魔法薬パニック!前略、魔法薬学の授業中に不慮の事故で魔法薬を浴びた監督生が幼児の姿になりました。
「ハイとうとう来た定番の奴!ユウちゃんオレのこと分かる!?」
「わ、分かります。中身はそのままなので……」
「オッケーそれなら話が早い!まずは一枚──」
「とりあえず落ち着け?」
「あだっ」
トレイに叩かれた頭を擦りながらケイトはふと訊ねる。
「……ところでユウちゃんに魔法薬かけた犯人は?」
「グリムならリドルに首をはねられた後、オンボロ寮の草むしりをさせられてるぞ」
「うわーリドルくん容赦無さすぎー」
「落ち度を鑑みれば妥当な罰だ」
指示棒で掌を軽く叩きながらクルーウェルは肩を竦める。
「あのー、クルーウェル先生」
「どうした仔犬」
「自分は元の姿に戻れるのでしょうか……?」
「お前が浴びた魔法薬の効果は時間が経てば自然と消える。それまでは子守りをしてもらうんだな」
「えっちょ、」
とりつく島もなくクルーウェルが去った後、トレイとケイトはにっこりと笑う。
「監督生、食べたいケーキのリクエストはあるか?」
「買い出しついでにお散歩行こうねーユウちゃん」
「あ、圧が凄い……」
世話を焼く気満々の二人に気圧されながら監督生は呻くように呟いた。
「おや」
「うげ、」
購買部からの帰り道、オクタヴィネル寮の三人組に遭遇した監督生とケイトはほぼ同時に嫌そうな顔をする。
「これはこれは、ケイトさんに監督生さんじゃありませんか」
「アハッ、小エビちゃん稚魚になってるー」
「何かトラブルに巻き込まれたのですか?」
「魔法薬学の授業でちょっとやらかしまして……」
「いやいや、ユウちゃん被害者でしょ」
「そういうことでしたら僕が元に戻る魔法薬を調合しますが──」
「時間経過で戻るらしいんで結構です」
食い気味の拒絶にアズールは残念そうな顔をする。
「ねーねー小エビちゃん、オレと遊ぼうよー」
「だーめ、ユウちゃんはうちの寮でトレイくん特製のケーキを食べるの」
「ちぇー、つまんねーの」
「先約があるのなら仕方がありませんね。ジェイド、フロイド、引き上げますよ」
「はい」
「はーい」
思いの外あっさり退散した三人の背中を監督生はぽかんとした顔で見送った。
「いやーまさかはじめての自室デートがこんな形になるなんてねー」
「そう……ですね?」
状況を理解しきれていない監督生の頭をケイトは優しく撫でる。
「うんうんそうだよねー、ユウちゃんにはまだ早いもんねー」
「早いって、何がですか?」
「それはー……次の自室デートの時に、かな」