これなら一緒に「なぁなぁユウ、オレ様これが食べたいんだゾ!」
「……グリム。さっきから何度も言ってるけど、グリムが食べたいものを作るワケじゃないんだからね?」
「チェッ、ケチなんだゾ」
不貞腐れるグリムに対し、監督生は呆れ顔で溜め息を吐く。
「全くもう……ってあれ?このレシピ……」
「どうかしたんだゾ?」
「……ごめんグリム、さっきのお詫びにツナ缶買うね」
「ふなっ?何かよく分からないけどやったー!なんだゾ」
はしゃぐグリムの姿に監督生は顔を綻ばせる。
「それじゃあ早速材料を買いに──」
「行くなら付き添おうか?」
「ふなっ!?」
「っと、トレイ先輩!?」
「おいおい、そんなに驚かなくても良いだろ?」
「いきなり背後から声をかけられたら誰でも驚きますって……」
「心臓に悪いんだゾ!」
「ははは、そりゃすまん」
監督生とグリムの苦言にトレイは申し訳なさそうに笑う。
「ところで監督生、プレッツェル作りはケイトのためか?」
「へ、」
「そうなんだゾ」
「ぐ、グリム!」
「どうせすぐバレるのに往生際が悪いんだゾ」
グリムの容赦ない一言に監督生は口を噤む。
「そういうことなら手伝ってやらないとな」
「え、いやあの」
「折角作るならおいしいものにしたいだろ?」
「それはまぁ、そうですけど……」
「なら決まりだな」
反論の余地を無くせたと確信したトレイはにっこり笑った。
「にゃっはー!うまそうな匂いなんだぞ!」
出来上がったプレッツェルの山にグリムがはしゃぎ回る一方、監督生はキッチンの端で力尽きていた。
「つ、疲れた……」
「まぁこれだけの量をほぼ一人で作ったらそうなるな」
「なぁなぁ、もう食べても良いか?オレ様もう我慢の限界なんだゾ!」
「良いよー……毒味よろしくー……」
「ジャミルみたいなこと言うんじゃないんだゾ」
監督生の様子に呆れつつもグリムはプレッツェルを一つ掴み取る。
「いっただっきまーす!」
「……どう?」
「ちょっと塩気が強いけど、中々悪くないお味なんだゾ」
「──っ、良かったぁー……」
グリムの感想を聞いて安堵の息を吐く監督生を横目に見ながらトレイはくすりと微笑む。
「さて、お茶を用意してこないとな」
「あ、自分もやります」
「お前はプレッツェル作りで疲れてるだろ?」
「で、でも……」
「──その代わり、お客さんの相手を頼むよ」
「お客さん?」
きょとんとする監督生の肩を叩いたのは──
「……け、ケイト先輩!?」
「はーい、お客さんのけーくんだよー」
普段ならスマホを持っている手にプレッツェルを持ちながらケイトは笑みを浮かべる。
「早速だけど一つもらっても良い?」
「は、はい勿論!」
「それじゃ、いただきまーす」
「…………どう、ですか?」
「うん、おいしい」
飾り気の無い、けれど偽りも無いケイトの感想に監督生は目を輝かせた。
「──聞かなくて良かったのか?」
監督生とグリムを見送った後、トレイはケイトに訊ねる。
「聞くって何をー?」
「監督生がプレッツェルを作っていた理由だよ」
「……トレイくんってさー、ほんっと性格悪いよねー」
「うん?どのあたりがだ?」
「ユウちゃんたちが帰った後にその話を振ってくるあたりが、だよ」
露骨に不機嫌な顔をするケイトに対し、トレイは意地の悪い笑みを浮かべる。
「別に惚気てくれても良いんだぞ?」
「どうせ嫌なタイミングで蒸し返してくるのが目に見えてるからお断りしまーす」