入った。
唇も、噛みしめてしまう。
アカギはそんな私の様子を黙って見つめる。
そうして、再びその薄い唇は言葉を紡ぐ。
「どうして?それでアンタ・・いいの??」
「っ・・良いも、何も!お前にだけは、そんなの!言われたくないっっ!!!」
"平山幸緒は、赤木しげるによく姿が似ている。"
"彼女<あかぎ>が手に入らないなら、あの子<ひらやま>でもいい"
その地獄のような、世界を、一度許してしまった私はあとになんて戻れなかった。
私はそれを知った上で、そんな人と付き合っている。
付き合いたかった?違う。
別に付き合わなくても良かった。
ただ、その人の・・手に入らない物に焦がれる姿が・・自分と重なって見えたから。
私自身が、救われたいが為の受諾。
そう・・私が"本当に"好きな人も、彼女<アカギ>を見ているのを私は、知っていたから。
告白の裏側にある思惑を許してしまったのは、私自身にも裏があったからだ。
・・・・・
※銀と金の二人が教師として居る。銀王出番多い。
<side:A>
私が見つけたその女は、群れの中に紛れて一等不幸そうだった
<数週間前>
「銀二」
校内、3階。
その廊下の先で、最も自分が話しかけやすい人間に出くわした。
殆ど身内の人間のようなその男は、この学校の教師であり私の担任で、他の人からは"平井先生"と呼ばれている。
スーツは暗い色味よりも、淡く明るい色の物をよく好んで着てくるのがこの男のトレードマークとなっていた。
後方から呼ばれた私の声に反応して、窓の外を見つめていた銀二は振り返り、口に煙草を銜えてる様を堂々とこちらに見せる。
喫煙所以外で煙草を吸うな。と、他の教師から咎められてもこの男はすぐにこれを直したりはしない。
何度か保護者共からもコドモの教育に良くないからその姿を見せないで欲しいとも言われているはずなのに。
私の姿を確認すると、銀二は煙草を指で挟んで煙を宙に散らした後目を閉ざした。
私に声が聞こえるように真っ直ぐと向けられる
「赤木。何度言ったら分かるんだ?学校(ここ)では名前で呼ぶにしても、先生をつけろ」
「銀二を先生って思った事ないもの」
少し早い歩調で。
どんどんその姿に私は近づいていく。
すれ違いざまに何人か生徒がいたけれど、そんなのは風景と一緒で何も気にならない。
銀二が小声で「やれやれ」と口にしたのが見え、首を傾ける。
胸ポケットに忍ばせていたケース型の携帯灰皿を出して、その煙草が潰され消えたタイミングでようやく銀二の元に辿り着く。
案の定、煙草の匂いが見えないがらもまだ辺りを漂う。
窓の外には、下校に伴って生徒たちが散り散りに帰路を辿る様が広がっていた。
「で?俺になんか用事か??」
「どういう生徒か知りたい人間が居るんだけど」
窓の縁に手を着いて、銀二が人を見下ろす。
私は言いたいことを口にしてから、窓の外で"その姿"を探した。
この時間帯なら、多分どこかしらにはその姿があるだろうと思った。
「知りたい生徒、か・・男か?」
「違う。女。私みたいに髪の白いやつ」
そう私が言うと目を合わせていなかった銀二から「ああ」と、声が漏れる。
その声の色が『分かった』と、合点したものを含んでいるのを察して、私は窓から銀二に目線を移した。
どういうつもりか知らないけれど、銀二はとても楽しそうに私を見ていた。
「そりゃあ、あれだ。森田のクラスの娘さんだな」
「同じ学年?」
「そうだ。名前は・・・確か、平山幸緒・・だったと思うぞ」
お前はもう忘れてると思うが、俺は言ったはずだぞ?お前によく似た姿の生徒が居るって。
そう銀二が付け加えて言ったのを聞き終わる前に、私はもう一度窓の外でその姿を探す。
私と同じような、白い髪の姿。
ふと生徒昇降口付近に目を移せば、丁度その姿が出てくる瞬間を見つける事が出来た。
本当ならその髪の毛が私よりも長い時期が一時あったのを知っている。
銀二に言われて一度だけ意識的にその姿を探した時だ。
でも、一度その姿を確認した後は特に気に留める事も無く存在自体を忘れてしまっていた。
名前もその時は知ろうとも思ってなかった。
思い出したように銀二にその名前を聞いたのは、その女を偶然視界に容れた瞬間があったからだ。
私がその偶然で見た場面は、図書室で男に付き合ってほしいと女が頼み込まれている瞬間だった。
銀二にこの前の授業を仮病を使って保健室で潰したのがバレてしまい、誰かが教室にずっと置きっぱなしにしていた数冊の古びた民族史を返す羽目になってしまって。
図書室に入ろうと、手を掛けたがそんな話声が聞こえてきて、開けるのをやめる。
誰と誰がそんな事をしているとか・・そういうのには全く興味がなかった。
とっとと帰りたいにもあって早く終わらないかと願う。
男の言葉が告げられてからしばらく相手の声が聞こえないのもあって、こちらが視界に入らない様に、そっとドアについてる丸い窓の中から、一度だけ室内の様子を確かめた。
『はい』と、その口が形作ったのに酷く泣きそうな顔をして笑っている・・白髪の、眼鏡の女の姿がそこにはあった。
男は嬉しいからそんな表情をしていると思ったのか・・「信じられない」「夢みたいだ」と自分の喜びだけを一方的に告げていて。
その喜びと自己満足から、男は彼女がしている表情の本当の意味を読み解けないのだろう。
出来事を外から見ていた私は、彼女が"嬉しい"からそんな顔をしている訳じゃないのは、ありありと分かる。
『不幸せそうな笑顔・・』
なんで、そんな顔して許すのだろう。
自分の感情なんて何一つ無視をするその男を、愛しむから許しているようにも、とても見えない。
哀れみすら読み取れてしまう。
この瞬間に付き合うと決めたこの二人が、これから行き着く結末にきっと本来あるはずだろう幸せが無いのを知れてしまう。
それまでの私にとっては、他者は風景でしかなかった。
だけど、その場面を見てから・・自分から傷つき苦しむような道を辿るその女が、どういう人間なのか。
少しだけ、知りたい。と・・そう思ったのだ。
そして女の方ばかりに気を取られていたせいもあって、男が何日か前に自分に付き合ってほしいと言った・・そんな奴だと気づいたのは随分後になってからだった。
***
「どいてよ・・っ」
目下で今にも泣きそうになりながら、怒りを目に宿して見つめる平山。
私の髪の毛と、手が作るその檻に閉じ込められている。
あの男からの告白を受諾した時よりもそっちの顔の方が全然いい。・・と、言ったらどんな反応をするのだろうか?
そんな事を考えながら、じっとその怒りを自分の目で受け止める。
「退くつもりない。逃がさない」
「な・・・」
「ねえ・・今みたいに自分の感情、あの男にぶつけられてる?」
私がそう言った瞬間、平山は凍り付いたように目を見開いて唇を噛みしめた。
分からないように。知られない様に。
振る舞っていた・・つもりだったのだろうか?
私には人が隠したがる感情や、思考がどうにも昔から他人より深く見えてしまうから。
平山がいくら隠そうがそれは通じない。
だから今、平山が私に向けている感情が紛れもなく隠されていない事も。
私が憎く思えているのも、薄っすらと感じ取れる。
「嫌いで構わないから、もうずっと・・私だけを考えてなよ」
凍り付いた目に、少しだけ光が燈ったように映る。
私の言葉に驚いたようで、言葉を発することも無く平山は少しだけ肩の力が抜け、呆けたようだった。
隙だらけのその様がどうにも楽しくて、私は自然と前髪で隠れている平山の額を掻き分けてやる。
平山が告白を受けたその場所で、私は彼女の額にキスをした。
END
三日月※『はじめとおわり』の二人その後。まともに付き合うとまだ言ってない辺り。
「お前、平山の事抱いただろ?」
繁華街の外れ、明かりが離れ夜の色が色濃い場所。
車を止めて、外で煙草に火を付けながらさらりと悪徳刑事は言う。
俺も合わせて外に出た。
平山は安岡さんにそういう話すらするのだろうか。と、ぼんやりと思うとそれを安岡さんが先に察して目が合うと手の平を振った。
「別に平山から聞いた訳じゃあ、ねえからな。俺が勝手にそう思った」
「どうして?」
目立つような場所にしばらく跡も付けていないし、俺たちは二人そろって安岡さんと会う事も無い。
会うとしてもどちらか一方だけが会う。
煙がその口から散らされて、白色があたりにゆらゆら揺れ漂う。
「ここ最近アイツの笑い方も、話し方も、全くの別人だよ・・お前はそうは思ってねえようだが」
「ふーん・・」
「しかもな。人と会っても、全部上の空だ。最悪だよ・・そいつしか、考えてねえってツラ見せられるこっちの身にもなれよ」
「あらら・・」
他人と居ても所作が、表情の一つが。居ない誰かの為の物になる。
人を抱くというのにそういう弊害が出るとは思ってもみなかったし、聞かされる羽目になるとも思ってなかった。
でも、
「その相手。俺じゃないじゃないかも知れないじゃないですか。安岡さん」
俺も煙草に火を付ける。
安岡さんは盛大に溜息を吐いて、俺に声を荒げた。
「あのなあ!アカギ。お前は、気づいてないだろうがお前もだよ。平山の話出す時の雰囲気変わってんだよ!!」
「?そうですか??」
「じゃあ訊くが、俺が平山の事抱くぞって言ったらお前なんて返すんだ」
頭に平山が他の男と談笑し、腕を絡めた場面が浮かぶ。
別に俺は平山を束縛するような事は設けてないし、危惧もしていない。
あるのはただ、肉体で結びついただけという話だ。
だから何も、俺は平山を誓約させるような、そんな関係ではない。
安岡さんの言葉から、ふいに自分の口が嗤い出すのが分かる。
「抱いたら、言って下さいよ。やすおかさん」
確かめたいから。と、言葉を発すれば安岡さんが青ざめた顔をしたので可笑しくなる。
悪魔でも見たかのような顔と怯えだけが、こちらに伝わる。
心なしか辺りの温度も少しだけ、低くなったようにも感じられる。
灰一杯に煙を満たして、吐き出し、捨てる。
細く糸のような三日月が、空に上っていた。
○別に平山を縛るつもりがこれっぽっちも無いという割には相手は沈めるみたいな勢いのしげる。