頑張れる理由「──ユウサンはどうしてそんなに頑張れるの?」
唐突な、しかし真剣なエペルの問いに監督生は目を丸くする。
「ヴィルサンの指導はスパルタ過ぎてしんどいっていつも言ってるのに」
「うん、ものすっごくしんどい」
「でも最後までやりきってる」
どうして、と目で問うエペルに戸惑いつつも監督生は思案する。
「えっと……自分の身体のことはエペルも知ってるよね?」
「男でも女でも無いって奴だよね」
「うん。先天性の病気だとか、ホルモンバランスの崩れだとか、色々言われたけど具体的な原因は何なのかは分からず仕舞い」
一旦言葉を切り、監督生は伏し目がちになる。
「小さい頃にどうして自分はどっちでも無いのってお母さんに聞いたらちゃんと産んであげられなくてごめんなさいって何度も謝られた」
「っ──」
「どっちでも無いのは変なこと、隠さなきゃいけないことだって思ってたからヴィル先輩に誇るべきことだって言われたのは衝撃的だったし、嬉しかった」
顔を上げ、監督生は笑顔を見せる。
「どっちでも無い自分と仲良くしてくれる人は向こうにも沢山いたけど、こんな身体だからこそ出来ることがあるって教えてくれたのはヴィル先輩が初めてだったんだ」
「……だから頑張れるの?」
「しんどいものはしんどいんだけどね」
苦笑いを浮かべながら監督生は肩を竦めた。
「……あの、ルークサン」
「何だい?ムシュー・姫林檎」
「ヴィルサンはユウサンのどこを気に入ったんでしょうか」
取り留めの無いエペルの質問にルークはにっこりと笑う。
「それは勿論魅力的なところさ!」
「み、魅力的というと……」
「直向きで、懸命で、愛らしい。それがトリックスターくんの魅力だよ」
「はぁ……」
「──あの輝きは喝采を浴びるべきものであり、宝石箱にしまい込むべきではない」
突然変わった声色にエペルは息を呑む。
「そうは思わないかい?ムシュー・姫林檎」
「ぼ、僕にはちょっと、分からないです……」
「いずれ分かるようになるさ」
困惑するエペルの頭を軽く撫で、ルークは微笑んだ。
「──ということがあってね」
「そう」
極めて淡白なヴィルの返事にルークは肩を竦める。
「あまり悠長にしていると逃げられてしまうよ」
「……それもそうね」
溜め息を吐き、ヴィルは窓の外──友人たちと談笑する監督生に目を向ける。
「ねぇルーク、あの子にはどんなデザインのチョーカーが似合うかしら?」
「そうだね──」
「──いやまぁうん、分かるよ?ユウちゃんが構い甲斐のある子だってことはオレもよーく知ってる。でもちょーっと、いやだーいぶ構いすぎなんじゃないかなー?」
噛み合わない表情と声色で圧をかけてくるケイトに物怖じした様子も無くヴィルは肩を竦める。
「回りくどい嫉妬をする男は嫌われるわよ」
「あはは、何のことかなー?」
「まぁあの子がアンタに愛想を尽かしたらそれはそれで好都合なのだけど」
「……ちょっとヴィルくん、今のは聞き捨てならないんだけど」
険しい表情でケイトが睨んだのに対し、ヴィルはにやりと笑う。
「──独り占めになんてさせないわよ」
宣戦布告とも取れる一言にケイトは表情を歪ませた。