仲間外れの悲哀「毒の君!ご要望通りトリックスターくんを連れてきたよ!」
高らかに叫んだルークの小脇に抱えられた監督生の額を小突き、ヴィルは肩を竦める。
「大人しくついてくれば追いかけ回されずに済むのに、どうして毎度逃げるのかしらね?」
「どうしてと言われましても……」
「まぁ良いわ。ルーク、そのまま着替えさせてきて」
「ウィ!」
「いや先に降ろして──」
監督生が言い終わるよりも先に更衣室の扉はぱたりと閉じた。
「ちょっとヴィルくーん!このパターン今回で何度目ー!?」
「別に何度目でも良いじゃない、いちいち細かいわね」
「ヴィルくんには言われたくないなーそれ!」
激しい舌戦を繰り広げるケイトとヴィルの姿に監督生は肩を縮める。
「す、すみません……自分がホイホイ捕まるばっかりに……」
「ノンノン、キミが謝る必要は無いよ」
「いやまぁうん、ルークくん相手に逃げ切るのは無理があるからそこはさすがに……ね?」
「アンタに非があるとすれば毎度逃げようとすることぐらいよ」
「スイマセンソレハムリデス」
即答するのと同時に監督生は首を横に振る。
「……で、今回はどんな趣向なの?」
「春の祝祭をイメージしたコーデよ。フェアリーガラの時はレオナたちの指導で手一杯だったから、この子に構う暇が無かったのよね」
監督生の首に緩く巻かれたストールの裾を弄びながらヴィルは溜め息を吐く。
「あの時の自分は裏方でしたし……」
「何言ってんのよ、アンタだって磨けば光るものを持ってるんだからそれを存分に──って何よその顔は」
「えと、あの、そういうこと言われたの、はじめてで……」
辿々しい監督生の言い訳にヴィルとルークは雷に打たれたような顔をする。
「ああなんということだ!キミの魅力を今まで誰も称賛してこなかっただなんて!」
「え?え?」
「ちょっとケイト!何でこんな大事なことをサボってんのよ!」
「いやだってこれメチャクチャデリケートな問題じゃん!下手に言うべきじゃ──」
「お黙り!」
「うわ痛っ!」
魔法でケイトの尻を叩き、ヴィルは混乱する監督生の両肩を掴む。
「良い?アンタのその、どちらの性別にも属さない身体は誇るべきものなの」
「え、」
「男物も女物も違和感なく着こなせるプロポーションを持ち腐れにするなんてアタシが許さないわよ」
「あ、あのー?」
「目指すべきはそう、究極のジェンダーレスよ!」
「……け、ケイトせんぱーい、ルークせんぱーい……」
「ゴメン、助けてあげたいけどこれはムリ」
「私もヴィルと同意見だ。観念して磨かれたまえ、トリックスターくん」
完全に退路を断たれた監督生はうう、と情けない声を上げた。
「や、やっと解放された……」
「はーいお疲れさまー」
「この程度で音を上げるようじゃ先が思いやられるわね」
「そんなー……」
「ヴィルくん厳し過ぎー」
ぐったりした様子で体重を預けてくる監督生をは優しく労りながらケイトは苦笑いを浮かべる。
「……仲間外れにされる理由ぐらいにしかならないと思ってたんです」
「は?」
「──それって身体のこと、だよね?」
ケイトが投げかけた問いに監督生は頷く。
「どっちでも無いから変って言われるのが当たり前で、それでも仲良くしてくれる子はたくさんいて、でもやっぱり、仲間外れな、気が、して……」
「……ユウちゃん?」
返事の代わりに微かな寝息を立てる監督生の背中を軽く叩き、ケイトは寂しそうに笑う。
「やっぱりオレには言えないよ、ヴィルくんみたいなことはさ」
「今のって寝言?」
「だろうね」
「それにしては……」
「思うところがあるかい?」
「当然よ」
ルークの指摘にヴィルは歯噛みする。
「──後悔させてやるわ。あの子を売れ残りのカボチャにしようとしたあらゆるものを」
そう断言したヴィルの目には強い意思が宿っていた。