目印は透石膏「──なぁ監督生、そのピアスどうしたんだ?」
「ああこれ?」
かきあげた髪の間から覗く耳たぶに飾られていたのは菱形の白い石。
つい先日までは無かった筈のもの。
「この前ケイト先輩にもらったというか、着けることを強要されたというか……」
「強要とは穏やかじゃないな……」
「あ、ちなみにこれマグネットピアスね」
「さすがに穴開けることまでは強要しなかったんだな」
「何で二人ともそこを強調するの……?」
「オマエは寧ろ気にしなさすぎなんだゾ」
グリムの呆れきった反応に監督生は首を傾げる。
「……まぁ何つーか、ケイト先輩の心中察するわ」
「あれぇ、小エビちゃんピアスなんて着けてたんだぁ」
「少々意外ですね、監督生さんはそういうものに興味が無いと思ってましたから」
「は、はぁ……」
またその話かと言いたくなる気持ちをどうにか抑え、監督生は目の前の問題──高身長の圧をかけてくる双子への応対に意識を向ける。
「これさぁ、あげたのハナダイくんでしょ?」
「えっ、何で分かったんですか?」
「デザインを見ればおおよその見当はつきますし、何より──」
「……な、何ですかその意味深な笑みは……」
「教えてあ~げない」
「──ほう。透石膏とは風変わりなものを身に着けてるな、仔犬」
「せれ……すいません、何ですか?」
「セレナイト、またの名を透石膏だ」
心底呆れた様子でクルーウェルは肩を竦める。
「直感や決断力を高める力と強い浄化作用を持つその石は硬度が低く、衝撃にも水分にも弱い。つまりどういうことだ?」
「えっと……とっても割れやすい?」
「Good、鉱石の名称百個暗記の課題はナシだ」
「た、助かったぁ……」
突発的な危機を回避出来たことに監督生は安堵する。
「そのピアスには保護の魔法がかけられているからそう簡単に割れることは無いと思うが、長持ちさせたいなら丁寧に扱うことだ」
「わ、分かりました」
「……俺ならダルメシアンジャスパーを贈るがな」
「えっ?」
「独り言だ、気にするな」
「随分と殊勝なマーキングだな」
「えっ何いきなり」
「とぼけてんじゃねぇよ、お前があの草食動物にあんなものを着けさせてる意図に気づいてねぇのは余程のバカだけだ」
「……まぁレオナくんは気づいて当然だよねー」
伏せていた瞼を開け、ケイトはにやりと笑う。
「そういうワケだからちょっかい出さないでね」
「ハッ、俺なんかより威嚇すべき相手がいるだろ」
「それなー」