スノーホワイトは目覚めを拒む「──元の世界へ帰る方法が見つかったとしても帰らせないわよ」
唐突が過ぎるヴィルの宣言に監督生は目を丸くする。
「そもそもアンタ、本気で帰りたいと思っているの?」
「え、」
「今が楽しくて仕方が無いんでしょう?」
「あの、」
「アンタはもう、窮屈な思いをしなくて良いのよ」
「だから、」
「ここでは誰もアンタに男として生きることを強いたり──」
「話を勝手に進めないでください!」
ようやく制止の言葉を叫べた監督生は息を荒げたままきっとヴィルを見据える。
「自分は帰らなきゃいけないんです!」
「それは学園長にそう言われたからでしょ?」
「っそ、それは……そう、なんですけど……」
「じゃあアンタ自身はどう思っているのよ」
「ど、どうって」
「アンタがアンタらしくいられる今の環境を捨ててまで元の世界に帰るだけの理由があるの?」
「っ……」
「答えなさい。アンタはどうしたいの?」
「…………じぶ、んは、」
このままが良い、と消え入るような声で呟いた監督生の頬をヴィルは愛おしそうに撫でる。
「ようやく自分の思いを口にしたわね」
「あ……」
「そんな顔をしないでちょうだい。アンタは何も悪いことをしていないのよ?」
「でも、」
「少しはワガママになりなさい。度が過ぎたらちゃんと叱ってあげるわ」
戸惑う監督生を抱き寄せ、ヴィルは甘く囁く。
「ユウ、アンタがやってみたいことは何?」
「え、えっと……前に見せてもらったファッション雑誌に載ってたコートを着てみたいです」
「アレならすぐに取り寄せてあげるわ。他には?」
「他……あ、マジカメでバズってたスイーツを食べてみたいです」
「良いわね、今度食べに行きましょう。他には?」
「ま、まだ言わなきゃダメなんですか?」
「ダメよ、こんなもんじゃデート一回で片付いちゃうわ」
「そうは言われましても……」
「今すぐ出来ることじゃなくても良いのよ。それこそ将来の夢とかは無いの?」
「夢……」
少し考え込んだ後、監督生は小さな声で訊ねる。
「モデルのお仕事って、自分にも出来ますかね……?」
「──勿論よ。このアタシがプロデュースするんだから売れっ子間違いなしね」
「お、大袈裟すぎませんか……?」
「夢なんて大口を叩くぐらいでちょうど良いのよ」
「は、はぁ……」
困惑を隠せずにいる監督生の頭を撫で、ヴィルは微笑む。
「たくさん夢を見て忘れてしまいなさい。元いたの世界のことも、家族のことも、全て」