いけない子とずるい人「……やっぱりおかしいですって」
「おかしいって何がだ?」
「ビーンズデーでのケイト先輩ですよ。トレイ先輩とルーク先輩の激ヤバコンビ相手に足手まといの自分たち抱えたまま凌ぎきってるんですよ?」
「確かに凄いとは思うが、当事者の前でその話をするお前も中々凄いと思うぞ」
「へ?」
「お前は相当図太いってことだよ」
「ずぶっ──」
直球過ぎるトレイの指摘に監督生は目を丸くする。
「まぁその話は一旦置いておくとして、あいつは割とそういうところがあるぞ」
「そういうところ、というと……実は凄いことをやってるとこですか?」
「ああ、例えば──」
「はいストーップ」
「わぷっ、」
突然背後から体重をかけられ、監督生は間の抜けた声を上げる。
「オレの与り知らないところで勝手に盛り上がるのはそこまでにしてねー」
「かわいい後輩に自分の凄さを知ってもらわなくて良いのか?」
「トレイくんは余計なことまで言いそうだからちょっとなー」
「ははは、酷い言い草だな」
「く、空気が不穏……」
離脱したくともケイトにしっかり捕縛されて身動きが取れない監督生は気まずそうに視線を泳がせる。
「あ、ユウちゃんそろそろ帰る?」
「えと、」
「じゃあオンボロ寮まで送るねー」
「あわわわわ」
「またなー」
問答無用でケイトに引きずられていく監督生に意地悪く笑いかけながらトレイは手を振った。
「あ、あの、ケイト先輩」
「んー?」
「そっち、オンボロ寮じゃないです」
監督生の指摘を受け、ケイトは足を止める。
「──わざとだってこと、分かってる癖に」
ヘアピンを外しながら振り返ったケイトは目を細め、監督生を腕の中に閉じ込める。
「いけない子だね、ユウちゃんは」
「っ──そういうケイト先輩は、ずるいです」
「幻滅した?」
ケイトの問いに監督生は首を横に振る。
「これくらいのことで幻滅してたらやってられませんよ」
「あはは、それなー」
「……惚れた弱み、って奴なんですかね」
「うーんどうだろう。オレ的には好都合でありがたいからそれで良いとは思うけど」
「好都合って……」
「だってオレ、ずるいからね。ユウちゃんを捕まえておけるならどんなことだって利用するよ。例えば──」
笑みを深くしながらケイトは身を屈め、監督生の喉元にキスをする。
「ユウちゃんが知りたがっていることとか、ね」
「っ……だったら教えてください、ケイト先輩の凄いところ」
「誰にも言わないって約束してくれるなら良いよ」
「します、しますから顔──」
「やーだ」
悪戯っぽく笑いながらケイトは監督生の口を自分のそれで塞いだ。